第20話「Dreams of X’mas」」Part3

「あら? まりあさん。どちらへ?」
 青いドレスに身を包んだ少女がまりあに声をかける。
 普段は降ろしている髪だが房だけ後ろに回してバレッタで留めている、
 細い鎖のネックレスのみが装身具だ。
 化粧も最低限しかしていない。
「姫子。楽しんでくれている?」
 まりあの中学時代からの親友。北条姫子が声をかけたのだ。
 普段着が和服なので、ドレス姿はかなり珍しい。
「ええ。みなさんも楽しんでるようですわ」
「それはよかった」
「あの、私達までよかったのかしら?」
 本来は栗色のややウェーブのかかった髪をセミロングにしている少女。
 現在はストレートパーマで直毛となった髪を黒く染めて黒髪ロングの及川七瀬が尋ねる。
「大丈夫よ。反対に私たちも姫子のところのクリスマスパーティーに参加させてもらうから」
「まりあさん。うちのは大忘年会ですよ」
「建前はね」
 仏教徒にクリスマスは関係ないということで「クリスマスパーティー」は行わない北条家。
 ただし忘年会なら別だ。
 この年は12/25開催である。
 どう見ても「クリスマスパーティー」だが建前は「忘年会」だ。

「それでどちらに? 確かそろそろプレゼント大会があると聞いておりますが」
「左様。このような『備後』なる紙も頂戴しておる」
 いわゆるTPOを考慮したのか。
 スーツ姿の十郎太が怪しげな発音で発言する。
「……風間くん? その発音だと地名じゃないかしら?」
 まりあにとってはこちらも中学の同級生だ。
「わたしたちもプレゼント大会よ。それじゃ」
 そう言い残すとまりあは先を急いだ。

 用意された別室に九人は入る。
 まりあ。詩穂理。美鈴。なぎさ。理子。優介。裕生。大樹。恭兵というメンバーだ。
 ピンクのパーティードレス。フォーマルな化粧を施したまりあが「さぁ。わたしたちだけのプレゼント大会よ」と「普段の声」で言う。
 やはりこの面々は特別なのだ。
 そしてその中に入っていることに気が付いて身を震わす理子。

 会場で行われているビンゴ大会は、まりあの父が手配させた高校生向けの豪華賞品で、それはそれで盛り上がっている。
 だからこそ、そちらに気を取られてまりあたちがこっそり抜け出しても騒ぎにならない。
 ここで行われるのはそれぞれが持ち寄ったプレゼントの交換会だ。
 つまり「大好きな相手」からのプレゼントを獲得できるかもしれない。
 この面々にとってはどんな豪華賞品よりも欲しいものだった。

「ちょっと待て。まりあ。インチキはしてないだろうな?」
 ここでの主催者はまりあだ。確かにそれを疑う優介の言葉ももっともだが
「いえ。それはたぶん大丈夫です。少なくとも私たちには」
「なんでそんなこと言えるんだよ? 槙原」
「だって高嶺さんが不正をするなら水木君からのプレゼントがほしいからか、自分のプレゼントが水木君に当たるようにしたいか。あるいはその両方。私たちには実害がありません」
「そうか。むしろ」
 なぎさがのみ込んだ言葉は「それだけキョウ君からのプレゼントがあたしのところに来る確率が上がる」だった。
 美鈴も理解したし、詩穂理は言うまでもない。
 つまり実害がないどころかむしろ歓迎なのである。
「それじゃなおさら」
「まぁ待て」
 大樹が制止する。
「高嶺だってそんな露骨な真似はしねえと思うぜ。なー。シホ」
「え、ええ」
 これは裕生なりの援護射撃なのかと女子たちは解釈した。
 しかし大樹も加わっているあたりやはり「確率」高めに来ているようだ。
「二人がそこまで言うなら」
 ほほを赤く染め、うるんだ瞳で二人を見て引き下がる優介。

 ホテルの正面に高級車が横付けされる。
 出られる従業員が総出と、出迎えが超VIP級である。
 その中にはまりあの兄。高嶺秀一もいた。
 やがて車から一人の紳士が下りてくる。
 背はさほど高くない。
 どちらかというと女顔。
 しかしどこか威厳を感じさせた。
「お久しぶり。父さん」
「まったく。お前たちがなかなか顔を出しに来ないから、こうして時間を割いてこんな場所まで来る羽目になった」
 高級ホテルを「こんな場所」呼ばわり。
 彼はそれが許される。
 なにしろここのオーナー。
 そして高嶺兄妹の父。礼嗣(れいじ)だった。

 礼嗣は周囲を見回す。確認をすると不機嫌そうに
「まりあはどうした? 出迎えもなしで」そういった。
 やはり目的は愛娘だ。
「今夜はまりあが主催ですよ。主として恥ずかしくないように、客人をもてなしています」
 やんわりと秀一が事情を説明する。
「ぬ……」
 それは礼嗣の教えである。
 それを守っているだけといわれては仕方ない。
「よかろう。ならばこちらからでむこう。私からも客人に挨拶したいからな。だが」
 ここで目に見えぬ迫力が増す。
客人とは女性であろうな? たとえ男でも何の関係もないただのクラスメイトであろうな? 万が一まりあに手を出そうというのであれば、昔取った杵柄でこの左腕からのコークスクリューを見舞ってくれるわ
 礼嗣は若かりし頃にボクシングしていたことがあった。
 それは精神修養の一環としてのモノだったが、今は完全に親バカ。娘を溺愛する父親である。

 まりあたちのプレゼント交換会の部屋。
「そんなに疑うならわたしは最後でいいわ。わたしと優介に縁があるなら残るはずですもの」
「まるで占いだね……あっ」
 言ってからなぎさは京都の地主神社。恋占いの石でのことを思い出した。
 あのときのまりあは散々な結果が出た。
 もしかしたらそれを拭い去るべく、もう一度試そうとしているのかもしれない。そう思った。

 まりあを除いた八名でじゃんけん。
 勝った順にくじを引く。
 最初は恭兵だった。
 9枚のカートが伏せられている。
 縦三枚。横三枚で九枚だ。
「よし。左下だ」
 サッカー部の彼はゴールにシュートするイメージで選んだ。
 カードをめくるとさらに番号。
 その番号を付けた箱がワゴンに乗せられて運ばれてくる。
 ピンク色の可愛い包装紙に水色のリボンである。
(ピンクはまりあの好きな色。これは当たりかっ!?)
 意気込んでその場で包装を解く。
 出てきたのは「阿修羅観音像」だった。
「誰だよぉぉぉぉぉぉぉ!? 仏像なんて送り付けてきたのはぁぁぁぁぁぁぁ? 怖いじゃないかぁぁぁぁぁぁっ!」
 日ごろのプリンス振りも忘れて絶叫する恭兵。
 それほど強烈なものだった。
「俺だ」
 あまりにも予想通りの送り主・大樹だった。
「おま……何の嫌がらせだよ?」
「お守りに」
「はぁ?」
「何かと体力がないからな」
 明らかに恭兵。なぎさ。裕生は該当しない。まりあもだ。
 やはり美鈴を思ってか。ただし詩穂理も運動面でならかなり悲惨である。
 どちらを思ってなのか?
「いいんじゃねーの? オメーすぐ女の子に手を出すからな。見張ってもらえよ」
 無責任に言う裕生だが、横でうなずいているなぎさも大概である。
「もしかして、これ手彫りですか?」
 体育以外なら芸術系にも強い詩穂理が看破した。
 大樹はうなずく。
「魂を込めた」
 こうなると後は美鈴が気に入らないものを引き当てたときに、交換の名目で押し付けるしかないと恭兵は観念した。

「次は私ですね」
 詩穂理の引き当てたのは?
「おもちゃ?」
 それも男児向け。
 片方は刀身の赤い剣のおもちゃ。
 もう一つの大きなものはサーフボードを思わせるものに、銃の操作部分のようなものが付いている。
 やはり赤い。
「おっ。シホに当たったか。『特装ハイパーフェクター』のマルチユニットとフェクターブレードのサイクロンプラズマセット」
 この年に放映されている特撮番組の手持ち武器のおもちゃだ。
 放映の前半で出たアイテムだが、クリスマス商戦で再び店頭に並び始めていた。
「ひ、ヒロくんの!?」
 確かにこんなチョイスは裕生しかない。
 好きな男からのプレゼントだが、これでは喜べない。

「かわいぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ」
 叫んだのはプレゼントを選んだなぎさではない。
 まりあである。
「可愛い可愛い可愛い可愛いーっ」
 本気でテンションマックスである。
「いや。このクマのぬいぐるみ、あたしが当たったんだけど……」
 まりあは聞いていな。
 その手作りのぬいぐるみにくぎ付けだ。
 恥ずかしそうに美鈴が切り出す。
「あ、ありがとう。そんなに喜んでもらえるなら、今度もう一つ作ってまりあちゃんに」
「本当!? 約束よ。美鈴さん。材料ならそろえるから。道具もなんでも用意するわ」
「え? これ美鈴が自分で作ったのっ」
 なぎさの問いに頷く美鈴。
(女子力が高いとは思っていたけどここまでとは……しかし旦那は仏像で嫁はぬいぐるみって手作り夫婦だわ)
 当人たちが聞いたら赤面必至のなぎさのコメントだ。

 そのなぎさのプレゼント。タオルとリストバンドが裕生に当たった。
「サンキュー。ちょうどいいや。今度のスキー合宿で使わせてもらうぜ」
「あはは。大事にしてね」
 だがそのタオルとリストバンドは、とあるサッカーチームのアイテムだった。
 そう。恭兵の好きなチームの。
 なぎさの立場で行けばはずれである。
「ああ。年明けにあるんでしたね……」
 運動の苦手な詩穂理が陰鬱なオーラを出す。
 冬休み後半。二年生は全員参加で体育の授業の一環でスキー合宿に参加する。
 任意だったら詩穂理も美鈴も絶対に行かない。
「心配すんなって。オレも手取り足取り教えてやるからよ」
 他意はないと思うのだが、何かこの二人でだと勘繰りたくなる言葉である。

「わぁ。素敵なマフラー。でも、ちょっとこれは長すぎない?」
 美鈴が引き当てたのは恭兵の用意したマフラーだった。
 さすがに自分で用意したものでは交換ともいかなくなった。
「これはね、こう使うのさ」
 半ば自棄で恭兵は意図を説明する。
 まず美鈴に巻き、そして
「来てくれ。大地」
 呼び寄せた大樹の首にマフラーの余りを巻きつける。
「な。身長差あってもいけるだろ」
「う、うん。ありがとう」
 美鈴はこの「恋人巻」に真っ赤である。

「これは?」
 哲学書だった。
「大地君が引いたんですね。冬休みは時間があるからちょうどいいかなと思って」
 にっこり笑う詩穂理。
 確かに彼女ならこんな本でも読むだろう。
 しかし大樹には自信がなかった。
 たぶん5ページで夢の世界に出向くだろうと。
「ありがとう」
 それでも感謝の言葉は忘れない。

 そのころ、大ホールでは。
「ビンゴォーッ」
 クリアだが甲高い声の少女がビンゴを成立させていた。
 おもに女子がうらやむ中、その少女は受け取るべく前に出た。
 女性係員から受け取ると、司会の女性から一言あった。
「はい。おめでとうごさいます。化粧品セットです。これで彼氏にきれいだよって言わせてくださいね」
「やっだぁ。もう。あたしそんな人いませんよぉ」
 ツインテールの眼鏡少女。赤星みずきは笑顔で応じる。

「ンフ。いいものもらっちゃった」
 本気で喜んでいる。一方、七瀬は苦い表情だ。
「ちょっとみずき。あんたいつまで女の子になりきってんのよ。戻るんでしょ?」
「ええ。三年になったらやっと本来の扱いに。でもそうしたらなんか今の女の子でいる時間が愛おしくて、つい女っぽくなっちゃうのよねぇ」
「あ、あんたねぇ。いい加減にしとかないとその言葉遣い治らなくなるわよ。冬休み中におじさまに特訓した方がいいというべきかしら?」
 半ば切れかけてきた七瀬である。
(あらあら。もしかしたら入用でしょうか? いつでも用意してますけど)
 そんなことを思う姫子。

 プレゼント交換会。残り三人。
 まりあはラスト。理子からだった。
「まりあからのね」
 プレゼントは羽をモチーフにしたフェイクピアスだった。
「うん。それなら男の子でも女の子でも大丈夫と思って」
 いうまでもなく、この意味は男子と女子のどちらに当たってもという意味であり、理子の体質には無関係。
 それでも理子は運命的なものを感じていた。
「ありがとう」
 いうなり理子は借り物のフェイクピアスをはずして、改めてまりあからの贈りものである耳飾りを付けた。
「どう?」
 女性的な、それも男に向けたものではなく『女同士』の無防備な笑みだ。
「よく似合っているわ」
 社交辞令などないまりあの本心だった。
「友情の証ね」
「そういってくれるとうれしい。いつまでも友達よ」
 その両手で理子の両手を包み込む女の子らしい握手だ。

 まりあがラストなので優介。
 すでにまりあのプレゼントは理子に当たっている。
 結果からいくと自分のモノを持ち帰る羽目にはならずに済んだ。
「写真立て?」
「ええ」
 当然だがこれは理子から。
「よかったら、その……」
 ちょっとした未練だった。
 男女両方の性別を持つ彼女は、行く先々で居場所をなくし、もうすっかり諦めていた。
 ところがここでは友達もできたし「恋」もした。
 自分で去ると決めたものの、少し「ここにいた証」を残したくての『写真いれ』である。
 むろん、受け取った人間が自分の写真を入れてくれるとは限らない。
 家族の写真。あるいは恋人のものかもしれない。
 それでも「残したかった」のだ。

 それを正確に読み取ったのか「優介さん。もしよろしければ」雪乃が撮影を申し出た。
 優介は笑みを浮かべると
「それじゃみんなで」
全員での撮影にしてしまった。
 理子を真ん中にして優介とまりあで挟む形。
 そのわきに美鈴と詩穂理。
 後列は背の高い男子たちとなぎさである。
「ゆきますよ」
 合図を受けて笑顔になる一同。撮影が済んだ。
「それじゃこっちは記念の品で」
「あ、ありがとう。本当にありがとう」
 どこの学校でも正体がばれるとつまはじきにあっていた理子。
 それがここでは爪弾きどころか一緒に記念撮影である。
 涙もこぼれる。

 そして、まさに「残り物に福がある」を地で行く展開。
「うそ!? 本当にわたしに優介のプレゼントが?」
 当のまりあ自身が半信半疑だった。
 大きな目をさらに見開いている。
「あー。疑ってごめん」
 なぎさが殊勝な声で謝る。
 しかし当人は舞い上がっていて聞いてない。
「やっぱりわたしと優介は赤い糸で結ばれているんだわ」
「クジ運が強いだけだろ」
 ぶっきらぼうな優介。照れ隠しにも聞こえる。

「ありがとう。開けるわね」
 ここまで全員開けているのだ。彼女だけに「後で」とは言えない。
 出てきたものは、チェーンのやたら長いネックレスだった。
 チャームは十字架だが宗教的な意味合いはないようなデザイン。
 ただかけると明らかに胸のふくらみより下に行くであろう。
 要するに完全に男子用のサイズである。
 チャームのデザインもどちらかというと男子向け。間違いない。その場の全員が察したのだが
「ありがとう。さっそくつけさせてもらうわね」
 『男子用』というのを完全無視してチェーンの留め金をはずす。
 そして首に運び、後ろ手で留め具をつける……はずだったのだが
「いやぁーん。からまっちゃったぁ」
 普段ならツインテールで髪のない位置に、今回はポニーテール風にまとめたから髪があり、それに引っかかってしまった。
「やだ。取れない。痛い。うー。(髪を)切らなきゃダメ?」
 悪戦苦闘するまりあ。見かねて女子たちが助けようとするが
「まったく。お前は教育受けている割には普通のことができないな」
 悪態をつきながら優介が歩み寄る。

 優介はまりあの背後に回り、絡まったものをはずしにかかる。
「だいたいお前は昔から一人じゃ何にも出来ないんだから。秀一さんやメイドたちが助けてくれないと全然だめだ」
(昔から?)
 いきなり突きつけられた『二人の歴史』。
「お前みたいなバカ女は誰かがずっとついててやらないといけないんだ。ホントに手のかかる」
 まるで自分が面倒を見るかのような口ぶりだ。
 そのせいかまりあも言われっぱなしで言い返さない。
「ほら。外れたぞ。ついでだ」
 今度は前に回る。
 そして前方からチャームの位置を確認しながらチェーンを首の後ろに回し、付け直す。
 それが密着を産み、まりあをトマトのように赤くさせた。
「ねぇ。後ろでつけて後からチャーム直してもよくない?」
「それ以前にあれだけ長いなら、留めた状態でも首にかけられるのにわざわざあの状態に?」
「水木君。まりあちゃんを抱きしめたかったの?」
 こういうところは「女子」である。
 食いつきを見せるなぎさ。詩穂理。美鈴。
「か、勘違いするなっ。ぼくはホモなんだ。女なんかとくっついても何も感じない」
 赤くなりつつ弁明する。

(これでいいわ。むしろ見せつけられたほうが未練も残らないわ)
 理子の心中は複雑だった。

 プレゼント交換会が終わり、会場にみんなで戻ろうと移動開始した時だ。
 まりあはまだ陶酔の赤い顔だ。それに対しての呼びかけ。
「まりあ」
 大多数が知らない男性の声がした。
「お父様!?」
 一瞬で真顔に戻ったまりあが叫ぶ通り、そこにはまりあの父・礼嗣が秀一に連れられてやってきていた。

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