第16話「Nervous」Part2 

 中間テストをこなしつつも文化祭の準備は進む。
 喫茶店など希望が重複するものも抽選によって割り振られていく。
 2−Dは『お化け屋敷』で希望を出していたが…

「やった。とれたぜ。お化け屋敷」
 抽選から帰ってきた男子生徒が興奮して叫ぶ。
「おおーっ」
「きゃーっ」
 当選の報告に沸き立つ。まるで抽選者の興奮が伝わったかのようだ。
「よーし。本格的に決まったということで役割分担を」
 方向性が決まったことで俄然やる気が出てきた。

 数日後。
 家庭科室にて。
「さぁ詩穂ちゃん。測ってあげるから脱いで」
 メジャーを手に里見恵子がブラウス姿の詩穂理に迫っていた。
 その背後ではブラウスのボタンを留めているまりあ。
 彼女はすでに測り終えた。次は詩穂理だ。

 軽音楽部に協力する三人は「ステージ衣装」を作ろうとなり、家庭科部の協力を仰いだ。
 家庭科部としては衣装制作も「文化祭展示」の一部なので、いわゆるコラボレーションである。
 そのためメンバーのサイズを図るべくこうしているのである。
 恵子はコスプレのスペシャリストということで、アドバイザーとして呼ばれた。

「結構です。里見さん。自分のサイズならわかってますから」
「いやいや。毎年1サイズ上がっていた詩穂ちゃん。もしかしたらもうHカップに届きかけているんじゃないかと思って」
 ちゃんと制服を着用しているにもかかわらず、恵子の言葉に思わず両手で胸元を隠す詩穂理。
「おおーっ」とその場の家庭科部員の女子たちから感嘆の声が上がる。
 細かいサイズを聞くまでもなく、詩穂理のGカップは脅威の大きさである。
「すごいね。びっくりだね。美鈴ちゃん」
 大樹の妹にして美鈴の幼馴染である双葉も家庭科部。
 詩穂理とは何度かあっているが、改めてサイズを言われておどろいている。
「そうだね」
 友人である詩穂理の心中を思うと、余り胸にばかり話が集中するのは可哀そうだと美鈴は思う。
 詩穂理は立派な胸元だったが、身長の割にあまりに大きすぎて本人はアンバランスと気にしていた。
 痴漢にあったのも数多く。それにこの胸のサイズが無関係とは思えない。
 どうしても当人にしたら疎ましい以外の感情がない。

 ちなみに美鈴は胸の薄さより幼児体型のほうを気にしていた。
 筋力が極端にないのである。
 体育系のものだと詩穂理は動きが悪くてだめだが、美鈴は体力のほうで難がある。

「脱がなくてもいいわ。詩穂理ちゃん」
 にこやかに家庭科部部長。栗原美百合が上着を脱ぎながら言う。
 詩穂理は自分が何されるかを悟った。
 そして前述のとおり運動には自信がない。逃げ切れない。
 だから同性ならいいかと割り切って、甘んじて美百合に抱きしめられた。
「…うーん。前と変わらないみたいよ。恵子ちゃん」
「ほんとかにゃあ。詩穂ちゃん。以前よりきれいになったから、プロポーションもよくなっとたと思ったのに」
(92のGカップでまだ不足か!?)
 大多数の女子が血の涙を流していた。
「やっぱり、恋する乙女だから?」
 味方と信じた美鈴にまで揶揄されるような一言。
 しかし反応は詩穂理より双葉が早かった。
「それってお兄ちゃんのこと!?」

 大地大樹が詩穂理に対して好印象を持っているのを知る人は少ない。
 だがさすがに「一つ屋根の下」にすむ上に「大樹を常に気にかけている」双葉が気が付かないはずもなかった。
「風見君のことだよ?」
 美鈴がきょとんとして言う。双葉は赤くなった。
 何でもかんでも大樹に結びつけすぎたと悟った。
(なんでかな? いつも以上にお兄ちゃんのこと意識しちゃう…)

「進まないから私を先に測ってくれる?」
 理子がクールに言う。
 本来は男子・澤矢理喜である「彼女」にとって、スリーサイズは大した意味を持たない。
 たとえ男に知られても恥ずかしいはずもない。
 その場に女子しかいないのもあり、さっさと脱いでいく。
 もっとも本来は男子。つまり異性の中で脱衣という変態じみた行為に少し戸惑った。
 だがブラウスを脱いでブラジャー越しに「胸の谷間」が見えたとき、自分が女ということを再認識した。
「同性」なら恥ずかしくもない。クールさを取り戻した。
「上から86 60 82か。おしりちょっと小さいかな。やっぱりパニエでふわっとさせようかにゃ」
 自分が着るわけではないが着せるのも好きな恵子が乗ってきた。

「で、詩穂ちゃんとまりあちゃんはこんな感じ」
 すでにデザイン画があった。
 ほぼ同型だがカラーリングが正反対。
 まりあ用とされたものは袖。そしてウエストからスカートにかけてがピンクが目立つ。
 詩穂理用はそれが黒である。
 フランス人形を思わせるスカートの広がり方である。
 膝丈なので足も見えている。

「理子ちゃんはドラムということで、パンツルックのほうが動きやすそうだから」
 これまた二人分のデザイン。今度は色違いだけでなく男女の違いがある。つまり
「これってもしかして…」
「うん。パンツルックなら水木君とお揃いも面白いかなと」
「優介と…お揃い…」
 クールなはずのその頬に朱が散る。
 まりあはその様子が面白くなかったものの、合わせるとなるとまた「男装」である。
 あの男装騒動ですっかりズボンが苦手になったまりあとしたら、あまり着たくないデザインである。
 それもあり騒がない。

 女子三人のサイズを測り終えて、今度は優介「達」となる。
「双葉ちゃん。入れてあげて」
「はい。お兄ちゃんたち。どうぞ」
 声をかけつつ扉によると、それを開けた。
 外で待っていたのは軽音楽部で今度のライブに参加する唯一の男子。優介。
 そしてライブとは無関係だか、大樹の「衣装」も制作することになり、これも一緒に測ることになったのだ。
「「!?」」
 あわてて自分のスリーサイズを記入した紙を隠そうとする詩穂理。そして理子。
(詩穂理さんは分かるけど…なんで本当は男の子の理子さんまで隠したがるの?)
 正体を知るまりあは怪訝に思う。ちなみに彼女はむしろ優介に見せつけるつもりでいた。

(何してんの? こんな数字に意味なんてないのに…でもこれを優介に見られるのがすごい恥ずかしい。スタイル悪いなんて言われたらと思うと…)
 理子はそこまで考えてさらに混乱した。
(なんでそんな風に優介を意識するの? 私は男で彼も男。ホモの彼が私にいいよってならまだしも、なんでノーマルの私が…それとも)
 クールなのは姉の死や自身の変身体質。
 あまりいろいろありすぎてナイーブだとやっていけない。だからクールに振舞えるようになった。
 しかし元来は混乱してしまうタイプなのかもしれない。
 いい例が理子のイメージに全くそぐわない『方向音痴』。
 これも道に迷っているうちに混乱をきたすゆえか。

 ちなみ詩穂理がサイズを隠したのは大樹というより『男子』を意識してで、女子としたらもっともな心理であった。

 優介のサイズを測る。
「結構あるにゃ。華奢だけど男の子なんだにゃ」
「そう。ぼくは男だよ。男の良さは男にしかわからないよ。大樹君」
 突然のアピールだった。
 腐女子を公言している恵子だけでなく、家庭科部の何人かの女子も興味津々である。
 どうやら『潜在』か「予備軍」らしい。
「優介。あんたって人は見境なく」
「おおっと」
 まりあが迫ってきたので家庭科室から逃げ出す優介。それを追いかけていくまりあ。
「待ちなさぁぁぁい」「やぁぁぁぁだよぉぉぉぉ」
 廊下がサーキットに変わった瞬間だ。

「詩穂ちゃん詩穂ちゃん。水木君は大地君のことも好きなのかにゃ?」
 興奮気味の恵子。苦笑しつつも律儀に返答する詩穂理。
「いえ。それはちょっとわかりませんが…それよりあまりそういうことを口にしない方がよいと思いますよ」
 たしなめる詩穂理。珍しく頬を膨らまして恵子が反論する。
「心外だにゃ。愛に差別も区別もあってはいけないんだにゃ」
「でも同性愛はいろいろと難しいかと」
「まずは知ってから言ってほしいにゃ」
 口調はふざけているが若干「偏見に対する怒り」があるようだ。
 言い過ぎを感じた詩穂理は逆らわないで話を合わせることにして、差し出された本を見る。
「これは?」
「その手の小説。詩穂ちゃんに貸してあげようと思って持ち歩いてたにゃ。漫画より小説のほうが詩穂ちゃんにはあってそうだし」
「小説ですか。それなら読ませていただきます」
 カバーがかかっていたのでイラストは見えなかった。
 だが読みもしないで否定というのは確かによくないと思った詩穂理は、借りてしまった。

 この瞬間、蜘蛛の糸に捕えられた。

 続いて大樹のサイズを測る段になって恵子はメジャーを美鈴に手渡した。
「え? 美鈴が測るの?」
「あたしは人並みに空気読めるにゃ」
 それなら優介のこともまりあが測るべきではないか?
 もっとも優介がまりあに測らせるはずもない。
 彼は恵子は「面白いから」と珍しく女子にもかかわらず邪険には扱わず、だからはからせたのである。
 しかしこちらの二人は別だ。恵子なりの「計らい」だ。

 身長。大樹が190センチに対して美鈴は145センチ。
 身長差45センチ。
 椅子に乗って胸囲を測ろうとするが、両手をいっぱいに広げた状態で不安定。
「きゃっ」
 そのままよろけと大樹の胸板にしなだれかかる。それも胸が合わさるような。
 全身で受け止める形になる。
 図らずも「抱擁」になる。これを狙ってメジャーを渡したのではないかと、みんな思った。
「「「「きゃーっ」」」」
 今度はノーマルラブ。しかも女子は自分たちの同じ部活の人間で、騒ぎ方が先刻の比ではない。
「あ、ああ」
 倒れ掛かった失態。人前での抱擁。しかも好きな相手。
 それらが合わさり美鈴は赤面する。言葉が出てこない。
「大丈夫か?」
 低い声が安心感をもたらす。

アクシデント。そして抱擁。

このイラストはOMCによって作成されました。
クリエイターの對馬有香さんに感謝!!

 大樹は美鈴の両肩に手を添えると、そっと引き離した。
「う、うん。ありがとう。それとごめんね」
 助けられた謝礼と、倒れ掛かったことの謝罪を済ませる。

 いい雰囲気だった。
 だが双葉にとっては最悪の場面。
 愛する兄が自分以外の女と抱き合っている。
 たとえそれが自分にとっても幼なじみと言える美鈴であっても、どす黒い嫉妬の炎が燃え上がるのを止められない。

「いやぁーっ」
 突然の悲鳴。何事かと一同が注目する。声の主は…双葉。
「美鈴ちゃん離れてっ。お兄ちゃんとくっつかないでっ」
 家庭科部としたら意外に感じる人物。大地双葉がきつい調子で言葉を発する。
「えっ!? う、うん」
 もともと気の小さい娘である。
 普段おとなしい双葉が怒気を孕んだ言葉を発したことに臆してどいてしまう。
 そしてその場の全員が凍りついた。

「双葉?」
 正気に戻したのは「愛する兄」
「!?」
 双葉は自分が何を「しでかしたか」を一瞬で理解した。
「わ、わた…し」
 顔面蒼白。崩れ落ちそうだ。
「双葉ちゃん?」
 部長の美百合か穏やかな声で語りかけるが、むしろ逆効果だった。
 双葉はその場から逃げ出した。

「バカよ。あんたは」
 風見千尋が辛辣なのは兄に対してだけではなかった。
「うう……」
 体格自体決して大きくない双葉だが、一括されてなおさら小さくなる。
 放課後の屋上。一年生の親友トリオがその場にいた。
 三人で日当たりの良いところに座り込んでいる。アンナ。双葉。千尋の順だ。
「……バカなのはわかってるもん」
 同年代あいてゆえか砕けた調子の双葉。
 珍しく拗ねたように言う。
「ほんとにバカ。いっくら好きでも兄と妹じゃしょうがないでしょ」
 正論である。
「好きって思いも『しょうがない』じゃない」
 これまた珍しく抗弁する。
 それだけ『譲れない思い』なのだ。

 ポツリポツリと語りだす双葉。
「ダメなの。お兄ちゃんが美鈴ちゃんと抱き合った瞬間もう訳が分からなくなって…気が付いたら叫んでて」
「あたしでいうならアニキと詩穂ちゃんが抱き合ったところに叫ぶようなもん?」
 その問いに双葉は無言でうなずいた。
 確かに自分の兄。その相手が自身にとっても幼馴染の少女の先輩というのも同じだ。
 ただし風見兄妹は実際に血がつながっている。
 だが大地兄妹に血のつながりはない。当人たちも知らない。

「あたしはむしろあの二人くっつけたいけどなぁ。詩穂ちゃんが義姉さんなんてなったらもう」
「千尋ちゃんのお兄さんと槙原先輩なら私だって応援するよ。でも…お兄ちゃんと他の女の子が仲良くするのはとてもいや。それが美鈴ちゃんでも」
 膝を抱えて顔をうずめてしまった。
(重症だなぁ)
 千尋はお手上げだった。助けを求めるように、静観していたアンナに視線を送る。
 OKサインを出した。「任せろ」でよいようだ。タッチして交代ということだ。
「フタバ…」
 呼びかける金髪インテール。答えないブラコン娘。構わず囁くように語り続けるアンナ。元気な彼女には珍しい。色気すら感じる。
「すっとフタバのこと、好きだったよ」
 まだ反応はないがその頬にアンナは唇を付けた。
「なっ!?」
 さすがに驚いて顔を上げる双葉。それに対して微笑むアンナ。
「な、なにするのよ!? アンナってば」
「親愛のあかしのkiss。ほっぺたより唇がよかった?」
「わ、わた、わたしたち、女の子同士だよ!?」
 近親相姦も辞さない少女が主張する。
「それが何か?」
 アンナは涼しい表情だ。
「女の子同士なんてダメだよ」
「女の子同士はだめなのに、兄と妹はいいの?」
 足元をすくわれた。どちらも「禁断の愛」とされる。
「血のつながりある二人の愛の形は、そうでない人たちとは違うよね」
(大胆な展開だわ)
 今度は静観する側になった千尋が舌を巻く。

「アンナのバカ。ひどいよ」
 同性にキスされた衝撃が一私的にもやもやしたものをふっ飛ばした。
「諦めなよ。実の兄じゃどうやったって結ばれないんだしさ」
 千尋が結論付ける。彼女も兄を持つ妹だが、どうしても双葉の心情は理解できない。
 だからかバッサリと言い切れた。
「……そんな簡単に諦められたら…」
 後は言葉にならない。嗚咽。そして千尋の胸で泣いた。
 千尋は「やれやれ」という表情ではあるが、時折双葉の背中をやさしくたたいて母親のようだった。
 それを見つめるアンナは、まるで姉のような慈愛に満ちた瞳をしていた。

 泣いて全部忘れなよ。それが二人の共通する思いだ。

 同じころ。スタジオでのバンド練習。
 どうしても優介のボーカルが様にならない。
「ああもう。自分の思い通りの声が出ないというのはいらいらするなっ」
 優介が苛立ちを見せるのはさほど珍しくはないが、ここまであからさまのも珍しい。
 見守るしかできない少女たち。
 まりあも詩穂理も歌はうまい。その上歌声もきれいである。
 しかし代わりを務めるわけにはいかない。
 彼女たちはあくまで助っ人なのだ。
 一番目立つポジションを外部に任せるわけにもいかない。
 ここだけは軽音楽部の正規メンバーである優介でないといけない。
 だがそのボーカルがうまくいかない。

「うまくいかないんだったら、いっそボーカルなしはどう?」
 理子が言い出した。
「……インストゥルメンタルか!」
 瞳を輝かせる優介。言葉でいうなら「その手があったか!」という表情。
「そうか。こだわりすぎていた。それならぼくもギターに専念できるし」
 優介は勢いよく振り向いた。そしてドラムのところに足早に歩く。
「?」
 きょとんとした理子。普段のクール…冷めた表情に比べて格段に可愛い。
 その手を包み込むようにとる優介。
「ありがとう。理子。これで悩みが消えた。本当にありがとう」
 かなり珍しく女子相手に礼の言葉を並べ立てる。

「よ、よかったわね」
 口調はつっけんどん。しかしその表情は先刻よりはるかに可愛らしい笑顔。
 とても女性的な微笑みだった。

 優介は正体が澤矢理喜という男子である存在を「ボーイズラブ」の世界に引きずり込んだのではなく、本来は男であるその少女・理子の魂を完全に女子のそれにしてしまったのでないかとまりあは思った。
 そしてそれは彼女にとって脅威だった。

 文化祭まであとわずか。

次回予告

 文化祭開幕。2−Dのお化け屋敷で騒動が。少女たちは普段と違う姿で参加する「美人コンテスト」に出場する。
 そして軽音楽部の存亡をかけたライブの成否は?
 次回PLS 第17話「Rhythm Red Beat Black」
 恋せよ乙女。愛せよ少年。

第17話「Rhythm Red Beat Black」へ

第16話『Nervous』制作秘話

無料アクセス解析

PLS専用掲示板へ

城弾シアターウィキへ

PLSメインページへ

トップページへ