第11話「あの夏を忘れない」Part4

「はっ?」
 詩穂理は我に帰った。状況を確認すべく周辺を見る。
 どうやら女子更衣室らしい。ただし着替えている衣類が異様。
 ある女子はドレスの上から甲冑を。
 あるものはセーラー服だが右腕に赤。左腕に青のプロテクター…むしろガントレットと呼ぶような物をつけていた。
 出来がいいので手作りではなく玩具のようだ。
 あるものは胸を潰した状態ではだけていた。見た感じは少年のように。
 詩穂理はそんなにアニメに強いほうではないがこれがアニメキャラを模した物と見当はついた。
「何ここ? なんでこんなところに?」
 半ば混乱しつつ率直に疑問を口にする。
「なんでって…ここはコスプレ用の更衣室だよ」
 トレードマークの三つ編みをネットでまとめた状態の恵子が言う。
「コスプレ? どうして私がそんな」
「どうしてって…覚えてないの?」
 いわれて見ると何か口走った気が。
「里見さん。私もしかして何か言いました?」
 どうやら意識が飛んでいたらしい。
「あー。風見君の前で舞い上がっちゃったわけね。だからコスプレしてみるなんて口走ったのか」
「私がコスプレですかっ?」
 もともと綺麗で高めな声がさらに1オクターブ跳ね上がる。
「そうだよーん」
 こちらは軽いのりで答える恵子。ワンピースであるメイド服を脱ぎ下着姿になる。
 着替えているのだから当然だが露出が高くてなんとなくセクシーな印象だ。
 立派な胸のせいで脱ぐと高校生でありながら色気を湛える完成した女の肉体に見え、同性である詩穂理すらどきどきするほどだった。
「そう言うわけで、さー詩穂ちゃんも早く着替えて」
「あの…やはりコスプレするんですか?」
「そうだよ」
「で、でも」
 勢いで来てしまったが自分が場違いな存在と感じ初めていた。
 あるものはドレス。あるものは男装。さらには甲冑や着流しなど街中で見ることの出来ない格好があちこちにある。
 中には同性でありながら目のやり場に困る衣装もある。
 その中に入り込む自信のない詩穂理は逃げ出したかった。
 最初からコスプレが好きでなんの迷いもなかった恵子には理解出来ない考えだがわからないとまでは言わない。
 しかしさすがにこれはでは進まない。だから反則技を使う。
 落ち着いたトーンでやや笑みを含んだ口調と表情で言う。
「風見君。がっかりするかもね」
 殺し文句だった。詩穂理が裕生を好きなのは誰の目にも明らか。
 何しろ同世代の少女すら苗字で呼ぶ堅物少女が裕生だけは「ヒロ君」などと子供のような呼び方をする。
 まさに幼馴染の延長線上だった。
「がっかり? ヒロ君が」
 明らかにうろたえている。恵子は思わずほほえましく感じる。
(かーわいい。本当に風見君命なんだね。危ないほどだけど)
 この場はそれを活かすことにした。
「彼は特撮が好きでしょ? これからする格好は特撮のキャラのだし、この格好なら風見君も喜ぶと思うよ(悪役なんだけどね)」
「ヒロ君が…喜ぶんですか?」
 もしかしたら裕生が「死ね」と言えば自分の手首に刃物をあてるのではないか?
 そう思わせるほど詩穂理の中の裕生は優先順位が高かった。
「わかりました。やってみます」
 「覚悟」を決めてまずはベストを脱ぎ始めた。
「おー。良い脱ぎっぷり。それじゃあたしも」
 恵子もまずは自分の着替えを再開させた。それから詩穂理のアシストをするのだ。

 そのころ、アンナ達はサークルを見て回っていた。
「やっぱりすごいですね。このパワーが日本のカルチャーを支えているんですね」
 物珍しさに目を輝かせるアンナだが、千尋と双葉はそろそろ飽きてきた。
 どちらかと言うと体育会系の千尋は元から苦手。双葉は逆だがそれでもあまり趣味ではない。
「ねぇ。アンナ。そろそろ一休みしない?」
「あれ? 楽しくないですか?」
「そういうわけじゃないんだけど」
 なるべく穏便な言い回しを心がける双葉。
「そう言えばさっきから面白いかっこが目立つよね」
 露骨な印象の話題転換をする千尋。ただし思っていたのも事実。
「コスチュームプレイですね。マスカレイドみたいかと思っていたらやはりちょっと違いますね」
「コスプレ? ああ。里見さんが好きなのよね」
 美鈴は困った同級生を思い出して苦笑する。
 コスプレ自体はいいとして学校でまでしているのはさすがに考え物だ。
「それじゃそちらを見に行きましょうか? サトミ先輩もいるかもですよ」
「まっさかぁ……」
 そうは言った物のすぐさま自分の言葉を否定する美鈴。
 考えて見ればここは晴れ舞台。学校とは違いちゃんと許された場所。いても不思議はない。
 アンナを先頭に一同は移動を開始する。

 女子更衣室。
 いくら女同士でも他人の着替えやメイクを凝視するのはマナー違反であろう。
 だがつい見てしまう程に存在感のある胸元の少女。詩穂理である。
 普段を知るものからするとイメージの違いすぎる妖しい雰囲気の黒いドレス。いわゆるゴシックロリータに身を包んでいる。
 メガネを外して恵子のなすがままに化粧を施されている。
 恵子本人は既にメイクを完成させている。
 青いアイシャドウと緑色のルージュが普通ではないイメージだ。
 メガネを外しているが元々が伊達メガネ。視力自体は両目とも1.5で裸眼で支障はない。
 詩穂理もファンデーションで肌をより白く。
 そこにマスカラでまつげを伸ばし、アイシャドウは赤。口紅もクリムゾンレッドと攻撃的な印象。
 元々つり目なのも手伝いかなりきつい印象になる。
 仕上げのチーク。全体のバランスを整えるがこれまた攻撃的な色合い。
「メイクはよし。後は」
 恵子はマグネットピアスを取り出した。
 その名の通り磁石を用いており耳たぶ越しに磁力で固定されピアス穴がなくてもピアスをしたように耳を飾る。
 赤い石を模した安価なものだがイメージにはあっている。
「よーしOK。あとはこれ持ったら完成」
 小道具を差し出す。細長く黒いものだ。詩穂理はそれを持ち手と思しき所を握る。まとまっていたものがだらんと垂れ下がる。その形状は
「これって……鞭じゃないですか?」
 あるまじきアイテムに驚く詩穂理。
 攻撃的な外見と裏腹の綺麗なすんだ声がアンバランス。
「うん。詩穂ちゃんのキャラはバトルナと言って攻撃的なキャラだから。そのアイテム」
「こんなの持っているって…私は今どんな格好してるんですか?」
「待ってました。その言葉。さぁさぁ。変身した姿を見に行こうね」
 嬉々として恵子は詩穂理の背中を押す。そして全身を映せる大きな鏡の前に。
「これが私?」
 喪服のような黒いドレス。空いた胸元がまぶしいほどの白さ。もちろん見えているのは乳房の一部。
 ウエディングドレスだと健康的なのにこの黒いドレスだとやたらに色気が挑発的。
 顔は肌の色にあわないほど白いファンデーションの上から毒々しいチークやアイシャドーを施されていた。
「ばっちり。バトルナそのもの。あたしがナースィートだから相棒ね」
 恵子も同様に黒いドレス。ただ形状的にナース服をイメージさせる。
 被っているのも黒いナースキャップだ。
 メイクはやはり派手だが詩穂理がされたようなきつさはない。
「なんで里見さんはそんなお化粧なんですか? 私はこんななのに」
「だってあたしのキャラはこんな感じだもん。怪人の回復担当だから」
 そう言う設定と言われれば納得せざるをえない。それに問題は恵子のメイクより自分のだ。
(こんな顔で人前に出るの?)
 詩穂理は青くなる。
「でも詩穂ちゃん。あたしが言うのもなんだけど結構いい感じにそろったよね」
 確かに二人でセットになるとバランスは取れていた。
 これはこれで完成形なのだろう。理解はした詩穂理だがどうしてもこれで表に行く気にはなれない。
「里見さん…里見さんは平気なんですか? こんな格好で?」
「なんで? ほら。肌もそんなに出てないよ。あ。暑さは確かに堪えるかもね。黒いから熱も吸収するだろうし。なるべく日陰で撮影してもらいたいね」
「そうじゃなくて」
 若干じれた。想わず口調が強くなった。
「里見さん。こんな格好で人前に出て平気なんですか?」
「平気だよ。だって好きだもん。いっぱいいっぱい見て欲しい。これがあたしなんだって」
 この自信に満ちた態度はまりあを彷彿とさせた。

 そのまりあだがさすがに優介の買い物に辟易としていた。
 まりあだけではない。その「属性」のないなぎさも。男の恭兵ではなおのことだ。
「むふーん。いっぱい買っちゃった。同人誌って高いね。でもこんな激しいのは普通の本屋さんには売ってないし。それを考えると仕方ないかな」
 言うまでもなく優介が買いこんだのはすべて「ボーイズラブ」である。
 サークルスペースはほぼ女子だけだったし、彼女たちも女性参加者相手を想定していたので男子が購入したのは戸惑っていた。
 ただし優介が女と見惑う美少年だったこともあり戸惑いも一瞬。
 彼女たちの「ファンタジー」世界から抜け出してきたような存在に喜んでいた。
 優介も初対面の相手ばかりの上に機嫌がよく女性相手と言うのにいつもの仏頂面ではない。
 それもまりあを腐らせていた。
「もう。なんて本を買っているのよ」
「それじゃまりあは僕がエッチな本を買ってもいいんだね?」
 この場合はいわゆるノーマルカップリング。要するに普通に男女間の性行為を描いたものである。
 ストレートな言い回しなのでいくら世間知らずのまりあでも意味を正確に理解した。だから即座に
「それも嫌」と言い放つ。
「まりあ。それくらいは許してあげようよ」
 なんと女性であるなぎさが擁護した。
 ちなみに恭兵であるがなぎさと同意ではあるもののまりあに「エッチな男」と敬遠されるのを避けていたので無言だった。
「いや。優介が他の女の裸を見て喜ぶなんて耐えられない」
「でもそれならまりあの方を向くかもしれないだろ。それに健康な男なら(女体に興味があるのは)仕方ないみたいだし」
 確かに恋愛対象が男性と言う時点でまりあの恋は成就の可能性が極めて低い。
 それが女性になったというのであればまだ勝負になる。
 自分の可愛さを自覚しているまりあはたいていの女になら勝てるつもりでいた。
 ビジュアルで負けたとしても自分より優介を好きな女はいない。むしろそちらが自信だった。
「うーーーーっ」
 そうなると「エッチな本」の方は認めるしかない。論破された。面白くない。
 口を尖らせて不満の意思表示をするが愛らしい顔立ちなので幼女のようだ。
「なぎささんは平気なの? そんなの」
「うーん。女が泣き喚いたりしているのはあたしも嫌だな。男の読むエッチな本って結局女を性欲の捌け口にしているじゃない。それは嫌。やっぱり愛がなくちゃね。愛し合った末に結ばれるならロマンチックと思うよ」
 夢見るように語るなぎさを現実に引き戻す声。
「お前…随分詳しいな」
「キョ…キョウ君!?」
 回りが女子だらけ。そして話す相手がまりあでつい「ガールズトーク」になっていた。
 あろうことか大好きな少年の存在を失念していたのだ。
「あのその……アニキ…お兄ちゃんたちが持ってたから」
 赤くなってうつむくが
「今さらネコかぶっても遅いよ」と言われる大失態だった。
 皮肉にも恭兵の中でなぎさはそれほどポイントが高くないのでダメージは少なかったがそれでもなぎさは恥じ入る。
「そ、外に出よう。な」
 その場にいたくなくなって表に出る。それ自体には賛成のまりあと恭兵。優介も満足したのでついていく。
 何も考えずに向かった先は…

 更衣室。出来のよいコスプレと何やら緊迫したやり取りで注目をされてしまっているがいっぱいいっぱいの詩穂理は気がつかない。
「好き…だから? 見て欲しい?」
「うん。他に何もないよ。いろんなあたしになりたいし、大好きなキャラと同じにもなりたい」
「それって現実逃避とかじゃなくて」
「それもあるかも。でもあたしはやっぱり好きと言う思いが強いの」
 笑顔だが瞳は真剣だ。
(これってヒロ君と同じ目…)
 父親と同じ「スーパーヒーロー」を演じる役者を目指す裕生。
 その彼が夢を語る表情が詩穂理の一番好きな顔だった。
「詩穂ちゃん。あたしは詩穂ちゃんの賢いところとか、綺麗な顔とか、澄んだ声とか、ちょっと低めの背丈とか、びっくりするほど大きくて存在感のあるおっぱいとかみんな好きだよ」
「……なんで胸だけそんな強調するんですか?」
「にゃはははは。詩穂ちゃんそこに一番コンプレックスもっているみたいだから。でもたいていの女の子はうらやましがっているよ」
「そんな。これ大変なんですよ。邪魔だし、男女問わず見つめられるし。バランスも録り難いし。ブラのストラップは食い込むし。あせもになるし」
「あたしもDだからある程度はわかるよ。なにが言いたいかっていうとね、そんなに自分を嫌いにならなくてもいいんじゃない? 人は詩穂ちゃんのことを嫌ってないと思うよ。最低でもあたしは」
 ここで視線をそらす恵子。人前でコスプレでさまざまなポーズをとる少女だけに度胸はあるのだが、面と向かって真面目に語ったのが恥ずかしくなった。だからおどけてごまかす。
「あたしが男なら風見君と詩穂ちゃんの取り合いになってるよ」
「そんな」
「論より証拠。ギャラリーに聞いてみよ」
 強引に詩穂理の手を引っ張り恵子はコスプレ広場へと移動する。

 コスプレ広場。瞳美はちょうど別のコスプレ少女に撮らせてもらった礼をしているところだった。
「安曇さーん」
 かわいらしいアニメ声で呼びかけられて瞳美はそちらを向く。
(あ。里見さん着替えてきたのね。あら? あの娘?)
 さすがはカメラマンである。以前は水着で今回は正反対のドレスでも見間違えない。
 そもそもあの時もメイクしたのは恵子である。いわば同じ顔。
「里見さん。さっき言ってたいたのはこの娘?」
「そう。槙原詩穂理ちゃん。同じ学校の子」
「そう。まさかここであえるなんてねぇ。裕生くんの彼女さんに」
「あれれ? 知りあい」
「夏に海で一度ね」
 詩穂理は瞳美がここにいるのは知らされていた。そもそも彼女に撮影されるべくコスプレしていたのだ。
 とはいえど実際にカメラマンを前にして緊張してしまっている。礼儀正しい彼女だが挨拶出来ないほどだ。
 そこにさらに場をかき回す存在。
「おお。いたいた。シホ。里見。安曇さん」
 裕生がやってきたのだ。
「ヒロ君」
 安心できる存在の登場でほっとした。
「おおっ。シホ。すっげー似あうじゃねーか」
「えっ? や、やだっ」
 自分がどんな格好しているのか思い出した。そして恥ずかしくなり恵子の後ろに隠れようとするが恵子がかわす。
 それどころか裕生に突き出すようにする。
「ほれほれ。もっと誉めてあげて。風見君」
「里見さんっ」
「うっわー。よく出来てんなぁ。これ。バトルナそのもんじゃね」
「そ、そうですか?」
 詩穂理はかすかに頬を染めて微笑む。ごまかし笑いとかではない。心を許した相手に見せる笑みだ。
(おっ)
 そのかわいらしい表情をプロのカメラマンは見逃さなかった。
 とっさに一枚とる瞳美。シャッター音で我に帰る詩穂理。
「ああ。安心して。これは本当に記念写真だから」
「へー。オレにもくれます?」
「もちろん」
 勝手に撮影されたことを詩穂理は抗議しかけたものの裕生が自分の写真を欲しているのを知りやめた。
「よしシホ。まず鞭を右手にもつんだ」
「こ、こうですか?」
 左利きとして扱われている詩穂理だが、実は元々は右利き。
 幼いころ裕生の真似をしているうちにサウスポーになっていたが右手の機能は左と遜色ない。
「そうそう。そして左手で鞭その物を持って引っ張る。後は表情だけど自信満々に敵を見下ろす感じで」
「そんな表情は」
「詩穂ちゃん。自信持っていこ」
 恵子が励ます。その言葉で背中を押された。
(そうかもしれない。私はいつも自分には出来ないとか殻を作っていた。でも…こうして別の人間になるのなら)
 その瞬間。槙原詩穂理ではなく「仮面天使クロスファイター」敵組織の少女幹部。バトルナになっていた。
 当然きっちりとナースィートとしての表情を作る恵子。
 フェルト制の巨大注射器を抱えてのポーズをとる。
(うわっ。詩穂理さん。雰囲気が変わったわ。もしかしたら本当にグラビアモデルの素質あるかも)
 瞳美はシャッターを切りながらそんなことを思っていた。

「あっ。大樹君」
 ことさら嬉しさうに優介が笑顔を振りまく。
「マリア先輩。お疲れですか?」
 こちらも即売会を堪能したアンナが笑顔で訪ねる。
 別れていた二つのグループが合流した。
 情報交換が始まる。だが大樹は広場のほうを見ている。
「もう。お兄ちゃん。どこ見ているの?」
 コスプレが露出の高い物とイメージしていた双葉はやきもちを焼く。だが彼は違うものに気がついていた。
「槙原?」
 さわぎになっていのでそちらを見るとプロと思しきカメラマンが撮影。
 それ自体は取材の一環としても被写体に見覚えが。
「ええっ? 詩穂理? まっさかぁ。里見さんならともかく詩穂理はないでしょ」
 なぎさが笑い飛ばす。
「行けばわかる」
 もともとコスプレ見物に移動して来たのだ。それもあり一同は広場へと。

 カメラマンが人物を撮る際にはとにかく誉める。単純に気分よくさせるためだ。
 詩穂理や恵子に対しても当然それをしていた。
 自分に自信のない詩穂理はなかなか信じられなかったがギャラリーの反応のよさ。
 なにより裕生の誉め言葉でだんだんその気になってきた。
 とはいえどやはり恥ずかしい。表情には出ないが、内心では頬を押さえて恥らっている。
 恵子のほうも表情には出ない。だがこちらは反対に飛び跳ねそうに嬉々としている。
 詩穂理は恥ずかしさを押し殺して演じていた。
 元々がつり目。そして攻撃的なメイク。それで悪役らしい表情だけに余計それらしく見えてきた。

詩穂理、変身!

このイラストはOMCによって作成されました。
クリエイターの對馬有香さんに感謝!


「いいわぁ。ちょっと動きがあるともっといいかな。何かお芝居してくれる?」
 躍動感を撮ろうとしてだ。
 普段の詩穂理なら尻ごみするが完全に乗せられていた。ハイになっていた。
「よし。シホ。台詞は……で、むちを思い切り地面に叩きつける。行ってみよう」
「うん。わかったヒロ君」
 きついメイクに不似合いな柔和な表情で返事をしたがまた悪役らしい顔つきに。そして
「この負け犬! 悔しければクロスファイターを刺し違えてでも倒して来い!」
 元々が高めの声なので怒りの演技だとヒステリックに聞こえて凄みが出た。
 そしていわれた通りにむちを叩きつけた。
 観客から拍手が沸き起こる。一部の性癖持ちは「あの声でののしられて叩かれたい」などと思ったほどなので「演技」は出来ていたことになる。
「二人ともありがとー。後で裕生君に写真送るね」
 収穫を得て瞳美が嬉しそうに礼を言う。
 詩穂理は詩穂理で違う自分を認められて満足感があった。が
「え? 詩穂理さんなの?」
 まりあがまじまじとこちらを見ていた。
 まりあどころか全員いる。一瞬で現実に引き戻される。そして自分の今している格好を見られた事を。
「きゃーっっっっっっ」
 真面目少女に戻った詩穂理は羞恥心から悲鳴をあげた。

 その後まりあを姫子がスペースで待っていると知り移動を。
 恵子と詩穂理は着替え。もちろんメイクも落とす。
「ねー。風見君たちもみんなとお疲れパーティーやらない?」
 綾那の言うのは打ち上げのことだ。
「うちの店で六時から貸しきりにしてもらったから。八人で使うにはちょっと広いから来ない」
 ツインテールの少女。みずきの実家が喫茶店と言うことを聞かされる。
「そうね。私もそんなに姫子としゃべれなかったし」
「僕も風見にはお礼したいからさ」
「礼なんていいけど大人数の打ち上げは楽しそうだな」
「あの…もう少し増えても大丈夫ですか?」
 完全に普段の文学少女に戻った詩穂理がみずきに尋ねる。
「大丈夫だけど他に誰が?」
「お友達です」

 詩穂理の申し出を恵子が断るはずもなく。
 恵子の属するサークルのメンバーも交えての盛大なパーティーになった。
 詩穂理としては自分の殻を破るきっかけをくれた恵子に礼をしたい一心だった。ただ
「ねーねー。冬は詩穂ちゃんと二人で今度はハイパーフェクターの女の子やりたい」
「それならシホは俺とやるよな。ちょっと興味が出てきた」
「僕らも何かコスプレしようか。綾那」
「明君が望むなら。でもあんまりエッチなのはダメだよ」
「あ、あの、私まだやるとは一言も」
「それにしても詩穂理があんなかっこうするなんてねぇ」
 ニヤニヤと言う感じでなぎさがからかう。
「もう。忘れてください。恥ずかしいんですから」
 本当らしく耳たぶまで赤い詩穂理。
「えー。とても似合ってたよ」
「そうね。すごく迫力あった」
「それって悪役が似合っていたと言う事ですよね…」
 あまり嬉しくない。
「それだけ詩穂ちゃんのコスプレが完成度が高かったと言うわけなんだにゃ」
 トレードマークのネコミミカチューシャをつけたからか語尾に「にゃ」が復活した恵子。
 ちなみに入る時も出る時も「コスプレのままでの入場(退場)は禁止です」とスタッフに注意された。
「あのメイクはともかくゴスロリはいいかも。姫子ーっ。今度は私達もやってみない?」
「まぁ。まりあさんてば」
 オタクが多かったので必然的に話題もそちらに。
 そして詩穂理のコスプレが延々と語られて。

 恥ずかしかったのは確かだが自分の姿で誰かを喜ばせることが出来る。
 そんなに捨てたものじゃないと思うと詩穂理の心は明るくなっていた。
(でもさすがにグラビアアイドルはちょっと)
そこまでは吹っ切れてなかった。

 その夜。瞳美は撮影した写真を整理していた。見ていた写真は詩穂理が裕生に向けて微笑んだもの。
 どの写真よりも可愛らしい表情をしていた。
(演技よりも本気よね。やはり。でもこれは使いたくても使うわけには行かないわ)
 掲載は見送ることにした。

 余談だが詩穂理のコスプレは完成度が高く評価され、本人の預かり知らぬところで高い人気となっていた。

次回予告

 夏休み終盤に行われた夏祭り。夜店に縁のなかったまりあははしゃぎまくる。
 さらにさまざまな面子が加わり珍騒動が。
 次回PLS 第12話「8月の長い夜」
 恋せよ乙女。愛せよ少年。

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