第15話「Just One Victory」Part2 

 二年生だけで行われる借り物競争にて。例によって女子。男子の順番。
 女子は華やかではあるものの、当たり前だが男子より筋力がない。
 男子の迫力の後ではどうしても見劣りする。それを踏まえてこの順番。

 ここでも瑠美奈の息がかかった実行委員が色々と仕込んでいた。
 もっとも「おもしろ半分」というのも大きい。たとえば「ワイシャツ」。
 女子が客席で無理やり男性を脱がせることになる。その様子が大うけ。
 あるいはアイドルグループの楽曲というのも。
 この場合CDは無理なので再生機そのものを借りてくることに。

 では、我らがヒロインたちだとどうだったか。

 詩穂理の場合。
 封筒を開けると頬を染める。それが観客席に来る。借り物競争という性質上当然だ。だが何かやたらに男を刺激する。
 そうでなくても走って息が荒い。
 体操着姿の巨乳の女子高生。それもかなりレベルの高い美少女…というより美人がそれである。
 観客席の男は妙な興奮をする。
 ましてや詩穂理とうり二つのAV女優がいる。それも売れっ子。
 つまり彼女の顔は男に劣情を催させるには十分だったのだ。
「お父さん。ズボンのベルト貸して」
 封筒にはベルトとあった。
「お、おお」
 見に来ていた詩穂理の家族。父親のベルトを借りに来たのだ。
 こんなものうら若く乙女が見知らぬ男性に頼めるはずもない。
 足の遅い詩穂理は焦って父親のベルトをはずしにかかる。
 そのシチュエーションがさらにほかの男を興奮させる。
「詩穂理。こっちにしなさい」
 いつもだといじってからかう姉。美穂だがこの状況ではさすがに見かねて、自分のファッション用のベルトを渡す。
「え? でも」
「それには男物限定とあるの?」
「あっ。言われてみれば」
 男性にはベルトは必需品だが女子はそれほどでもない。
 それゆえ女性に借りる発想が出なかった。
 姉のベルトを手にゴールを目指す詩穂理。
 ほかの走者は借り物にてこずっている。結果二位でゴールインできた。

 美鈴の場合はさらに難題。
「お塩ぉぉぉっ!?」
 確かに弁当持参である。塩を持ってきている可能性はゼロではない。とはいえどやはり厄介なお題である。
「そんなぁぁぁ」
 嘆く美鈴だが彼女はまだ幸運なほうだ。
「お砂糖っ!?」
 塩ならともかく砂糖持参は考えにくい。さらに
「コショウ!?」「みりんッッッっっ!!!!???」
 後者に至ってはゴールさせる気がないとしか思えない。
(美鈴はいい方みたい…)
 気を取り直して彼女は観客席に向かい蚊の鳴くような声で言う。
「あううう。どなたかお塩持ってませんかぁ?」
 気の小さい彼女は尋ねるだけで大変だ。だが
「もってけ」
 上から塩のビンが差し出された。
「大ちゃん?」
 顔は怖いが心優しき巨漢。大樹が持っていたのだ。
 次に男子が走るための準備で移動していた。
 その際に客席の近くを通り両親のところに声をかけに来ていた。
 そして美鈴の小さな声を聞きつけ、親に頼んでいた荷物から取り出したのだ。
「あ、ありがとう」
「行け」
「うんっ」
 彼女は走り出した。その際にほかの走者とたまたまだが目が合う。
 同時に大樹の姿も目撃される。
「あっ。大地君」
「彼ならもしかして」
「ねえ。みりんある?」
「あるぞ」
「あるのぉぉぉぉ!?」
 だめもとで聞いた女子も驚く。みりんがあるくらいだ。砂糖やコショウもある。
 意外にも全員指示のものを持って行けた。
 結果として美鈴は三位に。

 足に期待できない二人と違い、なぎさはその快足でいち早く封筒をとる。
(えーと。なになに。ピアス?)
 校則で禁じられている建前ではあるが、来客はその限りではない。
 しかし真っ先になぎさが思いついたピアスの持ち主は当然ながら恭兵。
 この日もきっちりピアスを付けていた。
 その時点で男子はすでに待機していた。
 そこを目指してなぎさは走る…が、速度を緩めて女子の待機エリアに。
 ツインテールの学園のアイドル。まりあのもとに。
「まりあっ。今日ピアスしてるっ?」
「え? ええ。してるけど」
 右の房をどけると星の形のピアスがあった。
「貸してっ」
 借り物競争である。その依頼自体には不思議はない。しかし別のことを不思議に思う。
「いいけど…火野君に借りないの?」
 大義名分があるのだ。恭兵にしても自軍の勝利に貢献すべく差し出すはずだ。恭兵との距離を詰める絶好のチャンスなのに。
「恥ずかしいに決まってるでしょ」
「はぁ?」
「……こっちの方が近かっただけよっ」
 自分が「へたれ」というのは、まりあに呆れられなくても自覚していた。
「まったくもう」
 同性として理解はできるので、それ以上は突っ込まないまりあ。ピアスをはずして差し出す。
「サンキュッ」
 片方だけ受け取ると俊足を飛ばしてゴールへと。

 一位でゴールして走り終えた者の待機エリアにいるなぎさのもとに、まりあのメイドである中川雪乃が訪れた。
「おめでとうございます。なぎささん」
「まりあのところの…ありがとうございます」
「預かっていただいたアクセサリー。受け取りに参りました」
「あははは。なくしたりなんかしないよ」
 笑いつつ差し出す。
「なくしたら大変でした。何しろ20万円のピアスですので」
「に、20万!?」
 驚くなぎさをしり目に立ち去る雪乃。へたり込むなぎさ。
(そんな高いものを付けてくるなよ…まりあぁぁあ。なくさないでよかったぁ)
 今更ながら「お嬢様」だと痛感した。

 そしてそのまりあ。またもや瑠美奈と同じ組だ。明らかに仕組まれている。同時に「仕込まれて」いる。
 なぎさの後だけに目立たないが彼女も俊足。いち早く到着して封筒をあける。
 その表情が輝く。
「やったぁ」
 思わずガッツポーズ。即座に男子のもとに。
 迷わず優介のところに。
「な、なんだよ」
「来て。優介」
「なんでお前と」
「こういう札ですもの」
 そこには「好きな男子」と書かれていた。
 運営サイドとしては女子のランナーが困るさまを見たいという意地悪(それもややオヤジ趣味)な意向だった。
 どうやらすべて同じらしくA組の走者は固まり、C組の走者は顔を赤くしてその場で身をくねられていた。
 こんなところで公開告白なんてできないというわけである。
 しかしまりあは違う。
 いつも追い掛け回しているくらいだ。
 むしろこれだけ多くの証人のもとで公認されたい。
「水木君。来てちょうだい」
 瑠美奈も来た。
「ちょっと? なんであんたまで来るのよ?」
「仕方ないじゃない。こういう札なんだから」
 瑠美奈も同じだ。
 いうまでもなくこの仕込を指示したのは生徒会長である彼女。
 職権乱用もいいところである。
 借り物競争の指示という大義名分で優介とゴールインするつもりだったのだ。
「優介。こいつは敵チームよ。同じ白組のためにもわたしときて」
「愛の前にはそんなものは無意味よ。あなたがロミオで私はジュリエット。さぁ。一緒にゴールまで逃避行を」
「い、嫌だ」
 たじろぐ優介。それで退くような二人ではない。さらに迫る。
「嫌だぁぁぁぁぁっ」
 まさに脱兎のごとく逃げ出す優介。
「あっ。待ちなさぁい。優介ぇ」
「水木くぅーん。待ってぇぇぇぇ」
 追いかけていく色ボケお嬢様二人。

 高嶺まりあ。海老沢瑠美奈。ともに失格。零点。

 ほかだと…まずは里見恵子。
「にゃ?」
 指示は「ネコミミ」
 しかしあわてず騒がず。
「んっふっふ。備えあれば憂いなしなんだにゃ」
 ハーフパンツのポケットにしまっていたそれを頭に着けて走り出す。が
「自前はだめです」
「そんなぁぁぁ」
 借りてないからNGという沙汰であった。

 芦谷あすかは封筒の中を見ると、近くにいた競技委員の生徒のもとに歩み寄り胸ぐらをつかむ。
「貴様…ふざけるのも大概にしろ。これは私に対するあてつけか?」
 指示には「ヘッドドレス」。メイドの頭に鎮座しているあれだ。
 女子空手部の鬼主将も、実家では手伝いでメイド姿だ。それを嫌っていたからこんな行動にも出た。
「どこの世界にそんなものをこの学校に持ち込む人間がいるというのだ?」
 胸ぐらをつかまれている男子は、苦しそうに指差す。
 そちらを見るとまりあのメイドたちが。
「くっ」
 いるのならば仕方ない。解放するとそちらに走る。

 そして、澤矢理子。
 彼女は封筒を開けると、最初に赤くなる。そして何か頭に浮かんだものを振り払うように首を振る。
 葛藤ののち、ため息をついて、すたすたと自陣へと戻ってしまった。
 放棄ということである。

「理子さん。どうして放棄なんて?」
 全員が走り、二年女子は自陣へと戻るやいなや途端にまりあが問いただす。
「……こんな指示に従えないわ」
 見せた札にはまりあに出たのと同じ指示。「好きな男子」が。

 理子は本来は男子である。
 体質で水をかぶると女になり、お湯をかぶると元に戻る。
 男子として通学すると、水泳などで女性化することになる。
 突然の雨降りなどもあるだろう。
 その都度に変身して奇異の目で見られるよりは、初めから女子として通した方が面倒が少ない。
 お湯を学校で被る危険性はほとんどない。かぶっても水ならどこにでもある。すぐに女子になれる。
 そしてなき姉のできなかった高校生活を代行しているという部分もあるので、女子として通学している。
 しかし卒業すれば本来の男性しての生活に戻るつもりだった。
 だから当然、女として恋をするつもりはなかった。
 好きな男子などいないし、作るつもりもない。

 もっとも、落ちて「しまう」のが「恋」だ。
(あの時…どうして水木君の顔が頭に…私もホモってこと? それとも…この女の体に引っ張られて…)
 体質がばれるたびに拒絶され続け、心が折れ続けいつしか人とのかかわりを避けるようになっていた理子。
 優介はそんな理子を知っていて求め続けた。
 求め続けられて、理子もいつの間にか惹かれていた。

 男として生を受けて男を愛する存在もいる。
 ましてや理子の肉体は女性。尚更男に恋しても不思議はない。

 さまざまな思惑が入り乱れ、二年女子の借り物競争は終了した。

「続いては二年男子の借り物競争です」
 放送部の女子のアナウンスが響き渡る。
 すでに走る準備はできている男子が、出番を待ちかねていた。

 男子借り物競争がスタートした。今度は我らがヒーローたちを見てみよう。

 大樹は決して足の速いほうではない。最後に封筒をとった。
 その指示を見ると自陣に戻る。
「美鈴。リボンだ」
 指示してある札を見せる。女子の時に比べるとさほど突飛でもない。
 男子ではつまらないということか?
「う、うん。待ってて。あれ?」
 大樹を早くレースに戻そうと焦る美鈴。焦ってうまくリボンをほどけない。
「時間がない」
 低い声で短くいうと大樹は美鈴を「お姫様抱っこ」した。
「きゃ、きゃーっ!?」
 本人ごと持って行ってはいけないわけではないらしい。
 そのまま連れて行かれた。
「あー…あれ恥ずかしいんですよね。南野さん。可愛そうに」
 同じ経験を商店街でした詩穂理が同情してつぶやく。
「そーかなー? 幸せそうで素敵じゃない?」
「え? た、確かに幸せも感じましたけど」
「……何のこと?」
 まりあの言葉に過剰反応したと悟ったときにはもう遅かった。

 D組陣営。一年女子エリア。
「きゃーっ。チヒロ。フタバ。お兄さんたち素敵です」
「はいはい。アンナ。あんた前にあの抱っこでひと騒動起こしてんだからね」
 自重を促す千尋。
「ねぇ。双葉…双葉?」
「……いくらプログラムでもそんなことまでしなくても…美鈴ちゃんもべったりして…私だってお兄ちゃんにああいう風に抱かれたいのに」
「お姫様抱っこのことよね。双葉?」
 相変わらず極端にブラコンである。ちょっと怖くなる千尋だった。

 まさかの展開であった。
 今度は裕生がやってきた。
 眼鏡とか無難なものを想定していた詩穂理だが
「シホ。ブラジャー貸してくれ
「え? え!? えーっっっ」
「ちょ、ちょっと。何考えてるのさ」
 なぎさが代わりに突っかかる。
「しかたねーだろ。そういう指示だし」
 確かに札にはそう書いてある。
「で、でも」
 渡せるはずがない。
「あ。そーか。さっきの大地みたいにすりゃいいんじゃねーか」
「えええっ!?」
 驚く詩穂理を軽々と持ち上げ、こちらもお姫様抱っこで走り出した。
「きゃーっ」
 まさかまたもやこの展開になるとは思ってもみなかった。
 しかも今度はよく知る生徒たちの前である。
 囃し立てる者たちもいる。
 恥ずかしくて両手でずっと顔を覆っていた詩穂理である。

「ああ。そういうことなのね」
 詩穂理が濁した言葉の意味を理解したまりあだった。

 再び1−D女子。
「きゃーっ。今度はチヒロのお兄さんたち。やっぱりとてもお似合いです」
「お姫様抱っこ」に特別な感情を持つアンナはテンションが上がり続ける。
 先刻はブレーキとなった千尋だが
「いいぞ。アニキーっ。そのまま教会にでもつれてっちゃえーっ」
 兄というより幼馴染の詩穂理の恋の応援で、こちらもテンションが上がっていた。暴走状態といってもいい。
「だ、だめだよ。千尋ちゃん。そんな無茶言ってたら」
 自分の兄が絡まないと、冷静に突っ込める双葉だった。むしろ引き気味だった。
 この三人の気が合うのも、理解できるというものだ。

 恭兵は札を見るとその場でぐるっとあたりを見渡す。
 学園の貴公子の登場だ。女子はみんな自分のところに来るのを願ってアピールしている。
 しかしその中に目的のものを見つけられない。
「ちっ」
 「仕方なく」彼も2−D女子エリアに。
「なぎさ。脱げ」
「えええええっ!?」
 突然こんなこと言われれば当然だ。
「ばか。ジャージだ」
 指示の札を見ると確かに書いてある。
 この日は晴天。そして気温も比較的高く、寒さは考慮しなくてよいのでジャージ着用者がいなかった。
 ただ一人。なぎさをのぞいては。
 彼女は脚にコンプレックスがあり、ほとんどの場合において生足をさらそうとしない。
 この場も下はジャージである。
 ハーフパンツに比べると走りにくいわけだが、その「ハンデ」があれど勝てる。
 そんな計算ではない。とにかく足を見せたくないのである。
 私服のボトムはすべてパンツ。制服のスカート姿の時はパンスト着用という徹底ぶりだ。
 入浴は論外なので唯一の例外といっていいのが水着。
 足を覆えないし、それよりも泳げる嬉しさ楽しさの方が上回る。
 周辺の女子もみな半裸で、そのせいかなぎも足に対するコンプレックスがなくなる。
「で、でもこれ脱いだら下はパンツだけ…」
「ハーパン穿いてないのかよ?」
「うん。動きにくいし」
「しかたない」
 「持って行かれた」美鈴や詩穂理みたいになるのかと身構えた。
「何してるんだよ。いくぞ」
「あれ? 抱っこは?」
「お前、へたしたら僕より足速いのに何言ってんだ?」
 確かに走った方が早い。
「そ、そだね」
 彼女は立ち上がる。その手を引っ張る恭兵。
「えっ?」
「急ぐぞ」
 だから引っ張られた。それでもよかった。なぎさは幸せを感じながら走っていく。
 恭兵をアイドル視するほかの女子の視線が突き刺さるのも平気だった。

借り物競争の幸福な時間

このイラストはOMCによって作成されました。
クリエイターの對馬有香さんに感謝!

 札をとった優介はその場で破り捨てかかる。
 だが冷静になると近い位置の一年女子エリアをスルーして2−D女子エリアに行く。
 優介が来てまりあも平静ではいられない。
「優介。わたしならいつでも行けるよ」
 美鈴。詩穂理。なぎさといなくなってしまった。
 自分もここから連れてって。そんな思いがある。
「ならこい」
「えっ?」
 まりあの手をとる優介。途端に硬直するまりあ。
 普段は追い掛け回しているのに、攻められるとかなりもろい。
 自分から「いける」と言っておきながら、実際に手を取られるともうだめだ。
 頭の中が真っ白。
「おっ。水木もホモじゃなくなったのか?」
 からかうというより期待しての男子のセリフ。
 何しろ色目使ってくるのだ。たまらない。なまじ女性的な美少年なのがたちが悪い。踏み外しそうなのが何人かいた。
「違うよ。ホントは女なんか嫌なんだ。けど、さすがにこれは」
 札を見せる。お題は「ツインテール」
 なるほど。確かにこれは女子限定の髪型だ。
「ほら。行くぞ」
「は、はい」
 完全に舞い上がっているまりあ。
 校内一の美少女とあがめる男子にとって皮肉にも、今までのどの表情より可愛らしいものだった。
(ほんとうに…水木のこと好きなんだな)
(待て? 水木のほうは単に札に従っただけだ)
(まだくっついたわけじゃ)
 ひそかにまりあに思いを寄せる男子が現実を否定しようとしていた。

 優介が札をとったところから1−Dの陣地が近かった。
 そこにはアンナ・ホワイトがいる。
 ツインテールなら彼女でもよかったはずだ。
 にもかかわらず、優介はまりあのほうに来た。
 アンナをよく知らないからとも取れる。
 けど、まりあをそこまで嫌っているわけではないのではないか?
 そんな思いが一部に人間が抱く。
 その中には澤矢理子も。

 ふわふわとして、まるで夢を見ているかのようだった。
 後でまりあはこの時の様子を語っていた。

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