第10話「Fighting」Part4

「あら。似あうじゃない。詩穂理さん」
 既に期間を終えたまりあが客として現れた。
「高嶺さん。これ…恥ずかしいです。着方変ですか?」
 可愛らしく両手をひきつけたポーズ。それが図らずも胸元を突き出させる。
「たぶん詩穂理さんじゃ着物でも水着でも注目はされるわね」
 水着のときの「破壊力」は千葉で思い知っていた。
「着物は太って見えるからあんまり…」
 どちらかと言うと衣類でいい思い出は少ない。
「あら? いつもジャンパースカート多いけどあれだって……」
 指摘しかけて思い出す。
「そう言えば昨日はこの暑さなのにベストだったわね。あれだと胸が意外に強調されるけどどういう心変わり?」
 クスクスと言う感じの笑み。
 自分が「可愛い」と自認しているまりあだが、他の女の子の良さを否定したりはしない。
 堅物の詩穂理は慌てふためいたりするとその人間くささが可愛らしい。
「べ、別に何もないです。ほら。制服も似た感じですし」
 蒼空学園の女子夏服はスクールブラウスの上からベストである。
 制服としての意味合いと同時にブラ隠しの目的。
 薄着の上に夏の強烈な日差しで見えてしまう。それを隠すためだ。
 ただし着用は推奨であり義務ではない。
 詩穂理は暑くなり始めたころは長い髪が背中に掛かるのも手伝いベストの着用をしていなかった。
 しかし暑さに慣れ、また冷房が教室などに入り始めると元来真面目な彼女はきちんと着用を始めたと言うわけである。
 それにそのほうが胸のラインも隠せると言うのも狙い。
「どちらかと言うとこちらの方がちょっと」
 今回のコスチュームは胸元を強調されていた。
「そうか。結構いいと思うぞ」
「ひ、ヒロ君」
 トイレに行く途中で裕生がふたりの会話に乱入する。
「シホ。お前いい体してるんだからもっと胸はれよ」
 性的な意味ではない。出る所は出てで引っ込むところが引っ込んでいると言う意味である。
「そうよ。詩穂理さん立派な体なんだし」
 こちらは同性ならではの感覚。
 相手がGカップでは勝ち負けを競う気にもなれない。素直にほめていた。
 男だけ。女だけなら感覚の違いと逃げられたが両方に「ほめられては」逃げ道はない。
「そ、そうですか? この胸。気持ち悪くないですか?」
 身長はやや低め。それに大して少し大きくてバランスの悪い胸を気にしていた。
「何で? まぁ確かにバランスは取りにくいな」
 これは動いた場合の話。
「これだけあると合うスーツが作りにくいかもな」
「あら? オーダーメイドならいくらでも調整は」
「高嶺さん。たぶん『スーツ』違いです」
「?」
 まりあにはわからないが当然だ。
 特撮などで使う着ぐるみをさしている。別に知らなくても恥ずかしくないほうの『スーツ』である。
「お客様。お手洗いはあちらになりますが」
 引きつり気味の笑顔であすかが「案内」する。
 言外に「いつまでも出入り口でしゃべっているな」と言う思いが。
「いけね」
 本来の目的を思い出してトイレに急ぐ裕生。
 まりあも詩穂理に案内されて座席へと。
(まったく。どいつもコイツも色ボケが。どこにそこまでする価値のある男がいる?)
 営業スマイルが一瞬消える。
(私より弱い男など認めない!)
 ついにはここにまで思考が至る。

 翌日。体験バイトの最終日。詩穂理は続けての二日目。
 美鈴は初日以来の二日目である。
 どちらかと言うと要領の悪い二人だが家事に関しては信頼できる美鈴なのでブランクは問題なかった。
 詩穂理も前日でなれた。それで何とかなる。

 正午過ぎ。ランチタイムだし気温もじわじわと上がり始め、冷房の利いた場所への「避難」でやってくる客もいる。
 店内は混みあってきた。
 そんな最中に様子を見に来た二人。
「よっ」
「ヒロ君」
 喜色満面で近寄る詩穂理。そして
「来た」
「大ちゃん」
 こちらも嬉しそうな美鈴。たまたま食器を下げに出てきたら遭遇したと言うわけである。
 それを見て心中で苦虫を噛み潰しているあすか。
 何も言わないのは既に諦めの境地。さっさとオーダーをとりに客席へと向かう。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
「ああ。ハンバーグステーキセット」
「オレはナポリタン」
 焼く料理と茹でるもので時間が要るな。あすかはそう思うが何を食べるかは客の自由。
「かしこまりました。少々お時間が掛かりますがよろしいですか?」
 営業スマイルで確認をとる。
 この姿を空手部員たちに知られたくないのでした化粧がまるで道化師のメイクにも見えた。
「ああ。時間はいいよ」
「そのほうが好都合だしな…」
「?」
 あすかは若干の違和感を感じたものの、単に冷房の聞いた場所に長居出来るからと解釈した。
 その場を去りたかったのは詩穂理や美鈴がかもし出す甘い空気を嫌ってだった。

 あすかは気がつかなかった。
 たった今、接客した相手こそくずと呼ぶにふさわしい盗撮犯たちと。
 時間の掛かる料理で自然に居座るつもりなのだ。

(おい。あっちはどうする?)
 盗撮犯の一人が相棒に赤い服のメイドをどうするか尋ねた。
(とるだけとっとけ。ロリ好きには需要があるかもしれんしな)
 行きがけの駄賃と言うわけでもあるまいが美鈴もターゲットになった。
 厳密には最初の標的である詩穂理が必ずくるわけでもない。だから「ついで」でもある。
 あすかが狙われないのはあって見たら意外に「怖い」のでやめた。
 顔立ちやスタイルは整っているが女としての魅力を感じなかった。

「お待たせいたしました」
 オーダーを取ったのはあすかだが、運んできたのはメインターゲットである詩穂理だった。
 自分のスカートの中身を取ろうとしている男達の前にのこのこと現れた形だ。
「ああ」
 男の一人が無愛想に相槌を打つ。
 あまり黙り込んでいて「極端に印象を悪くして」覚えられるのを避けたかった。
 記憶に残らないようにしていた。だが
「きゃっ」
 トレイを自分のその豊か過ぎる胸にあててしまう詩穂理。
 抑えているにもかかわらずたぷんとゆれてしまい、嫌でもそのボリュームを強調することに。
「おお」
 悲しい男のサガ。思わず顔が緩む。その刹那だ。
「シホ。そこから離れろ!」
 いきなり裕生の声が響く。
「ヒロ君!?」
 その切羽詰った様子に戸惑う詩穂理。
 他の客も何事かと注目している中で裕生は自分の座席からその場にと駆けつけた。
 そして詩穂理を抱えるようにしてそこから離す。
「なんだてめーは?」
 自分たちが犯罪者だが逆に食って掛かることでごまかそうとしていた。
 裕生はそれを無視して足元のカバンを器用に脚で拾い上げる。
「人のカバンに何をする?」
 当然のいい分だが青くなるのは中に仕込んだ盗撮カメラのせい。
 そして裕生はそれをあっさり看破した。
「やっぱりな。前に安曇さんがこういう輩がいるとこぼしてたっけ。こいつらのにやけヅラでなんとなく嫌な感じがしたんで来たがビンゴだったな」
 ほとんど「野生の勘」である。
 安曇瞳美というのはフリーの女カメラマンで裕生の父を取材した際に裕生とも知りあいになっていた。
 詩穂理は海であったときのことを思い出す。そして
「ヒロ君! それってまさか?」
「お前が確かめるか?」
 裕生なりの配慮だった。
「返せ!」
 正統な所有権を主張するが違法行為ではそれもむなしい。
 騒いでいる間に詩穂理はあっさりと再生する。
 彼女は機械にも強いほうだ。だがここではそれが祟った形。
「何? これ…私の下着…」
 スカートの中身を撮られていたショックでよろける。痴漢された経験はその美貌と胸ゆえにあるがこんなことまでされたのは初めてだったのもある。
「おっと」
 とっさに支える裕生。
「大地」
 離れたテーブルの大地大樹に向けてビデオカメラを投げる。
 片手でキャッチした大樹はそれを握りつぶしかけて思いとどまる。
 警察に突き出すための証拠を自分で潰しては意味がない。
「さぁて。迎えを呼ぼうか?」
 右手で詩穂理を支えつつ左手で裕生が携帯電話を取り出す。通報しようと注意を向けたときに隙が生じた。
 盗撮犯の片割れ。金髪男が裕生を殴った。この邪魔な少年をどけて逃亡するためだ。
 さすがに無様にやられないが携帯電話は落としてしまう。

 逃げようとする盗撮ふたり組みの前にあすかが立ちはだかる。
「お客様。こう言うことは他のお客様の迷惑になります」
 あくまで「優しくて可愛いメイド」を演じている。
 しかしその「能面のような笑顔」が静かな恐怖をかもし出していた。
「どけ」
 金髪の相棒。ピアス男がスタンガンを取り出した。
 見つかることを頭に置いていたらしい。
 威嚇のためにわざと火花を散らす。目的は逃げること。戦いではない。相手がおびえてどけばいい。
「くっ」
 さすがに威嚇効果があった。「くっ」と短くうめき盗撮犯には『優位に立った』笑みを浮かべさせる。
 それがひどく癇に障りあすかのスイッチをいれた。
「そんなこけおどしにのるかっ」
 とうとう「化けの皮」がはがれた。
 メイドとしての可愛く優しい声使いではなく、学校での武人としての低く力強い声が出る。
「気様らのようなカスがいるから、私は男を認めることが出来ない。ましてやそんな男を愛するなんて出来るか!」
 何のことはない。男嫌いだった。
 だから腕力すら上回り、完全に男を上から見下すつもりだった。
 あすかは左腕を前に。右腕を引いて構える。
 「いつもの」空手の構えである。だが服が違う。戦うためではない衣装。
(この服ではいつものようには動けない。だが…負けるかっ)

 その間に詩穂理は空いた座席に座らされた。美鈴がそれを手伝う。
「うう…ごめんなさい。迷惑かけて」
「オレの方こそわりぃ。オレが見たらまずいと思ってお前に見せたけど」
「私は平気。それより芦谷さんを」
「大丈夫だよ。シホちゃん。大ちゃんが何とかしてくれるから」
 完全に信じきった美鈴の笑顔。
 それを見ていたら本当に安心できた。ふらっと気が遠くなる。

 盗撮犯たちとあすかのにらみ合い。
 盗撮ふたり組みにしたら多勢に無勢だが烏合の衆相手。手当たり次第に殴り飛ばして血路を開けばいい。
 まして狭い店内だ。混乱を招くのはさほど難しくない。
 とにかく時間がない。通報されていると見ていいだろう。のんびりなんてしてられない。
 スタンガンを恐れて店内の客たちは遠巻きに見ているだけ。
 あとはこのやたら突っ張るメイドさえ何とかすればいい。
「下がっていろ」
 援軍に血の気が引く悪人たち。
 2メーターと100キロを越す巨漢が現れたからだ。顔も厳つくて迫力がある。
 低い声がなおのこと怖い。言うまでもなく「気は優しくて力持ち」の大地大樹だ。
「男なんかの手は借りん!」
 こだわりだった。
「相手は二人だぞ」
「こんな下衆、何人いようと知ったことか」
 この間も視線は切らさない。

戦うメイドさんと無口な巨漢

このイラストはOMCによって作成されました。
クリエイターの秘月恋夜さんに感謝!



 静まる店内。だが遠巻きにパトカーのサイレンの音が。
(やべぇ)
 勝手のわからない裏口からの逃亡はむしろタイムロスがある。
 すぐそこの出口から逃げれば…
 焦りが行動をおこさせた。スタンガンを繰り出す。
 当たれば電撃で行動不能。
(当たらなければいいだけッ!)
 あすかはそれをわずかにかわす。そして裂帛の気合を発する。
「きええええっ」
 甲高い声で気合一閃。思いのままに攻撃後の隙に拳を六発。一息で見舞う。
「ぐっ」
 ピアス男が崩れ落ちる。殴った感触が変だったが確かめている暇はない。敵は二人。
「次はお前だっ」
 後ろにいた金髪男にも拳を見舞おうとした瞬間に強烈な一撃を食らい昏倒する。
 文字通り「全身に電気が走った」
「バ…バカな…あれだけ食らわせて」
 六発見舞ったことでKOを確信して確かめなかったのが不運。
 ピアス男は気絶しておらず、二ーソックス越しに電撃を見舞ったのだ。
「へ。バカが。男にかなうかよ」
 種明かしとばかしに服に仕込んでいた雑誌を捨てる。これが緩衝材になったのだ。
「あばよ」
 逃亡を試みるが今度は大樹が立ちふさがる。
「てめぇもくらいたいかっ」
 両方からスタンガン。ところが大樹はそれを食らいながら完全無視。
 故障を疑った二人だが機械に問題がないとわかると恐れおののく。
「恥さらしが」
 まさに憤怒の表情に。それで戦意喪失。逃げ出そうとする。どちらかがつかまっている間に逃げようと土壇場で仲間を見捨てた逃亡。
 そんな二人を「公平」に裁く大樹。
 両者の顔面をその万力のような五指で締めあげると、そのまま頭上たかく抱えあげた。
「うぐぁっ。は、離せっ」
「おろせっ。下ろしやがれ」
 盗撮犯たちはじたばたもがくがやがて顔面に掛かる握力の前に気を失った。
 首を締めていないので窒息はしていない。殺す価値もないし。
「これにて一件コンプリートだな」
 無口な大樹に代わって裕生が宣言する。
 そのタイミングを見計らっていたかのように警察官が踏みこんで来た。

 病院へ運ばれるあすかと詩穂理。
 つきそうのは大樹と美鈴。そして裕生だ。
 幸いふたりとも検査だけですぐに帰れる事になった。
 その岐路。あすかは路上でポツリと語りだす。
「私は…突っ張っていたよ。男に負けたくないと」
 妙にさばさばした表情であすかが語る。
「だから男のように鍛えていた。けど…いくら鍛えてもやっぱり女だな。本当の男のパワーにはかなわない。大地を見てそう思ったよ」
(いや。大ちゃん基準にされたら男の子はつらいと思う)
 空気を読んで心中のみで突っ込む美鈴。
「逆も言える」
「え?」
 無口ゆえ核心しか言わないのでどうしても聞き返すことに。
「勝ち負けじゃないけどさ。女らしい女には男は勝てないぜ。男らしい男には女も脱帽すると思うけど」
 裕生が代弁した。
「女らしくか…私に出来るだろうか……今までさんざん無駄に男と張り合ってきていた私にいまさら女としてやりなおすことが」
「出来るよ。芦谷さん。だって女の子だもん」
 子供のような声で大人の意見を言う美鈴。
「そうか。そうだよな。私は女。ただそれだけだ。男に勝つとか、そんなことはつまらないことだったんだな」
「そうですよ。男と女は役割が違うだけですから」
 詩穂理も口ぞえをする。
「女であることを認めるか…認めるしかないな。こんな気持ちを抱いてしまっては」
 ここであろうことか「空手部の鬼主将」は「乙女」のように頬を染めて、厳つい顔の大男を見上げた。
(ええっ? 大ちゃんの魅力に芦谷さんまでが)
 青くなる美鈴。
 そう。今まで男をさげすんでいたあすかだが、大樹の男らしさに触れ一気に恋に落ちた。
 だが美鈴の思いを知っている。
「安心しろ南野。私のような男女では受け入れてなどもらえない」
 まるで心を読んだかのように言葉をつむぐ。
「もっと女を磨かないとな。そして…ありのままの自分を隠さずに」

 後日。空手部の夏休み中の稽古が終わり部員たちは喫茶・トゥモローに招待された。
「綾瀬さん。どうして部長は先に行ってしまったんですか?」
「うん。まぁ…準備もあるからね」
 頼まれて道案内をしているなぎさは言葉に詰まる。
(あいつも思い切ったもんだなぁ)
 変わった事に驚く。

 やがて目的の店が見えてきた。その店先に一人のメイド。
「あ…あれ?」「まさか…」「主将?」
 部員達は戸惑う。男を敵視しているはずの部長が男に媚びるメイド服で出迎えて来たことに。
 ただ化粧はあくまで前ほど厚くない。素顔がわかるものだ。
 もう隠したりしない。これが自分だ。芦谷あすかはメイドで空手部の主将で、そして女の子だと。
「お帰りなさいませ。お嬢様がた」
 部員達はその優しい声と笑顔に、部長が生まれ変わったと察したのだ。
「ぶ、部長。とっても可愛いです」
「なんかで黙ってたんですか?」
「もっと早く言ってくれたら」
「恥ずかしくてな……」
 本音だった。頬を染めたのがさらに可愛い。
 ますます好意的に扱われていた。

 あすかの一大カミングアウトは成功した。

 追記・だが空手の指導は厳しいままであった。
 やはり大樹に追いつきたい思いが彼女を駆り立てていた。

次回予告

 日本。否。世界最大級の同人誌即売イベント。ブックトレードフェスティバル。略称トレス。
 そこにさまざまな思惑で出向くまりあたち。待ち構えていたのはまさに水を得た魚。里見恵子。
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 恋せよ乙女。愛せよ少年。

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