第17話「Rhythm Red Beat Black」Part4

 今度も終わり間際の時間だった。
 演劇がセット組み立てに時間がかかるが解体はさほどでもない。
 午前中にそれが終わり、午後からバンドのためにセッティングが始まる。

「悪いなぁ。みんな。俺らがやらないといけないのに」
 本来の軽音楽部メンバーがセッティングに参加していた。
「みんな。怪我は大丈夫なの?」
 まるで女の子のような質問の仕方は優介。
 もっとも仲間のけがではこんな風にやさしくもなるか……女子はそう思った。
「だいぶいいけど演奏とかはちょっと無理だわ」
「練習できてないし」
「だからせめてセッティングだけでも」
 負傷していたとはいえ手慣れた面々である。
 優介もそれで任せ切っていた。

 だがやはりけが人。
「わっ」
 耐え切れずギターを落としたりもした。
「おいおい。大丈夫かよ? 弦が切れたりしてねーだろうな?」
「いや。大丈夫と思うが……念のためはり替えとくか?」
「軽く落としただけなら平気じゃないか?」
「それもそうだな」
 軽い点検で済ませてしまった。

 その時点で優介は舞台の裏に引っ込んでいた。
 すでに客がいる。
 演奏者がこの段階で姿を見せていてはまずい。
 しかしギターを落としたことでアクシデントが待ち受けていた。
 そして優介はそれを知らないままだ。

 客席が埋まってきている。
 なんだかんだでパフォーマンスが人気のバンドだった。
 それが今回アクシデントでどうするのか注目されていた。
 またやはり学園のアイドル。まりあのステージというのも大きかった。

「うわぁ。入ってますねぇ」
 舞台袖で客席を見た詩穂理が臆したように言う。
「やるだけのことはやったわ。後は神様にお任せね」
 名前が名前だけにキリスト教徒と見られがちだか、特に信じる神はないまりあ。
 それか珍しく「神」の名を出した。

まりあと詩穂理。融合する個性

このイラストはOMCによって作成されました
クリエイターの吉成美緒さんに感謝!



「人事を尽くして天命を待つっていうのよ」
 転校初期からは考えられないほど打ち解けた理子。
 やはり一か月の特訓は理子との心の溝を埋めていた。
 どこの学校からも必要とされなかった彼女。
 しかしドラムの奏者が必要という事情にせよ「求められた」のだ。

 そして優介も自分を。本当は男である自分を求めてくれている。
 彼が同性愛者だから?
 理子にはそれが疑わしく思えていた。
 女子に対する態度はきついし、男子に甘えるようなところはある。

 しかし一緒に練習を続ければつづけるほど確信してくる。
 優介はホモでもなければ、まりあを嫌ってもいないと。
 ただ勘違いしているだけ。

 そしてどうしてかまりあや詩穂理に対して優介が接しているのが、いまひとつ面白くない。
 それが何でか自分でもわからない。
 自分が「男として」まりあや詩穂理に好意を抱き、優介が横やりを入れてくる形でというならわかる。
 しかし正直まりあたちにそういう思いはない。
 だとすると逆に……それを認めるのは怖かった。

 いっそ離れてしまえばいいのに、ある思いからどうにも離れられない。
 だからバンドをがんばってきた。

「さて。そううまくいくかしら?」
「プラネタリウム投影機っ?」
 凝りすぎた優介の毒舌である。
 確かに「丸くて」「光る」瑠美奈のオデコだが。
「んもうっ。水木君たら照れなくたって」
 どうやらテレからつい「心にもない」表現をしたと解釈したらしい。
 ポジティブシンキングというよりはご都合主義といいたい。
「なにしに来たのよ?」
 ただでさえ犬猿の仲のまりあと瑠美奈。
 ましてや優介を巡っての関係である。
 臨戦態勢だ。
「警告よ。何とか頭数をそろえたようだけど、このステージが失敗したら正式メンバーが不参加故と見做すわ。つまり軽音楽部は文化祭不参加で廃部よ」
 プレッシャーをかけに来た。だから会長権限でバックステージにも来た。
「どういうことですか?」
 まりあだと喧嘩になるので詩穂理が会話に応じた。
「知れたこと。軽音楽部がなくって行き場のなくなった水木君を生徒会で受け入れるのよ。そしてめくるめく愛の日々を。そんなこともわからないの? 学園一の才媛が聞いてあきれるわ。おーっほっほっほーっ」

 この高笑いはマイクなしでも、客席に筒抜けだった。

「なんでぼくが生徒会なんかに行くのさ?」
「え゛?」
 瑠美奈は硬直するが当然の話しだ。理由がない。
「短絡思考もいいところね」
 味方にすると頼もしい理子の毒舌だ。それが追い打ちをかける。
 大穴どころじゃない欠陥点だ。逆上した。オデコまで真っ赤になる瑠美奈。逆上する。
「うるさいうるさいうるさい。いずれにしてもステージが失敗したら軽音楽部は廃部。それを取り消してほしかったら私に頭を下げなさい」
 これだとまだ理解できる。
 瞬時に恩を売りつける方向に出た。

「だったら簡単よ。成功させればいいんですもの」
 幼いころからすべて自分の思いのまま。
 そんな育ち方をしたまりあは基本的に勝気だ。
「急造メンバーで成功なんてするはずがないわ」
 こちらも負けてないお嬢様。
 捨て台詞を残して瑠美奈は去る。

 開演三分前だ。

 舞台袖。まりあは黒い袖に包まれた右手を差し出す。
「さっきのは本気よ。絶対成功させるわ」
 その右手に理子が手を乗せる。
「まったく。あなたはいつでも強気ね」
 柔らかい笑みだ。そして詩穂理も手を重ねる。
「一か月の練習、無駄にしたくはないです」
 最後に優介がその思いを受け止めるように手を乗せた。
「やってやろうよ。最高の舞台を」
「おお!」
 プレッシャーをかけて失敗を誘う目的の瑠美奈の挑発は、逆に全員の士気を高めた。

「一分前です」
 係りの人間が告げる。全員の表情が引き締まる。

 開演時間。アナウンスが流れる。
「それでは軽音楽部のライブを開始します」
 客席にはなぎさ。美鈴。裕生。恭兵。大樹が最前列で見守っていた。
「いよいよだね」
「うー。なんだか美鈴が緊張してきましたぁ」
「あんたが緊張してどうすんのさ」
 そういうなぎさだが友人たちがかかわっているのだ。無関心なわけもない。
「心配ないさ。まりあだよ。料理以外は完璧なんだし」
 嘘でも料理は完ぺきとは言えない恭兵だった。
「シホのベースも中学の時のを思えば問題ないと思うぜ」
 それを知るのはここでは裕生だけ。
「出たぞ」
 大樹が言うのでステージに視線を戻すと、ステージ衣装に身を包んだまりあがキーボードに。
 客席より優介のほうに視線を多くむけるあたりは彼女らしい。
 奥のほうにあるドラムセットに理子が付く。
 詩穂理はベースを。優介はギターをアンプにつないでチェックしている。
 チューニング自体は済ませているが、音の確認をする。それが済んだ。

 理子がスティックをたたきつつ「ワン。ツー。スリー。フォー」とカウントし、そのままスネアドラムをたたく。
 刻まれたリズムをベースの詩穂理が受け止める。
 そこにメロディであるまりあのキーボード。
 そしてボーカルなしにしたため主役となった優介のギターが乗る。
 急造ユニットとは思えない息の合いかただった、

 一曲目が終わり歓声が上がる。
「うおおおおっ。水木。俺はもうやつが男でも構わんぞっ」
 何しろ純白のドレスに舞台メイクだ。
 もともとの女顔と相俟って妖しげな雰囲気。まさにヴィジュアル系だった。
「落ち着け。道を踏み外す気か?」
「でもきれい。男の子とは思えない」
 女子にも受け入れられていた。

「あのドラム誰だ?」
「転校生らしい。女か?」
 切りそろえているが短い黒髪。
 おまけに唯一のパンツルックで、しかもドラムセットに隠れる形。
 だから激しいドラムのイメージで男にも見えた。
 まさか本当に男とはだれも思わない。

 ストレートロングに眼鏡のまりあは、単に別の可愛さを見せただけだった。
 とはいえどツインテールとは違う「少女らしさ」を素直な髪形は見せていた。
 またメガネというアイテムが「別の顔」を見せていた。
 首周りから胸元。胴体の部分がピンクで、スカート部分と両方の袖が黒いという奇抜な衣装。

 詩穂理はその逆。胴体部分が黒く、両腕と下半分がピンクだった。
 こちらは逆にトレードマークの眼鏡をはずしている。
 とはいえ体育などで割と見ないこともない素顔。
 だがツインテールは新鮮だった。
 その証拠に幼なじみの裕生が見惚れたようになっている。

「シホちゃん。可愛い」
 もう一人の幼馴染。裕生の妹。千尋も詩穂理のツインテールは初めて見た。
 思わず声が出た。
 眼鏡をはずしている詩穂理は近くにある譜面は見えるが、薄暗い客席はよく見えなかった。
 だから緊張が和らいだが、声がすると別だ。
「ありがとう」という感じで手を振る。

 ボーカルなしとはしてあったが、一応スタンドマイクがある。
 そこに優介が歩み寄る。
「みんな。来てくれてありがとう」
 まずは来場者に対してのあいさつだ。
「今日は本来なら正式メンバーで臨むべきなんだけど代役ばかりでごめん」
 これも少女たちは理解していた。
「でも一日限りのスペシャルユニット。『ブリリアントカット』を楽しんでって」
 客席がわく中、少女たちは別の思いをさせていた。
(ブリリアントカット。ダイヤモンドの磨き方ですね)
(多くの面を見せる……私たちは゜軽音楽部」の別の顔と)
(つまり……仲間として認めてくれていたのね。優介)
 代役とは言ったものの、いつもとは違う顔なだけという意味で命名だろう。
 アドリブで出る名前でもない。
 ある程度の時から考えていた。
 名前を付ける。それは一つになったことを意味していた。

「それじゃブリリアントカットの二曲目は……」

 二曲目も成功した。
 ここまで聴衆の反応はいい。
 いよいよ最後のナンバー。
「それじゃ聞いてください。今日のラストナンバー」
 曲を告げる。
 古いが、それだけに誰もが知る名曲だった。
 間奏のギターパートで正式な軽音学部のメンバーである優介はアピール。
 そのつもりでの選曲だった。

 曲は順調に進む。
 このままならきっちり終わるだろう。
 事前のチェックでも不審点は見当たらない。
 体育祭の時のような「妨害」も考えにくい。

 だが、自然発生のアクシデントとなると別だ。

 いよいよ間奏のギターソロだ。
 ベース。キーボード。ドラムの少女たちは手を休める。
 まりあは優介に熱い視線を送っている。
 当の優介はそれを邪険にもせず……というか一心不乱にひいていた。

 パフォーマンスでギターのネックを立てて弾き出した時だ。
 瞬時に音が消えた。
(え?)
 戸惑うがすぐにわかる。
 ピックで引いていた弦がいきなり何の抵抗もしなくなった。
 切れたのだ。
 よりによってギターソロの時にだ。
(しまった!?)
 無音はまずい。
 ライブ失敗。軽音楽部廃部か?
 メイクした優介の顔から血の気が引くのがわかる。
 だが、なんとキーボードがギターソロの部分を演奏していた。
 もちろんまりあだ。

 まりあは優介の一挙一動をよく見ていた。
 そして異変に気が付き、とっさにキーボードでメロディを奏でてつないだのだ。
 聴衆は変則の演奏と解釈してわいている。
 盛り上がりは失せてない。
 こんな時に変な意地を張るほど優介は愚かではない。
 まりあがつないだ間に、冷静にギターを交換する。
 ベースの詩穂理とドラムの理子はここで初めて何があったか察した。
 言い換えれば、よく見ていたまりあである。
 まさしくそれこそ『愛』のなせる業だ。

 フレーズを引き終わる頃には完全に優介の準備はできていた。
 アイコンタクトを交わす。
 まりあの演奏が終わったのとびったし同時。完璧なつなぎでギターソロになった。
 湧き上がる観客。演出ととられたようだ。
 ここでサプライズ。
 インストゥルメンタルのはずが優介は歌いだした。
 だが今度は理子がコーラスで続く。
 繰り返す部分からはまりあと詩穂理もコーラスに加わる。
 一か月の特訓で一番強化されたのは心のつながりだった。

 結果として軽音楽部代役「ブリリアントカット」の最初で最後のライブは大盛況に終わった。
 アンコールが湧き上がる異例の事態。
 舞台前列に四人が並ぶ。
 向かって左が詩穂理。まりあ。優介。理子。
 それぞれ手をつないでいる。
 万歳するようにその手を上に上げ
「ありがとうございました」
優介のそのひとことで深く一礼をする。
 ますます強くなる拍手。
 今度は顔をあげて、それぞれ観客に答える一同だった。

 二日間の文化祭はほぼ全日程を終了。
 残るは後夜祭でのダンス。
 そしてそれまでに各クラスの打ち上げだった。

「かんぱーい」
 急造バンドの四人がオレンジジュースの入った紙コップを合わせて「乾杯」した。
 さすがにもう着替えて制服姿である。
 みんないい表情をしていた。
 やり遂げた表情だった。

「ほんと。うまくいってよかったです」
 心底ほっとしたように言う詩穂理。
 彼女にしたら体育祭の失態をようやく償った形で、安堵するのも無理はない。
「弦が切れたときはちょっと焦ったけどな」
 やはり一か月の特訓は心の距離を詰めた。
 優介が女子の言葉に相槌を打った。
「それにしてもよくフォローできましたね。高嶺さん」
「本当だわ。まるで分っていたかのよう」
「そんなのわかるわけないけど」
「けど?」
「優介のことなら小さな頃からずっと見ていたもん。何かあればすぐにわかるわ」
 大人の「にっこり」というより子供の「にかっ」という感じの笑顔だ。
 二人が幼なじみであることを知らしめる話だ。

「あ…………」
 優介は大事なことを言い忘れていたのを思い出した。
 まりあのほうへと向き直る。
「一応、礼を言う。お前のおかげで助かった」
 そっぽ向きつつ赤い頬で、それでもまりあに対して優介は礼を言う。
「え…………?」
 当の本人が信じられないような表情だ。
 だがいつものノリを取り戻した。
「理子さん。今のきいた? 優介が、優介がわたしにお礼を」
「『理子さん』なんてやめてくれる?」
 びしっと一言。
 相変わらずのクールビューティー。
 心の距離が縮まったのは錯覚だったのか?
 いや。錯覚でない。その証拠の言葉がこれから紡がれる。

「『理子』でいいわ。その代り私もあなたのことを『まりあ』と呼ぶから」

 静かな微笑みを浮かべる理子。
 一方のまりあは子供のような大きな笑顔だ。
「わかったわ。理子。わたしたち友達よね。ね。詩穂理さん」
「だったらどうして私はさん付けなんですか……高嶺さん」
「お前なんか苗字で呼んでるじゃねーか」
 優介がまぜっかえす。笑いが起きる。

「仲いいな。あいつら」
 裕生が笑いながら言う。
「ほんとにね。澤矢さんなんて転校してきたときと大違い」
「でも、美鈴は今の澤矢さんのほうが好きです」
「見ろ」
 大樹の言葉で窓を見る。
 大きな火が燃え盛る。キャンプファイヤーだ。
「よーし。踊ろう。女の子をみんなメロメロにしてやるぜ」
 お化け屋敷では吸血鬼としてがんばった恭兵が先陣を切る。

「いいわね。踊りに行きましょ。優介。詩穂理さん。理子さ……理子!」
「ええ。行きましょ。まりあ」
 笑顔で同行する理子だった。

 だが胸の内は複雑。
(私は優介のフォローをできたまりあに嫉妬した。どうしても勝負したくなった。対等な関係で。それが名前の呼び方)
 火を囲み、フォークダンスに興じる面々。優介と詩穂理が踊り、続いて理子とのダンスだ。
 上気した頬は炎の熱さと思われた。ばれてない。
(どうしよう……いつの間にか私は優介のことを好きになっちゃったみたい……)
 優介とのパートナーチェンジを名残惜しそうに見送る理子。
 そしてまりあとダンスする優介。
 普段の態度と裏腹にここではしっくりとしている二人。
 それに対して嫉妬心を覚える理子。

 果たしてそれは男として同性を好きになったのか?
 それとも心から女になり、優介を異性と見做したのか?

 炎は赤々と高々と燃え上がり、宴の終わりを華やかに演出していた。

次回予告

 バンド練習で「友達」になった理子を交えた「女子だけの親睦会」を行うまりあたち。しかし箱入り娘にとって町は魅惑の場所で。行く先々で珍騒動を。
 果たして。まりあにとって理子とは友達なのか? 恋敵なのか?
 次回PLS 第18話「A Day in The Girl’s Life」
 恋せよ乙女。愛せよ少年。

第18話「A Day in The Girl’s Life」へ

第17話『Rhythm Red Beat Black』制作秘話へ

無料アクセス解析

PLS専用掲示板へ

城弾シアターウィキへ

PLSメインページへ

トップページへ