第18話「A Day in The Girl’s Life」Part3 

「いたわね……って、何しに来たのよ?」
 最初からけんか腰のまりあである。
「ふん。遊びに来たのよ。それが悪い?」
 こちらも負けてない瑠美奈。
 我の強いお嬢様二人というより宿敵同士であった。
 だから顔を合わせると喧嘩ばかりしている。
「別に」
「ふん」
 そっぽを向きあう。
(実は仲がいいんじゃないの?)
 そう思うほど見事に動きがシンクロしていた。
 そもそも本気で嫌いなら、相手を無視するのじゃないかとも。

「ここで遊んでいたらそれらしい人影を見たので追っかけてみたら案の定」
 本当にたまたまだったらしい。
 しかし自分たちの遊びを放棄してまで追ってくるとは、そんなにかまってほしかったのか?

 まりあの次は短い黒髪の少女……理子にも鋭い視線を向ける。
「そして縁日で恥をかかせてくれた女もいるならちょうどいいわ」
「ああ。あの時の」
 理子もさすがにひっぱたいた相手を忘れてはいなかった。
 同時に遺恨になっていたのを失策と感じた。

「あの時の恨みも晴らすわ。勝負よ。まりこ」
「こちゃまぜにしないでくれる?」
 クールというより呆れたように言う理子。

 唐突に思えた瑠美奈の発言だが、確かに「勝負」の題材はここにいくらでもある。
 そこに宿敵・まりあの登場だ。その気になってしまったらしい。
「いいわよ。それじゃ」
 まりあは辺りを見回す。
 世間知らずのお嬢様にはすべてが「知らないもの」ばかり。
 だがわかる単語があった。それで選ぶ。
「クイズゲームで2対2の勝負よっ」
「卑怯者っ。そっちには学園一の才媛がいるじゃないのよっ」

 かんかんになって怒る瑠美奈。まるで漫才のようなやり取りだ。
 やっぱりこの二人、実は仲が良いのではなかろうか?
 そんな思いとともに苦笑する詩穂理。

「才媛って……そんなこと言われても私も苦手ジャンルはありますよ」
 謙遜ではない。
「……確かに体育はもうちょっと頑張った方がいいよなぁ……」
 今度はなぎさが苦笑する。
「わ、私にそちらで成果を求めないでください。そうじゃなくて、芸能とかだとちょっと疎いので」
「それくらいじゃないの? 得意ジャンルに当たったら目も当てられないわ。却下よ」
 勝負。そして勝利に固執して「楽しむ」余裕がない瑠美奈。

「それじゃどれならいいのよ?」
 一方のまりあは涼しい表情だ。
 これもまた遊びの一部になっている。
 問われた瑠美奈は冷静さを取り戻し
「そうねぇ……あれなんかどうかしら?」ある方向を指さす。
 瑠美奈のさしたのはレーシングゲームだった。

 レースマシンの座席を模した筐体。それが六つ並んでいる。
 それで対戦というか『競争』できる仕様だ。
「これならいいでしょ? この中に運転免許を持っている人間なんていないのだし」
 11月時点でまりあ。なぎさ。詩穂理が17歳だが18歳以上は一人もいない。
 ちなみに誕生日の関係で瑠美奈と美鈴は16歳である。
「確かに公平ね。いいわ。勝負よ」
「ちょうど全部あいているわ。3対3で勝負よ。土師。奈緒美。きなさい」
 取りまきの小柄な少年と、眠たそうな眼鏡の少女に声をかける。
「お、お嬢。なんで俺じゃないんだ?」
 不健康な印象の痩身で長身の辻が抗議する。
「あんたは暴走するに決まっているわ。私まで巻き込まれたらたまらないから見学よ」
「そんなぁ」
 どうやらやりたかったらしく、この危なっかしい長身男子は落胆する。

「それじゃこっちは……まずは理子ね」
 選択の理由の一つは「理子が本来は男子」ということ。
 敵に一人男子がいるのだ。見るからに草食系の小柄な美少年だが、それでも男には違いない。
 なので対抗すべく一番『男』に近い彼女だ。
 それは本人も理解した。

「もう一人は……美鈴さんお願い」
「えーっっっ。美鈴、自動車の運転なんてしたことないよぉ」
 この場の誰にもない。
「うー。ごめん。緊張するから」
「そう? それじゃ……詩穂理さん。いい?」
「え、ええ。でも私も当然ですが運転経験はありませんよ?」
「誰を選んでも同じなら堅実そうな詩穂理さんのほうがいいかなと思って」
「それじゃまるであたしが暴走するみたいじゃないか?」
 膨れるなぎさ。実は本気でそういう理由でまりあは詩穂理を選んだのだった。

 メンバーが決まり、それぞれシートにつく。
 左からまりあ。理子。詩穂理。奈緒美。土師。瑠美奈であった。
 それぞれの「大将」が両端なのは、言うまでもなく遠ざけておこうという意図である。
 近すぎるとリアルファイトになりかねない。
 そしてその意図から両方から、穏やかな性格の女子二人が中央で隣り合わせである。

「ところで詩穂理さん。これどうやって動かすの?」
 何しろ17歳。自動車は人に運転してもらうものである彼女に、そんな知識があるはずもない。
「え、えー。私もちょっと」
 詩穂理も似たようなものだ。
 ちなみに二十歳になる姉・美穂も無免許。
「車は男に運転させるものよ」と、胸の谷間を強調した服でいう。
 三歳下の妹・理穂も奔走なので詩穂理だけがお堅い。

「本物じゃなくてゲームだから簡単になっているわ。右足のほうがアクセルで踏み込めば動き出すし、スピードも出る。左はブレーキ……スピードを緩めたり止めるときに踏むの」
 さすがは『男の子』である理子。それくらいの知識はあった。
 後半は「さすがにブレーキは説明しなくてもいいかな?」と思ったものの、まりあの「世間知らず」ぶりを思うとちゃんと説明するべきと思ったので、一瞬の間をおいて続けた。

「これを踏めば走るのね?」
「そうです。ただ踏み込みすぎるとコントロールが利かなくなるから注意です」
 瑠美奈も「世間知らずのお嬢様」なので参謀である土師拓也の説明を受けていた。
「瑠美奈様ぁ。安全運転でいきましょうねぇ」
 およそ瑠美奈の「配下」とは思えないゆったりしたキャラクターの奈緒美がのほほんという。
「それじゃ負けるに決まってるでしょうが」
「遊びにそこまでむきにならなくてもねぇ」
 ヒステリックに叫んだ瑠美奈を、一番遠いシートにいるまりあが即座に揶揄する。
 それにカチンときた瑠美奈は一つ思いついた。
「そうねぇ。それじゃ盛り上がるような賭けでもしない?」
「賭け?」
「ちょっと海老沢さん。高校生がギャンブルは」
 こういう時に一番早く口が出るのは詩穂理だ。たしなめる。
「賭けといってもお金や物じゃないわ」
「……罰ゲームですか?」
 これを「余興」と捉えなおして穏やかさを取り戻す詩穂理。
「それとも勝った方が何かご褒美もらえるのかしら?」
 両者ともに「金持ちのお嬢様」である。
 物欲はすぐに満たされる。
 だがさすがにこれは予想外の提案。
 瑠美奈はにやりと笑って言い放つ。
「ええ。私とあなた。このレースに勝った方が、次の日曜に水木君とのデートを申し込めるの」
「な!?」
 まりあの顔色が変わった。
 とにかく優介が絡むと平静ではいられない。
「そ、そんなゲームなんかで」
「自信がないならいいわよ。勝ち目のない勝負をしないのはお利口さんですものねぇ」
 さすがにこの二人。互いに容赦なしだった。
「ぐっ」
 安い挑発なのはわかっている。
 しかし犬猿の仲の瑠美奈に見下ろされるのは「わかっていても」耐え難かった。
 ましてや優介まで絡んでいる。
「いいわ。その条件でやってあげる」
 調印式でサインした形だ。

 まりあと理子と詩穂理。
 瑠美奈と土師と奈緒美。
 チーム対抗なのは誰の目にも明らか。
 そしてそれぞれチームリーダーを勝たせに来るのも見え見えだった。
 それぞれ承知……暗黙の了解があった。

 このレースゲームの説明をしよう。
 走るのは市街地。
 いくつものコースがあるが参加者の多数決でコースは決まる。
 同数の場合、先に揃った方に決定。
 一般道路だけにノンプレイヤーの「車両」も多数存在。
 そして「警察」もいて、場合によってはスピード違反で追われることになる。
 当然ながら捕まれば大幅なタイムロス。

 そしてコースの一部には横断歩道などもある。
 つまり信号だ。
 歩行者をはねたりしたらライフが大幅に削られる。
 ライフがゼロになると失格となる。
 また制限時間もあり、その中でゴールインしないとやはりリタイア扱い。

 制約ばかりがきつい印象だが、プレイヤー同士なら攻撃は自由。
 体当たりしてダメージを与えて、リタイアに追い込むことも可能。
 さまざまな障害を乗り越えて、トップでゴールインしたものが勝者。それがこのゲームだ。

 全員が理解して、コインを投入。
 エントリーも完了して開始を待つ。
 そしてフラッグが振り下ろされた。
 一斉にスタートしたのは理子と土師だけ。
 詩穂理と奈緒美は緩やかにというより「よたよた」という感じでスタート。
 そして肝心のお嬢様二人はいきなりトラぶっていた。
「きゃーっ。よけてぇ」
 まりあはいきなりノンプレイヤーの車に激突していた。
「ちょっと、邪魔っ」
 瑠美奈もだった。邪魔扱いだけに余計たちが悪かった。

 先行した理子と土師。しかし自分たちがゴールインしてしまうわけにはいかない。あくまでサポートに徹する。
 仕掛けてきたのは土師だった。車を寄せてくる。
 理子は冷静に「減速」した。
 普通に考えれば「加速」して逃れる。そうなったら無防備な後方から攻撃するつもりだった。
 ゲームのモニター画面はリアルに作られていて前方と側面の一部。
 背面はミラー……これももちろんCGだがそれで確認するようになっているが、圧倒的に見えにくい。
 本物の車なら瞬間的に後方を見る手もあるが、ゲームなのでそれは無意味。
 有利になったらつぶしてしまうつもりだった土師だが、その「潰される位置」に自らが立ってしまった。
「悪く思わないでね」
 喧噪のゲームコーナーで聞こえるはずのないそんなつぶやきが聞こえてきた。
 理子の車が加速する。躱すためによけると道を開けそのままの加速で逃げられる。
 こちらもブレーキをかけてぶつかってやろうかと土師は考えた。だが
(なんでかこの人には負けたくない。胸の内からそんな思いが湧き上がる)
 「軍師」とは思えない感情的な理由から「考えられない作戦」に出た。
 巧みなハンドリングで意図的に自車をスピンさせる。
(これじゃ避けられないっ)
 まして理子の車は加速していた。巻き込まれて両方とも大ダメージだ。

 両者ともにクールでなるにもかかわらず、こんな無謀な手に出たのは「好きな男」の存在故か。
 そう。土師は体育祭の一件で優介に迫られたことで「目覚めてしまって」いた。
 それを本能的に「敵」と感じた理子が「受けて立った」形。

 相変わらず「安全運転」の詩穂理と奈緒美はおいて、何とか立て直したまりあと瑠美奈。
「先に行くわよっ。ウスノロっ」
 瑠美奈のほうが早かった。ただし確認不足。赤信号であった。
 しかも横断中の歩行者を跳ね飛ばしてしまった。
「ぎゃーっ!? なんてところを歩いてんのっ」
 青信号の横断歩道を歩いていてののしられては、NPCとてたまるまい。
「ひゃっはーっ。いいぞ。お嬢。跳ね飛ばせーっ」
 蚊帳の外の辻がハイテンションに叫ぶ。つくづく危ない奴である。
「だまってなさい。私は急いでんのよ」
「お嬢。歩道なら他の車の邪魔が入らないぞ。歩行者も撥ね放題だぞっ」
 まるでエジプトで議員に車を運転させている吸血鬼のようなことを言い出す辻。
 もう構いきれず黙ってしまう瑠美奈。
 そうでなくても今ので大幅に減点されている。

 一方のまりあはそれをよそ目に立て直した。
「よーし。行くわよっ。えーと……右のこれよねっ」
 アクセルを踏み込む。
 直線コースをゼロヨンのように急加速する。途端に鳴り響くサイレンの音。
 これまたCPUキャラのパトカーだ。
「ちょ、ちょっと!? スピード違反より事故ドライバーを取り締まりなさいよっ」
 ゲームは時に現実では考えられないような優先順位を示すときがある。
 まりあはパトカーとカーチェイスを繰り広げる羽目に。

 結局、捕まって大幅減点。
 くしくも瑠美奈と同程度に。
「納得いかないわっ。ただのスピード違反がどうして人を撥ね殺したのと同程度なのよっ」
「警察から逃げ回る凶悪犯だからじゃないの」
「何ですって? あんただって前から来た車のライトが、そのオデコに反射して事故を引き起こすに決まってるわっ」
「そっちこそ。男の子追いかけて東京中駆け巡って、捕まえに来たおまわりさんにぶりっこして許されようとするに決まってるわっ」
 筐体の端と端で口げんかしたいた。
 両者ともに黄色い声なのでゲーム機の音より響き渡る。
 それがギャラリーを引き寄せる。

「うわ。こんなに人が……どうしよう?」
 気の小さな美鈴には耐えられない数の目。
「美鈴。お手洗い行かない?」
 嘘くさいなぎさの提案だったが、美鈴はあえて乗っかった。
 二人してその場を離脱。
「あー。薄情者っ。逃げるなんてひっどぉい」
「おーっほっほっほー。さすがに高嶺家のお嬢様は人望が厚い事」
 ここぞとばかしにやり返す瑠美奈。得意満面で高笑い。
 笑い飛ばすのに夢中でまたもや前方不注意。そして……また跳ね飛ばした。
「きゃああっ!? うっそーっ!?」
「いいぞ。もっとやれ。ぶっ殺せーっ」
 辻のテンションが「やばい」領域にまで跳ね上がる。
 ギャラリーがドン引きしている。
「こ、こらっ。辻。興奮しすぎ」
「あーら。勇ましいお供がいらっしゃるのね、海老沢家は人材の宝庫みたい。うふふふふっ」
 きちんとやり返すまりあ。
 互いに容赦のない二人だった。

 そして詩穂理と奈緒美は「我が道をゆく」安全運転だった。

 ゲームも終盤。
 互いにけん制しつつも何とかレースらしくなってきていた。
 ここへきてチーム戦らしく理子はまりあを。土師が瑠美奈をサポートしていた。
 二度までも「歩行者」を跳ね飛ばした瑠美奈はゲージがだいぶ底をついていたが、土師のサポートもあってわずかにまりあをリードしていた。
「いいわ。このままゴールインして、水木君とのデート権はいただきよっ」
 その叫びがまりあを直接刺激。
 だが心の奥底で刺激されたのが理子と土師だ。

 まずは理子の車が瑠美奈の車体に寄せられる。
 ここにきてアタックをしかけてきた。そう見えた。
 だからそれを防ぐために土師が割り込むように加速する。これもわかる流れ。
 しかしここで「考えられないミス」が出た。
 土師の車があのスピンを開始したのだ。
 そしてこともあろうに主である瑠美奈の車を弾き飛ばす。
「何やってんのよぉぉぉぉぉっ!?」
 叫ぶが後の祭り。
 大ダメージでライフゼロ。同時に土師の車もライフゼロに。

海老沢瑠美奈。土師拓也。
車体大破――戦線離脱(リタイア)――

「やったわっ。これであっちのチームは全滅。後はこのままゴールインして優介ともゴールインよっ」
 甘ったるいまりあの浮かれた声が響くが、ここでも信じられない事態が発生した。
 土師と瑠美奈の「事故」に巻き込まれた理子の車が、まりあのそれに正面衝突。
 ともにライフゼロに。

高嶺まりあ。澤矢理子。
車体大破――戦線離脱(リタイア)――

 残された希望はまりあチームは詩穂理。瑠美奈サイドは奈緒美と、ともに安全運転をしてきた二人である。
 しかし、制限時間切れで両者失格。

 結局、勝者なき戦いだった。

「お、覚えてなさいっ。こんなもんじゃないわよっ」
 逃げるように……というより実際に「観客」から逃げるべくその場を離脱した瑠美奈たち。
「こ、この場は見逃してあげるわ。さっさと消えなさい」
と、言いつつまりあたちもその場から「消えた」。
 冷静になるとゲーム中の痴態が激しく恥ずかしく、その場にいられなかったのだ。

「ああ。恥ずかしかった」
 近くの喫茶店に逃げ込んだまりあたち五人。
「な。あたしら逃げたのが正解だってわかったろ」
「酷いわよ。なぎささん。美鈴さん」
「ごめんねぇ」
 ゲーム後で高まったのをクールダウンすべく一服していた。

「お待たせいたしました。ダージリンのお客様」
「わたしです」
 まりあの前に紅茶が置かれる。
「ブレンドのお客様」
「私です」「私も」
 詩穂理と理子の前にコーヒーが置かれる。
 この店のオリジナルブレンドだ。
 二人とも何もいれずにカップを口にした。
「アイスロイヤルミルクティーのお客様」
「みす……私です」
 いつものように自分の名前を言いかけるが、知らないウエイトレス相手ということで「私」という自己代名詞を用いる美鈴。
「アイスコーヒーです」
 消去法でなぎさの前におかれる。
 同時に伝票を置いて立ち去る。

 喉を湿らせてからゲームのことを振り返る。
「あー。面白かった。ストレス発散になるわね」
(あるの? ストレスが?)
 まりあの発言に心の中で突っ込む一同。
 確かにいつも好き勝手しているようにしか見えない。

「でもあんなところでミスが出るなんて。海老沢さんもそれは悔しいでしょうね。それも腹心の参謀に」
 詩穂理の発言はもっともだ。だが
「ミスなのかな?」
「え?」
 理子のつぶやきが耳に止まる。
「なんとなくだけど……根拠なんてないけど、わざとの気がする」
「わざとって……彼にとってあいつは女王のようなものよ? それをわざわざ負けさせるなんて」
「それ以上に阻止したかったんだと思うの。彼女が水木君にデートを申し込むのを」
「なんでさ」
 なぎさも割って入る。
「もしかしたら彼『も』、水木君のことが……」
 理解できていた。
 何しろ理子『も』嫉妬から事故を装い、まりあの車に体当たりを仕掛けていたくらいだ。

「えーッッッっ??」
 黄色い声で驚きの声。店内の目が集まる。小さくなる五人。
「確かに体育祭の時になんかしていたけど……うわ。彼もホモ? 勘弁して」
 心底気持ち悪そうになぎさが言う。
「うーん。でも、好きになっちゃったら、仕方ないのかもしれませんね」
 意外な反論は詩穂理だ。
「し、詩穂ちゃん?」
「あ。いえ。禁断の思いがより恋心を高めてしまうのかもしれないのかなと思って」
「詩穂ちゃんも恵子ちゃんみたいに?」
 「腐女子」という言葉になじみがないので、こういう表現になる美鈴。
「あ。そこまではとても。ただ無暗に偏見を持つのもどうかなと、里見さんに借りた本を読んでそう思って」
「やっぱりあいつの差し金かーっ」
 なぎさが叫ぶ。
「詩穂理。あんたまで腐女子になるんじゃないだろうな」
 真剣な表情で言うなぎさ。どうやら同性愛に対して寛容ではないらしい。
「偏見は持たない方がよいという話です」
 珍しく詩穂理にしては強い言い回し。
 空気がよどむが
「あら。詩穂理さんはりっぱなふじょしでしょ?」
 紅茶を口元においてまりあが微笑みながら言う。
「え? 私はそんなレベルには達してないはずですが」
「謙遜しないで。物静かだし、言葉遣いは丁寧だし、博識だし、立派な婦女子じゃない」
 ここで勘違いに考えが至る。
 よく考えらこの世間知らずの箱入り娘が『腐女子』なんて言葉を知るとは思えない。
 結果的によどんだ空気を吹き飛ばした天然振りだった。

「でも理子。どうして彼が優介のために裏切ったなんて思ったの?」
 そこに発想が至ったのが理解できず尋ねる邪気のない瞳。
「ただの勘よ」
 一言でおしまいだった。

(そうよ。ただの勘。同じ穴のムジナと感じただけ。私も、優介のことが好きだから)
 それが理子が感づいた理由だった。
(彼の場合は完全に男子同志。でも私はどっちなのかしら?)

「理子?」
 考え込んてしまった彼女をまりあが怪訝な表情で見ている。
 それで我に返った。
「な、なんでもないわ。そうだ。ちょっと欲しい本があるの。本屋によっていい?」
 ごまかすための口から出まかせだ。
 本当は特に読みたい本などない。
 だが本好きは釣れた。
「あ。いいですね。私も帰りにのぞいていこうかと思ってたんで」
「詩穂理。あんたんち本屋だろ。それなのにさらにか」
 なぎさの言葉で笑いが起きる。何とかごまかせた。

 喫茶店を出て大き目の書店ビルが目について、そこに入った。
 何も考えないで彼女たちは表示されていた文章を読まずに入ってしまった。

 そこには『美愛くるみサイン本手渡し会」とあった。
 そう。詩穂理とよく似たAV女優のそれである。

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