第21話「Come on Everybody」

 新しい年を迎えた1月3日。
 秋葉原駅電気街口にまりあたちは集合していた。
「なんでみんな着物じゃないの?」
 怪訝な表情のお姫様。
 いうだけにまりあは振り袖姿。
 まりあの纏う着物の色をピンクというより「桃色」と表現したくなるのは「和」のイメージゆえか。
 和装だけにトレードマークのツインテールも封印してまとめ上げている。
 ただし和服にもかかわらず新しいトレードマークのピアスはある。
 これまた和のイメージか桜の花をかたどっている。
 そこまでしておいてノーメイクであるが「花も恥らう乙女」だけに十分に華やいだ雰囲気を出していた。
「ほら。この着物。いーでしょー」
 花の咲くような笑顔で友達に自慢。むしろ誘いをかけている。

「だって着付けとか面倒じゃん」
 なぎさの発言。いつものレディースパンツとTシャツの上からのジャンバーだ。
 かなり寒いにもかかわらず「上着」の下は「薄着」である。
 やはりノーメイクだが高校生だからというより、これまた「面倒だ」という理由。

「私はちょっと胸で不格好になるので着物はあまり」
 黒いコート姿の詩穂理。
 コートの下はさすがにブラウスだけではなくセーター着用。
 ボトムは彼女の定番のロングスカートだった。
 運動神経の良くない彼女だが、それでも重いブーツを履いている。

「美鈴が着物を着ていると、お年始のお客さんに完全に子ども扱いされて」
 こちらは赤いコート姿の美鈴、
 しかしコートからのぞく足はいわゆる生足。
 体力面に不安がある彼女だが、実は冬場にもかかわらず肌の露出は多め。

 なぎさはともかく美鈴と詩穂理は京都で見た和服姿で、本人たちの言葉が誇張でもないと理解できる。

「そんなことないと思うけど」
 リップサービスでなく本気でそう思っているようなまりあだ。
「それに美鈴さん。厳密にはわたしたちみんな未成年で『子供』じゃないの。お年玉ももらったし」
「えっ? 高校生なのにまだもらうんですか?」
 本気で驚いている詩穂理。
「確かに。高校になってからはオレももらってないし、千尋の奴も今年からなしになったんで嘆いていたな」
 裕生の妹・千尋は一年前まで中学生だったのでまだもらっていた。
 裕生はなぎさに合わせたわけでもあるまいが、ジーンズに半そでTシャツ。
 その上からファー付きの革ジャンといういでたち。

「だって行く先々でくれるんですもの」
 悪びれずに言うまりあ。
「何かわかる気がするよ。同じ男として」
 スラックスとワイシャツ。ベスト。その上から純白のコートをまとった伊達男・恭兵がまりあに同意する。
 たぶん親類縁者だけではないだろうなと恭兵は思った。
 彼自身もほれ込んでいるまりあの愛らしさ。
 男だったら多少は財布のひもがゆるくなるのも理解できると。
 実力者である礼嗣相手にとりいる目的もあり得るが、あの溺愛振りを見ると逆効果なのは言うまでもない。

「美鈴ももらったけど、おばあちゃんなんか『今年から中学生だね』なんて言いながらくれるもんだからショックで。やだなぁ。おばあちゃん美鈴のこと忘れちゃったのかなぁ」
 昏い美鈴と対照的に、なぎさは必死に笑いをかみ殺していた。
(そりゃおばあさんの年のせいじゃなくて、みんな勘違いするよね)
 何しろ化粧すると大人っぽくではなく、逆に童女らしくなってしまう顔だ。

 改札から出る客。入る客がそろいもそろっていかつい巨漢に驚き、見上げて通り過ぎる。
「行くか」
 2メーター近い巨漢はとにかく目立つ。移動したがっていた大樹。
 お気に入りなのかミリタリーというか迷彩柄である。
 この筋肉と巨躯を思うと、ロケットランチャーくらいは軽々と持ち上げそうだ。
「うん。いこう」
 ついていく優介。
 ゆったりとしたシャツ。いや、ブラウスか?
 ボトムもレディースパンツを思わせるシルエット。
 さらにはヒョウ柄の女性用コートだが、それが全く違和感なく似合ってしまう美少年だった。

 男四人。女四人の少年少女は目的地へと歩き出す。

 神田明神。初詣に選んだ場所はここだ。
「へぇー。ここが神田明神というところなのね。初めてきたわ」
「「「うそっ!?」」」
 ツッコミ気質のなぎさどころか詩穂理。はては美鈴にまで驚かれるまりあ。
「なんでそんなに驚くの?」
 きょとんとする表情すら愛らしい美少女。
「だってあんた。地元でしょ?」
 優介とまりあは千代田区民だ。
 東京都千代田区在住のまりあにしたら「神田明神」は「ド地元」なのだが。
「初詣自体がいつも明治神宮なのよ」
「うわ。あんな混むところにわざわざ」
 げんなりした表情のなぎさ。
「そうでもないわよ。わたしの家ではいつも五日くらいまでハワイで新年を迎えるから。帰国してからだとそんなに混んでないわよ」
「何それ? 正月をハワイでって、芸能人?」
「だって寒いんですもの。一家でのんびりしてきたわ」
 まりあを溺愛する父。礼嗣がまりあのわがままを聞くと同時に、日本から離れることで友人たちと遊びに行かず、結果的に父親のそばにいるのを狙ったというのは想像に難くない。
 そんな発想が出るほど、クリスマスパーティーでの出会いは強烈だった。

 ちなみにまりあと秀一の身の回りの世話をしているメイドたち。
 中川雪乃。竹芝八重香。高山陽香の三名は、秀一とまりあがハワイに発ったのちに家の大掃除を済ませたらそれぞれ帰省していた。
 前年は四日にまりあたちの家に戻り、体を慣らしつつ準備。
 五日には高嶺兄妹を迎え入れていた。
 この年は元日の夜に戻ってきた形になる。

「それじゃ今年なんでこんな早くに?」
 なぎさが尋ねる。
「だってみんなと逢いたいじゃない」
 なぎさ。詩穂理。美鈴とは二年に進級してから知り合った。
 一年の時は全員違うクラスだったのだ。
 それぞれの恋のために「同盟」となったが、今では「打算」抜きのかけがえのない親友である。
 それゆえか女同士なのに、ほれちゃいそうな可愛い笑顔でまりあが答える。
(くぁっ。キョウ君が夢中になるはずよね。女のあたしが見てもこいつ可愛いし)

 現在は神田明神の前の「車道」に列を作っている中にいた。
 いうまでもなく公に認めている列であり、整理も警察によるものであった。
「なかなか進まないね」
「この行列。ほら。夏に行ったまんがのお祭りの時を思い出さない?」
「ブックトレードフェスティバルですね。確かにあれも凄い人混みでした」
 ブックトレードフェスティバル。略称。トレフェス。さらに縮めてトレスは同人誌即売会。
 裕生はサークル参加の助っ人。詩穂理はその見舞いに駆け付けた。
 好奇心から見物に出向いたまりあたちは、あまりの人口密度に驚き、そして怯えた覚えがある。
「この前なんかもよー、みんな着込んでるから混んじゃってなぁ」
「この前? 風見君。また行ったの?」
 裕生だけならまた「助っ人」に駆り出されたということでおわりだったが
「ああ。里見に誘われてシホと一緒にな」
「ひ、ヒロ君っ!?」
 あわてて詩穂理が制止する。どうやら内緒の話だったらしい。
「えっ。詩穂理さんまでっ?」
 驚きはしたが裕生がいたのであれば、また理解できる。
 詩穂理がまた裕生のサポートに出たと。
 しかし聞き逃せないのが里見恵子の名前。
「もしかして……シホちゃんまたコスプレしたとか?」
 何気ない美鈴の問いかけに無言の詩穂理。
 しかし白い肌が朱に染まったことで、答えは聞くまでもなかった。

「あたしらは遊びどころじゃなかったよ。合宿でさ」
「あたし?」
 きっちり言葉尻を捕えたまりあ。あたかも報復のようだ。
「ああ。いや。陸上部のみんなとだよ。三浦海岸で大みそかまで」
 弁解するようななぎさの態度。
 そっぽを向いている恭兵を見てまりあは思いついたことを実行した。
「火野君。合宿でレベルアップしたの?」
「聞いてくれるのか? まりあ。そうなんだよ。今までうまくいかなかったゴール右隅へのシュートの精度が上昇してさ」
「へぇ。充実したサッカー部の合宿だったみたいね。どこでいつまでやっていたのかしら?」
「三浦海岸で大みそかまでだよ。なんだよ。関心あるなら陸上部なんかとじゃなくて、テニス部と合同合宿したかったぜ」
 好意を持つ「学園のアイドル」が自分に関心を示したことで、言わなくていい情報まで吐露してしまった学園の貴公子。
 隣ではなぎさが赤い顔で「バカ」と小声でつぶやいていた。
「ふーん。そうなんだぁ」
 にやにやしているまりあ。完全にやられたとなぎさは思った。

 やっと鳥居の前まで来た。
 緩やかな坂では両側で屋台が並んでいる。
 空腹ではないのに食欲をそそる香りがする。
「さすが正月だな。つきたてのお餅があるみたい」
「あれは美味しいよね。なぎさちゃん。美鈴でも三個食べられたもの」
 小食の美鈴にしたらかなりの量だ。
「へぇーっ。あんたが餅三つなんて珍しいね。かなり美味しいものだったんだね」
「たって大ちゃんがついてくれたもので……あっ!?」
「何だよ。みんな揃って自爆大会?」
 女子相手に辛辣な優介の言葉が飛ぶ。

「何よ。わたしなんてハワイにいたから優介と逢いたくてもあえなかったのに、みんなはきっちり好きな相手と冬休みを楽しんでいたのね。ひどいわ」
 僻み混じりのまりあの言葉。
「お参りが済んだら聞かせてもらうわよ」
 そろそろ鳥居をくぐるところまで来たので、いったん話題を封じた。

 ところが鳥居をくぐってからが長かった。しかも凄まじい人口密度。
 ラッシュアワーの通勤電車のようだ。
 それぞれ一組ずつ。バラバラになってしまう。
「つ、潰れる」
 小柄な美鈴がもみくちゃにされる。それが「上から」引っ張りあげられる。
 大樹が片手で美鈴を「拾い上げて」いた。
 そしてそのまま肩車する。
「だ、大ちゃん。おろして」
「大丈夫だ」
 大樹は美鈴が遠慮。気遣いをしたととった。
 それもある。
 だが美鈴はスカート姿なのである。
 それが肩車である。
 股間や太ももが衆人環視の中で大樹に当たる。
 肩車に注目されるより恥ずかしかった。

 大樹は巨漢だ。何しろ目立つ。
 肩車などすれば尚更で裕生にも見えていた。
 彼は感心したように「ふむ。なるほど。いい手だな。シホ」と口にした。
「や、やりませんよ。ヒロくん。肩車なんて」
「嫌か? じゃあ抱いてやるよ
「ぶっ」
 周辺で一斉に噴き出した。
 白昼堂々大胆なセリフである。
「ほれ。こいよ。はぐれないようにオレが抱えて運んでやるから」
 何のことはなく「抱き上げる」の意味で「お姫様抱っこ」の体勢だった。
「い、いいです。こんな人混みで迷惑になります」
 現実味がある分「お姫様抱っこ」の方が恥ずかしく思えた。
「しょーがねーなぁ。それじゃせめて」
 裕生は左手を差し出す。
「手だけでも繋いどこうぜ」
「う、うん」
 おずおずとその華奢な白い右手を裕生の左手に。
 日常生活では裕生が右手を主に使い、詩穂理は左腕を。
 だが本来の利き腕は逆なのである。
 いわばお互い「本来の姿」で手をつないでいた。

 これも恥ずかしいけど心が温かくなる詩穂理だった。

「きゃっ」
 もみくちゃにされて恭兵に「抱かれる」体勢のなぎさ。
「お前なぁ……仮にもオリンピック級のスプリンターが、ちょっと突き飛ばされた程度でよろける足腰でどうするよ?」
 なぎさ相手だと「貴公子」の仮面をかなぐり捨てる恭兵。
 幼なじみゆえの遠慮のなさだった。
「ご、ごめん」
 なぎさにしても故意ではなかったのだが、何しろ身動き取れない。
 それどころかさらに押し込まれる。
「うわっ」
 今度は恭兵がなぎさを抱きかかえるように押し付けられる。
 完全に胸か重なっている。
 なぎさの甘い吐息にどきっとなる。
「わ、悪い。すぐ離れる」
 前言の手前、謝罪をする。
 そしてさすがにこれは意識する。思わず素直に言葉が出た。
「う、ううん。いいよ。別にこのままでも」
 赤い顔で小声で言うなぎさ。
(こ、こいつ。こんなにお淑やかな一面があったのか?)
 小学生の時に男子の大事なところを蹴り飛ばした少女とは思えないしおらしさだ。
 「ガサツな乱暴者」となぎさを評していた彼にしたら「衝撃」とすら言えた。

 二人はしばらく抱き合った体勢に。

「いーなー。みんな仲良くて。ねぇ。優介……あれっ?」
 実は偶然の産物なのだが、それぞれ女子の思い人と二人ずつ一行からはぐれていた。
 まりあは優介と。
 これを作為的なものと勘繰られても無理はない。
 優介は逃げていた。
「ちょっと優介!? どこ?」
 親とはぐれた幼子のように不安に駆られるまりあは、ちょっと高くなった声で叫ぶ。
 結果として現在は「一人」と宣した形だ。
「ねーねー。彼女。一人? よかったらこの後お茶でもしない?」
 時代錯誤なナンパ師が現れた。
 ビジュアル自体は悪くない。
 むしろ女性に受けるタイプの「優男」だった。
 それを鼻にかけて片っ端から美女と関係を持っていた。
「結構よ」
 普段の外交的な態度はどこへやら。
 露骨に嫌悪感を表情に出す。
 美少女の上に大富豪の令嬢。
 言い寄る男はうんざりするほどいた。
 まりあにしたら「嫌いなタイプ」だった。
 実は恭兵もそれに入っているが、なぎさの手前もあり友好的にふるまっている。

「そういわずに。俺、着付けできるから『姫初め』の後も心配ないからさ」
「姫初めですって!?…………それ、なぁに?」
 とことん『俗語』に疎かった。
(え? かまとと? いまどき高校生くらいならわかるだろ。あ、ちょっと言葉が古いか? 正月だし着物だから和風で攻めたが)
 調子が狂うが知らないのを好都合と取った。
「それじゃ教えてあげるよ。手取り取り」
 「やる気」満々だった。だが
「ほんとう? ぼくの腰をとってくれるの?」
 背後から声。さらに耳の裏に息。
「わひゃああああっ」
 ナンパ師は驚いた。
「あ。そこが弱いんだ」
「くすくす」と少女のように笑う美少年。
「ゆ、優介?」
 そう。まりあの言うとおり優介がナンパ師に文字通り『絡んで』いた。
「な、なんだてめえっ!? わっ。ケツにナニ押し付けてんだっ!?」
「えー。だって相手探してたんでしょ? ぼくじゃだめ?」
「離せ変態。警察に言うぞ」
「へー。おまわりさんになんて言うの? 『男に痴漢されました』って男の人が言うんだ。わー。恥ずかしい」
 口調から風貌から女っぽい優介。
 それだけにますます「言葉攻め」の様相を呈してきた。
 本当に恥ずかしくなってきたナンパ師である。
「けっ」
 強引に振りほどくと、参拝客で混雑した中を逃げて行った。
「ばぁーか。ぼくがお前みたいのの相手するかよ」
 醒めた調子で言う。
 いっさい暴力は振るわないが、精神的に叩きのめした。

「優介……ヤキモチ焼いて助けてくれたの?」
 それまでの不機嫌もどこへやら。
 輝く笑顔。少し潤んだ瞳でまりあが問いかける。
(うっ)
 希少な和服姿。そして「大和撫子」な笑顔に「恋愛対象は男」のはずの彼がときめきを覚えた。
 照れから「か、勘違いするなよ。お前を助けたんじゃない。あの男……の人がタイプだったから、アプローチしたのに逃げられただけの話だからな」
「さっきは『相手しない』って言ってたわよ?」
 茶目っ気のある表情で矛盾を突かれた。

どう? 似合う?

このイラストはOMCよって作成されました。
クリエイターの對馬有香さんに感謝!


「うるさい。ほら。前に行くぞ」
 騒ぎの間にも前方に進んでいた。
「あ。待って」
 あわててまりあも動きにくい着物で懸命についていく。

(ほんと。どうしたんだろ? あの男にまりあが絡まれているのを見ていたら無性に腹が立ってあんな真似を? 熱でもあるのかな?)
 自分をホモと思い込んでいる少年は「本当の気持ち」からも目をそらしていた。

(父さんの話が影響して感傷的になってしまったのかもしれない。一応は長い付き合いだし)
 晴れやかな新年に似つかわしくない、寂しさをたたえた優介の瞳だった。

 それぞれがお参りを済ませていた。
 幸い大樹たちが最初だったので、巨漢が目印になり再合流を果たした。
「これからどうする?」
「決まってるわ。みんなの話を聞かせてもらうわよ」
 動きにくい着物なのに先頭に立つまりあ。
「これはもう話さないと収まりつかないな」
 観念したようななぎさ。
「それに美鈴もシホちゃんやなぎさちゃんの話も聞きたいし」
 恋の話を予感している美鈴が目を輝かせている。
「よっし。このあたりなら上条に付き合って何度も来ている。案内しようぜ。シホ」
「ああ。やっぱりそうなるんですね……」
 いったい同人誌即売会で何をしてきたのか。
 他の面々も詩穂理の態度で興味を抱くのも皮肉なものである。

 裕生たちの案内で秋葉原を通り過ぎ、御徒町へと抜けファミレスに。
 これから近況報告会になろうとしていた。

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