第19話「Love Train」Part2

 清水寺の敷地内にある地主神社。
 縁結びのご利益を求めて人々が来る。
 恋する乙女たちが無視できる場所ではなかった。

「なんだか可愛い神社ね」
 恋のご利益故ではなく、そのこじんまりとした作りをまりあは言った。
「あれかな?」
 なぎさが目的の物を見つけた。

 約10メートルの間隔を置いて一対の大岩がある。
 片方から片方へ。目を閉じたままたどり着けたら恋が成就するといわれている「恋占いの石」
 多くの「乙女」たちが順番を待っている。
 もちろんまりあたちもその並びに加わった。

「スイカ割りみたいだね」
「言われてみると」
 さまよう様子も似ていた。
 ただ砂浜でもないし、出店も多数あり突っ込まれても拙いので、それを阻止する役どころがいた。

「いいの? 最初で?」
「こういうのはあんたが一番やりたがるだろ。ほら。いきな」
「ありがとう。なぎささん」
 意気込むまりあだったが結果から言うと大失敗。
 遥かに石を通り過ぎて、止められる始末。
「えー。おっかしいなぁ。わたしと優介なら一発と思ったのに」
(いや。誰が見てもそれはない)
 関係者は異口同音にそれを思った。
 何しろ毎度のように追うまりあ。逃げる優介である。
 それが一発で行くようなら、この占いに信憑性はない。
 逆に言うと、この結果で信憑性が出てしまった。

「じゃあたしやってみるね」
 なぎさが挑んだ。
 さすがの快足娘も目を閉じていては足元がおぼつかない……と思われたが、バランス感覚の問題なのか。
 逆に目を閉じているとは思えない足取りで、ゆっくりではあるもののまっすぐ「恋占いの石」にたどり着く。
「やった。なぎさちゃんの恋はうまくいくんだね」
 美鈴が甲高い声でわがことのように喜ぶ。
「うそ? あたしが?」
 自信がないのも無理はない。何しろ恭兵を慕う「ファン」は多い。
 走りならどんな女子相手でも自信があるなぎさも「恋の競争」となると「鈍足」の気分である。
「占いの結果」を信じきれないのもそこからだ。

「いいの? わたしがもう一度で」
 再挑戦のまりあである。
「どうぞどうぞ」
 美鈴が譲る。
 別にまりあは無理強いしてない。
 ただ餌をお預け食った子犬のような表情だったので見かねて譲った。

 再び大失敗。転びかけてとっさにバランスをとるために目を開けてしまった。
「なんでぇ?」
 二度までも失敗してしまうといい気分はしない。
 そして美鈴が時間はかかったものの無事に到達した。
 運動能力でいうならまりあのほうが断トツで上だ。
 ところがまりあはこけて、美鈴はクリアした。

 三度目の正直は詩穂理に譲られた。
 ところがこれも一歩目で躓いた。
「ここまで来るとあきらめた方がいいんじゃないか?」
「水木君。男の子のほうが好きなんだし」
「あなたたちはクリアしたから余裕でしょうけど」
 珍しくとげのあるまりあの口調。
 確かに美鈴となぎさはやや「上から目線」だった。
「わだじだっで、わだじだっで」
「……何も泣かなくても」
 軽く引くなぎさたち。

 はては詩穂理まで成功である。
 それほど占いに傾倒していないのもあり、まりあのこともあり単に付き合うだけで「失敗してもいい」つもりが、見事にたどり着いてしまった。
 まるで導かれたようにである。

 だが付き合ったわけでもあるまいが理子も失敗。
 何しろいきなり正反対のほうに行き始めた。方向音痴も筋金入りである。

 そして不屈の闘志でまりあは挑む。
 そろそろ次の見学地に移動する。ラストチャンスだ。
 ところがまた転びかけた。しかしその手を取るものがいた。
「何してんだよ? お前は?」
「その声は……優介?」
「そのまま目をつぶってろ。開けたらだめなんだろ」
「う、うん」
 素直に瞼を固く閉じる。
「まったく、黙ってみてればいつまでも。連れてってやるからついてこい」
(黙ってみていれば!?)
 この言葉に理子は引っかかった。
(学際ライブの時はまりあがずっと優介を見ていたから、とっさにフォローで来たけど、今度は優介のほうがずっとまりあを見ていたというの?)
 嫌っているはずじゃないのか?
 それでもほっとけない「幼なじみ」の絆なのかと理子は考えた。
(積み重ねた時間が相手では私には勝てない……)
 妬ましさすら感じていた。

 女と見惑う美少年は、学園のアイドルとまで言われる姫君の手を引き目的の石まで連れて行く。
「ほら。これでいいんだろ」
 もちろん助けが入ったら達成とは言えない。だが
「うん。ありがと」
 ばつが悪いのか上目遣いの感謝。
 どうやら占いより、本人に手を引かれたので満足してしまったらしい。

占いは失敗。けどつないだ手は……

このイラストはOMCによって作成されました。
クリエイターの高天リオナさんに感謝!

 途中で食事を済ませ、三年坂。二年坂を下り五重塔を見る。そして回り込んでいたバスで移動する。

 銀閣寺へ移動するバスの中。地主神社の話題を振るバスガイド。澄田耀子。
「まぁ占いですからね。それでも何度も失敗すると恋に臆病になりそうですが、若い皆さんは結果を恐れずアタックし続けてくださいね。あたしも今の彼には猛攻撃で……はい。銀閣寺についてお話しますね」
 ほっとくとリア充アピールになる。
 それだけの話であり、まりあに対して皮肉を並べたわけではない。
 しかしまりあにはクリティカルヒット。
(わたし、本当に優介とはうまくいかないのかしら?)

 この占いの結果を春の訪れるころに、思い知ることになるまりあである。

 この日最後は銀閣寺である。正式名称は慈照寺(じしょうじ)。

「わぁ。きれい」
 まりあたちを出迎えたのは砂でできた芸術だった。白い砂を盛り、形作る銀沙灘(ぎんしゃだん)だった。
 その美しさに一発で地主神社のそれも忘れた。

 順路に従い参拝してゆく。
 やがて見えてきたのは「銀閣寺」と呼ばれる由来である銀閣こと観音堂だ。

「銀色じゃないのね……」
 美鈴がぽつりと漏らすが誰も笑わない。
 そういう思い込みは少なからずあったようだ。

「お連れ様でした。これよりバスはホテルへと向かいます」
 何しろ東京から移動したのもある。
 いくら高校生の体力とはいえど疲労もあり、夕方には宿に向かっていた。

 ホテルに到着。修学旅行で使われることを前提として大部屋の多いホテルである。
 建屋が東西二つに分かれており、男子は東館。女子は西館と別れている。
 一応は連絡通路で結ばれてはいるが、ここさえ見張っていれば夜に行き来するのを防げる。
 ロビーは一か所だがそこから分岐している。
 つまりロビーも監視の対象になる。
 大部屋には浴室はなく、大浴場へと出向くことになる。
 男湯と女湯は隣接しているが、もちろんここにも教師は張り込んでいる。
 入浴時間は部屋ごとに分かれており男子は20分で入れ替え。女子は30分だった。
 五時半から入浴。かなりの広さゆえ一度に20人。
 つまり一クラスの男子あるいは女子なら入れた。
 初日はA組から始まりD組に至る。
 つまりまりあたちは七時からの入浴であった。

 旅館内では体操着とジャージで過ごすようになっている。
 好きにさせておいたら女子など競争になりかねないからこの処置だ。
 部屋について荷物を置いて、一息ついて着替え始める。
 理子も当たり前のように着替え始める。
 他の女子はエメラルドグリーンのジャージだが、理子はえんじ色の物だった。
 本物の理子は体が弱く、体育を諦めていたため体操着などは持ち合わせていなかった。
 だからこれは「遺品」ではなく、「今の理子」が最初の高校で購入したものだ。

 通路でつながっているとはいえど男子の目は遠く離れている。
 理子の正体を知らない面々からしたら女子しかいない。
 だから物おじせずに肌をさらしていく。体育で散々見ている。
 それは理子も同じ。今更「女子の着替え」程度で動じなくなっていた。
 何しろ鏡を見れば美少女がいる。
 その気ならヌードモデルのようなポーズだって取らせられる。
 だから『同性』である少女たちの裸体にも平然としていた。
(もう何も興奮しないのは、やはり心から女になったということなのかしら?)
 不思議とそれに脅威は感じない。
 あたりまえのように受け止めていた。

 男女ともに四つの班に分かれている。それが二班ずつで相部屋だ。
 出席番号で区切らず、好きな者同士でグループを形成していた。

 まりあたちの部屋は他に美鈴。詩穂理。なぎさ。そして理子。これで一つの班だ。
 もう一つの班は四人。150センチと小柄な体格をしたポニーテールの手塚織江(出席番号39)。
 まりあと同じテニス部の長谷部里緒(同41)。以前はショートボブだったが、髪が伸びて両サイドだけ結ぶツーサイドアップになった。
 水島あずさ(同44)はツインテールだったが、サイドポニーに変えたのは好きなキャラが変わったという理由とか。ちなみに腐女子。
 そしておとなしい性格のセミロングの少女。村田早苗(同46)であった。
 ちなみに転校生の理子は暫定的に出席番号47番。もしそのまま進級して新しいクラスになれば、五十音順でもっと若い番号になるだろう。
 あくまでそのままこの学校にいればの話だが。

「みんな。お茶飲む?」
 着替え終わって落ち着いた頃に、美鈴が呼びかける。
「おー。のむのむ」「さすがD組の良妻」「気が利くよね。美鈴は」
 美鈴の女子力の高さはすっかり知れ渡っている。
「えー。そんなでもないよぉ」
 謙遜しつつもまんざらでもない。
 リラックスしている面々。
 一方のまりあたちは軽く緊張していた。
 ここには理子の正体を知らない女子が四人もいる。
 口を滑らさないように気を付けていた。
 幸か不幸か。理子はさほど口数が多くなく、まりあたち以外とはそれほど会話していない。
 だからこの場で黙っていても不思議はない。
 それで押し通す。

 でてくる話題はやはり京都の感想。
 まわってきた神社・仏閣の美しさなどを語っていたが「美しさ」ということから「舞妓」の話題になる。
「舞妓さん。きれいだったよねぇ」
 うっとりと手塚織江が言う。
「知ってた? あれほとんどは観光客の『コスプレ』って」
「マジ? あずさ?」
「そういえば茶わん坂でも見かけましたね。そういうサービスを請け負うという看板」
 詩穂理らしい細かいチェックだ。
「そうなの? いいなぁーっ。あたしもなってみたいなー」
「わたしたちするわよ。自由行動の日」
「え? 本気で?」
「うん」
 まりあは真顔で答えるが詩穂理。なぎさ。美鈴は視線をそらす。
「あー。付き合わされるんだ」
 同じ部活でまりあとの付き合いも長い里緒が察した。
「えへへへー。やっぱりお姫様になってみたいもん」と可愛い返答の美鈴。
 どうやら美鈴は同意の上らしい。
「まぁめったにできることじゃないし」
「私もそう思ってつい……」
 なぎさはまだしも、詩穂理は流された故らしい。

 五時半。ついて早々に入浴をすることになったA組。
「今あたしは聖地にいるんだニャ」
 トレードマークのネコミミ。しっぽ。そして伊達メガネもないがキャラは相変わらずの里見恵子。
 今はさらに三つ編みもほどいているため別人のようだ。
「聖地って?」
「信長様と蘭丸様。信長様と利家……又左様かにゃ? 景勝公と兼続様。みんなここで愛し合っていたのだニャ」
 主従ではあるが別にそれが史実というわけではない。
 もっとも「衆道(しゅどう)は武士(もののふ)のたしなみ」という時代。
 ゼロとも言い切れない。
「……あんたほんとに腐った趣味しているよね」
 女子なら誰しもBL好きというわけではない。
 辟易として言う。
「くくく。ありがとう。最高の褒め言葉だよ」
 男の声色で返す恵子。

 六時。B組には生徒会長の瑠美奈がいる。
 高慢なお嬢様も「みんなでお風呂」には乗り気である。
「はぁ。ホント残念だわ。まりあといっしょの風呂じゃなくて」
「おっ。喧嘩ばかりしているようで、実はなかよし?」
「そんなわけないでしょ? あのお子様体型を笑い倒してやりたかったのに」
 瑠美奈の発育がよいだけで、まりあの発育が悪いわけではない。
「ほんと。会長いい乳しているよねぇ」
「え゛?」
 女湯なのに身の危険を感じた瑠美奈。
 迫る女子の手つき。指の動きが怪しい。
 思わずDカップのバストを両手で隠す。
「ちょっと触らせて」
「あたしは揉んでみたい」
「よいではないか。よいではないか」
 迫りくる女子たち。
 からかっているのだが真に受けた瑠美奈の反応が面白くて本当にみんなで押し倒した。
「や、やめてっ。どこ触ってんのよっ。ちょ、そこダメっ」
 海老沢瑠美奈――陥落(リタイア)

 六時半入浴のC組は逆に一人の女子が全員をうならせていた。
「……きれい」
「こらこら。お世辞など無駄だぞ」
 しかしきれいといわれて嫌がる女はいない。
 芦谷あすかも例外ではない。
「あんた空手なんてやっているからごついと思ったら」
「意外に女らしいのね」
「か、からかうなっ。見ろ。この腹筋を」
 女だてらに割れていた。
「た、確かに腹筋凄いけど、肌がきれい」
「髪の毛も。普段無造作にまとめているけど、もっとセットに気を使えばいいのに」
「そんなもん家のメイドでさんざんやらされてる」
 意外な女子力の高さはそれか。納得した。
 髪を洗うつもりだったので下したままのストレートロング。
 スレンダーなボディと二つのふくらみ。
 そして白い肌があすかを女と知らしめていた。

 疲れているはずなのにおしゃべりは尽きない十代の女子たち。
 しかしそれを中断させる知らせが来た。
「あたしら終わったからD組入っちゃって」
 C組の女子がわざわざ伝えに来た。
 そう。入浴である。
「んじゃいこっか」
 緊張の面持ちになるまりあ。
 美鈴。なぎさ。詩穂理。そして理子の「共犯者」達が顔を見合わせる。

 理子は四十度を超えるお湯につかると男に戻ってしまう。風呂など論外。
 しかし一泊ならともかく、三泊すべて回避はできない。
「風邪を引いた」という言い訳も用意したが、それだと四六時中『仮病』を通さないといけない。
 むしろばれそうだ。
「女の子の日」を装うのを理子本人が言い出したが「むしろ清潔にしないとダメです」と詩穂理に突っぱねられた。
「え? そういうものなの?」と目を白黒させる理子。
 思うことがあり、尋ねてみると女の子の日」が来たことはないという。
 最初は驚いたまりあたちだが、冷静に考えれば見てないところでは男なのだ。
 それでは確かに来ないだろう。

 結論としてなぎさたちが全力でフォローするとなった。
 常に誰かしら隣にいて、誤って高温のシャワーを浴びないように警戒。
 もちろん湯船には入らない。そのくらいなら「普段からシャワーで済ます」でごまかせる。

 以前の理子ならこんなリスクを冒してまで「修学旅行」になど来なかったであろう。
『一生の思い出を作ってこい』と父に背中を押されたこと。
 そして何よりまりあたちと一緒に来たくて、これだけのリスクを冒してまでやってきた。
 それだけにばれるのは絶対にさけたい。

 そして風呂場にやってきた。
 理子の転校は九月。水泳の授業は終わっていた。
 体育でして下着姿は見ていても、それよりもさらに脱いだところはまだ。
 ましてや入浴である。何もつけない。
 隠しながら脱ぐ者もいれば、女しかいないからとぱっぱと全裸になるものもいる。
 しかしそのあられのない姿を見ても、理子は何も思わなくなっていた。
 軽くショック。
(こんな姿を見ても私は何も感じないなんて)
 完全に「同性」という気持ちだった。

 広々とした大浴場。
 大きな湯船はもうもうと湯気を立て、冷えた体を温めてくれると期待する。
 しかし理子はそこに入れば破滅である。
 何しろクラスメイドの女子全員の前で「正体」をさらすのだ。
 一発で学校にいられなくなる。
 気持ちよさそうだが誘惑を断ち切る。
 洗い場でカランの前に腰掛ける。
 理子の右側になぎさ。左にまりあと、何かあった場合のフォローでついていた。
 ふたりともおろすと髪が長い。ゆえにまとめ上げていた。詩穂理も当然。項の見える長さである理子と美鈴はしていない。
 そもそも理子にはそういう習慣がない。こういうところも「男」だった。
 それがばれないように二人は身構えていた。
 幸いテンションの高い少女たちは「みんなでお風呂」というのでさらにハイテンションになり、誰も理子たちを見てたりしない。好都合だ。
 念のため隅っこの死角になりそうな洗い場に五人かたまっていた。
 占拠してしまえば他の女子は別の洗い場に行く。

「それじゃ」
 理子はシャワーノズルをとりまず水を出す。それからお湯を出して調温する。いい塩梅になった。
「よし」
「ちょっと待った。こっちの準備がまだ」
「え?」
 うっかり温度調節つまみを高温にしてしまった。しかもシャワーを体に浴びせていたままで。
 つまりお湯をかぶったことで、理子は女湯で男に戻ってしまった。

正体発覚の大ピンチ

このイラストはOMCによって作成されました
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