第13話「Tomorrow Made New」Part3 

「は?」
 思わず間抜けな声を上げる瑠美奈。
「何を調べているの? 間違いもいいところだわ」
 そう思うのも無理はない。なにしろ「澤矢理子」はちゃんとこの学校にいて、自分にたてついているのだ。
 だとしたらこの「死んだ」と言う情報は別人のことだ。
「まったく。やり直しをさせないと」
 憤慨して調査報告書を投げ出してしまう瑠美奈。
「わわっ」
 それをあわてて拾い上げる土師。
 いくら間違ったといえど、こんな書類を学校で放置できない。
 当の依頼主は見向きもせず、強く床を踏みながら歩み去ろうとしている。

「まったく。瑠美奈さんてば」
 苦笑しつつ、彼はそれを整えて封筒に入れかけて止まる。そして目を通して考える。
(この調査報告書が間違いとして、本当にただ同姓同名なだけなのだろうか?)
 疑問を感じた。
(生きている澤矢理子の過去を調査して、どこで死んだ人間にたどり着いたのかな?)
 興味本位で考える小柄な美少年。
(もし…この調査報告書が正しかったとしたら、あの「澤矢理子」は死人? そんなはずはないとしても、誰かが成りすましている? でもそんなことして何の得が?)
 新聞の三面記事から『犯人』を推理する『素人探偵』のように考えていた…が
「土師! 何しているのっ? いくわよっ」
 ヒステリックなお嬢さまに呼ばれては、最優先で向かわなくてはならない。
「すぐ行きます。瑠美奈さん」
 彼は「推理」をやめて主の元に向かった。

 そして中断したその推理は、決して的外れではなかったのである。

 頑として人との係わり合いを避ける理子。
 授業中の発言はするが、それ以外は最低限のことしか発言しない。
 穿った見方をすれば「単位だけ欲しいのであり、友人は無用」と態度で示している。

 一週間経っても制服を新調しないのも、彼女を浮き上がらせていた。
 登下校も父親が車で送り迎えしている。だから級友たちと語りながら帰宅と言うこともない。
 徹底して人との係わり合いを避けていた。

 次第に「スルー」から『なに様だ』と言う感じで捉われてきていた。
 ほぼ孤立。

 だが優介は執拗に付きまとう。
 彼もまた「理解されない性癖」で男子からは敬遠され気味。
 それが「女に走る」から面白い。
 特に理子は髪こそ短いが、胸や腰が嫌味なほど「大人の女」だった。
 冷たい印象はあるものの、中性的な整った顔立ちは充分に美人と言える。
 確かに「男色家」を「趣旨変え」させても不思議はない、そんな説得力のある見た目だ。

 しかし優介に対してはそれはアドバンテージにはならない。
 彼の女性に対する興味をなくさせた姉達は、ともに美人でスタイル抜群なのである。
 父親は北海道に単身で出向いている。
 優介以外は女しかいない家族。その唯一の男子である優介も、男性服を着ている状態で女子に間違われるほど男性性が希薄。
 それゆえか無防備な…平たく言うとだらしない姿をさらけ出し、優介が本来なら抱いていたであろう女性に対する幻想を根こそぎ奪い取った。
 だから優介は可愛い顔のまりあや、スタイルのいい瑠美奈が好意を寄せても動じない。
 しかし彼とて全く女性を避けているわけではない。
 彼が言うには「女の嫌なところのない美鈴」「面白いミケ(里見恵子)」そして、何故かそう言うところのないのに、この転校生・澤矢理子には関わってくる。
 現在も授業と授業のインターバルに、わざわざ理子の机まで来ていた。

「あなたも変わっているわね。私のような嫌われ者に進んで関わるなんて」
 苦笑する理子。だがその笑みが少し柔らかくなってきた。
「ぼくには理子が魅力的なんだ」
 その言葉に驚いた表情になり、そして頬を赤らめる理子。
 優介は女性的な風貌で「ボーイズラブ」で言うところの「受け」の印象が強い。
 しかしアプローチは受動的ではなく積極的。
 言葉もちょっとストレートなところもある。
 それを同性に対して言うからややこしいが、このように相手が「異性」となるとノーマルに見える。
「ふ、ふん。本当にあなたは変わっているわ」
 クールビューティーが、直球アプローチにたじろいだ。
 存外「打たれ弱い」のかも知れない。

「さぁ。着替えるから行くわよ。あなたはいかなくていいの?」
 次の授業は体育だ。理子は女子更衣室には遅れて行く。あるいは極端に早く行く。
 混雑を避けているともとれるが、隅っこで背中を向けたままの着替えから察するに、半裸を見られたくないと言うほうが真意と見られていた。
 これに関しては身体にコンプレックスを抱きやすい少女達ゆえ、さほど異端視はされない。

 女子更衣室。大半がいなくなったのを見計らって理子が入る。
 既に誰もいない。安堵の息をつく。だが
「きゃーっ。遅くなっちゃったぁ」
 まりあの独特の「甘ったるい声」が響き、けたたましい勢いで入ってくる。硬直する理子。
(な、なんで? もうとっくに行ったんじゃないの? どうして今日に限ってこんなに遅く?)
「ごめんね。ごめんね。美鈴が忘れ物したから」
「いいっていいって」
「困った時はお互い様ですよ」
 聞かなくても説明してくれた。
「あら? 理子さん」
 当然だが中に一人では隠れようがない。見つかるだけだ。
「あんたもくるのが遅いね」
 なぎさは着替えが早い。ベストなどとっくに脱ぎ捨て、ジャージのボトムをつけてからスカートを下ろす。
 既にブラウスもはだけ、スポーツブラが見えていた。
「あ、ああ」
 同性同士なのに何故か赤くなる理子。
 硬直しているうちに少女達はどんどんと制服を脱いで行く。
 とろい部類に入る美鈴や詩穂理も既に半裸である。
 同性のみの空間。ましてやいつも行動をともにしている面々がほとんど。人目を気にしないでいる。
 もっともそんな状態でも、あくまで足を見せたがらないなぎさ。
「ふう」
 どうやらつけかえるらしくブラジャーを外した詩穂理。
 その大迫力の白いふくらみがあらわになる。
「詩穂理。あんたも体育のある日は最初からスポーツブラにしとけばいいのに」
 愛用者のなぎさが言う。
「でも、体育の後でもつけていたら匂いません?」
 むしろ終了後のためらしい。ずっと同じ物を着けてられないと言う事情のようだ。
「確かに。シャワー浴びても下着が汗臭けりゃ意味ないしね」
「シャワーって…プールの?」
「違うよ。運動部用のシャワーがあるんだ。プールのと違ってお湯も出るよ」
「へぇーっ」
 文科系の部活である美鈴と詩穂理は、使ったことがなかったので知らなかった。

「わたしはシャンプーとコンディショナーも置いてあるのよ」
 テニス部所属のまりあの発言。
「女子はみんなやってるよ。詩穂理も汗を流したかったらシャンプー分けて上げるよ」
「いえ。私はそこまでは。ただ下着だけは交換したいですけど」
「詩穂理さんの胸じゃスポーツブラで一日中と言うのはちょっとつらいかもね」
 こちらも可愛らしいブラジャーのまりあ。同性しかいないこともあり無防備そのもの。
「まりあちゃん。それ可愛いね」
「ありがと。美鈴さんのもとっても可愛い」
 美鈴のブラジャーもかなり可愛らしい。
 ただしBカップのまりあはさほどでもないが、Aカップの美鈴は若干装飾過多な物を着けている。
 やはり少しは大きく見せたい心理のようだ。

 その「ガールズトーク」に圧倒される理子。
 クールな仮面が外れかかっている。
(な、なんて無防備な)
「目の当たり」にしてしまった理子は、自分も黒い下着で包まれた胸元を晒していることを失念していた。
「うわぁ。澤矢さん。おっとなー」
 子供のような騒ぎ方をする美鈴。
 彼女にしたらただ単に高校二年生とは思えないと言う意味である。
「べ、別にどんな下着でも構わないでしょ」
 かなり恥ずかしそうに胸元を隠す。
 胸と言うよりブラジャーの方を見せたくないように思える仕草。
「それに私なんかより彼女の方が…」
 視線の先にはGカップ。女でも見ほれてしまう迫力だ。
「きゃ」
 さすがにその視線が突き刺さり、詩穂理はあわてて背中を向ける。
 理子も不躾に視線を浴びせていたことを悟り、赤面して下を向く。
「なんだよぉ。女同士だろ。それともあんた。そう言う趣味?」
 あっさりと着替えを完了させたなぎさがからかう。
「ち、違うわッ」
 頬を染めてうろたえている。それが鉄仮面をはがし、親近感をもたらしたのだから、なにが幸いするかわからないものである。

 体育の授業になる。ここでも一人だけ違う体操着の理子は目立つ、否。浮いていた。
 だが体を動かし始めると今度は「目立つ」
 動きが女子のそれではないのだ。
 ソフトボールで成り行きで三塁を守ったが、それが攻撃的な守備だったのだ。
 猛烈なライナーにも怯まずキャッチしたり、クロスプレーでも逃げなかった。
 ふらふらと上がったフライも、この日は曇天で灰色の空ゆえ見えにくかったのだが、果敢にキャッチしに行った。
 まるでフラストレーションを晴らすかのように体を動かしていた。
 その「男らしさ」にちょっとだけ、印象の悪さが薄らいだ。
 当人は恥じ入るように視線を逸らす。まるでやってはいけないことをしたかのように。

 最後の授業が終わりそれぞれ帰途につく。
 このころには雨が降り始めて、屋外で活動する部活動は休止になったところもある。
 天気予報が降水確率が一日ゼロパーセントとしたため、傘を持ってない生徒も多々いた。
 澤矢理子もその一人。
 元々彼女は父親の送り迎えがある。だから余計に傘を持ってなかったようだ。

 だがこの日は運悪く急用が父親に入った。仕事だ。
「二時間くらいなのね。それなら適当に図書館ででも時間潰しているわ」
 理子は携帯電話で連絡を終えると所在無げに佇んだ。
 おしゃべりで潰そうにも話す相手もいない。
 自分で壁を作っていたのだ。
 仕方なく図書室へと移動を始めた。だがとある教室の前で
「あら? 転校生さん」
 女子の名前は一発で覚えるのに、男の名前となると覚えられない栗原美百合が、珍しく女子にそう言う呼び方をして彼女を呼びとめた。
 もっとも理子は転校生の上に学年も違う。名前を覚えてなくても不思議はない。
「あ…」
 さすがの理子もこの柔らかい上級生にはきつく出れない。
 いや。美百合を誰かにダブらせているようである。
「……姉さん……」
 またもや誰かとイメージをダブらせた。ボーっとしていたら、例によって美百合が抱き締めた。
「ねえ? もしもやることないのなら一緒にどうかしら?」
「え?」
 理子はふと教室を確認する。それは家庭科室だった。
 現在は放課後。それでなお調理実習と言うことは
「家庭科部へようこそ」
 優しく抱きしめられた感触。そして優しい声音に抗えず誘われるままに「調理体験実習」と言う羽目に。
(まぁいいか。暇つぶしのつもりだったし)
 本を読むか、包丁を握るかの違いだ。

 しかし中でであった面々に驚いた。
 女子更衣室で一緒になった四人がエプロン姿で固まっていたのだ。
「……あなた達みんな同じ部なの?」
「いえ。美鈴は家庭科部ですが」
「あたしらは暇つぶし。陸上部は休みになったし」
「テニス部もよ。おまけにこの雨だから」
「南野さんと一緒に調理実習しながら雨が上がるのを待とうかと」
 たぶんこの栗色の髪の部長に同じ要領で引きずり込まれたのであろう。
 理子はそう思って苦笑した。
「それじゃ始めましょうか」
 美百合の宣言でそれぞれが作業に入る。

 料理となると普段とは逆で異様なほど手際のいい美鈴。
 反対に信じられないほど何もできないまりあという図式。
 詩穂理もあまり要領がよくないが、それを実家の中華料理店を手伝っているなぎさがカバーする。
 そこに組み込まれてしまった理子だが、ほとんどやることがない。
 まりあも完全にお荷物。だが美鈴は配慮を忘れてない。
「まりあちゃん。卵お願い」
「卵を割るのね。わかったわ」
 まりあでもできる仕事を残していた。
「よし」
 ただ卵を割るだけなのに、妙に気合の入るまりあ。それを見てしまう理子。
 そして恐ろしく真剣な表情で卵を割る。
「ふう」
 まるでひと仕事終えたという感じで息を吐く。それをもう二回繰り返す。
「澤矢さん。それを混ぜたらこっちに持ってきて」
 今度はなぎさが指示を出す。
「わ、私が?」
 なんでそんなことを。そう思わずにはいられなかったが、この場の空気を壊すには美百合はあまりにも相性が悪い。
 素直に卵白と卵黄を混ぜる。
 混ぜ終わったボウルを言われた通りに運ぶ。
 その時だ。何もないところで躓いた。
「わわっ」
 真上にボウルを投げ出してしまった。
「えっ?」
 とっさに理子を支えようとする四人。つまり集まってしまう。
 そこに卵が頭上から直撃。
 その結果、本人含めまりあ。美鈴。なぎさ。詩穂理の髪にべっとりと卵が。
「大変。タオルタオル」
 美百合の出すペーパータオルでふきとるが、完全にはとれない。
「これはもう、ちゃんとシャンプーしないとダメだね」
「そうね。シャワー室に行きましょ」
「わ、私はいいわ。ここまで拭けば」
「ダメですよ。ちゃんと洗わないと」
「部長。すいませーん」
「はい。いってらっしゃーい」
 半ば流れでシャワー室にまでつきあわされた理子である。

 なお、完全には取れてなく、美少女達の顔にまだ「粘液」のようなものが付着している。
 それを見てしまいしゃがみ込んでしまう男子生徒が続出。
「男の子達は何しているのかしら?」
 カマトトに取られかねないお嬢さまの発言。
「きっと、変なものをつけているからびっくりしているからではないかと」
 説明する詩穂理だがもちろん真相には気がついている。
 もっとも、そっくりのAV女優が存在する彼女の顔が、男子に一番ダメージを与えているのは考えないようにしている。

 間仕切りのある五つのシャワーが二列。それが女子シャワー室の構成だった。男子用も同じ。
 タイルの色がピンクなのが女子用らしい。
 理子はひどく居心地悪そうにしていた。
 よほど肌を晒したくないのか、バスタオルを巻いたままだった。
「あたしの指定席は一番奥なんだ」
「へぇ。わたしは丁度その隣よ」
「私はここで」
「あっ。近いとことられちゃった。じゃ美鈴はそのお隣」
 丁度真ん中が理子のためにとばかしにあいていた。
 逃げたかったが、実際に髪が気持ち悪いし、原因を作った立場としては逃げるようで、さすがにしのびなかった。
 だからつきあったものの、実際には理子はきたくなかった。
(なんで寄りによってシャワー室に。とにかく「ばれないように」しないと)
 理子は反対側で浴びようと考えた。しかしシャンプーを貰うには、それでは互いに裸体を晒してしまう。
 まりあの隣に入れば間仕切り越しにまりあから分けて貰える。裸体を晒さずに済むし、見ないで済む。
 そう言う思いで真ん中に入る。
 だがまりあはこれを歩み寄りと解釈した。
 社交的な彼女は恋敵になりかねないのを忘れて話しかける。
 理子にしても卵を浴びせた負い目。そしてシャンプーを分けて貰う手前、無下には扱えない。
 相槌を打ちながら洗う。水温の低さが気になってきた。
(これじゃさすがにとれないかな。もうちょっとだけ)
 ほんの少しお湯の量を増すつもりが、いきなり熱くなる。
「あーっっっっ」
 悲鳴が上がる。
 驚いたせいか体勢を崩した。クールさからは想像のできないドジ振りだ。
「あっ。そこちょっと調子悪くて、温度調整しにしくいんだ」
 なぎさが言う。
 そんなところをしゃべりながらいじったせいか、いきなり熱くなったらしい。
「大丈夫? 理子さん」
「くるな。こないで」
「えっ?」
 高めではあるが、何故かこの場にいてはいけない存在の声。
 だが空耳かなと思いまりあは真ん中のシャワーの扉を開く。

 そこにへたり込んでいたのは肩口くらいに揃えられた黒髪。
 中性的…どちらかと言うと男性的な顔立ち。
 ここまでは転校生の特徴と一致しているが、肌が女子としては浅黒かった。
 嫌味なほど「女」を強調していた二つのふくらみはなく、引き締まった胸板。
 筋張った手足。
 そして…女子には絶対にありえない器官が、足の付け根に存在していた。

 澤矢理子は「彼女」ではなく「彼」だったのだ。


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