第20話「Dreams of X’mas」Part2 

 ホテルの大広間。
 少年少女たちがドレスアップして待ち構えている。
 その注目の中、主催者であるまりあがメイドの雪乃のエスコートで壇上に上がる。
 途端に男女問わず感嘆のため息。
 もともとノーメイクの学生服姿でさえその可愛さでアイドル扱いされていた少女だ。
 それがドレスをまとい、装飾を身につけ、そしてちょっと背伸びしてのメイクアップ。
 まりあ本人もよく父と同行して「大人の世界」で「アクセサリー」としてふるまうこともあるため、見事に着こなしていた。
 ただし今回は「子供の世界」
 その証拠でもあるまいが香しい匂いを発している様々な料理のエリアがあり、当然飲み物も充実しているがアルコール飲料はない。
 ちなみにまりあ自身は正月の「お屠蘇」で酔うほどアルコールに弱かった。
 そのせいもあるだろう。
 話を戻すと、肩ひじ張らなくていい相手ばかりでまりあもリラックスした笑顔だ。

「みんなー。今日は来てくれてありがとー」
 その可愛らしい声がマイクで大広間に響く。
 意外と庶民的でパン屋の娘という感じか。
 それでも怒らせると伝説の海獣・リヴァイアサンのように恐ろしいところもある。
 しかし結婚したらGo! 旦那にと一直線に進みそうな一途さもある。
「楽しんでってねー。あまり長い挨拶は嫌われるから」
 笑いが起きる。
「飲み物持った? それじゃあ……メリークリスマース
 まりあの乾杯の音頭でシャンパン(お子様用)のグラスが打ち鳴らされる。

 しかし所在無げな理子はグラスを上げただけだった。
 グラスを合わす相手がいなかったのだ。しかし
「理子」
「優介!?」
「メリークリスマス」
 本来なら女子には全く見せないであろう優しい笑みを「本来は男子」だからか理子には例外的に見せる。
「め、メリークリスマス」
 ぎこちなくグラスを打ち鳴らす。

 しばらく無言で向き合う。理子にしたら間が持たない。しかし
「お別れか。残念だね」
 優介が切り出した。
 ストレートに言うのは男子相手と見做してか?
「ええ」
 それは身を引くゆえの方便。
「話しは聞いているよ。でも、それもこれも『姉の代わり』じゃなく自分で決めたことなんだろ」
(あ……)

「自分の人生だろ。人の代わりに生きてどうすんのさ。お前はお前でいりゃいいんだよ」

「ぼくは受け入れてあげるよ。お前は体が女だけど心は男なんだろ。それならいいよ。理子は理子のままでいればいいのさ」

 初めて会った時のことを思い出した。
(優介はそういってくれた。そうね。自分で決めたこと。後悔する道理はないわ)
「理子が決めた道をゆくならそれでいいさ。応援しかできないけどいいかな」
「……嬉しいわ」
 何よりのはなむけだった。涙かでそうだった。

 しばらくの間は歓談ということになった。
 まりあもステージから降りてきて、仲良しの面々のところに行く。。
「メリークリスマス。きれいだよ。まりあ」
 なぎさが見ているのにまりあにアプローチをかけ始める恭兵。
 どうやらパーティーの雰囲気を利用にかかったらしい。
 着ている濃いめのグレーにストライプの入るスーツは自前だ。
「とっておき」で使うつもりだったらしい。
 それがまさに今だった。

「あら。ありがとう」
 軽くいなすが恭兵は大胆に手まで取る。しかし
「やめとけ」
 タキシード姿の大樹に頭を鷲掴みにされ引きはがされる。さらに
「いーやっはーっ」
 スーツをラフに着こなした裕生が体当たりして、なぎさのほうに突き飛ばす。
 さすがにサッカー部で鍛えているうえに、ドレスアップした少女たちの目前で無様にコケはしない。
 とはいえ思うようにコントロールできず、そのままなぎさに受け止められる。
 普段より肌色の多い服を着たなぎさの胸に飛び込む。
「キョ、キョウ君!?」
「な、なぎさ!? 勘違いするな。奴らに突き飛ばされて……てゆーか。なんだその変な連係プレーは?」
「おう。オレと大地でお前がオレたちの妹に手を出した場合の排除の方法として考えてたんだ。このコンビネーション」
「応用だ」
「お前らの妹になんか手を出すか!」
 それはただの本音だった。が
「無価値か?」
 大樹が迫る。短すぎる言葉を要約すると「自分の妹は手を出す価値もないか」ということである。
「お前は妹に手を出してほしいのか欲しくないのかどっちだ」
「ちょっとちょっと。いつまでそんな女の胸にいるのさ。恭兵君。男同士で温めあおうよ」
「はっ!?」
「わわっ」
 優介に言われて抱き合ったままのを思い出した。
 なぎさは邪魔されて怒るかと思いきや、さすがにこれは恥ずかしかったらしく何も言わなかった。

 いつも通りのメイド姿の雪乃が、そのきれいなよくとおる声で
「皆様。お食事の用意も出来ております。どうかご利用ください」と告げた。
 それを合図にさっそく料理を取りに行く参加者。
 いきなり列ができた。
 が、逆にまりあたちのグループによって来る女子がいた。
「まったく。ただ飯となると目の色を変えるとは。なんとも浅ましい」
「うそ……」「お前……芦谷か?」
「他の誰に見えるというのだ?」
 恭兵が惑わされるのも無理はない。
 そこにいた芦谷あすかは、当然ながら空手部の鬼主将としてのそれではない。
 美しい純白のドレスはどうしてもウエディングドレスを彷彿とさせる。
 無造作に縛っている髪もここではまとめ上げて、さらに飾り立てていた。
「化けたなぁ。ここのメイクさんいい腕してるわ」
「たわけ。自分でやったわ。人に顔をいじられるなどくすぐったくてたまらん」
 17才なのに「たわけ」と口走るあたりが彼女らしい。

「そうですわね。やはりお化粧くらいはレディたるもの。自分でできませんと」
 全員がその女性に「?」となった。
 見たことない。しかし確かに知っている顔と声。
 金に近い茶髪は緩やかにウェーブがかかり。
 オレンジ色のドレスと相俟って明るい印象だ。
 いうだけあって一部の隙もないメイクだ。
 深紅のルージュに緑のアイシャドーなど使い方を間違えると「大惨事」になりそうなカラーリングを絶妙に合わせている。
「どなた?」
 思わず尋ねるまりあ。
「あらあら。まだお分かりになりません?」
 上品すぎる「猫」なで声。
「それではこうすればいかがでしょう」
 彼女はバッグから「メガネ」取り出してかける。
 その途端。全員正解がわかる。
「あーっ。里見さんっ」
 こちらもショートカットになっててかなりのイメージチェンジを果たした詩穂理が叫ぶ。
「にゃはははは。どうかにゃ? ミケちゃんのメイクテクは? 伊達にイベントで鍛えてないにゃ。目の肥えた愛好者。disる気満々の女子レイヤー。カメコのすべてに耐えうるメイクにまでなったにゃん」
「いや……カメラ小僧はスルーでいいだろ」
 珍しい裕生のツッコミ。

「はーい。マリアセンパーイ。パーティーのお誘いありがとでーす」」
 既におなじみになった声が響く。
 黄色のドレスに身を包んだアンナ・ホワイトだった。
 こちらも通常はツインテールだが、まりあと逆におろしていた。
 アメリカ生まれの少女の金髪は本物で、煌めきがさすがに違っていた。
 元気な印象の彼女だが、化粧をしてこんな服を着るとやはり「女の子」であると再認識。
 もっともまだ成長途中。
 「体型」があどけなかった。

 一年生のアンナが呼ばれたのは何かと縁があるのと、大樹の妹・双葉。裕生の妹・千尋を招くなら共通の友人である彼女もという理由である。
 それだけにいつものように一年生トリオで固まっていた。
「ほら。フタバ。お兄さんいますよ」
「あ、アンナ。いいよ。はずかしい」
 珍しく双葉が兄の前で物怖じしている。
 理由はすぐに分かった。ちょっと背伸びした服と化粧だ。
 こんな機会だからと乗せられてドレスを着て化粧までしたらとにかく恥ずかしい。
 ウィッグによってロングヘアになっていて「別人」になっているから耐えられたが、兄の前にこの姿で出る度胸はなく、珍しく大樹から尻込みしている。
 双葉が身にまとっているのは、その名にちなんだのか若草色のドレス。
 スカートのすそは膝丈だ。
 やはりまだあどけなさの残る顔だけに、化粧はまだ早い印象がある。
「双葉」
 タキシード姿の大樹が最愛の妹に微笑みかける。
「かわいい」とも「きれい」とも言わない。
 この無口な男はこれが最大限の賛辞だった。
 それを見た双葉は大きな笑みで返す。これで謝辞だった。

 そうかと思えば無神経にすら思えるほどほめたたえる男もいる。
「何だ千尋。すっげーいいじゃねーか。似合ってるぞ。そのトレス。化粧なんかも七五三以来か?」
「あ、アニキ。声が大きい」
 アンナ。双葉とくれは千尋である。
 彼女にしたらまだ笑われるかけなされた方がましだった。
 何も考えなしに褒めちぎられた。
 それが恥ずかしくて、身に付けているクリムゾンレッドのドレスより、ほほに施したチークよりも赤くなっていた。
 しかも
「本当よ。千尋ちゃん。可愛い。女優さんみたいよ」
 詩穂理だった。
 普段は何かとコスプレをたたえられるケースか多かったその反動か。
 それとも才媛とて女子は女子。可愛いものに血が騒いだか手放しでほめていた。
 こんなところまで裕生に近くなっている。
 もはや「バカ夫婦」のレッテルははがせそうにない。

「うー。ありがたいけど……シホちゃんにいわれてもなぁ」
「どうして?」
「どうしてとか言われても……」
 黒いドレス故かより強烈に白い輝きを放つ胸の谷間。
 大人びた顔に化粧がよく映える。
 皮肉なことに詩穂理自身が劣等感を感じている部分は、千尋にしたら女性として憧れる部分だった。

「一年まで呼んだのか」
「三年生もいるわよ。あなたのお姉さん」
 まりあの意地の悪い笑みで「うげ」となる恭兵。
「それじゃ部長も?」
「正確には家庭科部の前・部長さんね。新・部長さん」
「うううう。忘れてたいのに……」
「他には何度かあってるでしょ? 姫子。風見君だけじゃなくて高校のクラスメイトもつれてきたって」
 ちなみに会費は無料だった。
 すべてまりあのためにと父親が出してくれた。

「これだけよんどいてさぁ、やっぱり生徒会長はいないんだな」
「感想」というより「確認」という感じのなぎさの言葉。
「あいつがわたしのパーティーに来ると思う?」
 分りきったまりあの返答。
 もっとも「あいつ」呼ばわりは他にいない。
 ある意味では特別の存在なのか。
「それどころかぶつけてきたわよ。あちらは2−Bメインでいろんな人を招いたみたいね」
 瑠美奈が別のパーティー会場で怪気炎を上げているのが容易に想像できた。
 どうやら単純にしのぎ合う仲のようである。

 そうかと思えば純粋に親友もいる。
「まりあ。パーティーに呼んでくれてありがとう」
「亜優ぅ。きてくれてありがとー」」
 優介の双子の姉。水木亜優が白いドレス姿でまりあに抱き着くが、まりあも全身で受け止めた。
 亜優には決して男性的な要素はないのだが、それでも優介とハグしているように見えるほどよく似た姉弟だった。
「ちなみにあいつはほとんど化粧をしない。肌が弱くてすぐトラブルを起こす」
 ちょっとしたうんちくで姉の体質を明かす弟。
「だもんだから姉さんたち。私の代わりに優介をよく化粧させててね」
「それがなまじの女の子よりかわいいんだもんね」
 嘆いているようで面白がっているまりあと亜優である。
 中学からの友人だからか。
 どことなくテンションの上がり子供っぽいというか。

「ところでまりあ。秀一さんは?」
 ちゃっかり下心があった。
 まりあの三つ上の兄。秀一目当てだ。
 まりあが優介を陥落つせるべく隣家に引っ越してきた。
 その保護者として訪れた秀一に、出会ってから亜優はずっと恋していた。
 それからというもの互いの利害が一致というのもあり、お互いに相手の恋をフォローし合う仲でもある。
 まりあがなぎさ。詩穂理。美鈴と「同盟」を組んだのは、先に同じ手を使っていたのもあろう。
 もっとも、ちょっとした見込み違いは、これが単なる恋の打算だけではなく、それぞれ親友と呼べる仲なったことがあげられる。

「お兄様はそろそろお父様を出迎えにいくころかしら。だからロビー付近にいると思うわ」
「サンキュー。あなたも弟をよろしくね」
 あれだけくっついていたのが嘘のようにあっさりと離れ、ロビーへと走る。
 それを見送る理子。
(まりあといい彼女といい、恋は女の子にパワーを与えるみたいね)
 他人事で考えていたのだが
「理子」
 呼びかけられて我に返る。
 ふと振り返るとピンクの髪。
「(そうだったわ。仮面舞踏会代わりに何かしら変えているんだったわ。今の声は……)水嶋さん?」
「えへ。うちのクラスじゃこんなウィッグつけるのあたしくらいのもんだしね」
 レイヤーである里見恵子だと、もっととんでもないこり方をする。
 ピンク髪だとおとなしいほうかもしれない。
「それじゃ私は分かる?」
 今度は黒髪のショートにしている娘だ。
 確かに印象は大きく変わったが
「長谷部さんでしょ?」
「あ。ちゃんとわかるんだ」
「そりゃ修学旅行じゃ一緒のおふろにも入ったし、うわべだけじゃなくて……」
 自爆だった。
 文字通り決死の覚悟での「カミングアウト」。
 化粧どころじゃない『変身』を解いて見せたことを思い出した。

 それは長谷部里緒や水嶋あずさも同様だった。
 赤くなる。
「あの、あの時はごめんね」
 別にこの二人や他の誰かが憎かったわけじゃない。
 ただ自分を含めてだれも傷つかないようにしたための手段があれだったのだ。
 実際に男に戻るところも見せずに、口先だけでこの体質を明かしたところで誰も信じまい。
 笑われるのが関の山。
 だからああして、これ以上ない立証を見せたのだ。
「ううん。驚いたけど。ね?」
 後方に目くばせすると、やはりあの時同室で、一緒に入浴した村田早苗と手塚織江がきれいに着飾った姿で控えていた。それが来る。
(あの時のことかしら?)
 風呂場の一件をなじられると身を固くした理子。
 だが早苗の発言はあまりに予想外だった。

「ねぇ。理子。どうして転校するの?」

 来るなりこれだ。かなり意外な質問だった。
 まだあの時のことを怒鳴られた方が分かりやすかった。
「どうしてって……あなた達も見たでしょ。私が本当は男だって」
 早苗と織江も思い出して赤くなる。
「うん。でも本当は女の子だよね?」
「えっ?」
「だって理子。転校してきたときはまだしも、仲が良くなるにつれてどんどん女の子らしくなってたもん。だから本当はかわいい女の子なんだなと思ったの」
「それもあってね」
 あずさがまた話に加わる。
「あたしにしたら女の方が基本で、なんかの条件で……お湯かしら? とにかくその条件で男になっちゃって、どうにかすれば女に戻る感じで」

 なんのことはない。
 すでに女として認識されていたのだ。
「男が女に化けてもぐりこんでいた」ではなく「男になっちゃう体質をひた隠しにしていた女の子」と認識されていたと理解した。
(そうかぁ。打ち解けてきた頃って、優介を好きだと意識したころ。だから私は女の子に見えたのね)

「ねぇ理子。あの時はびっくりしたし、それからどう接すればいいかわからなくなって、変な態度になっていたけど、せっかく仲良くなったのにお別れは嫌よ」
 理子は不覚にも目頭が熱くなった。
 今まで何度も学校を追い出されたが、こんな風に別れを悲しまれたことはなかった。
「あたしら気にしてないから転校なんて取り消そうよ」
「卒業まで一緒にいよ」
 もうだめだった。
 理子は顔を手で覆って、涙を流れるままにしていた。

(女の子の姿だから得られた絆なのかしら?)
 泣きながらもそんなことを考えていた。

 理子が感謝の気持ちと、決意が変わらないことを伝えるのにしばらく時間を要した。
 それをあずさたち。そしてまりあたちも温かく見守っていた。

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