第12話「8月の長い夜」Part4

「それにしても優介ったら、どこに行っちゃったのかしら?」
 まりあ。なぎさ。そして恭兵はいまだ行動をともにしていた。
 人でにぎわう縁日。前から来る人を避けつつ、石畳の上をあるいていた。
 何人かはまりあのあまりの可愛さに目を奪われる。
 なぎさにしたらまるで引き立て役だと言う思いがあって面白くない。
 そして二人きりになりたいが、恭兵がまりあ目当てでくっついているのだ。
 まりあが自分のそばにいるから恭兵もいる。だからまりあに離れろとはいえない。
 加えて恭兵が、優介をおびき寄せるための、おとりであるのも聞かされていた。
 それではますます離れそうにない。
 だから早く優介が見つからないかと思っていた。
 そうすればまりあも優介めがけてここを離れる。自分達には目もくれまい。
 あとは恭兵を逃がさないようにする。それが一番難しいのは理解していたが、それでもこの手が理想。
 なぎさはとにかく笑顔を作ろうとしていた。

「さっきの子。何だったのかしらね?」
 ツインテールを揺らめかせ、メガネの少女。赤星みずきはかわいらしく笑う。
「見抜かれたと思った?」
 ちょっと心配顔の七瀬。素直に肯定するみずき。
「なんで判ったのかしら? 一年のときはともかく、今はこんなに女らしいのにね」
 本当に一々仕草が女性的に細やかだった。
「本当にね。心配になるほど女らしいわ」
 七瀬は軽くため息をついた。が
「あら? 姫ちゃんの」
 誰もいない空に視線を向ける。本人の口は動いてないのに、何故か「会話」しているイメージがある。
 それが終わり見届けるような表情。そして赤い浴衣の少女に向き直り告げる。
「行きましょ。みずき」
「えー? もう時間なの?まだ回ってないところ一杯あるのに」
「うちの方ではまだやってないし、そのときね」
「まだりんご飴とか食べてないのにぃ」
「あんたどれだけ甘い物食べたら気がすむのよ? そんなに甘い物ばかり食べていたら太るわよ」
 大概の少女が忌避している「太る」と言う言葉。
 ご多分に漏れずみずきも表情を強張らせるが、すぐに立ち直り言う。
「う…いいもん。いざとなったら元に戻るから」
「……便利な体よね」
 彼女達は待ち合わせ場所に向かう。

 優介は「美少年」にナンパされる。あるいは自分がナンパするべく、まりあから逃げつつもターゲットを探していた。
(うーん。レベルの高い男の子はみんな女連れだもんなぁ。女なんて鬱陶しいだけなのに)
 付きまとわれて女の子を疎ましく思うようになったのに、男子相手に同じことをしている。
(特にまりあ。いつも付きまとってくるし。あいつもぼくのことなんて諦めればいいのにね。僕は女になんか目を向けないんだから)
 などと考えながら探すが、丁度いい一人で歩く美男子が見つからない。だが白いワンピースで歩く存在が気になった。
(おっ。女装の男子。こんなところで度胸あるなぁ。これはぼくとの相性はいいかも?)
 「女装趣味=恋愛対象が男」ではないのだが、あまりに見つからなくて優介は少し短絡思考に陥っていた。
 後ろから近づくとその肩に手を置いた。
「君、一人ならぼくと…あれ? 女?」
 普通に考えるまでもなく、ワンピースであるいていれば女性と思う。
 何故か女装男子に考えが至った。
 これは優介の趣味ゆえの誤認か?
「私の服が見えなかった?」
 少女はクールに、そして突き放すように言う。ナンパ男相手の対処だ。
 白いワンピースである。足元もサンダル。素足には無駄毛が全くなく、つるつるしていた。
 露出した肩も華奢な腕も白く輝き、女性の美を見せつけていた。
 胸元も豊かに膨らみ、ワンピースから垣間見える。
 短いながら女性的な印象の黒髪。
 顔立ちだけはややきついが、間違いなく美少女の範疇に入る。
「おっかしいなぁ。男だと思ったんだけど」
 優介は首をひねる。
 誰がどう見ても少女なのに、何故か「男」を感じてしまった。
 その少女は瞬間的に狼狽した表情を見せたが、すぐに無表情の仮面になる。
「東京じゃ男の子がワンピース着て、お祭りを歩いたりするの?」
 きついいい方だった。普通の男ならカチンと来る。
「おっ。いいね。普通の女なら感情的になるのに、そのクールさ。惜しいなぁ。男だったらほっとかないのに」
 少女は引きつった表情を少しだけ見せた。
 確かに「その趣味」でないなら、優介の趣味は「引く」のも無理はない。
「はぁ。さっきも男の子と思ってナンパしたら女だったし。今日はなんだか『センサー』が不調みたいだからもう帰ろう」
 また少女が反応した。それを無視した優介のあとをついて行く。
「…お前、なんでついてくんの?」
「帰るんでしょ? 私もよ。ナンパ男君」
「変な風に呼ぶな。ぼくの名前は水木優介だ」
 初対面の「女子」に対して、何故か名乗る気持ちになった優介。
「名乗られちゃ仕方ないわね。私は澤矢り…理子」
「なんだよ。自分の名前をど忘れ?」
 言葉はきついが、いつも女子相手に見せる辛らつさではない。その証拠に笑顔だ。
「偽名を考えてたのよ」
 理子も明るい笑顔を見せた。
 それはとても愛らしいものだった。

 縁日の定番の一つに「射的」がある。
 コルクを撃ち出す銃で景品を撃ち落したらそれをもらえる。
 もっとも儲けを出そうとしたら、そんな簡単にもって行かせることは出来ない。
 だからなかなか倒れない。
 それを承知しているものは「命中」させることに狙いを絞る。
 だが、それすら上回る二人がいた。
「ボルティックシューター」
 コルク銃はライフルの形状なのに、裕生は片手でもちロボットのような動きで撃つ。
 見事に命中。だが景品は落ちない。
「一番よりナンバー2.それがこのホル・ホースの生き方よっ」
 こちらは上条明。やはり片手で持ち、見事に撃ち落す。
「マキシマムモード。サイクロンプラズマ」
 現在放映中の特撮。「特装ハイパーフェクター」の最大の武器を使用するシーンを、次の弾で裕生は再現していた。
 上条の方は無言で的を撃ちぬくと「はい。完了。やっとこれで片付いたわね」と「戦乙女セーラ」で、射撃を主体とする戦士。ジャンスが主人公・セーラが手を出せなかった怪人を倒したシーンのセリフを再現する。
 この二人にとって景品はお菓子でもおもちゃでもない。
 ギャラリーに受けること。ただそれだけだった。
 オタク二人に射的をやらせると、こうなるらしい。

「すっごい凄い。明君。また当てた。あ。風見君も当てたよ。凄いね」
 無邪気にはしゃぐ綾那と、赤い顔の詩穂理。うつむいている。
(わ、私はさすがに恥ずかしいです)
 それでも逃げ出さないあたりは裕生が好きだからか。

「ふたりとも。そろそろ帰るでござるよ」
 男子二名。女子四名のグループがやってきた。
 上条の誘いを受けてきた無限塾勢だ。
「おー。そうか。そんな時間か」
「なんだよ。帰るのかよ」
 残念そうな裕生。
「ごめん。ここちょっと遠いからさ」
 確かに彼らの行動エリアではない。未成年揃いでは、あまり遅くもいられない。
 裕生は納得した。
「仕方ないな。シホ。オレ達も一緒に行こうぜ」
「えっ。私達も帰るんですか?」
「オレらは地元だろ。まだまだ遊ぶぜ」
 その言葉に詩穂理は笑顔でうなずいた。

 優介と理子はまだ境内にいた。
「ねぇ。もしかして迷ったの?」
「そんなわけないだろ。ただ、見つかりたくない相手がいるんだよ」
 もちろんまりあだが、なぎさや詩穂理もまりあに情報が筒抜けと考えたほうがいい。出来れば逢いたくない。
 そうしてこそこそしているから進まない。
 だがそれは無駄に終わった。
「水木くぅーんっ」
 普段のヒステリックな金切り声はどこへやら。
 甘えた声で海老沢瑠美奈が優介に抱きついたのだ。
 まりあに負けないお嬢さまだが「どこの馬の骨ともわからない相手に娘を渡せるか」と言う父親の思いも一致していた。
 要するに父親の配下を優介探しに繰り出せなかった。
 となれば単純に自分で歩いて探すしかなかった。
 もちろん一人ではない。配下の面々が手分けして探していた。
 見つけた土師拓也からの連絡を受け、やってきたのだ。
 土師には控えるように命じた。「二人の時間」を邪魔されたくないと言う理由。
 そして今、心のままに優介に抱きついた。

「優介どこかなぁ」
 そのころのまりあは優介を探してうろついていた。
 その後を恭兵がエスコートするようについてくる。
 さらになぎさがその後ろ。
(なんかなぁ、これだけなびかない相手に僕もなにやってんだか)
 若干馬鹿馬鹿しくなってきた。
 だが、やはりまりあはお気に入り。
 まりあが執着する優介は男子のみを愛する。
 だからいつかこちらを振り向く。
 そう思ってついている。
「なんか騒ぎかな?」
 その空気がいたたまれなくなったのか、なぎさがそんなことを言う。
 だが確かになにやら騒ぎが起きている。
「優介もいるかしら?」
 まりあは先陣を切って行くものの、混雑の上に意外に動きにくい浴衣姿。
 そして「道」がわからないことから、雄介達の所にたどり着くのに時間を要した。

 抱きつかれた優介は振りほどこうと暴れる。そして言葉でも。
「離せ。離せ。ミラーボール」
 瑠美奈は額が広い。それはコンプレックスである。
 たから他の者が額をそうやって揶揄すれば逆鱗に触れる。
 優介は例外だった。
 いや。瑠美奈本人も気がついてなかったが、彼女は好きな異性に対しては「ドM」の様子。
 「お嬢さま」として敬われ続けてきた彼女には、冷たい扱いが新鮮だった。
 だから優介の罵倒も「きゅん」とさせるだけで逆効果。
「嬉しい。私のことをおぼえていてくれたのね」
 この光り輝く額は名前を忘れても、まず一見で覚える特徴である。
 もっとも本人も『オデコ』には触れていないが。
 頭の丸さゆえかどこか『タコ』を彷彿とさせたのは、現在の絡みつく様がそのものだったのもある。
 逃れようと優介が暴れるが、それがどうしても周辺の客の邪魔になる。
「……」
 しばらく見ていた理子だが、つかつかと歩み寄るとまず優介の頬に平手を見舞った。
 当事者以外の動きをも止めた。
 錯覚だろうが、音すら消えたように思えた。
「あ…」
 呆然とする優介。それには構わず、しがみついたままの瑠美奈にも理子は平手を見舞う。
「きゃあっ」
 物理的と言うより、叩かれたことに驚いて優介から離れ、そして尻餅をついた。
 それを冷ややかに見据える理子。
「な、なにするのよ?」
「回りの迷惑よ。やっていいことといけないことの区別くらいつけられない?」
「そんなの知らないわよ。私を誰だと思っているのよ?」
 頬の痛みと言うより、大勢の前でぶたれたことに対する恥。そして屈辱で逆上していた。
「それこそ知らないわよ。最近引っ越してきたばかりなんだから」
「お、親にもぶたれたことがない私をよくも」
 屈辱でぶるぶる震えている。
「そりゃ随分とひどい親ね。だからこんな恥知らずに育つのね」
 クールにばっさり斬り捨てる。
「なっ、なんですってぇぇぇぇぇっ」
 怒りのあまり言葉が続かない。上手い語彙が浮かばない。
 理子の方は「これ以上、話す事はない」と、そう言わんばかしの態度で瑠美奈から優介に視線を移す。
「君もよ。あんなに暴れなくても女の子一人くらいうまくあしらえない?」
「だってあいつしつこくて…それにしても…」
「なに? 君も親にぶたれたことがないの?」
「父さんには何度かあるけど、姉には一度も。と、言うか女にぶたれたの初めてだ…」
「いっておくけど、私には変な趣味はないわよ」
「ぼくだってないよ」
 優介の性癖を知るものがいたら、盛大に突っ込みを入れていたであろう発言。
「意外ね。女にぶたれたのに平然として」
「だから初めてなんだよ。お前みたいな女。べたべたしないで。なんか…いいな」
 こともあろうに優介が女子に対して友好的である。
「わかった。ぼくが悪かった」
 それどころか頭を下げる。まりあが見たら驚くのは間違いない。
「私の方こと叩いてごめんなさい」
 クールな口調がやや砕けてきた。
「はい。仲直り」
 理子は右手を差し出す。
 迷ったが優介はその手を握る。
「あーっっっっっ。私でさえ水木君の手を握ったこともないのに。離れなさいよ。泥棒」
 甲高い声で瑠美奈が突っかかる。
 丸く納まりかけていたのに台無しに。

 大樹と美鈴は二人だけで回っていたが何しろ大樹は無口。
 ひたすら美鈴がしゃべるが間が持たない。
 それでも当人達にはそれで良かった。
 昔も遊んだこの祭り。そのころに思いを寄せていた。
「あっ。お兄ちゃん」
 もう一人の「幼なじみ」。双葉が雑踏の中から彼を見つけ出して手を振る。
 なにしろ比喩ではなく頭一つ抜けているのだ。祭りの雑踏でも見つけるのはたやすい。
「ばか。双葉。先輩達の邪魔しちゃ悪いよ」
 似たような苦労をしている千尋が制する。だが
「おー。ダイチ先輩。ミスズ先輩」
 存外に金髪が浴衣に似合っているアンナが綿菓子を手に呼びかける。
 頬に少しついているのは「お約束」
 合流した格好になる。
「楽しいですね。日本のお祭り」
「アンナの国ではどんななの?」
 千尋が乗っかる。
「楽しいよ。今度はこっちにきなよ」
 気軽に言うアンナ。ジョークではないらしい。
「いや…遠いし」
 そのセリフの直後に甲高い少女の悲鳴…むしろ「怒声」が響き渡る。
「今の声…」
 猛烈に嫌な予感が走る美鈴。
「生徒会長じゃない?」
 千尋があっさりとそれを口にした。
 とりあえず出向くことにした。

 そしてもう一組。瑠美奈の声を聞きつけてまりあ。恭兵。なぎさ達がやってきた。
「あっ。優介」
「げっ!? まりあ。やばっ」
 優介は逃げようとするが理子が手を離さない。
 華奢な少女のはずなのに、力強くてはなれない。
(なんだコイツ。ほんとに女? 女の力とは思えないぞ。でも、手は小さいし柔らかいし確かに。それにあの胸元)
 ワンピースからのぞく胸元か、立派な谷間を形成していた。
 あの揺れ具合は、豊胸手術で作られたものとは思えない。
「ちょっとあなた。優介の手を握っているなんてどういうことよ?」
 お嬢さま同士、似た者同士だった。文句まで同じ。
 そして磁石の同極同士のように、お嬢さま達は反発し合う。
「引っ込んでなさいよ。カマトト女」
 瑠美奈の矛先が怨敵であるまりあになる。
「あっ。デコ女。こんなところまで」
 こちらも瞬間的に火がつく。
 互いに「好きな男」か他の女と手をつないでいて(しかも自分から女性に握手を求めるはずのない優介が)その嫉妬心から攻撃的になっていた。
 ほぼ同時に掴みあいになりかかる。だが
「えいやぁっ」
 頭上から細身の少年が舞い降りてきた。
 両者の間に割って入り、二人の攻撃を止めた。
「あ、あなた?」
「か、風間さん?」
 瑠美奈は中学時代以来。まりあにしたら親友の恋人である風間十郎太が、文字通り忍者の動きで仲裁に入る。
「お二方。この場は引かれよ。迷惑になるでござるよ」
 射抜くような鋭い眼光。敵意はないがやはり女子にはきつい。冷静になって行く。

「はぁい。皆さん。ココアはいかが?」
 赤い浴衣のツインテールのメガネっ娘。
 赤星みずきがわざとらしいほど柔らかな口調でやってきた。満面の笑みがとにかく女性的。
(な、なんでこの娘。祭りなのにココアなんて用意してんの?)
 フェミニストの恭兵だが、女子相手と言うのに突っ込みが先に出る。
「だめよぉ。女の子が喧嘩なんてしちゃ。気が立った時はココアはいかが? 甘い物は落ち着くわよ。夏でも暖かい飲み物はいい物なのよ」
 まりあにしたら何度かあっている相手。そしてこのやたらにおっとりとした口調に毒気を抜かれて、素直に紙コップのココアを受け取る。だが
「この暑いのにそんなもの、いらないわよ」
 瑠美奈は差し出されたココアを下から跳ね除けた。
 それをみずきが手放してしまう。
 さらにどういう偶然か、頭から熱湯で作ったココアを浴びてしまう。
「あちゃーっ」
 甲高い声の悲鳴。だが、途中から声がやや低くなった。まるで男の裏声と言う感じ。
「あ……」
 みずきの真正面にいた理子が顔面蒼白になる。
 ココアを浴びたみずきの胸がまったいらに。暗がりでなければ肌の色の違いもわかる。
「(いかん!)然らば御免っ!」
 十郎太がみずきをつれて跳んで行った。その場の誰もが呆然としていた。

「バカ……」
 頭を抑えている七瀬。その肩を叩く榊原。マジメな表情に七瀬はうなずく。
「風見。今日は誘ってくれてありがとう。それじゃこれで」
「え? おい。上条?」
「消えちゃった…」
 詩穂理のつぶやく通り。同行していた上条達は忽然と消えた。
「オレ達も行くぞ。シホ」
「あ。はい」
 その場にいると面倒。詩穂理がまりあの手を取り、大樹が優介を担ぎ上げてその場から逃げた。
 何故か理子までついてくる。

「な、なんなのよ。あれ?……あれ? 水木君達は?」
 我に帰った瑠美奈は、そばで控えていた土師達に尋ねる。
「はい。瑠美奈さんが呆然としている間にあっという間に」
 いつものように緊迫感のない奈保美の報告。
「なっ。そ、そう言う時は止めときなさいよぉぉぉぉっ」
 瑠美奈の絶叫がこだまする。人々は遠巻きにみている。
 それにも構わず瑠美奈はほえる。
「それにしてもあの女。親にもぶたれたことのない私の顔を叩くなんて許せないわ。もしもう一度あったらそのとき…」
 暗い復讐心が刻み込まれた。

 遠く離れた場所。そこに風間十郎太は舞い降りる。
 そして僅かに遅れて六人の少年少女達が現れる。
「お、追いついた…」
 披露困憊の上条明がそれだけいうと倒れふす。
「待ってて。明君」
 綾那が上条の背中に手を当てると、その手がひかり、少しずつ上条の顔色がよくなって行く。
「もう。なんでココアなんて勧めるのよ」
 遠慮の全くない口調で黒髪の少女が言う。
「聞いてなかったのかよ。エキサイトした時は甘い物がいいって」
 ツインテールの少女…否。「少年」はおっとりした口調と一転して、荒っぽい口調で七瀬に言い放つ。
「水をかぶると女になり、お湯をかぶると男に戻る。だから突然の雨とかに備えて最初から女で来たわけだが」
「街中でかぶるはずのないお湯を自分で用意してりゃなぁ」
 呆れたように榊原と真理が言う。
「とりあえずどこかで水を買ってきてくんない?」
 着ているのが女物である。下着も当然。
 元々が女顔である上に、「ツインテール」と言う少女ならではの髪型なのでごまかせてはいる。
 化粧とメガネに闇が加わり、なおさらばれにくい。
 水をかぶってもう一度変身してしまえば問題はなくなる。
「ですが瑞樹さん。濡れたそのままではお風邪を召してしまいますわ」
「でも、このままじゃ」
「屋敷にお送りしますから、そこで殿方の浴衣に着替えてはいかがですか? お化粧を落として、髪もまとめてしまえば」
「うむ。さすれば七瀬殿と今度は男女で歩けるでござるな」
「え?」
 二人とも赤くなる。でも嫌がってはない。
「それではよろしいですか?」
「ちょ、ちょっと、人をココアみたいに瞬間移動を…」
 その場から瑞樹の姿が掻き消えた。
 姫子の能力でテレポートしたのである。

 そして三十分後。
 髪こそ長いままだが一本でしばり、りりしい少年の姿に戻った赤星瑞樹は、七瀬と手をつなぎながら祭りの夜を堪能した。

 そしてまりあ達。やっと八人で合流した。鳥居の所。『出入り口』だ。
「……あのデコ女にしがみ付かれていたところを助けてくれたみたいね」
「あのままじゃ人迷惑だっただけよ」
 あくまでクールな態度である。ボブカットがなおさら大人びた印象を与えている。
 顔立ちもどこか中性的。顔色はやや悪い。
(まさか…あんな体質の人間がいるなんて)
 彼女はみずきが男に戻ったのをもろにみていた。それで驚愕していた。
 だが、それだけが理由ではない。
「それじゃ私はこれで」
 理子はマンションの方角へと帰ろうと歩き出す。
「理子」
 その後ろ姿に声をかけた優介。
 優介が冷たくしない女子に里見恵子や南野美鈴と言う例外がいる。
 しかし出会ったばかりの相手に対してこれは異例のことだ。
 呼び止められた理子は首だけ後ろに向ける。
「また、逢えるかな?」
 優介が笑顔でそんなことを言うから、まりあ達は驚いて言葉がでない。
 相手が美少年ならともかく、美しいとはいえど少女相手である。
「縁があればね」
 最後までクールなまま、理子は立ち去った。

「ちょっと優介!? どういうことなの?」
 まりあが食ってかかる。
「どうって?」
「あの女の子との間に何があったのよ? 手もつないでいたわよね」
「こんな風にか?」
 おもむろに優介はまりあの右手を取る。
「ゆ、優介?」
 守りに回るとてんでダメなまりあ。あっという間にメロメロ。有耶無耶にされた。

 だが優介は別のことを考えていた。
(こいつの手も小さくて柔らかいけど、なんか理子とは違うな。いや。理子「が」違うのか。そうだろうな。そうでなきゃぼくが女相手にこんな好印象を持つはずがない)
 その検証のためにだけ、まりあの手をとったのだ。
 それが終わったので手を離した。
「あっ」
 つないだ手がほどかれ、まりあはひどく寂しそうな表情を見せる。
 それは海での一件に見せたのと似ている。
 ひどく弱々しいそれに。
 こうなると優介の勝手も狂う。
「ほら」
「えっ?」
「つなぎたいんだろ。好きにしろよ」
「いいの?」
 戸惑うよりも行動。もう一度手をつなぐ。途端に明るい表情になるまりあ。
「優介ぇ。だいすきよぉ」
 甘えた声を出す。珍しく優介がその手を振りほどかない。
(コイツもべたべたしないで、もうちょっと理子のクールさがあればいいんだけどな)
 彼は自覚していない。まりあの「可愛さ」を認識したことを。

 そして理子は「通りすがり」ではなかった。

 

次回予告

 二学期開始。その初日に編入してきたのは祭りの日に出会った澤矢理子。
 女子相手に再会を喜ぶ優介。苦い顔のまりあ。そして理子には重大なひみつが?
 次回PLS 第13話「Tommorrow Made New」
 恋せよ乙女。愛せよ少年。

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