第19話「Love Train」Part6

 そのころ、2−Bの瑠美奈たちのグループは祇園にいたが……
「やっぱり、ここは夜のほうがメインなのかな?」
 早すぎたか開いてない店ばかり。
「うー。このまま帰るのも癪だから向こうの大きな神社にでも」
 八坂神社へと向かった。

「座禅を組みたい」という希望はグループの反対にあい断念したあすか。
「せっかく京都まで来たのだ。おのれを磨かんでどうする?」
「せっかく京都まで来て、そんなのやってられないわよっ」
 女子空手部の鬼部長に一歩も引かない。
 正論で返されてはあすかも引かざるを得ない。
「わかった。計画書も出しているしな。仕方ない。それで? どこに向かうのだ?」

「京都国際漫画フォーラム」で漫画を堪能する恵子たち。
「なんでわざわざ京都でマンガ読むのよ?」
「でもこんなのはとこでもできないにゃ」
 敷地内にある芝生のエリアで寝そべってまんがを読んでいた恵子たち。
「いいなぁ。ここ。都内にもあればいいのに」
 完全に落ち着いてしまっていた。
「もう。映画村行くんでしょ」
「そ、そうだったにゃ。本物の時代劇セットでコスプレなんてめったにできないにゃ」
 跳ね起きる恵子。借りていた漫画を落としてしまう。

 そして映画村。あるアトラクションがはじまった。
 案内があり人が集まる。
「チャンバラ辻指南」とある。
「おもしろそうだな」
 裕生が食いついた。当然のように詩穂理も傍らにいる。
 まりあたちや優介たちも遠くから眺めることにした。

 やがてあるセットを舞台に寸劇が始まる。
 正確に言うとセットの前で。セット内では音響が作業していた。
 女剣士を浪人風の二人が追ってきて、これを返り討ちにするというストーリーだ。
 十分ほど見せる。
 コミカルな要素も忘れない。さすがは関西というべきか。
 そして存外見事な殺陣であった。

 寸劇が終わりギャラリーの中から希望者を募り、タイトル通りチャンバラを「指南」する
 まずは客と浪人が刀を激突させる。
 にらみ合いだがここは役者の「浪人」が「変な顔」で笑いを取る。
 離れて二度。三度と切り結ぶ。
 最後は浪人の攻撃をかわして、客が斬っておしまい。
 その際の決めのポーズは客の自由である。

「はい。それではやってみたい人」
 女剣士の女優がマイクを手に呼びかける。
 大勢の小学生か手を挙げ、短髪の男児が選ばれた。
 二人目は外国人女性。
 そして三人目だが
「おっ。きれいな舞妓さんやね」
 浪人が指名したのは詩穂理のことである。
 目を集めてしまい赤くなるが、それか化粧越しにもわかり尚更可愛らしく色っぽく。
「隣は彼氏? どう? やってみない」
「オレ?」
 裕生は自分を指さす。頷く浪人。
「ご指名とあらば」
 了承した裕生である。

 一人目の小学生男児は「ぐだぐだ」であった。
 子供だから仕方ない。
 二人目は女性の上に外国人。
 刀の持ち方からレクチャーである。
 これまた様にならない。
 客をいじって盛り上げようという趣旨であるから別にかまわない。。
 もちろん記念品は渡す。

 そして最後の裕生が向かい合う。
 自然体のリラックスした構えで模造刀を腰の高さで構える。
(なんやこいつ? 剣道でもやっとるんかいな?)
 浪人の役者は気を引き締めた。
 思わず「本気で」斬りかかる。
 裕生もきちんと受け止める。
 しかも事前にレクチャーされたとおりの形でだ。
 にらみ合いのシーンだが浪人は笑いを取りにいかない。
 殺しそうな表情だ。
 裕生の方も殺されかけているかのような必死の形相。
 そして斬りあい。
 これがまた速い。
 最後の斬撃もあまりに速く、まるで本当に斬ったかのような迫力であった。
「ぐああっ」
 悲鳴も本物っぽく浪人は地に伏す。
 裕生は刀を左肩から右下にかけて血を振り払うように振りぬいた。
 恐ろしく様になっていた。

 いきなり展開した「本物」にギャラリーは声を失う。
 遠巻きに見ていたまりあたちも絶句だった。
「見事だ」
 意外なことに一番無口な大樹が真っ先にたたえた。
「ほ、ほんとだよね。スタントマン目指しているっていうけどあれじゃ」
「むしろ俳優そのものでもいいんじゃないか?」
「すっごぉーい。風見君」
 身近な人間の隠れた凄さを認識して驚いていた。

 ワンテンポ遅れて拍手が沸き起こる。
 裕生も表情を緩める。
 詩穂理もだ。
「何かしでかすか」ではなく「怪我しないか」を案じていた。

「いやぁ。何かすごかったですね。演劇部か剣道でも?」
 さすがに役者は絶句しておらず、進行を再開させる。
「あ。オレの親父がスタントマンで」
「え。スタント? お父さんのお名前は?」
「風見哲哉です」
「ああ!」
 一瞬で理解した。
「あの風見さんの息子さん? それじゃこのくらいはこなしても不思議じゃないわ」
 どうやら裕生の父は裏方ではあるものの、知られている存在のようだった。

 時間が迫りまりあたちは着物を脱ぎ、かつらをはずし、化粧を落として着替えてきた。
 次の目的地が一緒だったので、そのまま同行している。
 その間は映画村の感想でもちきりだ。
 流で裕生の話にもなる。
「しかし意外だったわ。あんたのことだからアドリブでなんかやるかと思っていた」
 これはなぎさのコメント。
「それが許される場合と許されない場合がある。今回は後のほう。一発勝負だからきちっと形を合わせないと」
 ほぉーっ。改めて感心した一同。

「すっごいね。風見君。ぼく感動したよ」
 女の子のように目を輝かせていう優介。
「あ、ありがとよ」
 アピールの強烈さにたじろぐ裕生。
 しかし優介はそれだけで終わらせまりあに突っ込む。
「それに引き換えお前は、まともに歩けもしないし」
 裕生に向けた熱い視線と、まりあに向けた冷たいそれの落差が激しすぎる優介である。
「な、何よ。優介だってあのカッコしたらわかるわ。すごく動きにくいんだから」
「あー。帯がきつくてねぇ」
「美鈴は頭が重くてフラフラでした」
 女子たちが同調する、

「だけど変身は悪い気分じゃなかったろ? シホ」
 体育会系の笑みで文系少女に語りかける裕生。
「え、ええ。きれいにしてもらえましたし」
「ああ。すっげぇ綺麗だった。ほら。お前の舞妓姿を待ち受けにしたから」
 携帯電話の画面を見せる。
「きゃああああっ」
 裕生がそこまでしてくれたのは嬉しいものの、これを見られ続けるのはかなり恥ずかしい。
「お、お願い。それはやめて」
「ダメなのか? ちぇー。しょうがねぇ」
 彼は携帯を操作した。
「ほら。元に戻したぞ」
「あ、ありが……今までそれ使ってたのっ?」
 携帯の画面は夏に同人誌即売会でコスプレした時に、安曇瞳美がとっていた一枚だった。
 作っていない笑顔の写真。
「ああ。すっげえ可愛い笑顔。いいじゃん」
 完全に撃沈した詩穂理である。

「優介ぇ。わたしの着物姿どうだった?」
 当然ながらこういう流れ。
「あ、ああ。馬子にも衣装ってやつだな」
「ほんと?」
 顔を輝かせるまりあ。
「高嶺さん。それ、ほめてませんから」
 ツッコミで復活した詩穂理。

「けど、たぶんお前よりぼくのほうが着物は似合うぞ」
 その場の全員が「お姫様」の衣装を身にまとった優介をイメージした。
 困った。異様に似合う。胸がないので着物がすっきりと着こなせている。
 女顔の男ということで中性的な美少女になっていた。
「ひっどぉーい」
 女のフライドずたずた……のはずだがどこか楽しげに文句を言うまりあ。
 優介の方も楽しげである。

 そしてそんな二人を見て、理子はさみしげな表情になる。
(やっぱり……この二人の間には私の入る場所なんてどこにもない!)
 無理やりに入り込めばそれは優介をまりあから略奪することになる。
 優介への恋を選んで、まりあに涙を流させるか?
 まりあとの友情を選んで、女としての初恋を諦めるか?
 厳しい二択だった。
(おかしなものね。本来男である私が、男の優介に恋をして、女のまりあに友情を感じているのも)
 自嘲気味に笑った瞬間、ある「思い」が理子の脳裏に浮かぶ。

 三日目の自由行動を堪能し、宿へと戻る生徒たち。
 全員の帰還が確認され、ホテルに入る。
 一息ついたら入浴。そして食事というスケジュールである。
 今回はまた入浴の順番が入れ替わりA組からである。

 三日目ともなるとだいぶ疲れてきた。
 あれほどのハイテンションもなくなってきた。
 まったりと過ごしていた。

 やがてD組入浴の順番になる。

「あ。先生」
 女湯の前の見張りは自分たちの担任であった。
 のぞきなどから守る見張りであり、何かあれば助けに入るのが彼女たちの役割だ。
 当然ながら男湯の前は男性教師が張り込んでいる。

「あなたたちが最後ね。あまりゆっくりできないけど、とにかく温まってきなさいね」
「はーいっ」
 優しい言葉に返答がそろう。

 浴室に入り左に行くと浴槽。右は洗い場。
 もうすっかり壁際がまりあたちの定位置になった。

 美鈴がぬるま湯を用意して、それで理子は体を洗う。
 問題なく進んでいたはずだった。
 理子の表情がとてもではないが「風呂でリラックス」ではないことを感づけば。
 もっともお湯をかぶると男になる体質。
 緊張していても不思議はない。

 何人かは湯船に浸かっている。まりあ達は長い髪を洗うので時間をとられていて洗い場から動けない。
「それじゃ行ってるわね」
 理子が先に立つ。もうおなじみのパターンである。だから何も考えず返事をした。
 ところが理子は出口に行かない。
 まっすぐ浴槽に向かっている。
「え? 理子ちゃんっ。そっちダメっ」
 髪が短くて他の面々よりは洗髪に手間のかからない美鈴はその様子を見ることができた。悲痛な叫びがこだまする。
「お。理子。やっと入るの?」
「気持ちいいよー」
 何も知らない女子生徒たちはのんきに声をかけている。
 理子は腰にタオルを巻いた。「女同士」とは言えど大胆にその豊満な胸をさらした。
「ひょーっ」
 やはり何も知らない面々が囃し立てる。
「理子っ。何してるのよっ?」
 まりあがずぶぬれで叫ぶ。
 シャンプーを乱雑に流して状況を確認したら、理子がまさに「自殺行為」を行おうとしていた。

「これが私の出した答えよ。まりあ」

 浴室に理子の声が響き渡り、彼女は湯船に飛び込んだ。
 激しく飛沫が上がり、理子は浴槽に沈んだ。

「わっ。もうちょっと静かに入りなよ。理子」
「そうだよ。人迷惑だよ」
 あたりまえの反応が出てくる。
 そんな中まず頭。そして理子の顔が水面に出てくる。
 何かが違う。
 冷静に見れば肌が浅黒いし、顔立ちも凛々しくなっている。
 その違和感は胸が見えたら決定的になった。
 あの白くて柔らかそうな二つのふくらみが消失して、引き締まった胸板があった。
 体全体も浅黒く、ウエストのくびれもない。
 タオルのまかれた腰は女子にしては小さく、そしてわずかに前方にふくらみがあった。

 にわかには信じられなかった一同。
 まりあたちはその自殺行為。正体ばらしに。
 そしてその正体を知らなかった女子たちには、その姿が。
 だがやっと思考が現実を捕えた。
「お、男? 理子じゃないの?」
「……これが私の姿」
 口調は理子だが声は低い。男子のものだ。
「きゃーっ」
「男ーっ」
 女湯は阿鼻叫喚の騒ぎとなった。
 一斉に大半の女子が逃げていく。

 そして見張りをしていた木上が浴室内に入ってきた。
「あなたは誰? どこから入ったの?」
 緊張している。何しろ相手は女湯に堂々と入ってきた「変質者」なのだ。
 理子。いや、「理喜」は洗い場に無言で近寄り、水を出して頭からかぶった。
 次の瞬間、クールな美少女がそこにいた。
「澤矢さん……なの?」
 信じられない光景を見た木上だが、事前に「理子が男に化けた」と聞かされていたので辛うじて理解できた。
「はい。澤矢理子です」
 女としての名を名乗る。
「……話を聞かせてもらえる?」
 うなずく理子。そのまま出ていこうとする。
「理子っ」
 まりあに呼び止められ、さすがに動きが止まる。
 そしてこれまた予想外。
 生まれたままの姿のまりあが、一糸まとわぬ理子に抱き着いたのだ。
 驚いた理子だったが
(ああ。まりあの中じゃ私は完全に女だったんだな)
 だからこうして裸で抱き着けると理解した。

「どうして? せっかくうまくいってたのに、自分からばらすようなまねを?」
 涙声で訴えるまりあ。
 これが何を意味するかは分かっている。
 もうこの学校にはいられない。
 別れが待っている。
「これでいいのよ。私がいなくなればすむこと」
「なんでよ?」
 まりあの悲痛な叫び。
「学校を追い出されるのは慣れっこだわ。でも……板挟みはつらくて、苦しい。耐えられない」
 優介がまりあを好きだと感じ取った理子は、身を引く決意をした。
 だが結ばれた二人を見ているのは耐えられそうにない。
 だからいっそこの学校を去ろう。
 そう思いつめた結果の「自殺行為」だった。

「理子……」
「これでいいのよ。本当は男の私が、貴女から優介を奪うなんておかしいもの」
「理子は女の子だよ」
 まりあは力を籠めて抱きしめた。
 まるで友との別れを惜しむように。
「まりあ」
 理子もまた優しく抱きしめた。
 それは本当に心から女性となったかのようだった。

 抱き合う二人はいつしか涙を流していた。

 食事時間を利用して木上は自分と理子の食事を別室に運び、事情を聴いた。
 ここからすでに理子はまりあたちどころか蒼空学園そのものと切り離されてしまった。

 一方で目撃した少女たちの口から、理子が本当は男であることが伝わって生徒たちに動揺が走る。
 まりあたちは自分たちも知ってて庇っていた「共犯者」となじられる覚悟で擁護したが「騙されていた」少女たちは聞く耳持たず。

 そしてこれを知った木上は理子がこのまま修学旅行に同行するのは無理と判断。
 学園に手配し副担任と交代の処置をとった。

 修学旅行四日目。旅館から理子と木上の姿がなくなっていた。
 一足先に帰京したのである。
 代わりに副担任が引率を代行した。

「はい。今日は最終日ですね……あらら? 何かありました? なんだか雰囲気が」
 バスガイドの澄田耀子が驚くほど気まずいクラス。
 もちろん理子の件が大きくかかわっている。
 三か月にわたり女子更衣室やトイレに「男」を入れていた形だった。

 最終日は疲れも考慮し、近場で済ましていた。
 その最初、東本願寺。
 寺院。仏像の見学であったのだが一同の目には入らない。
 それほど理子の件は衝撃的であった。
「なぁ。まりあ。一つどうしてもわからないんだ?」
 聞きにくいことを尋ねる。そんな口調のなぎさ。
「なぁに? なぎささん」
「あんた、わかってたんだよな。理子が水木君のことを好きだって」
「そうね。うすうすだけど。最初は優介か理子に惹かれたかと思って、対抗するためにあんな馬鹿な真似もしたけど」
 九月半ばの男装騒動のことである。
「それなのにどうしてあんなに親身だったんだ?」
 いわば恋敵である。
 露骨な排除は自分の印象を悪化させるからやらないのは分かるとしても、仮に好印象を抱かせる戦略としても理子に対して好意的な態度であった。

「一言で言うとわたしと理子は波長が合ったのよね。恋敵とか損得抜きにして仲良くしたいと」
 寺院の上。済んだ秋空を見上げる。赤とんぼが飛んでいた。
「たぶん、わたしも彼女も同じ人を好きになった。その部分で合っちゃったんだと思う」
 さみしげに笑う。
「理子。このままお別れじゃ嫌だなぁ」
 つぶやいたとたんに風が吹く。
 冬に近づいている。その証の冷たい風だった。

 蒼空学園の二年生たちが京都修学旅行の最終日を過ごしている中、それを全うできなかった理子は担任である木上に付き添われて一足先に東京へ戻る新幹線に乗っていた。
 うつろに窓の景色を見ていた。
 しかし見えていない。目に入らない。

「澤矢さん。のど乾かない? お茶でもどう?」
 事前に買っていた缶のお茶を差し出す木上。
 話しかけられてのろのろと振り向いた理子は「いただきます」というと、その缶のふたを開けた。
 だけど飲めない。涙があふれて飲めない。
「先生。これでよかったんですよね? 私のしたことは間違ってなかったんですよね?」
 木上には何も言えなかった。
「私は友達と、好きになった人を同時に守った。だからもっと胸を張っていいのに……どうして? 学校を追い出されるなんて慣れているはずなのに、なんでこんなに涙が出てくるの?」
 そこにはクールな少女はいなかった。
 ただのか弱い女子だった。
 木上は何も言わず理子の頭を優しく撫でた。。
 理子は泣いた。声を押し殺して泣いた。
 今までどんな傷つけられても「男だから」と泣かなかった「理子」が「女の子」として泣いた。
 やがて泣き疲れて眠りに落ち、東京まで一度も目覚めなかった。

あふれる涙を止めることなく。

このイラストはOMCによって作成されました。
クリエイターの對馬有香さんに感謝!

 他者とは違う意味で、一生の記憶に残るほろ苦い修学旅行の記憶になった。

次回予告

 理子とのお別れパーティーとしてまりあはクリスマスパーティに理子を招いた。そこで湧き起こる騒動。
 そして意外な形で理子の次の居場所が。
 次回PLS 第20話「Dreams of X’mas」
 恋せよ乙女。愛せよ少年。

第20話「Dreams of X’mas」へ

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