10万ヒットクリア記念 PanicPanic番外編

 「一日だけの親友」

 「まったく…半日無意味に潰したぜ」
 電車の中で制服姿のみずきはぼやいていた。
 一学期期末考査後の試験休みのある日。彼女は補習のため無限塾に出向き、帰ってくるところだった。
 「さぁて。今夜は花火大会か。ン?」
 なんとなく隣の車両を見るとサマードレスの女の子が泣きそうな表情をしていた。
 (さてはまた…)
 みずきも以前に被害にあったことがあるだけにぴんと来た。そして見捨てておけなかった。
 人の中を掻き分けて隣の車両へと移動した。
 そして目を凝らした。
 間違いない。下半身を撫で回されている。少女が耐えているのがわかる。固く閉じた瞼から涙が溢れているのも見えた。
 自らのおぞましい記憶が蘇える。半ば反射的に痴漢の手をねじ上げていた。
 「あたたたた」
 突然捻りあげられて悲鳴を上げる痴漢。
 「何してやがんだ。てめーら」

 「何だお前?」
 「ここは痴漢専用車両だぞ。来た以上は合意とみなされても文句は言えないぞ」
 いかにも合法な行為を邪魔されたかのように文句を言う痴漢。
 「やかましい。またネットを悪用して変な企画立てやがって」
 みずきもかつては痴漢で騒ぐ女心が理解できなかった。
 「ちょこっと触られたぐらいでなんで『女』はがたがた騒ぐかな」と。
 しかし自分が被害にあったらそれがどれだけいやか理解できた。
 だから痴漢に対して容赦なかった。
 「くくく。いいのか? ここはホームグラウンドみたいなものだ。いわばお前は相手チームの応援団の中にいるようなものなのだぞ。
ここなら例えレイプしても誰も証人にはならないぞ」
 勝ち誇ったように嘲笑する痴漢。他の男たちも下卑た笑いを浮かべている。集団心理が悪いほうに働いている。
 「やれるものならやって見やがれ」
 言うなりゆれる電車内だというのに踏み込んで、痴漢の顔から胴体にかけて無数の蹴りを見舞う。

 「スタークラッシュ」

 「「「ぶっぎゃああああああっっっっ」」」
 哀れ痴漢は鼻血を噴いてKOされた。ちょうどそのとき駅に着いた。
 「と、いくら痴漢でもやりすぎたか。まぁ『暴行』を言えば先に痴漢に言及されるから訴えられはしないだろうがさすがにまずい。逃げるぞ」
 そういうとみずきは少女の手を強引に引っ張り電車を降りた。

 懸命に逃げていた二人。改札を抜けたがそこで緊張の糸が切れたか
 「うっ…ううう…」
少女が嗚咽を漏らす。慌てるみずき。自分も『女』でありながら女の涙にはやはり慌てる。
 「わっ。しっかりしろよ。うーん。困ったな。いいや。どこかへ行くはずだったのを勝手に下ろしたついでだ。来なよ」
 泣きじゃくる少女ををみずきは連れて行く。

 みずきが選んだのは自宅。喫茶レッズだった。
 「ただいま」
 「あら。みずきちゃん。お帰りなさい」
 店番をしていた瑞枝が迎える。見知らぬ少女の存在に気がつく。
 「お友達?」
 「痴漢にあってたから助けた」
 そっけなく言い放つみずき。少女はそれを言われて悔しさが蘇えってきたのか表情が歪む。
 瑞枝はそれを慮ってすばやく飲み物を出す。
 「はい。夏でも暖かいココアはほっとするわよ」
 「…ありがとう…ございます…」
 (お袋…やっぱり夏にホットココアは…どこかずれてる)
 母親の優しい心遣いに感謝すると同時に、思わず突っ込まずにはいられないみずきだった。

 少女を店においてみずきは着替えに行く。ふと汗臭さが気になる。
 「こりゃやっぱり一度戻ることになるかな。あの子の手前、女でいないとまずいが」
 つぶやくと彼女は着替えを持ってバスルームへ。

 バスルーム。さすがにあの少女がこんなところに来るはずはないので瑞樹は存分に羽を伸ばしていた。
 生まれたままの姿だった。
 平たい胸。筋張った手足。固い皮膚。髪の毛もどこか硬質だ。男としてはさらさらになるほうだが。
 (やっぱぬるま湯じゃ汗は落ちてくんないしな。さて。それじゃもう一度)
 そう。彼女…否。彼は男の姿が本来のもの。
 不幸な偶然と体質が重なり、30℃以下の水をかぶると女になり、40℃以上のお湯をかぶると男に戻る体だった。
 女の子として知り合った手前、別れるまでは女で過ごすことに。
 だから彼は水温を下げて再び少女の姿に。
 柔らかく白い肌は曲線を描き、女性のシンボルである胸元は自己主張激しく。
 ヒップも大きくまさに安産体形。
 男から女に変身する際に筋肉が脂肪に変化したりするため全体的に丸い。
 とは言えど男の時の体脂肪率が11%。理想が18%だからかなり細い。
 変身したら23%なのでむしろ女子としては十代ならではの健康的な体だ。
 「さぁて」
 可愛らしい高い声でつぶやき、さらさらのショートカットをバスタオルで乱暴にふき取る。
 それからまた私服バージョンへと着替える。

 「お待たせ」
 そういいながらみずきは私服に着替えて降りてきた。レモンイエローのキャミソールにホットパンツ。
 少女が見ている。
 「落ち着いたかい?」
 理解できるだけに優しい言葉も出る。ただ「素」の部分が大きいため男言葉になってしまうが。
 元々学校でも男言葉のキャラクターで通していたし。
 みずきは少女を改めて見てみる。
 (身長は160の前半くらいかな。七瀬と同じくらいだし。綺麗だな。可愛いと言うか。
髪の毛は女の子としては短めかな。それでも襟足はあるけど。胸は普通だな)
 「そういやアンタ。名前は? よかったら教えてくれる?」
 まだ名前を知らないことを思い出した。
 「あ…はい。二村つかさです」
 元々素直なのか。助けられて名乗りもしないのは非礼と言うことかつかさは素直に答える。
 「オレは…」
 「おれ?」
 学校でも通している自己代名詞だが、さすがに普通に見たら女の子が『オレ』は変だ。言い直す。
 「ああいや……あたしは、赤星みずき。よろしく」
 みずきの求めに応じて華奢な手を差し出される。二人は握手を交わした。

 「あの…助けてくれてありがとう」
 改めてつかさは礼を言う。
 「気にすんなって。たまたまだし」
 「たまたま? そういえば夏休みなのに制服姿で。部活?」
 「いや…その…なんでもいいだろっ」
 みずきは真っ赤になった。何とかごまかそうとしたが。
 「それがね。この子。補習なのよ」
 「お袋!!」
 瑞枝がばらしてしまった。さらに優しく柔らかい声で続ける。
 「この子は頭はいいの。でもドジか多いのよ。テストの点数自体は満点に近いのに、名前を書き忘れて零点扱い。
それで補習に出向いているの」
 「い…いいだろ。そうだ。つかささんだっけ」
 「は…はい」
 ごまかすように話題を変えにかかる。
 「どこかへ行くつもりだったんだろ。駅まで案内してやるよ」
 言われてつかさは外出の目的を思い出した。
 「はい。実はプールに行くつもりでした」
 「え? それじゃ友達と待ち合わせ。やばっ。いくら非常事態といえど勝手に下ろして」
 「いいえ違うんです。これも修行の一つで、一人で出向くつもりでした」
 「『修行』って・・・」
 一体なんの? そんな疑問が涌いてきたが自分も「変身体質」と言う知られたくないことがある。
 (詮索は無用だな)
 「まぁいいや。よし。それじゃみんなでいこうか」
 言うなりみずきは電話をかけ始めた。まずは七瀬。
 そして手分けして誘いをかける。七瀬が真理。綾那。姫子に。みずきが榊原と上条に声をかける。十郎太は姫子を誘えば自動的についてくる。

 一時ごろ。喫茶店に七瀬が入ってきた。
 「お待たせ。みずき」
 栗色の髪の毛。ウェーブが優しいカーブを描く。
 暑いのにジャンバースカートだ。ブラウスは半そでだが。
 体形にコンプレックスがあるゆえの服装だ。
 「七瀬。来たか」
 つかさが怪訝な表情をしている。
 (と…これじゃ男が女を待っていたような言い方か。どこでぼろが出るかわからんな…)
 気を引き締めて改めて互いを紹介する。
 「紹介するよ。こちらが電話で話した女の子。二村つかささん。そしてこっちが」
 みずきの紹介を受けて七瀬が挨拶する。
 「はじめまして。私は及川七瀬です」と丁寧な挨拶をした。

 プールに到着。しかし彼女たちが最短距離。さらに他の面々は準備もあり待つことになった。
 「あっ。みーちゃん。七瀬ちゃん」」
 「お待たせ」
 上条と綾那が到着した。
 上条は白いジャケットと黒いTシャツ。実はコスプレ。つかさはそれがなんだか思い出そうと見ている。
 「紹介するよ。こっちが上条明。こっちが若葉綾那。そしてこの人が二村つかささん」
 みずきが紹介した。
 「はじめましてぇ。ボク若葉綾那」
 ピンクのフリルまみれのワンピースと言う壮絶な格好の綾那が舌足らず気味に挨拶する。
 上条一筋の彼女。「ぶりっ子」の必要性はない。
 ただ、元が子供っぽいのだ。
 「あ…はい。はじめまして」
 戸惑うつかさ。どうやら可愛らしい衣装の女の子が自分を『ボク』と呼ぶことに違和感を感じているようだ。
 それを知ってか知らずか上条が挨拶。
 「はじめまして。僕の名は上条明。「上」がじょうと呼べるのでじょうじょう。ジョジョって呼んでくれ
 「は…はぁ…」
 戸惑いではなく、ややあきれ返るつかさ。どうやら『オタク』と理解したらしい。
 初対面相手にはちょっと『濃い』挨拶だった。

 電車の中。榊原は居眠りをしていた。
  (平和だなぁ) 
 肩を貸している形の真理ものほほんとそう思う。
 暑い中でばてて、冷房が効いた車内ではその心地よさと振動から来る睡魔に勝てなかったのだ。
 (色々あったしなぁ・・・いいよ。アタイの肩でよければ寄りかかっても)
 このときの真理は優しい、とても女らしい笑顔だった。が…
 がばっ。榊原が目覚めた。真理には理由がわかっていた。
 榊原のマリオネット。ビッグ・ショットが出現したのだ。

 まずはマリオネットについて説明しよう。
 その名の通り『操り人形』
 大抵は人の形をしており、マリオネットマスターの精神力を糧にして存在している。
 マリオネットはマリオネットマスターにしか見えないのが基本だが、幻影など視覚に影響するタイプ。
 あるいは強力なものだと一般人にも見えたりする。

 榊原和彦。そして村上真理の二人はマリオネットマスターであった。
 榊原のそれはビッグ・ショット。予知能力のマリオネット。
 ただし、本体である榊原が驚異的な集中力で呼び出すか、さもなくば本人が寝ていたりぼけっとしたり…つまり何も考えてないときに発動して未来を見せる。
 もっぱら『よく出るパチンコ台』『一位でゴールインする馬』の予想に使われるが。
 もちろん高校生がギャンブルは御法度。しかしこのふけ顔で私服だと(またセンスも親父くさいのだが)まず未成年には見えない。
 一度として咎められたことはなかった。
 片方の村上真理もそう。彼女のは茨の形。触れた相手の心を読めた。
 これは悲しいいきさつがあり、周囲の大人の顔色をうかがっていたら発現した能力だった。
 実は他にも三人の少女が。そして能力を眠らせている少年がいる。それは別のところで。
 「どうした? カズ」
 「女だ。それも美人」
 どうやら新しい出会いを読んだらしい。
 「あのさぁ…赤星が言ってたろ。七瀬から聞いたんだけどさ…」
 「美人かどうかまでは聞いてない。今のヴィジョン。間違いなく美人だ」
 彼は筋金入りの『スケベ』だった。
 何しろ負け知らずのギャンブルで得た金はほとんど風俗を中心として女につぎ込むのだから。
 「静かにしろ。他の客に迷惑だろ」
 問答無用で榊原の顔面を鷲づかみにする真理。彼女の場合、マリオネット以上にその握力が脅威だった。

 駅に着いた。
 「お…おおおおっ」
 そして待ち合わせの場所で予知したスレンダー美女を見つけた途端にダッシュする。
 「はじめまして。お嬢さん。榊原和彦です」
 瞬時につかさの手を包み込む握手。歯まで光らせて迫ってくる。本能的につかさが身の危険を察知したときだ。
 「いつまで握ってんだよ」と真理の膝が彼の後頭部にめり込んだ。
 驚くと言うかおびえるつかさ。当然ではあるが長身の金髪娘は細かいことには構わず
 「アタイは村上真理。よろしくな」
 チューブトップとカットジーンズと言う、ほとんどビキニのような格好の真理は荒っぽい口調で握手を求める。
 「あ…はい。よろしく」
 おずおずと握手。以前はその能力のせいで真理はしたがらなかった行為だが、友達が出来てからは抵抗がなくなっていた。
 だから何も考えずに手を差し出したら思考が流れてきた。
 (それにしてもすごい胸…Eカップくらいあるんじゃ)
 (あ。いけね)
 ついうっかり心を読んでしまった。それ以上読まないようにカットしようとしたが
 (身長も本当は男である僕よりも高い)
 つかさのその心を読んでしまった。

 そう。二村つかさ。彼女は本来は男である。
 その極端なまでに流されやすい性格。それゆえに着た服にも気持ちが左右される。
 普通の人間でも例えば礼服を着れば気持ちが締まるだろうし、ジャージなど運動用の格好だとアクティブになるだろう。
 彼女…いや。彼の場合はそれが極端なのである。
 なんと、女性服を着用すると服に合わせて体形が変わってしまうのだ。結果として性転換をしてしまう。今がまさにそうだった。

 つかさが一人でプールに出向こうとしたのは、金欠のためにアルバイトの必要が出来て、その準備として女らしさを磨くため一日女として過ごす羽目になったからだ。
 ちなみに金欠の理由だが…変身後には着た服でキャラクターが変わり、それに伴い服の好みも変わる。
 そのたびにウィンドウショッピングのつもりが店員の勧めに流されて服を買い続けた結果だ。

 つかさは一度変身してしまうと何かひとつだけでも『女性ならではのもの』があると女のままだ。
 この場合は両手両足の爪をピンクに彩るマニキュア。水に落ちるものではないし、除光液以外で簡単にはがれるものでもない。
 絶対に男へ戻りたくない場合は一番だった。

 いきなり真理が飛びのいた。つかさを指差して口をパクパクさせている。無理もない。
 ガンズン・ローゼスは心を読む。心から思っていることを読み取る。
 もちろん自分が男と思い込んでいる女の子とも取れたが、何しろみずきと言う前例がいる。
 「あ…あ…アンタ…本当はおと…」
 つかさも変身体質と考えるのが真理にとっては自然だった。
 とは言えどそんな珍しい体質がもう一人現れればさすがに驚く。
 そういう理由だ。
 まさか心を読まれているとは思わないつかさはその驚きが理解できない。

 さらに最後の一組を待つ。黒塗りの外車が到着した。
 「ようやく到着か」
 真理がつぶやく。
 程なくしてドアが開く。中から出てきたのは背の高い細身の、そして鋭い眼光の青年…いや。少年。十郎太だった。
 今回は事情を知らない相手がいると言うことで、忍としての行動は慎んでいた。だから走ってこないで車に同乗してきた。
 彼は辺りを見回し安全を確認する。
 「伏勢はおらぬ様子。姫。御安心を」
 先に出た彼が手を差し伸べてエスコートされて出てきたのは姫子。
 艶やかな黒髪は切り揃えられ、さながら日本人形のようだった。
 服は白いワンピース。薄手ではあるが長袖だった。紫外線対策もあるが肌の露出が好きではなかった。
 「ありがとうございます。十郎太様」
 まずは礼を言う。それから一同に侘びる。
 「みなさん。お待たせいたしました」
 「どーせ着替えに時間がかかったんだろ」
 「姫ちゃん。はじめから下に水着着てきたらよかったんじゃ」
 真理と綾那の友達ならではの言葉。姫子の着替えが極端に遅いのを知っていて言っている。
 「そういうわけにはまいりませんわ」
 微笑んで言う姫子。その彼女がつかさに気がついた。
 「みずきさん。この方が?」
 「そ。今日知り合ったばかりだけど」
 そんな会話を交わしたらつかさの方を向いた。
 「はじめまして。北条姫子と申します」
 「あ…は、はじめまして。二村つかさです」
 つかさも慌ててお辞儀する。
 「よーし。みんな揃ったところで行くよ」
 真理が高いハスキーボイスで言うとみんな乗ってきた。

 女子更衣室。当たり前だけどここを使わないといけない。
 (うー…アイツ。男かもしれないよなぁ。でも…赤星の例もあるし。
そういえばすっかり今じゃ赤星と着替えるのも平気になっちゃったな。服着てれば「女装」にも取れそうだが、裸になると逆に女にしか見えないしな)
 そうは言っても男かもしれない相手の目の前では裸にはなりたくなかった。
 真理の弱点と言うか…彼女はその能力ゆえに他者との接触を避けて来た。特に男は
 ゆえに極端に男に対して免疫がないのだ。
 何とかなったのは十郎太。上条。榊原くらい。他はどうしても遠ざける。
 まぁ十郎太は姫子以外の女に興味はない。
 上条にいたっては女そのものに・・・厳密には3Dの女に興味がない。
 ただ慕ってくる綾那には悪い気がしないのか。最近は仲がよいようだ。
 この日も現地集合だったにもかかわらず待ち合わせて来たし。
 一番不可解なのが榊原。
 一見優等生でありながら、実は博打に喫煙。女遊びまでしている彼(アルコールは体質でだめ)。
 真っ先に避けそうなのに・・・同じマリオネットマスターだからか。つまり気を遣わなくていい相手だからか一緒にいることも多かった。
 なんとなく・・・居心地のいい相手だった。

 案の定・・・姫子は着替えに時間がかかる。
 侍女の存在がまずかったようだが、どうも生来とろいところがある。
 ましてやみずきを意識しなくても見知らぬ女たちの前で裸になる。それで気後れしていた。

 七瀬と綾那は正反対の。それでいて共通の悩みがあった。
 オーソドックスにスタイルの悩み。ただ七瀬は太いと気にして、綾那は胸のなさを気にしていた。
 七瀬のそれは他者から見ると別にダイエットがいるようには思えないが、子供のころはかなりふくよかだったため未だにコンプレックスになっている。
 綾那は・・・今後の成長に期待か。

 そして・・・本当は男の二人。
 つかさは間違って全裸になってしまい男に戻らないように、セパレートの水着をまず上だけ替えていた。ショーツはそのまま。
 それからトップをつけた状態でボトムも替える。
 マニキュアがあるとは言えど安全性をとった。
 それに例え女の姿でも全裸を晒したくないのもあった。

 みずきは精神的には男なので遠慮なしにぱっぱと着替えて行く。
 遠慮がなさ過ぎて傍目には謹みのない女と映る。

 男子更衣室。
 「お前にしてはオーソドックスなデザインだな。その海パン」
 榊原が上条の下半身をさして言う。黒いバミューダタイプのものだった。両サイドに太い白線が入っているが。
 「ふんっ。ライダー・・・変身!!」
 ポーズを取る。
 「あ・・・そういうことね」
 ポーズを取る上条に呆れる榊原。
 「そういう君こそ蝶々仮面(パピヨンマスク)みたいだね。それ」
 榊原のは極端なビキニパンツ。
 「まぁ・・・あいつには負けるけど」
 「確かに…」
 二人が見た十郎太は、それまでしていたふんどしを外して、まっサラの綺麗なふんどしを締めなおしていた。
 「日本人ならこれに限るでござるよ」
 たしかに祭りなどでこのふん装は見るが。
 「さぁて。先に行って待ってようぜ」
 もちろん他の女性客が榊原の目当てなのはみえみえだった。

 集合してプールサイド。反応はさまざまだった。
 「いーやっほーっ」
 勢いよく飛び込んだのが真理。綾那。
 対照的にゆっくりと歩み寄る姫子と七瀬。だがいきなり寝転がって日光浴。
 不思議そうに見ていたつかさにみずきが
 「ああ。七瀬? アイツは筋金入りのカナヅチだからああしているのがいいんだよ」
 「……悪かったわね……」
 ふてくされて見せるがどうも自覚しているらしい。反論はしない。
 「わたくしもこうしてのんびりしているのが好きですわ」
 基本的におっとり優雅な姫子が言うと説得力があるような。
 「ま…こっちはこっちで泳ごうぜ」
 なんとなく…つい『男同士』ののりで接してしまう。
 (何でかな? どう見ても女だよな。どうも同じ『匂い』がするんだよな。だから電車でもほっとけなかったのかな。でも…はたから見たら女の子同士か。でも…オレは違うけどね)
 『おかしな考え』を振り払うべく勢いよくダイブ。けどまるで飛び込みのような深い角度でダイブ。遊泳用のプールゆえ底は浅い。
 この角度ではいれば頭を打ちつけるのは自明の理だった。
 浅すぎてお腹を打ち付けると言うのはよくあるけどこういうのも珍しい。
 「ああ。みずき。アイツは筋金入りのドジだからしょっちゅうよ」
 冷たく言い放つ七瀬。付き合いの長さゆえのコメントだ。
 「赤星!」
 さすがに助けに入る男たち。だが上条はなぜか両手を広げて
 「わぁぁぁぁあああああおおおおおぉぉぉぉ」
と雄たけびを上げてから飛び込んだ。
 十郎太と榊原が彼女をプールから引き上げる。
 「ああいて。またやっちまった・・・」
 したたかにぶつけた証明で額から血が出ていた。慌てるつかさだが七瀬にしたらなれたもの。
 「はいはい。痛いの痛いの飛んでいけぇ」
 七瀬のマリオネット。ダンシングクィーンは修復能力。
 壊れたものを元に戻せる。
 ちなみに姫子のマリオネット『姫神』は瞬間移動能力。
 条件は姫子の知る場所と物。そして姫子本人が扱える重量だったが、どうも状況によっては人間の転送も不可能ではなくなったようだ。
 「相変わらずでござるな。拙者が水を行く手本を見せるでござるよ」
 十郎太がプールサイドに立つ。授業で知っていた面々は平然としていたが、つかさは興味深そうに見ていた。
 「えいやぁ」
 怒声とともに水面を走って行く。
 「さすがは風魔。水に沈む前に水面を走りぬけるとはな」
 「現代の忍者だけのことはある」
 唖然とするつかさ。本人も服に着られて性転換と言うキャラクターだが、それでもこれは非常識に見えたようだ。
 気を直して泳ぎに掛かるが…水にまで流されてしまった。

 「あらら。大変」
 「ほっとけよ。どうせ監視員もいるし。そんなに広いプールじゃない。それより赤星。あの女…いや」
 「なんだよ。村上。まさかつかささんは実は男なんて言うんじゃ?」
 真理は首を盾に振る。
 「うそぉ。おっぱいボクよりあるよ」
 「うむ。それにあの細い腰。とても男とは」
 「そこに巨乳で細いウェストの『男』がいるが?」
 これ以上の生きた証拠はない。
 「でも村上。オレみたいな体質がそんなあちこちにいるかぁ?
まぁ体質がかかわっているから(血縁の)薫がなっちゃうってんならわかるけど」
 「でもアイツ…心の中で『自分が男』といってたぜ」
 「体と心の性別が一致しないケースもあるがな」
 「う…」
 言葉に詰まる真理。
 「もうよしましょう。例え真理さんの言う通りとしても、わたくしたちはみずきさんという前例を存じ上げているのです。いっしょでいいではありませんか」
 「何か…おなごで通さねばならぬ事情があるやも知れぬ」
 「ひょっとしたら…改造人間?」
 「いや…そりゃないだろ」
 真顔でぼける上条の言葉を、パタパタと手を振り否定するみずき。
 「けど特異体質はありえるわね」
 「なんだっていいさ」
 みずきは立ち上がる。『男か女か』と言う話だけに人事ではない。
 「つかささんは痴漢にあって困っていた。それをオレが助けた。それだけの話だよ」
 「まぁ…どうせお前と言う男がいるから着替えも同じか。それに例えそうだとしても女として振舞っているし。いいか」
 ようやく真理も納得したようである。
 「なら、徹底して女扱いしてあげようかな?」
 榊原がカメラを出した。

 つかさはぐるっと回ってみずきと合流。みんな泳ぎ疲れたかプールサイドで休憩中。つかさも多少くたびれた。
 「どうぞ」と榊原にデッキチェアを勧められた。戸惑うつかさ。みんなデッキチェアを使っているならいざ知らず、数に限りのあるものを性別を偽って使うのはさすがに咎めた。
 「座れば? むしろゲストのつかささんが座った方が収まるし」
 ふんぎりのつかないつかさにみずきが助け舟を出す。言われてやっとつかさは使う気になった。
 「ふぅ」
 どさっと体を預けてしまう。
 「ああ。違う違う」
 榊原が言う。反射的に顔を上げるつかさ。それに『演技指導』する榊原。
 「ちょっと片膝立てて、その向こうからこっちを見て」
 こ…こう?そんな感じで言葉に従ったポーズを取る。
 「そう。いいね。可愛いよ」
 なんとなくその気になってきたつかさ。
 「じゃ今度はちょっと体起こしてみようか。それでこのグラスにちゅって感じで口付けして」
 つかさは言われるままにブルーの飲み物とフルーツ入りのグラスにキスをした。
 (うわ。絶対女の子よ。男だとしたら色っぽ過ぎるわ)
 七瀬がそう思うのも当然。つかさは妖艶とも言える表情をしていた。
 (かわいー。ボクが男の子だったらほっとかない)
 そう思っていたのは綾那達だけではない。周りの男性客からも
 「おおっ」と言う声が上がる。調子に乗る榊原と、乗せられるつかさ。
 「いいね。じゃあ今度は大また開いて、胸を強調するように持ち上げて…」
 「いい加減しろ。このタコ」
 真理が榊原の後頭部からけりを見舞う。即興カメラマンは哀れプールに叩き込まれた。
 「アンタも何モデル気分になってんだよ」
 振り向きざまにつかさを怒鳴る。
 「ご…ごめんなさい」
 乗せられてグラビアアイドルになりきってしまったらしい。
 
 「ねー。みんな。今度はアレにしない?」
 ふりふりの水着の綾那がウォータースライダーを指し示す。

 すごい高さ…とても長いし。こんなのを滑るの?
 そんな表情のつかさである。
 「いっちばぁん。若葉綾那。いっきまぁす」
 いうなり綾那が飛び込む。彼女は絶叫系が得意だった。
 続くのが上条。彼はゴーグルを右手に持っていた。それを前方に伸ばした状態から目元に当てる。
 「デュワッ」
 べたべたなネタであった。さらに彼は
 「だーっっっっ」
と叫ぶと両手を突き出して頭から滑っていった。ウォータースライダーは宇宙空間と化した。
 後から係員に怒られたのはいうまでもない。

 「よーし。次はアタイの番だな」
 凶悪な笑みを浮かべて凶悪ボディの主が言う。その後ろから榊原。心なし顔にしまりがない。
 「おい…行きたいんなら上条に続きゃよかったろ」
 「おいおい。何を好き好んで男の後に・・・」
 「だったら綾那に続きゃよかったろ」
 「小学生ボディの後に続いても萌えるどころか萎える。やはりそれなりのサイズが」
 「うるさい。行け」
 承知でやっているのかまた榊原が叩き込まれた。続いたのが真理。
 「私こういうの苦手なのよね」は七瀬。
 「わたくしもちょっと怖いですわ」
 「降りようか」
 「そうですわね」
 結局、七瀬と姫子は滑らないで降りてしまった。
 「では、拙者も」
 十郎太も続いた。護衛としては当然か。
 「どうする? 降りるか?」
 みずきがつかさの意見を求める。。本人は滑る気だ。
 「せっかくだから…」
 「じゃ」
 「怖くないように」と言うことなのか手を握っていた。
 すっかり女の子同士の友達だった。それも親友レベル。ともに明かしていないものの男が女になる体質。誰よりもそれが本能的に理解できる。
 ゆえに二人は気があった。

 体の冷え切った一同はジャグジーに出向いた。
 「どうする? みずき」
 七瀬が憂い顔で尋ねる。
 「どうするって…お湯はまずいだろ。いいよ。先に着替えて外にいるから」
 「でもそれじゃみずきさんが」
 「いいよ。姫ちゃん。それに今日はつかささんにつきあったようなもんだし。あっちを優先してやってくれ」
 「みーちゃん…優しい」
 「わかった。赤星。ちょっと待っててくれよ」
 言うなり女子は待たせていた男達に合流した。
 ちなみにつかさはトイレで遅れていた。
 (さて…行ったな)
 みずきは更衣室に出向いて水着から普段着に戻ると、こっそり目当てにしていたカフェに出向く。
 「おおっ。これこれっ。食べてみたかったんだ。ここ特製のオリジナルパフェ。こんな場所に一人じゃこれないし、あいつらいっしょじゃゆっくり味わえないし」
 即座に注文する。来たら来たでニコニコしながら食べていた。
 (美味しいー。甘いもの食べてても変な目で見られない点では女もいいなぁ。みんな。ゆっくり湯につかってこいよ)
 確かに、みんなは気を遣う必要はなかったろう。

 「あの…みずきさんは」
 一人だけいないみずきを思いやるつかさ。
 「ああ…あの子。あの子ね。えーと…実はお風呂嫌いなのよ」
 七瀬の表情が「苦しい言い訳」に見えたが「突っ込まないほうがいいかな」と考え言及しなかった。
 「はぁ。生き返りますわぁ」
 姫子の女子高生にあるまじきコメントで完全に突っ込む気がなくなったつかさだった。

 (お…きたな。姫ちゃんの着替えの遅さを見越してパフェ二杯目頼んだが問題なかったようだな)
だがつかさが「待たせてしまってごめんなさい」と言う表情だったのでフォローでにこりと笑い
 「楽しかった?」と尋ねてた。
 「はい。とっても」
 (よかった。どうやら朝のことは吹っ切れたな)
 「あの…ありがとうございます。痴漢から助けていただいた上につき合わせちゃって」
 「いいさ。どーせみんな暇だったし。ところでさ。夜まで大丈夫?」
 「うーんと…連絡だけ入れればたぶん」
 「そりゃよかった。実は花火大会があるんでさ。みんなで行くつもりだったんだ。どーせなら一緒にどう?つかささん」
 「はい。喜んで」
 言葉どおりだった。だが、ちょっと翳りがあったつかさの顔。

 一度解散してそれぞれ出直すことになった。水着を置いてきたり、着替えてきたり。
 つかさはみずきの勧めで浴衣を借りることになった。ピンク色の可愛い浴衣。桜の花びらがあしらってある。
 「わぁ。ぴったりね」
 貸してくれたのはみずきの妹…実は弟の薫。みずきがどちらかと言うと丸顔の童顔なのに対して、彼女は中性的な美人タイプだった。
 「あの…お借りしちゃったらあなたが困るんじゃ」
 「平気よ。あたし三着持ってるもの。一番のお気に入りは着て行くけど」
 安堵するつかさ。さすがに人のをせしめたのでは気分もよくなかろう。

 「ちょっと。何もわざわざ」
 鏡台の前で抵抗するみずき。当たり前だが彼女に浴衣の着付けは出来ない。瑞枝にしてもらったが
 「ダメよ。せっかくだもの」
 化粧することを主張。結局薫との二人掛かりで押さえ込まれてメイクを余儀なくされた。
 そのままつかさの前に。
 「わぁ…」
 プールでは日に焼けた肌だったが白く。そしてピンクの唇が艶やかに。つかさは素直に感嘆の声を上げた。
 「どうかしら?」
 自慢げな瑞枝に尋ねられた。
 「可愛いです」
 まったくの本音で答えた。
 「よかったわぁ。それじゃ今度はつかささんね」
 「え?」
 予期せぬ言葉に呆気に取られるつかさ。その両サイドからみずき。薫の兄弟・・・姉妹・・・姉弟が押さえ込む。
 「こうなりゃ道連れだ。薫。手伝え」
 「はーい」
 「ちょ…ちょっと」
 美人と美少女の三人に強引に鏡の前に。鏡台の前だと『メイクをする気分』になり素直に座ってしまった。しっかりとメイクされてしまった。
 「わぁ。可愛い」
 メイクされたらまた雰囲気が変わった。着た衣装で印象の変わる彼女に
 (女は変わるなぁ…)と考えていたみずきだった。

 夜。みずき。薫。七瀬。そしてつかさが会場へ。薫は黄色いひまわりをあしらった浴衣。七瀬は若草色の浴衣。 みずきは青い浴衣だった。
 既に駅からすごい人の波。
 「わっ」
 どこか不安定なつかさが人波に流された。だが七瀬のダンシングクィーンがとっさにつかさの腕を掴んでいた。
 つかさは三人と距離があるのに、どうしてつかまったのか理解できず混乱していた。

 会場に着くと揃っていた。
 モデルのようなスタイルのよさを誇る真理。だが金髪と大きな胸は浴衣には合わない。
 だからかどうか、今度は彼女がキャミソールとミニスカートだった。
 反対に榊原はがっしりした体格が手伝い、浴衣がよく似合っている。

 しかし和風を絵に描いたようなこの二人には負ける。
 十郎太はすらりと細身で、眼光が鋭い。忍者と言うより侍。着流しと言う感じで粋に見えた。
 そして姫子。和風の二人はかなりしっくり来る。
 今度は髪の毛を編んでうなじを見せていた。
 水着のときは胸元がちょっと寂しかったけど、この場合は胸の薄さがむしろしっくりくる。

 上条はなぜか居あい抜きのようなポーズを取っていた。
 「いや。花火見物でアン○ウンと戦う場面があって」
 こののりについていける人間はめったにいない。つかさもうなるだけだ。
 「ねぇ。可愛いかな」
 綾那もピンクの浴衣。彼女の場合。背と胸のなさが手伝い、子供みたいだった。

 「みて。上がったわ」
 七瀬の声でつかさとみずき。一同も見上げる。
 最初の一発が夜空に大きな花を描いた。
 「きれいですわ〜」
 どこかのほほんとした姫子の言葉。一同も同じ思いだった。
 「ホントですね」
 「うん」
 つかさはなれない場所。みずきは転倒防止で手をつなぎながら、二人は花火を見ていた。

美少女三人に見えて実は本当の女の子は一人だけ(笑)

このイラストはOMCによって作成されました。クリエイターの参太郎さんに感謝。

 花火も中盤でつかさはみずき連れ出して人ごみから抜け出した。
 「なんだよ。いいとこなのに?」
 「ごめんなさい。でも…やっぱり黙っているのは心苦しくて」
 優しければ優しいほどウソをつき続けるのが苦しくなってきた。せめてみずきにだけは明かそうと思った。
 「あのです…もしも…もしもあたしが…実は男だとしたら?」
 「え?」
 (あ…村上の言う言葉が当たっていたのかな…でも、そうだとしても)
 みずきはとぼけにかかる。
 「実はニューハーフ?」
 「いえ。そういうわけでは」
 現時点では完全に女。つかさの言葉にうそはない。
 「あのさ。その浴衣を貸してくれた薫。あいつは男と思う? 女と思う?」
 薫の外見。そして聞いた年齢を思い出す。導かれる答えはどうしても一つ。
 「女の子?」 
 みずきは首を横に振る。
 「うそっ? あんなに綺麗なのに男の子?」
 驚くつかさ。
 「まぁね。何しろ胎教で女の子と言う意識を持たされて。だから物心つく前から女として過ごしていたし。
ちょっとみただけじゃ胸のない女にしか見えないだろ」
 聞けば聞くほど驚きが増すつかさ。
 「アンタ。ちゃんと胸あるし。水着姿もみたけどどう見ても女じゃないか」
 みずきはつかさをこの日は完全に女として扱うことに決めた。自分もこの日だけは女で通そうとも。
 それにやはり実は男なんて思えなかった。前述の言葉どおり少女としての水着姿も見ていたのでなおさらだ。
 「まさか同じ体質の人間がこの世に二人いるとも思えんし」
 「はい? なんでしょう」
 「ああいや。なんでもない」
 とりあえずごまかす。逆に改めてみずきからの質問。
 「じゃあさ…もしもさ…オレが実は男だなんていったら…信じるか?」
 反対に問いかけてみた。
 「とてもそうはおもえません」
 「それでいいんだよ。見た目なんてあてにならないし。男でも女でもなく、オレはオレだ。
だからアンタも『二村つかさ』でいればいい」
 もしも『同類』だとしたら、おそらくは『匂い』を感じ取ったはずだ。その上でのこの言葉。つかさもみずきを女扱いしたことになる。
 (それでいいんだよ…いや。いいのよ。今日だけは…女同士。一日だけの親友よ)
 何か納得したのかつかさの表情も晴れやかに。二人の少女はどちらからともなく笑顔を向け合う。
 手をつないで一同の元へと戻っていった。

 この日だけは女の子同士。

 花火大会が終わり、浴衣を返すべく喫茶店へ。
 そして別れの挨拶。
 「今日はありがとうございます。あの…」
 「また会えますか」と言う言葉をつかさは飲み込んだ。みずきも困ってしまった。
 連絡のとりようがない。 
 もしも電話がかかってきたときに男だったら…やはり今日一日だけの付き合いになるみたい。
 (そっとしておこうか。大変そうだし)
 「じゃあね」
 みずきも「また」とは言わなかった。

 そして・・・暫くして。夏休みのある日。
 地元で男姿で歩いていた瑞樹は恐喝の現場を目撃。
 被害者は逃がしたが、追跡防止でチンピラ三人を食い止めるべく戦っていた。
 野次馬が取り囲んでいる。

 彼はチンピラに無数のけりを見舞う。
 「スタークラッシュ」
 吹っ飛んだチンピラが跳ぶと野次馬がさあっと離れる。一人の少年と対面する形に。どこかで見た顔に。

 瑞樹と『少年』の視線が合った。


製作秘話

 『城弾シアター』十万ヒットの記念企画です。
 特別読みきりでクロスオーバー。
 ゲストは『着せ替え少年』の二村つかさでした。

 『着せ替え少年』については七号館にあるシリーズを読んでいただく事になります。
 たぶん『少年少女文庫』さんの読者にとっては僕の代表作はそちらのほうになるんじゃ。

 元々は本編でやるつもりでした。
 みずきが文化祭で舞台に立つことになり、衣装を選ぶべく渋谷に出向いたら女の子と知り合い一日女同士として過ごす…と。
 二転三転して両方とも実は男と言う事態に。

 あと夏のエピソードは多かった「PanicPanic」でしたが浴衣とかプールはやってなかったので
(海水浴と温泉は#14『センチメンタルジャーニー』でやりましたが)そのやり直しも。
 花火はむしろ姫子に浴衣を着せたかったからと言うのが本音ですが(笑)

 こういうザッピングは一人称同士だといいんですけどね。
 かといってこれだけ一人称だとなんか変だし。
 みずきの心情を中心とすることで代わりとしました。

 パロディネタ。
 上条の雄たけびは『仮面ライダーアギト』のギルス。とにかく水に落ちるキャラだった。
 同じくアギトなのが『花火大会でアン○ウン出現』。
 後は一目瞭然のなで割愛。

 実はこのエピソード。つかさ視点のものがあります。
 制作方法としてはまずはつかさ視点の物を書いて、そこからセリフをコピーしてパニパニサイドで描写…でした。

 そのつかさ視点の『着せ替え少年番外編〜SummerDays.and Yet」は少年少女文庫さんに投稿してあります。
 つまりこの2作品が結んでくれてます。
 文庫さんに掲載されるとたくさんお客さんが着てくれるので、いつもお土産を考えてました。
 今回はこちらが『着せ替えの反対側』になって良いかなぁ・・・と。

 考えてみればあちらは一人称。
 だからこれも本編でやりたかった『誰かの視点からのみずき達』と言うのが出来て満足してます。

 このころはちょうど姫子を助けに行く話でバトルばかり書いていたから、ほのぼの路線はほっとしましたねぇ。

 それではまた。本編で

 一号館へ

 『少年少女文庫』へ

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