参太郎さんに捧ぐ

参太郎さんイラスト終了記念

「同窓会」

 卒業してから5年。
 誰からともなく「同窓会をやろう」という声が出た。
 あっと言う間に日取りが決まり、新宿の居酒屋で行うことになった。

 そして当日。
 既に多数が集まっていた。
 宴会用の大広間。掘りごたつのように足を下にできる畳の部屋。
 五月ということもあり、旬の食材を用意されていた。
 1年のときは副担任。そのときの担任の「心中未遂」に伴い、2年からの担任である氷室響子も恩師として招かれていた。

 開始時刻は七時。
 しかしまだ来てない面々がいる。
 あの強烈に印象に残った面々が。

「ごめんください。こちらで無限塾の同窓会が行われているはずですが?」
 決して大声ではないのだが、その鈴を転がすような美しい声は騒音の中でも通りがよい。
「姫子ーっ。こっちこっち」
 座敷からかつては女子生徒だった一人が大声で呼びかける。
 社会人となり「大人」になったはずだが、懐かしい面々との再会が女子高生時代へとタイムスリップさせていた。
 当時のハイテンションを再現していた。
「志穂子さん。お久しぶりです」
 和服姿の北条姫子。そして同様の風間十郎太がやってきた。
 時間に正確な二人らしく、七時五分前に到着だ。

 姫子は学生時代同様に長い黒髪を伸ばしていた。
 ただ和服は和服でも振りそでではなく、落ち着いた訪問着を着用。
 実家が実家だけに働いてはいまいが、それでも「社会人」ということかうっすらと化粧していた。
 ただしあくまでも身だしなみとしてのものであり、派手さはない。
 耳にはピアス穴も開いていない。この時点では指輪もしていない。

 同行した十郎太は相変わらずの鉄仮面。
 藍色の和服と地味にしている。この辺りは高校時代からだ。
 むしろ加齢の分だけ渋みが出た。
 しかし僅かに口元がほころんで見える。
 さすがの彼も懐かしい面々との再会は口元が緩むようだ。

 僅かな差で榊原と真理のペアが滑り込みだ。
「何が新宿は任せろだ。ぎりぎりじゃねーか」
「仕方ないだろ。俺は飲めないんだ。酒の店なんか知るか」
 高一のときは優等生で通したが、2年からは素を出した榊原。
 それゆえこのやり取りもクラスメイトには懐かしい。

 榊原は無難に紺のスーツ。
 いかにセンスが悪くとも、これでは間違えようがない。
 一方の真理はさすがに二十台ともなると、おとなしくなって露出は減った。
 ただしプロポーション浮き出しのブラウスとミニスカート。
 姫子とは対照的に派手なピアスや指輪。メイクをしていた。
「あ。真理さん。先日はどうも」
「おう。姫。ちゃんと帰れたか?」
 まるで「久しぶり」という感じがしない。
「何? あんたたち最近あったの?」
「ええ。実は先週」
「まぁほとんどあっているよな」
 それでは「懐かしい」はずもない。

 まだ何人か来ていないが座敷を使える時間は限られている。
 始めることに。
 幹事が挨拶。そして音頭を取った。
「かんぱぁーい」
 ビールが注がれたグラスが合わさる。
 屋敷でのみ飲む十郎太。下戸の榊原も乾杯のそれくらいは付き合う。

 十分も過ぎた頃か。
「ごめーん。遅くなった」
 ひときわ甲高い女の声。
 上条明と若葉綾那が到着した。
 綾那の方は学生時代とセンスが変わってないのか、まるで御伽噺のお姫様のようなファッションである。
 違いとしては化粧とピアス。
 大きな花のピアスをしていた。
「交代間際にトラぶって」
 上条明はやや体格がよくなったように見受けられる。
 彼は警察官になっていた。
 そのため柔道や剣道なども訓練の一環として行っていた。
 それ故の産物か。

 彼らは辺りを見回す。榊原が手を挙げて「よっ」と挨拶。
「やぁ」と返す上条。やはり「懐かしさ」はないらしい。

 さらに見回す二人。
「赤星はまだみたいだな」
「七瀬ちゃんもいないみたい」
 ちなみに綾那は女性の席を確認していたが、みずきがいるかもチェックしていた。

 まだ二人は来ない。
 一番強烈な印象を残したみずきたちが。
 酒が回ってきた面々がふざけて言い出す。
「赤星はどっちの性別で来るか?」と。

 心情を考えれば男である。そう思ったのが約四割。
 ちなみに綾那。真理。姫子は全員「男」で手を挙げた。
 七瀬と同行するならそうであろうと考えた。

 『女』と予想した面々はいずれも「願望」で。
 男子生徒だった面々は、その神秘性から女の姿で来て欲しいという願望。
 女子生徒だった面々は、その友情からやはり女で来て欲しいと。

 七時半になる。
 幹事が出欠のはがきを確認し始めた。
「確かに二人とも出席に丸なんだがなぁ」
 とはいえど不測の事態で出られなくなるということもありえる。

 四十分ごろ。
 ふすまが開けられる。
 そこにはシックなワンピース。ほんのりと薄化粧の茶色の髪の女性。及川七瀬。
 そしてピンクのスーツ。フルメイクの上に耳にはイヤリング。指をマニキュアと指輪で彩った赤星みずきがいた。
「女だぁーっっ」
 いきなりの歓声に驚く二人。

「一体なんだってこんなに遅れたのよ?」
 腰掛ける前に質問が飛ぶ。
「それがきいて。みずきってば。準備が終わってから水溜りにこけて」
「あー……」
 全員が納得した表情。
 学生時代。何もないところでよく転んでいたドジ娘を懐かしむ。
「しょ…しょうがないじゃないのよ。時間間際で焦っちゃったんだもん」
 ぷうと頬を膨らませる。
 生粋の女でも年齢一桁でないとしないような仕草である。
 もっとも女になってから十年は経っていないが。
「おまけにきちんとした男物が一着しかなくて。仕方ないから私のスーツを貸してあげてたの」
「そして母と妹にメイクで遊ばれて」
 妹というのは中学生の時点でニューハーフになっていた赤星薫のことである。
 薫が入学した時にニューハーフということは当時のこのクラスの面々も知っていたが、対外的に妹で通していて癖になっていた。
「それでこんなに遅くなったと。それはわかったけど赤星。お前また女の人格になってない? その言葉遣い」
「これもクセ。実家を手伝っている時は女だから、客商売で男の乱暴な口調できないでしょ。女になると言葉遣いが変わるようになっちゃったのよ」
 もともとそういうところがあったからな…惑わされたかつてのクラスメイトたちは当時を思い出していた。
「さぁさぁ。とにかく座りなさい。改めて乾杯しましょう」
 駆けつけ三杯とばかしに飲まされるみずき。
 遅れてきた手前あまり強くは断れない。

 たいがいのコースは二時間という設定が多い居酒屋だが、ここは融通が効いて三時間とっていた。
 四十分遅刻のみずきたちも充分に飲んでいた。
「それにしても赤星。お前が男だなんて今でも信じられないよ」
「ああ。3年の僅かな間だけだったもんな」
 池山と古田が頷き合う。

「うん。あたしもあの頃は女の姿になれちゃって。どちらでも自分には違いないし」
 大人になったせいか落ち着いた声色。色気すら感じる。
 本気で元々女と思えてきた池山である。
「七瀬ぇ。大丈夫なの。『彼』?」
 隣の女性が聞いてくる。
「大丈夫よ。きっと」
 付き合いは長い。信頼している。そう言いたげな七瀬である。

 頻繁にあっているせいか、遅くきたせいか八人は固まらず、バラバラのテーブルであった。
 このテーブルでは姫子と十郎太が話題を集めていた。
「今だから言うけどさ。お前らの世間知らずにはほんと驚かされたぜ」
 秋山という名の男が懐かしそうに言う。
「あの頃は電車にも乗れなかったでござるからな」
「それどころか商店街すら物珍しくて」

「真理が来た時はビックリしたよね」
「そうか? 今でも大して変わらないぞ」
 金髪の大女である。そりゃあ驚きもしよう。
「ま、出会ったシチュエーションも特殊だったが」
 いつもあっているとはいえど、これを思い出したの久しぶりだったらしい榊原が、烏龍茶のグラスを水割りのように揺らしながら懐かしむ。

「綾那。痕になってたりしない?」
「大丈夫だよ。きれいになっている」
 かつて学園に潜んでいた悪意。斑信二郎の操るゴーストフェイスキラーの手によって、腹部に大怪我をした綾那である。
 部位が部位だけに心配されていた。
 そのとき斑によって屋上に取り残された一人が聞いていた。

「おなかだったもんね」
 直接の現場ではなく、屋上につれてこられたのを見ていた池澤だった。
「ちゃんと赤ちゃん産めるといいけど」
「うーん。まだ明くん一緒に寝ては」
 最後まで言う前に口をふさがれた。
 さすがの上条も顔が赤い。

「しかし赤星が赤ん坊連れてきたのには驚かされたよな」

「あはは。そういえばアレは1年のときだから今頃小学生かしら」

 宴は進む。だが目に見えてみずきの様子がおかしい。
「呑みすぎ」を注意するが「いつもこんなもの」と譲らない。
 しかし顔がかなり赤い。

「もう。呑みすぎよ。みずき」
 乾杯のビールだけで後はジュースを飲んでいた七瀬。
 アルコールはそんなに好きではない。
 一方のみずきは人並みには飲む。あくまで男としてであるが。
「七瀬……」
 涙目といえるほど潤んだ目つき。見方によっては恋する目つき。
 肉体的には同性だが。
「いつも心配かけてごめんね」
 殊勝に謝る。
「ど……どうしたのよ? いきなり」
 こんな場所で突然謝られては戸惑うばかりだ。
「あたしも女になって見て、ようやく七瀬の苦労がわかったわ」
「そ…そう?」
 対応の仕方がまだ見えてこない。
 とろんとした目つきのみずきが、にっこりと微笑みとんでもないことを口走る。
「七瀬……愛してる

 普通に男女間での言葉でもこんな場所で言えば騒がれて当然。
 ましてや肉体的には女同士。
 いくら正体を知っていてもスキャンダラスな絵面だった。
 はやし立てる面々。飲んでない七瀬の顔もみずきと同じくらい赤くなる。
「も……もう! 何を言い出すのよ」
 恥ずかしさから怒鳴る。だがそれはみずきには聞こえていない。
 そのまま酔いつぶれて寝てしまったのだ。
「あー。つまりなんだ。男のときは問題ない量だが、女になっても同じ調子でやってて酒量を見誤ったな」
 学生時代と変わらぬ分析グセの榊原。
「いやいや。酔っ払って出たのがこの言葉なら、本気で好きなんじゃない。七瀬のこと」
 女性たちにはやし立てられる。
「もう。知らない」
 言葉こそきついが、決して本心から嫌がっていない七瀬の叫び。

 翌日。
 喫茶レッズも定休日。そして七瀬も休日。
 瑞樹がしかめっ面で尋ねてきた。
「調子はどう?」
「最悪……俺、こんなに(酒に)弱かったのか」
 愕然とする。
「それはさておき、昨日はすまん。送ってくれたんだって? タクシー代払うよ」
「じゃ半分ね」
 この方が気楽なのを知っている。
 だが用件それだけではないようだ。

「なぁ、オレ昨日なんかお前に変なこと口走らなかったか?」
 そっちが本題のようだ。
「なんにも」
「本当に?」

「うん。だって、もう言われていた言葉だもん」

 それはあの「最終決戦」の時の告白。
 そして8年経って同じ言葉を言ってくれた。
 七瀬はそれで心が暖かくなっているのを感じた。

 瑞樹が七瀬にプロポーズをするのに、それからさほどの時間を必要としなかった。


このイラストはOMC。あるいは参太郎さん個人に対する依頼で製作されました。
感謝の意を表します。


製作秘話

 「PanicPanic」のイラスト終了。
 そして参太郎さんの降板を受けてのこの話です。
 過去を振り返る形にしたくて同窓会としました。

 当初はただ飲み会だけで終わらせるつもりでしたが、いちゃいちゃしているところを書きたくなり、酔ったみずきにああいわせました。
 最初は婚約してからの話というつもりで、既に指輪を交わしていたと。

 参太郎さんには本当に感謝しています。
 このイラストで世界が広がり、そして広くアピールできました。

 参太郎さん。本当にありがとうございました。

「PanicPanic専用掲示板」へ

「Press Start Button」へ

トップページへ