EXHIBITION! 〜斑VS帝〜


 日本の夏。 トレスの夏。 時はその二日目(つまり、瑞樹たちが来る前日)のこと。
 さるネットノヴェルのコスプレをしたまま、少女二人は東京の宿への帰路に付いていた。
 背が高そうな女性のは、黒い生地のチャイナ服だろうか。 袖無しの、割と動きやすそうな格好だ。
 相方の小柄な少女は同じく、だが色は黄色だ。 露出を抑えてサマーカーティガンを羽織っている。
 二人は仲睦まじく腕を組み絡ませて、恋人のように歩いていた。
 否、実際に恋人同士なのだ、二人は。 歳の差があるように見えるが、ほぼ同じ歳だ。
 加えて、既に経験済みでもある。 ただ、これに関しては小柄な少女にとっては『邪悪な意志によって』と但し書きが着いてしまうが。 それを和らげるように、黒い服の少女もその純潔を彼女に捧げたのである。

 ・・・彼女たちの所在地は、名古屋・・・正確には愛知県内にある。 トレスで買った戦利品の数々は、途中のコンビニで郵送することにした。 これで明日もまた、手ぶらで見て周れる。 明後日に帰宅する予定だ。
 昨日から泊まり掛けだが、黒服の少女の信頼性から黄服の少女も同伴している。
 そうして、明日に備えて宿へ向かっていた。
「オレは二度目だけど、流石にキツイな・・・レヴェルドレイン食らった気分」
 黒服の少女は男口調でそうぼやく。 疲れてはいるが気分的なものであい、体力面ではまだまだ、在り余っている。 時間が許せば、相方と少し荒い一夜を過ごせるし、その方がスッキリもする。
「見て廻ったときに、吸血系クリーチャーに吸われたんですか?」
 小柄な少女が心配そうに見上げた。 トレスに行くだけあって、謎な会話だが。
「まあ、レヴェルだけだから、寝れば治るさ」
 そう、穏やかに微笑む様に、小柄な少女は安堵した。
「今回ばかりは、水葵[みずき]ちゃんの財力に感謝ですね」
「ああ。 でなけりゃ、こんな真似、出来やしないだろ」
 その分、お土産も強請[ねだ]られたが。
 そうして、宿になっているホテルに近づくと、黒服の少女の足が止まった。
「?」
 見ると、目を閉じて耳を済ませて居るようだ。 だが、その聴力はフクロウのレヴェルにある。
「急用が出来たな」
 少し悔しそうに呟く。 相方も寂しそうに、しかし、彼女を奮い立たせた。
「速く済ませて寝ましょうよ。 でないと寂しくて、昼も夜も我慢出来ません!」
「あんたは、セルタ・ルフか!」
 軽くツッコミつつ、目が笑っていた。
「・・・ともかく、せいぜい努力するよ」
 こっちもその恋人役の女性騎士に倣って台詞を吐くと、素早く
「ん・・・」
 軽く口付けた。 ほんの一瞬だったが、それだけで充分、蕩ける気分になれた。
「ずるい・・・」
「ははっ・・・じゃ、行って来るよ。 長くて二時間で終わらせてくる」
 そうして、彼女は去って行った。
「頑張って滅ぼして来て・・・帝さん!」
 恋人の声を背に受けて。
 彼女、梟神 帝[きょうがみ みかど]は艶かしい脚線美を蹴りだして走り行く。









 その時、私、中尾勝こと斑信二朗は、獲物を横取りされた為、彼らに殺戮を味合わせていた。
 獲物は無論、女だ。 それも、私の嗜好に合致する細い首筋の女性だ。
 だが、その女が逃げた先が所謂、不良の溜まり場で、彼らは自身の若い性欲をその女で吐き出そうとしていた。
 先に壊されては楽しみが減るので、私自身の能力も駆使しながら、殺して行く。
 骨も、灰も残さない。 それが、私の力の一端だ。
「あ・・・あああっ・・・!」
 その生き地獄を目の当たりにして、女が悲嘆に喘ぎながら、漏らして床を濡らした。
 そう・・・その表情だ・・・。
 私は愉悦に浸りながらゆっくりと近づき、両手で女の首を持ち上げた。
 両の親指を、喉元に突き立てる。
 ゆっくりと、じっくりとそれに力を込めて行く・・・が。
(誰だ?)
 足音が近づくのを、耳にした。 数は一つ。 だが、恐ろしく早い。
 向かって来る先へ視線を動かすと、はたして、一人の少女が駆けて来た。
 その瞬間。
(何ぃ!?)
 私の腕は雷に切り裂かれ、獲物を取り落してしまったのだった・・・!





 帝が走る事、十数分。
 取り壊しが予定されている、バブルの残骸だろう廃ビルに足を踏み込んでいた。
 女性の苦悶の声を頼りに、駆ける足を止めない。
 そうして、広いホールのような場所に出た瞬間、帝は指先から魔術を繰り出した。
雷よ[カンナ]!」
 たった一言で良い。
 その一言で指先から雷が疾り、女性の首を掴んでいた男の両腕を切り裂いたのだ。
 それも、まだ脚を止めること無く!
疾駆[ホュプ]!」
 男が取り落とした女性を、落下中にキャッチ!
 慣性の法則で、弧を描き減速しながら、男の懐を走り去った。
 反転して、両足を踏みしめて制動。 砂埃を舞い上げながら、漸く停まった。
「・・・大丈夫ですか?」
 帝が声を掛けると、女性は怯えながらもしっかりと頷いた。 精神面以外では対した外傷も無いようなので、帝は安堵の息を吐き出した。
「全く・・・やってくれちゃって・・・!」
 帝は女性をお姫様抱っこで軽々と抱え持ちながら、ゆっくりと立ち上がった。
「・・・邪魔をしてくれたな・・・」
 手を掛けようとしていた男は、不機嫌極まりない声で帝を威嚇する。
「それで、彼らみたく、オレも燃やし尽くすのかい?」
(なに?!)
 帝の言葉に、彼は驚愕した。 死んだ直後の人間の霊魂でも視えるのか!?
「それにその声・・・変装で年増にしているようだけど。 実際はもう少し年下じゃないの? 尤も、ドッチにしてもオッサンには変わり無いか。 極め付けは・・・」
 スッと目を細めた。 その目は・・・常人には有るまじき金色の瞳で、彼を見据えていた。
悪霊[ウェンカムイ]に憑かれているのか? それとも、使役しているのか。 まぁ、普通の、それも人間には視えないようだけど?」
「・・・何者だ、貴様!?」
 悉くを見ただけで看破した少女に怒号する男・・・斑。 だが、彼女はアッケラカンとしていた。
「そうだなぁ・・・ウェーブを掛けた長い銀髪なら、迷い無くクレイン・ファ・トームと名乗る所だけど。
 これだと、やっぱりレイナ・ディ・デューンが正統かな?」
 コスプレのままの格好なので、その作品の女性キャラクターで連想した。 明らかに彼をおちょくっている。
 引き締まった細い腰から滑らかな白い肌を見せるスリット。
 ノースリーブで露わにされた腕の左には、銀の腕輪。
 それに重ねるように、上腕の左には金の輪に銀の鈴、右には銀の輪に金の鈴を着けている。
 胸はLサイズ・・・もとい、少なくともDカップはある胸が、豊かに盛り上がっている。
 だが、顔は中性的な美貌を持ち、同性にモテそうだ。 どちらかと言えば美少年顔だろう。
 髪は背中まで伸ばして、しかし、ラフに所々立っている。 ワイルドさが際立つ感じがする。
 そして、釣り目がち眉目は、凛と彼を射貫き見据え、人外の証たる金色の瞳を耀かせていた。
 間違っても、あれはカラーコンタクトではない、決して!
巫山戯[ふざけ]ている! しかも、私のマリオネットを見ている!!
 しかし、こいつ自体にはマリオネットを有してはいないようだ。 だが、あの雷は一体・・・!)
 この手の・・・自分以外の、能力的な人外を相手にするのは、斑自身始めてだ。
(人外・・・か。 私も、ある意味『人外』と言えるが・・・こいつは・・・!)
 血筋が・・・身体こそが人外だ。 物理教諭として、物理的に解剖してやりたいが、それでは生物教諭にならなくてはと、自身の矛盾に失笑した。
「さて、オレらは帰らせてもらうぜ。 恋人が待ってるんでね」
 帝は人外れた脚力で既に、ホールから消えようとしていたところだった。
 ワザとそのまま見送りつつ、射程外ギリギリまで遊ばせた。
(最後の人肌だ。 存分に楽しむがいい。 そして・・・燃え尽きろ!
 だが、残り5mと言う所で足が止まっている。 そして、斑にとって信じられない、信じがたい事実が起こった。
(女の・・・獲物の気配が・・・・・・消えただとぉ!?)
 その余りにも出鱈目[でたらめ]な事に、斑は女の首に付けてあった導火線に、火を付けた・・・だが。
「聞こえ・・・ない・・・!!」
 そう、女の阿鼻叫喚の悲鳴が、聞こえないはずがないのだ!
「当たり前だろ? 導火線も視えてたんだからさ」
 少女が戻ってきて、解説する。
「ギリギリまで引っ張って、そろそろってときに転移させたんだ。 場所はオレが泊まる宿にいる、伴侶のもとだ」
 少女は不敵に微笑みながら、斑に宣告する。
「どうせだから言っておく。 我が名は、ヴェスティア・ディ・バーグ・・・人呼んで、黒剣の王!」  帝は右手を水平に持ち上げると、小指からゆっくりと握り締めた。
「貴様は無限と原初の闇の中、もう、自分の悲鳴しか聞こえない
 先刻とは違う名乗りだが、膨れ上がる力と気迫と殺意が、指摘する事さえ難しくさせた。
「どうせだから、訊いておこう。 他に、言い遺す事はないか?
 その台詞で、この出鱈目を決めた。
「同じ台詞を返してやろう。 私は、斑信二朗・・・今、殺しのときだ!
 斑は相手を殺す事を必定に、自分の本名を名乗った。 同時に腕を振りあげた!
 飛び道具のスパークカッター・エアスラッシュだ。
 帝はそれを左手で防御しようとしていた。
(ふ、ガードか・・・・・・だが!)
 着弾を確認して、下段技のグライディンを放とうかと思ってはいたが。
「甘いぞ」
 構えた左手を無造作に振って、放った衝撃波を弾いた。
「(馬鹿な!)グライディン!
 余りにもあっさりと弾かれて、脳裏にあの怪人を思い出させる。
「ふん!」
 大地を這い走る衝撃波さえ、ペナルティーキックの要領で蹴り弾いた。
「飛び道具とは、こう使うものだ。 火よ[アペ]
 言い棄てた一言は、出鱈目な弾幕を形成させた。 嵐のように襲い降り注ぐそれは「フォレストブレイズ」と名付けた。 やはり、同人STGの弾幕からのネーミングだ。
「この程度の弾幕は、涼しい部類だぞ?」
 撃ち止めると、既に斑はグロッキーだった。
(ありえん・・・こんな、こんな・・・馬鹿なことがあるか!!)
 ある程度は避けきり捌いたものの、数に押されて幾らかダメージを受けた。
(だが、お陰で気は溜まった。 反撃させて貰うとしよう!)
 斑はゆらりと構える。
「お、まだやる気? まぁ、ハンデで少しくらいはノーガードしてやるよ」
「その判断を悔いろ。デストラクション!
 エアスラッシュとグライディンの合わせ技で、帝を攻め落とす。 彼女は有言実行でガードも無しにまともに全弾受けた。 それでも平気の顔。
「あんまし、効かないな? オレが硬いのかあんたが弱いのか、判断に迷うぜ・・・」
「!・・・キリングタイム!!!
 挑発に怒号して斑が舞い上がると、空中から襲い掛かる!
「避けてみるか」
 ワンコインクリアを狙うような気軽さで呟くと、一打目をガード、二打目、三打目を躱し、四打目をガード。
「読まれるの、気付いてる?」
 そのまま、間接技を極めた。
「先行入力っていうんだけど、オッサン遅すぎ。 これでも手加減してやってるんだよ?」
「くっ・・・うぅぅっ!!!」
 そのまま、ポキリと極められ、斑の片腕の間接が有り得ない方向に捻じ曲げられた。
(ぐぅ・・・だが・・・気づいていまい・・・導火線を!)
 だが、見える事もあるから、すぐに残った片腕で指弾を打つ!

「ぐぁあぁぁぁぁっ!!!!!」

 帝はその有り得ない熱さに咆哮した。
(先刻の間接を極めた時か!)
 そう思い当たるも、熱さで身体がどうにかなりそうだった。
 不思議と・・・・・・死ぬ事には成らない事を、身体が理解している。
(当たり前か・・・オレは・・・)
 服の燃え焦げる臭いに、帝は立ち尽くしていた。
「・・・く・・・くくくっ・・・」
 斑は嬉しそうに笑っていた。 帝の燃える盛る様に、不覚にも勃起してしまっていた。
 服が既に燃えて消えて、艶やかな肢体を晒していたから、条件反射として無理も無いとは思うが。
「燃え尽きろ! 出鱈目の権化め!!!!!」
 その言い方に、帝は失笑した。
「はっ・・・出鱈目ね・・・言い得て妙過ぎて、反論出来ねぇや」
「なに!」
 もう、何度自分を驚かせば済むのか、この小娘は! その罵声は、一向に燃え尽され無いことから消滅した。

 有り得ない! 馬鹿な事があってたまるか!! こんな出鱈目、信じられるか!!!

「仕方ない・・・血統、低級発動・・・・・・ふん!!」
 腕を振るって掻き消すと同時に、背中には・・・肩甲骨と腰から切っ先が向かいあうような角が現れた!
「生憎だけど・・・オレは怪獣でね。 馬銜[バガン]とかいう種族なんだと」
「バガ・・・ン・・・?」
 帝に代わり、解説しよう。

 馬銜(文字が出ない人の為に、馬の後は、行構えに中が金。で、バガン)は中国の『文選』なる書物に登場する。 姿は一角の馬頭を持つ竜を成している。
 古代中国(五帝、尭の時代)に現れた海の神獣で、海に罪穢れのある身で出たり、誓約を破ったり、祈祷を誤った場合には海神の怒りに触れ、様々な妖怪が災いをなす。 バガンはその内の一つなのだ。

 海の神獣なのだから、斑の焔如きで燃え尽きるはずがないのは、通りだ。 
「あ〜ぁ、折角の一張羅が・・・」
 全裸でありながら、帝は隠しもせず残念そうに燃え消えた服に冥福を祈った。
 実家が北海道・白老で、アイヌの教えが少しは身に染めて居る帝には、服も立派な神様[カムイ]なのだ。
「しかたないな・・・服よ来たりて[エク・アンミプ]・・・纏え[ヤイカル]!」
 帝は魔術を行使して服を造りなおし纏った。 色は黄色だが、先刻と造りは同じものだ。
「ヴェスティアの次は、ファージか。 我ながら、おちょくってるよなぁ〜」
 下着なしでそのまま付けると、とりあえず隠すべき所は隠れて、ホッとした。
「な・・・なな・・・・」
 さしもの斑も、自分の炎から生還するなどといった出鱈目に付き合ってはいられなかった。
「ちょっと訊くけどさ。 この炎って、水も燃やせるの?」
「そんなこと、試すわけがないだろ!」
「そ・・・クシー・レーヴァティンより、火力が弱いんだ
 妙な納得の仕方をすると、帝は間接を鳴らしながら宣言する。
「さてと・・・知り合いたちが丹精込めて作ってくれた一張羅を、燃やし付くしたんだ。 こっちも、秘伝中の秘技を使わせてもらうぜ!」
「くっ・・・どうして・・・燃え尽され無い!?」
 斑は辛うじてソレだけを言うと、帝は即答。
愛を交わした肌に、滅びなど無いに決まってるだろ!
 さる(マイナーな)歌詞からの引用は、ここでは言い得て妙だった。
(霙と愛し合える仲で、本当に良かった・・・)
 あの小柄な少女の笑顔に、帝は安心していた。
「くらいな!」
 背中の角の間から光の翼を顕現させると、百分の一瞬で、斑の懐で構えていた。
「ほいな」
 ポンと。
 軽く、ほんの軽く胸を押され、すぐに引き離れた。
「一体、なに・・・ヴォオォォッ!!!!
 言い終わる前に、喀血した。 止め処無く、口から血がコレでもかと流れ出る。
極闘流秘技、水冥掌・・・・・・『見様見真似』だけどね」
 肺や心臓、肝臓、そして脳といった血管の多い部位に、二箇所同時に衝撃波を送る、文字通りの必殺技だ。
 早く処置すれば一命を取りとめられるが、放っておけば確実だ。
「断っとくけど、救急車は要らないよな。 他人の命を軽んじるものが、自分の命を軽んじられても、文句は言えないってね」
 フリーのADVゲームのヒロインの台詞を引用して、斑に死の宣告を与える。
(くそ・・・まだ・・・・・・こんな所で死ぬ訳には・・・!)
 帝の説教臭い台詞など耳には入っていないし、筒抜けて消え行く。
(しかたない・・・幸いな事でもあるが、またアレを使うか!)
 自分の吐いた血の海で横たわる斑に、止めを刺そうと近づく。
(変なこと、してこなけりゃいいが・・・)
 警戒しながら近づくと、光を纏って斑が立ち上がる・・・否、浮かび上がる。
「むっ?!」
 構えた瞬間、凄まじい風が帝を押し戻そうとする。 吹き飛ばされそうだが、踏み止まる。 代わりに進めなくなってしまった。
「ち・・・なんちゅう強風[ポロ・レラ]だ?!」
 風が止み、光が消えると其処には『全くの無傷』で斑が立っていた。 ご丁寧に血で汚れた服さえ、もとの色合いをしていた。
「レストレイション・・・また、この技を使う事になろうとはな」
「・・・驚いたぁ〜・・・完治しやがった。 水冥掌の効果も消されたか」
 斑を驚かせ続けた帝も、反撃を食らった形で驚かされた。
「んで、第二ラウンド、やるか?」
「断る。 貴様みたいな出鱈目は、もう願い下げだ!」
「あら、絶倫じゃないのか。 余程のお歳のようで」
 ワザと下ネタで挑発するも、もう斑にその気はない。
(しかし、このまま返す訳にはいかんが・・・燃え尽されない相手にわたしは、どう殺せと言うのだ?)
「じゃ、こっちが逃さない!」
 逡巡の隙を、今度は帝が攻める!
「ち!」
 幸い、レストレイションで腕も完治している。 良く見ると、帝は翼を収めているではないか?
「な、と、どういうことだ?」
「今度は、人間として殴り合おうや!」
 繰り出された右拳を、斑は必死に捌く。 それを確かめてから、左手で掌打を打ち出す。
「ぐっ!」
 どうしてこうなっているのか? 斑は掌打のダメージを顔面に受けながら、そう考えた。
「っの!!!」
 斑の反撃、右フックを繰り出す。 だが、帝は僅かに顔を反らす。
「なんだ、ちゃんと殴れるじゃん」
「貴様!」
 斑にしては、冷静を欠いていた。 こんな小娘に、出鱈目な能力を持った化け物に、付き合う道理などないのに。
 斑の薙ぎ払うようなミドルキック。 帝はソレを受け・・・とめて、組み技を絡ませた。
(ち、キャプチュード!?)
 咄嗟に頭突きをして回避。 これが正統なキャプチュードの抜け技だ。
 間合いが僅かに離れた所で、帝は踏み込んで上段回し蹴り。 斑は読みきってガードする、が!
「ぬっ?!」
 咄嗟に首を後ろにそらす。 その顔面数ミリを、帝の軸足が掠めた。 また、間合いが開き、斑は更に後ろに飛び退る。
「な、なんだ、今のは」
「昇竜脚」
 相手が回し蹴りをガードしたと同時に、軸足を蹴りだすのだ。 薄くなったガードの上に決まれば、確実に何処かの骨を折っていただろう。 斑の執念が、それを躱した。
「まだまだ、いくよ!」
 間合いは5m程。 だが、それさえ足捌きで一瞬で詰める!
「なに?」
 と思う暇も無く、帝の拳が斑の腹を貫いた。

ドォォォン!

 前進の勢いと腰の捻り、各々の間接の力の運び、それらが一体となった突きが、斑の身体をくの字にさせて吹き飛ばした。
「・・・?」
 しかし、帝は訝しげに自分の拳を見詰める。
(危なかった・・・・・・デストラップウォールの発生がもう四半瞬遅かったら、確実に倒されていた)
 瞬間的にタイプ:アルファのソレを発生させたお陰で、爆風で吹き飛ばされただけで済んだ。
(こいつは・・・化け物としてでなくても・・・強い!)
 だから、なんとしてでも殺したかった。
「ふむ・・・奥義・衝を魔術で緩和させたか。 その割には、発生効果とかは見当らなかったけど」
 デストラップウォール・アルファの威力が小さくても、殆ど無傷の帝はそう解釈する。
(それに、奴に憑いているウェンカムイ。 奴にくっ付くように動いている。 風船か、鎧か。 とにかく、愚鈍であると同時に、硬いな。 アーマークラスはマイナス幾つだか、計りたい心境だぜ)
 それらを振り切って、帝は追撃に跳躍! 斑は衝撃で立ち上がるのがやっとだ。
「ガードだ、ゴーストフェイスキラー!!
 マリオネット:GFKは両腕をクロスさせて防御させていた。
(こいつが・・・先刻よりハッキリと見える!)
 ジャンプの頂点で前転宙返り・・・背筋の力を載せた踵落としがGFKに直撃した。
「飛鷹脚!」
 帝の持っている蹴り技の中で、一番の威力を持つ。 それをGFKはモノの見事に、この衝撃を逃した。
 帝はそのまま蹴り上げ、バック転の要領で着地。 GFKはその腕を伸ばし、帝の右腕を掴んだ。
(マズイ!!)
 帝は更にバックステップで間合いを開けた。 GFKはそれ以上、追って来ない。
(あんま近づくと、また燃やされるしなぁ〜・・・)
 だが、燃えることになるのだ。 「死ねぇい!」
 指弾がパチンと鳴らされると、右腕が燃やされた。
(ぐっ!?・・・そうか、奴が発火剤!!! だったら!)
 幾ら振った所で炎は消えない。 今度こそ、燃やし尽くす気でいた。
(先刻の能力が一度しか使えない事を、祈るしか無いが・・・殺人鬼の私が『祈り』とはな・・・)
 それを見守っていると、帝の切り札を見る事になった。
「ユカラエムシ! エクシ・アフィ・ネ!!」
 まだ燃えていない左腕を翳すと、肉厚の短剣が現れ・・・
「があぁぁぁぁぁっつぅぅぅっ!!!!!」
 燃えている右腕をそれで切断したのだ!
「なにを馬鹿な!?」
 だが、それでは終わらなかった。
大火[ポロ・アペ]!!!」
 切断した右腕に向かって術を吐き、その炎で腕を形成させた。
 そう・・・怪獣だからこそ真似出来る技。 『亀聖獣』とも呼んでいるG3ガメラのバニシング・フィストだ!!!
「っ・・・破ぁぁぁっっ!!!!!」
 斑・・・ではなく、GFKに向かって走り詰め、衝を打ち放つ・・・喪われし炎の右腕で!!!

 ド、ゴォォォッ!!!!!

 見事、今度こそ、帝はGFKに衝を当てた!
「が・・・はっ・・・!」
 斑と伴うように、崩れ落ちるGFK。
「一応・・・加減はしたはずだけど・・・」
 そうでなくとも、GFKの頑強な防御力が幸いして、リストレイションを使うほどでも無い。 だが、それでも、ダメージはかなりのものだった。
(ぐ・・・また・・・殺し損ね・・・た・・・)
 ガクリと、倒れた。
「流石に、このままじゃ寝覚めも悪いしね・・・・・・神の水よ、癒し給え[カムイワッカ・ピルカレ]・・・」
 水の飛沫を、斑と自分の右腕に振り掛ける。
 燃え残り接着した右腕は、多少の麻痺こそすれ完治、斑も気絶されながら癒された。
「・・・おお、ココに居ったか、帝よ!」
 と、ホールにフクロウが舞い降りた。 それは人語を解する、カムイの一つだ。
「コタンコロカムイ・・・イランカラプテ[ごきげんよう]
 アイヌ式に挨拶するが。
「もう、日も暮れておるぞ。 儂はともかく、霙が大変な・・・・・・と?」
 カムイが説教しようとすると、斑を見付け。 フムと首を傾げた。
「大丈夫、殺してなんかない」
「霙が抱けぬからな。 それより・・・」
 カムイは冗談(だが、正鵠を射ている)で返すと、斑に羽の一つを落とした。
「金の雫、降る降る周りに・・・・・・銀の雫、降る降る周りに・・・」
 カムイがこう[うた]っていると言う事は。
神託[トゥス]、ですか・・・?」
 左様、と頷く。
「こやつ、帝に殺されなくて正解じゃ」
「というと・・・こいつを倒すのは、オレじゃない?」
「それは無論。 己奴、かなり怨み辛みを買っているからの・・・亡者らと、彼奴を仇としている者たちじゃ」
「まぁ、オレでなくても、ボコられるのは定め、か」
「なにより、まだ若い、小娘[ポン・メノコ]を何人も手に掛けている。 その仲の一人は能力者の親友を有し、それもまた、多くの仲間を持っておる。 お主ほどでは無いが、彼奴を倒すのは、彼らの定めぞ」
「数で攻めるとは・・・モロにこいつ、ワードナだな」
 そう呟くと、右腕の麻痺も取れ、軽く廻した。
「帝、一つ訊くが・・・」
 カムイは訝しげに帝を見遣る。
「どうして闘った? 先のメノコ共々、転移で帰れば良いものを・・・?」
「ああ・・・」
 言われ、そうだなと頷いた。
「それもそうだな。 言われて気が付いたぜ」
「また、お主は・・・」
 カムイは呆れたように嘆息する。
「だけど、言い訳させてくれないか? こいつは、まず、先刻の女性を殺そうとしたんだ」
「されど、それだけでは、なさそうじゃな?」
「ああ・・・もう二つ、な」
 帝は3mばかり離れた所で斑を見下して居た。
「一つは、殺そうとした時の奴の顔が、愉悦に歪んでいた事だ。 一体、何人手を掛けたのやら」
神霊界[カムイ・モシリ]から調べれば、自ずと判るが?」
「発狂しそうだから、止めとく」
 殺しの技術は得ても、虐殺や弱い者虐めは嫌う帝である。
「もう一つは・・・」
 義憤に燃える金の眼は、微かに殺意をも秘めていた。
「殺そうとした時、奴自身から、殺意も憎悪も顕れなかった・・・趣味で殺そうとしていた!
 数も関係しそうだけどな。 そんな鬼畜だから、オレは闘った」
 帝は完治した右手を、小指からゆっくりと握り出した。
「だから・・・あいつらに目を付けられる前に、処分したかった・・・・・・それでも、駄目か?カムイ」
 霙たちの幸福のためなら、自分の手が血で穢れても厭わない。 そんな覚悟が見て取れたが、カムイは首を横に振った。
「彼奴の天命は、決められた」
「・・・そう、か・・・」
 帝は拳をゆっくりと緩めると、踵を返した。
「じゃ、帰ろうか、カムイ。 せめて、あの記憶だけは覚えさせておいてくれ」
 そうして、帝は廃ビルから出ていこうと歩を進めた。 その十歩目を踏む時!
「そうは・・・いくか・・・!」
 気絶からさめた斑は、最後の一手を掛けた。
「(いくら、化け物でも首を狙えば!)リトルデビル、あの小娘の首を噛み切って燃やし尽くせ!」
 それを聴きながら帝は無視して歩き去る。 斑は動けないまま、帝の後ろ姿を見送った。 
(聴こえてるって・・・)
 帝は苦笑うと、カムイに願い乞うた。
「カムイ、途中まで掴んで運んで頂けますか?」
「・・・よかろう」
 謝辞を述べると、術式を起こした。
猫にぞ変わり成れ[チャペ・ヤイカル]
 唱えると、可愛らしい三毛猫に変身して、カムイに捕われて飛び去っていく。
 リトルデビルは、結局また、手ぶらで帰っていったのだった・・・。





「ただいま〜」
 宿に戻る前に、途中の物陰に人間[アイヌ]に戻り、服を適当に纏って宿に帰ってきた。
 だが、聞こえてきたのは「おかえり」の声でなく、アラレモナイ淫らな声だった。
 慌てて声のした方へ行って見ると、
「ご主人様・・・どうか、わたくしを(削除が免れてもフィルターで弾かれそうな卑猥な台詞)してください・・・!」
 先刻助けた女性が、小柄な少女・・・霙に手篭めにされている現場だった。
「なぁぁぁにやっとるか、あんたはぁぁぁ!!!」
 帝の怒号が宿を揺らした。 因みに、局地的に震度2を記録。
 カムイはその様子を冷ややかに見守ったあと、また何処かへと去っていく・・・。



 そこは、先刻の廃ビルだった。
 カムイは器用にホールへと入っていくと、斑が仰向けに眠っていた。
 マリオネットですらないフクロウは、斑の胸元へ降りた。
(さて、後始末でもしておくかの)
 カムイは翼を広げると、謡いだした。











 翌朝。
 私こと斑信二朗は、首を傾げて居た。
 何故、私は埃っぽい廃ビルの中で、朝まで眠っていたのだろうか?
 とんと見当もつかないので、致し方なく起き上がった。
 なにか、嫌な夢を見ていた気がする。 特に・・・。
 私の炎に包まれても尚、立ち上がり消し去った、歳若い全裸の少女の、翼を広げた姿。
(・・・ふっ・・・・・・なにを、馬鹿なことを・・・)
 その唯一、記憶に残っている画像を振り払おうとしたが、中々こびり付いて離れない。
 有り得ないのだ。 私の炎から生還する等とは!
「歳だな、私も」
 生理現象でもある股間の反応と、年寄り臭い台詞の矛盾に失笑しながら、私はその場を後にした。



 カムイはその様子を、確かめるように見守っていた。
「あの場面以外は、須らく抹消しておいた。 尤も、帝の仲間に手を掛け様とすれば、全て黄泉帰るがの」
 カムイお得意(?)の呪詛を、記憶に作用させておいたようだ。
 斑は、帝と対戦したことを忘れている。 それが幸か不幸かは、カムイも知らない。
「危険ではあるが・・・彼奴を屠るのは、我らの手ではないことは、確かじゃしの」
 カムイはそうして、去って行った。



「金の雫、降る降る周りに・・・・・・銀の雫、降る降る周りに・・・」と謡いながら。



―了―










 後日談。

 数ヶ月後、帝はバイトで一人で、東京まで来ていた。
 仕事の内容は、一部地域を走っている『痴漢専用車両』の殲滅。
 夕方のラッシュ時の分を粗方片付けると、近くの喫茶店『レッズ』で休憩していた。
「いらっしゃいませ。 御注文はお決まりですか?」
 声の割には、口調が似合わないし愛想が無いなと顔を上げると、ウェイトレスは訝しげにこっちを見ていた。
 小柄だが、霙が憤慨しそうな胸のふくらみ。 それでも帝よりは小ぶりだ。 勝ち気で男勝りの言い方がしっくり来そうだ。
 真逆。
 考えたく無いが、彼女も元は男だった・・・なんてことは。
 そうでなくても、場数は相当に踏んでいる。 それは、確かだ。 武術を嗜む者の勘だ。
「ね、あんた・・・ケンカするの?」
「は?」
 客にいきなりそんなことを訊かれては、声も裏返ってしまうと言うものだ。
「・・・まあ、かなり・・・」
 姫子強奪事件や赤ん坊事件にもあって生還している身だ。 歴戦と言っても、過言ではない。
 帝は「それじゃあ・・・」と注文した。





 「オレと手合わせしてくれないか? オレが勝ったら、お茶一杯ただで」










―本当に、了―

後書きと元ネタ

梟神 帝(キャラ紹介・解説)
梟神 帝(インストカード)

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