PanicPanicEX
New Generation

Presented by 城弾

 桜まう四月。進級・進学の季節。
 無限塾においてもみずき達は二年に進級していた。
 ちなみに未だに奇跡的に体質はばれていない。だから未だに女姿のみずきである。
「ったく。慣れたつもりでもやっぱり女の体はめんどうだな」
 相変わらずそれに文句を言っている。
 今は登校する為にシャワーを浴びてきたところ。そのまま下着から女物に。女の下着は男に比べて枚数が多い。それを億劫がっているのだ。

 ただ女の自分も受け入れられて、少しは女の身だしなみにも気を使うようになってきた。
 今もリボンを鏡の前でチェックしている。
「ちょっと…暗いんだけど」
 抗議をするのは鏡台の前に座っていた同じ制服の少女。ちょうどみずきが影を作っている形だ。
 明るい色のロングヘアをポニーテールにまとめている最中だった。卵形の輪郭の美人顔。
 身長158センチと「姉」より四センチも高かった。
 3サイズは上から81 56 80だった。
 その少女。赤星かおる。みずきの「妹」だった。
 しかしこの「姉妹」。生まれたときはともに男。
 基本的には男である。
 共通するのは体質もだ。
 三十度以下の水を被ると、両者ともに基本である少年の肉体から少女へと変貌する。

 瑞樹は幼い頃からその女顔などで散々女の子と間違われてきて辟易としていた。
 男の子としては甲高い声。低い身長。それも嫌だった。
 だから大きくなれば、成長すれば立派な男になれると思っていたのに、よりによって水を被ると女になる体質に。
 女に間違われるどころか、女の子になってしまった。

 その体質になったのが中学三年生の夏。
 後半は病み上がりを口実に水泳の授業は回避。なんとかばれずに卒業したが疲れ果てた。
 同じことを三年間通す自信もなく、そして瑞樹は学校で水をかぶり変身体質がばれるのを嫌い、初めから変身して登校することに。
 つまり女子高生としての高校生活を余儀なくされていた。

 最初は女としての生活に戸惑いもしたが、女社会に順応するにつれて仕草なども女性的になって行った。
 女の肉体で、女の服を着て、視線を浴びていればいやでも女性的になって行く。
 一時は心まで完全に女性化したがなんとかそこからは戻った。
 しかしそれがきっかけで「女の自分」を認め、女姿のときはなるべく女らしく振舞うようになったみずきである。

 前述の完全女性化のときは腰に達するロングヘアだった。
 さすがにそこには至らないまでも、二年となった今は背中に達するロングヘアの根本をリボンで結んでいた。
 肌も白い輝きを増していた。綺麗になった。
 進級して二年生。五月末の誕生日がくれば17歳の「乙女」である。

 一方の薫。
 瑞樹の弟として生を受けた彼だが、最初の子供が男の子で「次は女の子が欲しい」と願う母の胎教のせいか女としての人格を有していた。
 もしかすると性同一性障害だったのかもしれない。そこに何かと女扱いする母の影響で見事に女の人格に。
 小学生のころからスカート姿だから年季が違う。
 皮肉にも自分が欲する女の肉体をみずきが得て妬んだこともある。

 みずきがこんな体質になったのは肺炎を起こして意識朦朧としたときに飲んだ薬が、十年以上も経ち変質していた上に数種類を飲んでしまい、体質と薬品と肺炎が重なり今の体質となったからだ。
 解除しようにも何を飲んだか薬をぶちまけてわからなくなっていた…そのはずだった。

 それは執念だった。
 みずきがぶちまけていたと思われた「古い薬品」。実は後から薫が回収していた。
 そう。物陰に薬ビンが転がっていて見つからなかったのだ。それを見つけて回収していた。
 そして体調が最悪のときにさらに水を浴びて体を冷やした。
 気を失う前にその薬を飲んでおいた。ほんの僅かな「奇跡」の可能性にかけて。

 外出から戻ってきた家族が倒れた薫を発見。
 まるで瑞樹のときのVTRでも見ているかのような気すらする。
 すぐさま救急車で病院に運ばせるが既に薬は吸収された後。
 そして体力回復したときに試しに水を浴びたら…
「やった。やったわ。女になれた」
 血縁だけのことはある。同じ条件でかおるも水をかぶると女になる体質になってしまった。
 ただ彼女の場合は望んでである。
 涙を流して喜んでいた。

 もともと女性服を普段着としていたかおる。
 だから逆に比較できて今も体形の違いがよくわかる。
 背中から見ても胸のふくらみはわかるし、張り出した臀部と引き締まったウェストの差異が女の体を演出している。
 全体的に華奢な印象にもなった。
 一年の時のみずきは男の部分を隠そうともしなかったのに、低い背丈と体形。そして甲高い女声の為に秘密を知る友人たち以外には完璧に女として扱われていた。
 かおるに至っては男の肉体のときから女らしく振舞っていたのだ。
 ただ、生粋の女と比べるとやや「女らしさ」が過剰な傾向がある。

「まったく。自分からわざわざこんな体質になるとは。なに考えてんだよ?」
 できるならば完全な男に戻りたいみずきには、わざわざこの体質になったかおるがどうしても理解できない。
「ふっふーん。なんとでもおっしゃい。見てらっしゃい。そのうち完全な女になって見せるから」
 一年生を示す青いリボンを結びながら、妙に艶かしい唇が言葉をつむぐ。
 学校から帰るとすぐさまお湯を浴びて男に戻るみずきと逆に、かおるは極力お湯を浴びないようにしていた。
 さすがに寒い時期は入浴の際に湯船に浸からざるを得ないのでその時間だけは男に戻る。
 だが春で寒さも緩む。
 今のかおるはシャワーだけで入浴を済ませていた。もちろん温度は低め。
 もう足掛け四日は女の肉体のままである。

 このまま固定してしまいたい。完全な女になりたい。それがかおるの願い。
 完全な男に戻りたいみずきとまさに真逆の願いだった。

 無限塾入学式。
 今日はその日だった。新入生を祝うがごとく桜の花びらが舞い散る。
「今日からかおるちゃんもいっしょね」
 栗色の髪の毛の少女。母性的な落ち着きを持つ彼女・及川七瀬はみずき。そしてかおるとも幼なじみといえた。
「うん。よろしくね。七瀬お姉ちゃん」
 まさに女同士の関係になってしまったかおると七瀬。
 七瀬の変化は髪の毛を少し伸ばした。肩口くらいだったものが背中に届くまでの長さに。
 悪い表現だが「色気づいた」と言うところである。
 八月がくれば17歳。おしゃれに気を使っても不思議はない。
 それと本人が気にしていた体形だが、一年前に比べてかなり細くなった。
 成長もあるだろうが絶えず抗争のある無限塾に加えて、みずきが実は男とばれないようにするためのフォローが気苦労となって痩せたと思われる。
 綺麗にはなったがちょっと痛々しい。そこに今度はかおるのフォローも入る。
 もっとも本人はまったく気にしていない。
 元来が世話焼きな性格なのである。将来はよい妻。よい母になるだろう。

 学校に着くと、いきなり校門でもめていた。
「アンタみたいなシスコンと一緒だなんて。お兄ちゃんがいなかったら入学取りやめにするところだったわ」
 みずき達と初めてあったときはオレンジ色の髪だったのが、今ではすっかり艶やかな黒髪。
 それも背中に達するロングになった上条輝が食って掛かる。
 誰の好みにあわせたか。それは言うまでもなかった。
「そりゃこっちの台詞だ。ブラコン。俺だって愛する姉ちゃんがいなかったらここには来てないぞ」
 こちらはほとんど変化のない若葉朝弥。もしかしたらちょっと背が伸びたかもしれない。
「やる気?」
「上等だ」
 今にもつかみかからんばかりの二人。それをそれぞれの兄と姉が止める。
「やめろ。輝」
 輝の兄。上条明も二年生に。目立った変化はない。
 妹を羽交い絞めにして制止する。いきなりとろけた表情になる輝。
「うん。お兄ちゃんがそういうならやめる」
 この兄は筋金入りのオタクである。それを馬鹿にしていたはずの「ギャル」の妹。
 しかし有る一件で兄の男としての魅力に気がついた妹。
 元々小さなころはべったりくっついていた。年頃になるにつれて離れて、同時にオタクと言うことに対して反発してギャルになったが、その反動か見事なブラコンに。
 何しろ一つ屋根の下である。いつも一緒である。

「朝弥もやめなさい」
 こちらは春休み前…一年のときとは大きく変わった綾那である。
 「もったいないから」と前の学校の制服であるセーラー服を一年にわたって着用していたがさすがに
「一年も着たならもういいだろう。無限塾の制服にしなさい」と諭された。
 もったいないからと言うよりデザインが好きで着ていたが、みんなに合わせようと思いこの春から無限塾女子制服に身を包んでいる。
「あれ? もしかして姉ちゃん…胸大きくなった?」
 小柄な綾那が朝弥を取り押さえるためにしがみつく形だ。胸元も密着。それでこのコメントだ。
「バ…バカ。朝弥。明君の前で」
 真っ赤になる綾那。最初は「お姉ちゃん」としてきりりとした表情だったが、恋人である明の前でこれを言われて恥ずかしさに顔が崩れる。

 三人が到着したのはこんな局面だった。
「相変わらずだね。君たちは」
 みずきが呆れたような声で言う。
「よう。赤星。及川」
 軽いノリで挨拶する上条。
「おはよう。上条君。それと入学おめでとう。輝さん」
「あっ。はい。ありがとうございます。えーと…」
「ふふっ。及川七瀬よ」
 優しい笑みで名乗る。
「はっはい。及川先輩」
 上条と一緒なのはよく見ていた。だから年上とは理解していたので敬語である。

 とりあえずはクラス分けを確認する。
「げっ?」「同じクラス…」
 これはシスコンとブラコンの台詞。そして
「あら。あの人たちと一緒みたい」
 のんきなかおるのせりふで三者が同じとわかる。
「一年二組か…去年のオレらと一緒だな」
「教室に案内してあげたら? みずき」
「いいよ。どうせあいつら(上条兄妹。若葉姉弟)も同じだからついていけば…って、いねぇ!?」
「あの人たちなら喧嘩しながら行っちゃったわよ」
「ったく…兄貴と姉貴はあんなにラブラブなのに弟と妹は犬猿の仲だな。しょうがねぇ。連れてってやるから」
「先行ってるね。みずき」
「おう」

 美人姉妹に注目が集まる。
『可愛いタイプ』のみずきと『美人タイプ』のかおる。
 ただ新一年生男子の不躾な視線に不機嫌になりふくれっつらのみずきに対し、いきなり愛想を振りまくかおる。
 やはりかおるの方が性格的には女に近い。

 みずきに先導されて一年二組に。春休みになるまでは使っていた教室だ。うっかりするとそのまま入っていきそうになる。
「ここだよ」
「これが…あたしの女の子としての青春の始まりの場所なのね」
 夢見るようにうっとりと。陶酔しているところに無粋と思ったが、釘を刺さざるを得ないみずきが一言。
「おい。頼むから正体がばれるようなまねはしないでくれよ。オレにまでとばっちりが来るし」
「それはこっちの台詞よ」
 美少女姉妹のどちらかが変身体質と知れれば、もう片方もではと疑惑の目で見られるのも無理からぬ話。
 互いにそれを警戒していた。
 どちらかと言えばまだ男時代から女の扮装をしていたかおるのほうがギャップが少なくてばれにくそうだ。それに姉のようにドジでもない。

「あっ」
 赤星姉妹を見たボブカットの美少女が飛び出してくる。みずきの方が驚いた。
「姫ちゃん? その髪…それにどうしてこの教室に。オレたちはもう進級したんだから…」
「うふふふっ。そんなに姉さまに似てますか? 赤星先輩」
「えっ?」
 戸惑うみずき。それに対して和風の美少女はお辞儀をする。
「私は北条愛子です。姫子の妹です」
「あ…ああ。妹さん。よく似てる…姫ちゃんが髪を切ったかと思った」
 姉の姫子が背中から腰にまで達するロングヘアなら、妹の愛子は肩口くらいのボブカットであった。
 切り揃えられて美しいのは共通だが、妹の方が髪の長さのイメージから行動的な印象があった。
 首には一年を示す青いリボンが。

 実は何度かあっているのだがこの制服姿では初めて。
 それだけに姫子と勘違いした。良く似た姉妹なのもあるが。
 その「姫子の妹」が「みずきの妹」に手を差し出す。
「あなたが赤星かおるさんね。よろしく」
「あ…はい。よろしく」
 握手を交わす。
「ふぅん。こうして握った手も柔らかくて女の子の手なのね」
 危うく声がでるところだった。
「ど…どうしてそれを…」
 この時のかおるには「引っ掛けか?」と考える余裕がなかった。思わずストレートに考えが口をつく。
「心配しないでください。姉さまと同じで口外する気はありませんから。ただお友達になるのに隠し事もなんでしたので」
 驚かせたことに苦笑して愛子はやんわりと言う。
「どうして知ってるの?」
 何とか声をひそめて尋ねるかおる。
「申し訳ございません。去年、姉さまがここに進学した際に新しいお友達の素性を調べさせていただきました。
 みずき先輩にはビックリしましたけど、姿は乙女で心は少年。ステキだなぁと思ってました。
 女性の美しさと男性のさわやかさが同居していて。姉さまとは違うタイプの憧れの女性」
「は…はは」
 口外しない理由には納得したが「憧れの女性」扱いで心中複雑なみずき。
「そうしたら今度はその妹さんが同じ体質になったとうかがいまして。これはぜひお友達になりたいと願ってましたわ」
 未だ握ったままの右手に自分の左手を重ね合わせる愛子。
「だからお友達になりません? 何かと協力させていただきますわ」
 先輩の前だからか、姉・姫子を意識してか普段よりやんわりとした口調。しかし有無を言わせないところがある。
「あ。もうお友達になったんだね」
 教室から出てきた綾那。よく見ると胸元が僅かに以前より膨らんでいる。それでもAカップだが。
「はい。喜んで」
 かおるのほうも左手を重ねる。
(そうか。元々男の体だから過剰に女らしく振舞うところがあるかおるだが、愛子さんと一緒ならそれも目立たないな)
 かつての自分が姫子たちと友達になったばかりのことを思い出して、優しい「お姉ちゃん」の目で見ているみずきだった。
 そして綾那も新しい友情を祝福していた。

別世界で四人ともバージョン違い。

 このイラストはOMCによって作成されました。クリエイターの参太郎さんに感謝!

「まってくれよ。姉ちゃん…なんだよ。お前ら。随分と仲が良いじゃないか」
 揶揄する…と言うよりは不思議そうに言いながら若葉朝弥が出てきた。台詞の前半から判断する限り姉との別れを惜しんでだが。
 彼自身知った顔はそういない。だが二年には愛しい姉がいるし、その友達も顔を覚えている。
 ちなみに女は「友達」で、男は「調査対象」である。
 姉に「余計なちょっかい」をかけられてはたまらない。
 本当は上条との仲も認めたくない。しかしある一件で彼が姉を任せるに足る存在と認めて、渋々ながら上条との仲だけは認めている。
 何しろそれが姉の希望。それを第一に優先したい弟である。

 話がそれたが進学先でいきなり仲がよくなっていたので不思議に思っていた。
 もちろん同じ中学出身と言う可能性もあるが、どうもやり取りを見ていると今仲良くなった感じである。
 まだ新クラスの紹介すらされていないのにだ。

「知らないの? 赤星先輩と北条先輩がお友達なのを。お姉さんから聞いてないの?」
 揶揄するように上条輝も出てくる。
 輝の兄・明と、朝弥の姉・綾那は恋人同士だった。
 極端なシスコンの朝弥と、極端なブラコンの輝はある意味では近親憎悪か、顔をあわせると喧嘩している。
「それがどう繋がって…アンタ?」
 確かに姉とよくいる女の子の顔。しかし髪の長さが。そしてこの少女は一年生のリボンをつけている。
「北条愛子。姫子姉さまの妹よ」
 同年代相手のせいかざっくばらんな口調になる愛子。
「そしてあたしが愛子様の護衛の風間弥生でーす」
 いきなり響く朗らか過ぎる声に驚く。
「えっ? いつのまに?」
「気配がぜんぜん?」
 いつの間にか二つお下げの少女がいた。ニコニコと(何も考えてなさそうに)笑っている。
「そりゃそうですよぉ。こう見えてもぉ、あたし、忍者ですから
「はぁ?」
 この反応も無理はない。ただみずきは弥生の兄。十郎太を知っていたから驚かない。
「あー。信じてませんねぇ。それじゃあたしの調査力を見せちゃいます。例えばぁ赤星かおるさんは本当はお姉さんともども男の子とか」
「このバカ!」
 いきなり殴り倒した同じ顔の少女。
「ひっどぉーい。はぁちゃんいきなり何するのよ?」
 抗議する弥生。
「学校で『はぁちゃん』はやめなさい。姉さんとよびなさい」
 若干照れ気味にポニーテールの少女が言う。
「いいじゃない。双子で年の差ないんだし」
 一卵性なのか髪型以外はそっくりだった。ただそれは顔のつくりの話。表情がまるで違う。
 双子の姉。葉月は生真面目。目も若干つり気味。
 それに対して妹・弥生は笑顔がデフォルト。たれ目気味。
「いいえ。けじめをつけるべき」
 弥生と違い堅物と言うレベルの真面目さの葉月であった。
「と…とにかくそろそろホームルームが始まるからさ」
「?…赤星先輩。顔色悪くないですか」
 心配している口調の上条輝。
「そ…そう?」
 秘密を知る上条明の妹だけに自身の体質を知っている可能性は高い。
 とは言えどわざわざバラスつもりもない。
 しかし愛子。そしてこの双子は自分と妹…弟と言うと本人嫌がるのと学校での体裁を整えるため妹と呼ぶが…とにかくふたりの体質を知る人間が一年にもいた。
 それは充分に顔色を悪くさせる理由であった。

 さすがに弥生のコメントはジョークと解釈されたようだ。
 実は教室の中にも聞こえていたが誰も騒がない。
 ただ一人の『男子生徒』…渡辺千明だけが表情を硬くしていた。

 時間が来てみずきや綾那も新しい自分たちの教室へと去って行った。
 そしてかおるたちも自分たちの教室に戻る。
 暫定的に出席番号順に振られている席に着く。
 女子で最初のかおるは二列目の最前。
 前方の入り口に近い椅子が男子の一番。そこから順に六番までが続く。
 交互になるので女子一番のかおるがその位置だ。
 出席番号は「姉」同様に31番だ。

 その彼らの前。教壇にスーツ姿の女性が。
 切れ長の目が印象的。メガネがなければもっと鋭いイメージだったろう。
「諸君。入学おめでとう。私が担任の榊原涼子だ」
 若いが甘さのない、高すぎず低すぎない声で宣告する。
 彼女はみずきの友人。榊原和彦の姉である。

「君たちは高校生活が初めてだが、私も教師一年目だ。一緒に精進しよう」
 新米教師をいきなり一年生の担任につけるとは、さすがは無限塾と言うむちゃくちゃさである。
 そしてまったく動じていない涼子の心臓もたいしたものである。
 彼女はあくまで冷静…むしろ「冷徹」に話を続ける。
「一つ注意だ。女子生徒の諸君は二年生の『榊原』と言う生徒に接近しないことをお薦めする。この警告を無視した場合、君たちはもう妊娠可能な体と言うことを存分に思い知る羽目になる」

「えーっくしょいっ」
 2−2の教室で榊原和彦が盛大なくしゃみをした。
「風邪かしら? 榊原君?」
 尋ねるのは一年のときからの担任である氷室響子。彼女も霊能力者と普通の人ではなかった。
 クラスメートの一人。小山ゆかりが交通事故で死亡すると言う不幸はあったものの、きちんとクラスをまとめていた。
「イヤァ…」
 くしゃみをした少年(?)榊原和彦。
 頭脳明晰。そしてクールで大人びている。というか実際に「大人の男」の行動をしている。
 彼には予知能力がある。大抵はボーっとしているときに閃く形で「降りてくる」。
 夢に見ると言うのが一番多いケースだ。
 それで馬券の情報や当たるパチンコ台を見抜けるためサラリーマン程度の月収があった。
 未成年であるのだが顔が老けていて、ちょっと無精ひげを蓄えておじさんぽい服を着ていたら大抵の年齢制限はスルー出来たのでギャンブルも出来た。
 学校では優等生だが実は結構とんでもない男である。

 その彼の実姉が新しい一年二組の担任。教師一年目で担任を持つ。
 プロ野球ならルーキーが開幕投手のようなものだろうか。
 「この感じは…姉貴が一年のクラスで何か口走っている感じですよ」
 この弟は姉を苦手としていた。まさか在学中に教師としてくるとは…学校でも顔をあわせることになり憂鬱な和彦であった。

 その姉は一年二組でのホームルームを無難にこなしていた。
「さて。諸君から私に何か質問はないか?」
「はいはーい」
 軽薄なノリで金髪の少年が手を挙げる。
 この学校。無限塾は基本的に「来るものは拒まず」である。
 したがって貧富の差。学力の差。そして優等生も不良も関係なく一緒だった。
 ただし、不良に対しては猛烈な指導が待っている。
 その熱血指導に音を上げて退学するか、すっかり更生するかのどちらかだった。
 とにかくなんでもありの学校なのでこんな金髪少年くらいは珍しくもない。
「3サイズは上から88.58.89.今日の下着の色は紫。他に質問は?」
 セクハラに先制攻撃の涼子。どよめく教室。だが少年はめげない。
「それじゃ今までの男性遍歴を?」
「いない。今まで私の眼鏡にかなう価値のある男がいなかった。もちろん体も許してないぞ。他に質問は?」
 毅然としてこうまで言われるともはや何も言いようがない。
 金髪の少年…江川裕一は黙って手を下げた。

 入学式だ。講堂へと移動する。そしていきなり

「わしが無限塾塾長。大河原源太郎である」

 「洗礼」だった。
 まるで知識のない新一年生はたまったものじゃない。
 しかし確かに塾長の顔と名前。そして声の大きさは覚えた。

 が、さらに

「おーっほっほっほ。私が生徒会長の橘千鶴よ。おーっほっほっほ」

 縦ロールの髪も印象的だったが、とにかく高周波の高笑いが講堂に響き渡る。
 嫌でも誰が生徒会長か認識することに。
 おかげで他の形式どおりの祝辞などは耳に入らなかった。

「効いた…」
 しかめっ面の若葉朝弥。
「あう〜〜〜。まだ頭の中でがんがんなってるよぉ」
 忍びは耳がよい。それが裏目に出た弥生は耳鳴りに悩まされていた。
 ふらつきながらも講堂から教室へと戻る。
「しっかりしたまえ。塾長や生徒会長とは毎日嫌でも顔をあわせるのだ。慣れるしかないぞ」
 あくまでクールな涼子。
「さて。明日から授業に入るが、この際ここでちゃんと座席を決めてしまおう」
 言うなり彼女は細かく折りたたんだ紙片を入れた大きな封筒を見せる。二つある。
「この中にクジが入っている。それが一学期の君たちの座席だ。もちろん視力のよくないものは前に出すし、身長の高いものは後ろに回ってもらったりと調整もするが」
 そしてゆっくりと歩き出す。
「赤いシールを貼ってあるのが女子。青いシールは男子用の椅子のクジだ」
 交互になるように調整してある。かおるは女子一番でくじを引く。約十分かけて男子最後の渡辺千明が残った一枚を取ったところで開封。
 その番号の座席が一学期の指定席だ。
「げ? 教壇のまん前?」
「あらいいわね。特等席じゃない」
 朝弥に混ぜっ返す輝。
「うるせー」
「おほほほほ。ほざきなさい。さて。あたしは窓際の一番後ろなんて最高なんだけど…げっ?」
 「特等席」だった。つまり
「「こいつがとなり〜〜〜〜?」」
 同時に相手の顔を指差してしまう朝弥と輝。
「あらあら。仲がいいわね」
 アクティブな性格だがさすがに姉妹。姫子と良く似た言い回しの愛子。
 彼女が窓際の一番後ろだった。

 愛子のそばになった風間姉妹。結果として窓際に。クジに細工をしたのは言うまでもない。
「葉月。弥生」
 突然窓から声が。一人の少年が上の階からぶら下がっていたのだ。
「兄上」「あっ。お兄ちゃん」
 名前を呼ばれた二人の少女が駆け寄る。
 少年は二人の兄。風間十郎太であった。愛子の姉。姫子の護衛として同じ教室にいた。
「しっかりやっているか?」
 様子を見に来るならもう少し目立たない方法を選ぶべきであった。
「よいか。おぬしらも高校生。愛子様の護衛と言うお勤めをキチンと果たせよ」
「はっ。心得ております。兄上」
「もう〜〜〜〜心配性なんだから。お兄ちゃんてば〜〜〜〜」
 本当に血が繋がっているのか疑いたくなるほど正反対の対応をしている双子。
「うむ。その心意気やよし。では愛子様。拙者はこれにて御免」
 器用にロープの反動を利用して自分の教室に窓から戻っていった。

「あたしはどこかな?」
 かおるがクジの番号をよく見ると教壇の正面の烈。ただし一番後ろ。着席する。
(うわ。十センチ低くなるとこんなに見え方違うのね)
 158センチのかおる。女子としては極端に小さくはないが大柄でもない。
(どうしよ。もうちょっと前の方に変えてもらおうかしら?)
などと考えていたらとなりの生徒が来た。
 身長は約170センチ。細身。端整な顔立ち。一番の特徴は長い髪。さらさらで背中までのストレート。
 前髪まで揃っているので学生服ではなく、女子制服を着せたら似合いそうな雰囲気だった。
(この男の子…三月までのあたしみたい。でもやっぱり男の子の体形だわ。身をもって知ったのでよくわかる)
 つい観察してしまった。そんなかおるの不躾な視線をものともせず「少年」は
「よろしくね。あ…ぼく渡辺千明」
「あ…こちらこそ。あたし赤星かおる」
 ボーっとなるかおる。
(やだ? あたし顔赤い? それにしても男の子にときめくなんて…やっぱりあたしの心は女なのね)
 美少年がとなりで、前に移動することなどどこかに行ってしまったかおるであった。

 これが運命の出会いとはともに気づかず…

 高校生活一日目が終了した。校舎の入り口前でたむろする一堂。
 かおるはみずきや七瀬を。愛子は姫子たちを。輝は明を。朝弥は綾那とそれぞれ兄や姉を待っていた。
 葉月と弥生は十郎太を待っているのではなく、愛子に付き従っていた。そこにだ!
「赤星みずきィ!」
「えっ?」
 かおる目掛けて小男が棒を振りかざして飛んできた。
「危ない!」
 後方から二つの影。千明がかおるを庇いながら棒を受け流し、江川裕一がどこから持ってきたのか大きなハンマーを振って迎撃する。
「おっと」
 小男はまさにサルのように身軽に飛びのく。
「なかなか血の気の多い奴らだ。一年か? ふっ。一年に守られるとは腕が鈍ったか。赤星みずき」
 攻撃を仕掛けてきたのは悪漢高校と呼ばれる不良学校。その「総番」直属の部下にして幹部の四季隊メンバーである春日マサルだった。
 経緯は聞いていたので人違いとすぐにわかった。
「あ…あたしは違う。お姉ちゃんと間違えないで」
「んっ? いわれて見れば赤星みずきより胸が薄いな」
 ブチッ。
 胸が薄いといわれて怒る辺りは本当に女心のかおる。
「なんですってぇ」
「おっと。間違えたのは悪かった。挨拶代わりだったがな。そして今日の俺はただの『引率』だ」
「引率?」
 かおるを抑えながら千明がつぶやく。
「そうさ。赤星の妹と言うことはお前…いや。お前らみんな一年か。ならちょうど良い」
 春日が指を鳴らすと大男と小柄な少女が。
 大男はたてがみのような長い赤い髪で顔の右には傷が。右耳にピアス。
 少女はウェーブの掛かった長い髪をなびくままに。こちらは左耳にピアスを。両者のピアスは対になっている。
「やれ。獅子原。つばめ。お前らの高校デビューだ」
 春日の指示で力を込める獅子原と呼ばれた巨漢。
「ぬあああああ」
 手のひらに火花が走る。
「サバンナハウリング」
 両手を突き出す。そして気の塊が打ち出される。
「はっ」
 それをあっさりと受け流す千明。
「赤星さん。上条さん。北条さん。風間さんたちはあ…僕の後ろに下がって」
「こしゃくな」
 先制攻撃を流されて獅子原は頭に血が上る。立て続けに撃ってくる。
 だがそれを華麗なテクニックでさばく千明。
(うそ…かっこいい)
 その凛々しさにかおるはときめいてしまう。

「はいはーい。あたしもいるの忘れないでねぇ」
 獅子原の砲撃にまぎれて、つばめと呼ばれた少女が文字通り燕のように宙を舞う。しかし
「忘れるもんか。君が来るのを待ってたよ〜ン」
 緊迫感台無しの裕一の台詞。高速で飛来していたつばめの攻撃をまともに食らっていながら
「ねぇねぇ。住所と電話番号教えてよ。つばめって名前? それとも苗字」
 手帳まで出してナンパに勤しんでいた。
「ふ…ふざけないでよ」
「怒った顔も可愛いねぇ」
 言うなりつばめに抱きつき、そのあまり立派とはいえない胸元に顔をうずめてぐりぐりと。
「きゃああああっ。気持ち悪いっ」
 何とかして振りほどくが今度は背中に回りこんだ裕一が、つばめの背筋を人差し指でなぞっていた。
 ぞわわわわ。悪寒に今度は悲鳴も出ない。

(はぁちゃん。加勢しなくて良いの?)
(私たちは愛子様の護衛。彼らが陽動と言う可能性もあるわ。だから愛子様の傍を離れちゃダメ)
 双子忍者はそれで手を出さなかった。その護衛対象の愛子は
(うわぁ。姉様たち二年生ならともかく、一年にもこんな使い手がいるとは。面白くなりそうですわ)
 完璧に状況を楽しんでいた。

(ちょっと。私の傍から離れないでよ)
 明と違い格闘の出来るわけではない輝は足がすくんでいた。それでいて口は達者だ。
(わかったからしがみつくなっ)
 朝弥はそれで動けなかった。
 もっともこの日に初めて出会った面々。いきなりコンビネーションが成立するはずもない。
 千明と裕一にしても千明が守りに。裕一が攻撃に徹しているので上手く行っているだけだ。
 ここに他の誰かが出ても混乱させるだけでプラスにはならない。
 揃いのピアスから見て敵のふたりは昔からのコンビと見てよさそうだし。
 結果として「引っ込んでいる」形だった。

「おのれぇ。怪しげな技を」
 つばめは怒ると言うより恐怖していた。
「どっちかと言うとナンパのテクだけどね」
 自分で言い切る裕一。

 一方の獅子原も遠方からの攻撃が手詰まりになってきた。
 しかし接近戦は苦手なのか、それとも慎重なのか詰め寄っては来ない。それどころか
「貴様。壁に甘んじるつもりか?」とまで。
「壁でかまわない。あなたが引き下がってくれればそれでいい」
 美少年の凛としたこの口調に、修羅場と言うのにかおるはくらっと来た。
(もしかして…恋? 体が女になったからかしら。ちゃんと男の子にときめくわ。また一歩、本当の女の子に近づけたのね)
 真面目に戦っている千明に対して不謹慎である。

「何をしている。獅子原。同じ一年相手にびくついているのか!」
 春日が怒鳴る。
 幹部を怒らせて焦りが出来たのと、この言葉がプライドを傷つけ
「うぉおおおおおおっ」
 彼は突進を選んだ。
「!」
 身構える千明。後ろにかおるたちがいるのでよけるわけには行かない。
「ハンティングクロー」
 まさに獅子の爪が振り下ろされる。凄まじいパワーで千明も受け流しきれない。
「きゃあっ」
 女のような悲鳴をあげて彼は吹っ飛ばされた。
「くくく。他愛もない」
 やっと倒して満悦していたがそれが油断だった。
「えーい」
 甲高い声がしたかと思うと上から弥生が飛び込んできていた。
「な? いつのまに…」
「こっちにもいるぞ」
 今度は下からだ。気をとられているうちに葉月が走ってきていた。
「夜叉襲・天」
 スカート姿にもかかわらず弥生のとび蹴り。避けるのがもう間に合わないので素直にガードした。しかし
「夜叉襲・地」
 遅らせて出た葉月の足元への攻撃がヒットする。こちらのガードが疎かになっていた。
 このコンビネーション。場合によっては葉月が先に相手の前にでることもある。
 つまり読みあいなのだ。
「ぬおっ」
 下半身を攻められ崩れ落ちる巨漢。
「今だ! 行くぞ。弥生」
「うん! はぁちゃん」
 駆け寄るふたり。体勢を立て直している獅子原に、葉月の攻撃が当たった。
「食らえ。兄上譲りの」「ふたりががりだけど」
「不動明王陣」
 二人がかりの乱打。連打。これでは獅子原もたまらない。
「ぐおおおおーーーーっっっっ」
 まさに獅子のように咆えて、そして気絶した。

 そのころ…
「ねえねえ。住所と電話番号教えてよぉ」
 裕一はまだ戦って…いや、ナンパしていた。
「しつっこいねぇ。これでも食らいな」
 つばめは高く舞い上がり脚を見舞う。
「スワローダイブ」
 地上すれすれの獲物を狙うつばめのような動きだった…が。
「ふんっ。真剣白刃取りっ」
 これを見事にキャッチしていた
「……うそ……」
「ふぅ。照れ屋だなぁ。それじゃオレもお返しに技を使っちゃうかな」
 不気味に両手を広げる裕一。どう見ても「抱きしめたい」と言うモーションだ。
「ラブ技。キス・イン・ザ・ダーク」
「なんなのよ〜〜〜〜。その『ラブ技』ってのは〜〜〜あっ」
 後は言葉にならなかった。何しろ裕一のキスでつばめは肺の中の酸素をほとんど吸い尽くされていたのだから。
 後は悶死した屍が転がるだけだった。ぴくぴくと指先が痙攣してるのが憐れを誘う。
「ふぅ。ごちそうさまでした」
 合掌して律儀に礼を言う裕一。
(あー……今年の一年は不作だわ)
 これでも一番見所のある二人を連れてきたのに、みずきや上条ならまだしも一年に倒されるようでは…
「もういい。帰ろ」
 すっかり投げやりになった春日は二人の回収だけ命じて、さっさと帰途についてしまった。

 風間姉妹。千明。そして裕一の『高校デビュー』だった。

「大丈夫?」
 必死に守ってくれた少年を気遣うかおる。
「平気。君たちも大丈夫?」
 逆に気遣う辺り性格のよさが伺える。
「はい。おかげ様で」
 風間姉妹が出撃した後の愛子は輝と朝弥が守っていた。
 この二人はそれぞれシスコンとブラコンで、その兄と姉が恋人同士だから何かと衝突する。
 しかしそれは似たもの同士と言うものではなかろうか。
 今もどちらからともなく愛子のガードに回った。
 きっかけがあれば、逆に兄たち同様にくっつくかもしれない。

「大変。血が出てる」
 確かに獅子原にはじきとぎされた際に千明は左手の甲をすりむいていた。
「ああ。かすり傷ですから」
「手当てしなくちゃ。お礼もしたいし、あたしの家に来て下さい」
「はぁ。別にかすり傷なら保健室でバンソーコーでももらえば良いじゃん。わざわざつれてかなくっても」
 後ろから朝弥のそんな声が。それを「しばき倒す」輝。
「だからアンタは馬鹿なのよ。このシスコン。口実に決まってんじゃない」
「口実? なんのだよ」
「決まってんじゃない。彼ともっと仲良くなるためよ。きゃー。闘いの中で芽生えたロマンスね」
「なに言ってんだか…」

「いや。本当に大したことないから。帰らないと」
 何故か慌てて拒絶する千明。
 今の闘いは成り行きだが、どうも人との係わり合いを避けたがっているように見える。
「えー。女の子に恥をかかせないでください」
 潤む瞳で身長170センチの千明を見上げる158センチのかおる。
「う…」
 その攻撃はブロッキングできなかったらしい。
(あらあら。女の子になって間がないはずなのに、完璧に『女の武器』を使いこなせてますわね。やはり間違えて男の子に生まれてきたと言うのが正解かしら?)
 姫子ばりの笑顔でいながらやっぱり俗っぽい考えの愛子。
「わかりました。それではお言葉に甘えて」
「オレもいいよな」
 割って入ったのは裕一。露骨に嫌そうな表情のかおる。
「おいおい。そりゃないだろう。オレだって君らを守るために戦ったんだぜ」
「ソレハドウモアリガトウゴザイマシタ」
 まったく誠意のないかおるの「お礼」。
「つれないなぁ。あっ。ちょっと待ってよ」
 ちゃっかり腕まで組んでいるかおる。戸惑う千明の二人を追いかける裕一。

 見送った形の五人の少年少女。愛子が言う。
「皆さん? のどが渇きません? お茶にしましょうよ。いいお店知ってますのよ。『レッズ』ってお店なんですけど」
「愛子さま。さんせーい」
「あの…それはあまりに悪趣味ではないかと…」
「楽しければいいじゃないですか。そちらのお二方もいかがです?」
「まぁ別にいいけど」

 六畳間のかおるの部屋。
 ベッドがあるのであまり広い印象ではない。そこに八人である。狭いことこの上ない。
「ちょっと…そっちの五人はお店に来たんじゃないのかしら?」
 邪魔されて不機嫌なかおるはそれを隠そうともしない。
「いや…俺もそのつもりだったんだけど…」
「あっという間に…ねぇ」
 歯切れの悪い朝弥と輝。確かに当人たちは喫茶店に来たつもりだった。
 だがそれをみずきとかおるの母。瑞枝があっという間にかおるの部屋に通してしまった。
 真新しい制服。かおると同じ青いリボンの女の子たち。それと一緒だしいきなりかおるがボーイフレンドを連れてきたと喜んで部屋に上げてしまったのだ。
 もっとも七人もの、それも恐らく喫茶店の方のではない来客にテーブル二つふさがれてはかなわないと言うのもあるかもしれない。
 かおるの客なら本人の部屋で…と言うわけだ。

 愛子。弥生。葉月。輝はベッドに腰掛けている。
 男子三名。千明。裕一。朝弥は床に。さすがに座布団は用意してある。
 かおる自身は机の前の椅子に腰掛けている。
 ちょっと待ってもらって着替えた。
 今はピンクのブラウスと赤いミニスカートという可愛らしい格好になっている。
 すらりと伸びた脚線美が女であることを雄弁に物語る。もちろん千明を悩殺する目的だ。

「はい。これでいいかしら」
 左手の傷を消毒して大き目の絆創膏を貼り付けた。
「ありがとう。もう大丈夫」
 にこっと微笑む千明。
(自然に微笑むわねぇ。女の子相手でも緊張してないし。意外に慣れているのかしら? ううん。きっとお姉さんや妹さんがいるのよ。だから女の子になれているに違いないわ)
 随分と自分勝手な解釈ではあるが…
「確かに大した物だったぜ。何か格闘技でもやってたのかい」
 女が相手でも男が相手でもまったく変わらない軽い調子で話す金髪の少年。裕一。
「う…うん。合気道をちょっと…痴漢対策で…」
「「「痴漢?」」」
 一同のこえがハモる。慌てて否定する千明。
「い…いや。おねえちゃ…姉さんが会社帰りに寂しい道を通るから、迎えに行くので。それにほら。僕自身もこんな髪型のせいか…」
「え? 男なのに痴漢されたことが?」
 こくんと頷く千明。
「まぁ…間違えてもしょうがないかな。渡辺君。細いし、顔綺麗だし」
(ほんと…三月までのあたしみたい)
 正確には今でも半分は男なのである。
 この性格でこの体質になったものだから見事に女の子しているように見えるが、調査して体質のことを知っている愛子。葉月。弥生の目には少々「女の子らしすぎた」。
 やはり女の肉体ではなかった故に過剰になった名残だろう。
「あ…あの…」
 裕一と朝弥は胡坐をかいているが、千明はきちんと膝を揃えて正座をしている。
 そのままもじもじと。
 いたたまれない空気だったが
「みんな。お茶を持ってきたわよ」
 半分上ずった声でみずきが紅茶ポットを運んできた。
 今のみずきの格好は薄いピンクのワンピース。スカートの裾が大きく広がる可愛らしいタイプだ。
 背が低いので可愛らしい格好がよく似合っていた。
 一時は心から女になったみずきだが、この時点では本来の男の性格に戻っている。
 この格好は店の手伝いの関係でしていたのである。
 わざとらしい女言葉はかおるに恥をかかせないため。
 いつものように男言葉ではかおるの顔を潰しかねない。「なんて言葉遣いの姉だ」と。
 みずきなりに気遣っての処置だ。

 ボーっとなっているのが朝弥。可愛らしい格好にやられたようだ。
「わぁ。可愛いワンピースですね」
 実は意外にやり手なのか。いきなり服を褒めた千明。そして
「お姉さんですか?」
 瞬間移動でもしたかのようにあっという間にみずきの目前に移動していた裕一。
「え…ええ」
 辛うじて男の言葉で返答はしないですんだ。
「彼氏いますか?」
「いてたまるか!」
 さすがに今の質問では限界だったらしい。初対面のみずきにいきなり彼氏の有無を尋ねる裕一の神経も凄まじいが。
「うわぁ。お姉さん。ワイルド。胸元はダイナマイト。うーん。たまらないっす」
 言うなり裕一はみずきのその胸に顔をうずめてぐりぐりと。
「わああああああっ」
 おぞましい感触に思わず叫ぶみずき。手にしたトレイが揺れまくる。
「危ない」
 朝弥が思わず手を出すが、逆にみずきの手から紅茶ポットが落ちた。
 熱湯から必死に逃げる千明。だが狭い部屋に九人では身動きが取れない。
「はっ」
 なんとかブロッキングしたが、お湯の散乱までは防げなかった。僅かだが頭から。
「きゃあっ」
「えっ?」
 一瞬はみずきの悲鳴かと思ったがそうではないらしい。
 女子はベッドの上だから被害にはあってない。被ったのは…千明。
「あああっ。大丈夫。渡辺…クン?」
 そこにいたのは胸元だけやたらに張り出し、それでいて他はぶかぶかになった学生服に身を包む美少女だった。
「あなた…女の子だったの?」
 愕然とするかおる。

「アレは去年のことでした…」
 紅茶をふき取った後でか細い…いかにも女の子らしい声で事情の説明を開始するちあき。もはやごまかしようもないので事情説明に。
「私、ひどい風邪を引いてしまって。そのときにふらふらになりながら飲んだ薬が古くて、それも数種類」
「あらぁ。どこかで聞いたような話ねぇ」
 同席しているみずきにわざとらしく視線を回すかおる。とぼけているみずき。
「体力が戻ったときには既にこんな体質に」
(まさか身内以外にもいたとはね。しかも逆バージョン)
「でもどうして男の子で登校しているの? やっぱり初めから変身した方がごまかしやすいから?」
 あまりに素直で咎める気になれない愛子の質問。
「それもありますけど…実は私はある会社の会長の娘なんです。それも一人っ子で。あたしが男の方が父にとって有利といわれて」
「でもよぅ。元々は女なんだから女として登校すればいいんじゃ?」
 これは朝弥。
「はい…あの…実はあたし…ちょっとそそっかしくて…よく転んだり水を被ったりするんです」
「あららら。ますます他人とは思えないわね。ねーお姉ちゃん」
「いちいちお…あたしに振らないで」
 オレと口走りかけたが、まったく自分の正体を知らないであろう裕一やちあきの前なので踏みとどまって女言葉を紡ぐみずき。
「それに夏になれば水泳の授業もあるし。だから男の子で登校しようかと」
「なるへそなるへそ。そーゆーことならいっちょ男同士の友情で…」
 本当にいつの間にか裕一が千明の細い肩に手を回していた。が
「きゃあああっ」
 あっという間に悲鳴とともに投げ飛ばされていた。
「先ほどの防御は護身術の発展ですな」
 葉月が真面目に解説する。
「あっ。ごめんなさい」
 思わず投げてしまったが謝罪は忘れないちあきだった。

「あの…勘違いならごめんなさい。もしも男の子と思って好意を抱いてくれたのなら…謝ります。お付き合いできません」
 当然と言えば当然の申し出。しかしかおるは動じない。いや、少し肩が震えているか。
 彼女はまだ残っていた紅茶の温度を確認する。
「うん。もう火傷は心配ないわね」
 言うとちあきの手を取り自分の胸元に触れさせる。柔らかい感触で沈み込む。
「あの…何を?」
 怪訝な表情も当然だ。
「いい?」
 それにはかまわずかおるはそのまま空いた手で紅茶のカップを。
「お…おい? かおる? まさか…」
 みずきが危惧する中でかおるは頭から紅茶を被る。その途端に胸元のふくらみが消失した。
「えっ!?」
「わかった?」
 声も若干低く。ウエストとヒップも明確に変化した。
「あ…あなた? 男の子だったの?」
 驚くなと言う方が無理である。まさか自分と同じ体質で逆の立場の人間がいるなんて。
 もちろん裕一。朝弥。輝も驚いていた。
 みずきだけは別の驚き。そう。わざわざ秘密を明かした行為について。
「そうよ。あなたの逆」
 薫は自然と微笑む。そして両手でちあきの柔らかい手を握り締める。
「まさに理想だわ。肉体的にも、そして戸籍の上でも男と女。そして同じ体質。これ以上分かり合える相手はいないわっ」
 声が上ずってきていた。興奮しているのは間違いない。
「これは運命の出会いなのねっ。あなたが18歳になって結婚できるまで待つわ。それまでにはちゃんと子供を産める体になるから」
「ちょ…ちょっと。あたしは男の子になりたくは…」
「三年も男の子の体で過ごしていたら考えも変わるわ。あたしがんばる。あなたにふさわしい女になって見せる。もっともっと女を磨くわ」
 もう誰の言葉も耳に入らない状態の薫。

(本当は女の子の渡辺。そしてお湯さえかけなければ可愛い女の子の赤星。こりゃばらして台無しにする手はないな)
 邪だが秘密をばらすつもりはない裕一。
(あらあら、姉様たち以上に面白いグループになるみたい。お二人とも。他言無用ですよ)
(はーい)(御意)
 愛子に絶対服従の二人。
(ま…渡辺が赤星とくっつくなら姉ちゃんにちょっかいかけられそうもないからいいか)
(ま…赤星さんが渡辺君にくっつくならお兄ちゃんに手を出さないから黙ってた方が得策ね)
 似たような打算をする二人。

(あーあ。立場は逆だが…同情するよ。ちあきさん)
 散々女の子を演じているみずきだが、さすがに女の子として誰かの恋人にはなってない。
 そこまで強いられるちあきを憐れに思っていた。

(あ…あたしはどうなっちゃうの? このまま男の子になっちゃうのかしら?)
 多大な不安を抱いたちあきである。

「最高だわ。高校生活。楽しくなりそう」
 一人ハイテンションの薫。
 半分とは言えど女の子になって世界が変わっていた。


次回予告

 夏だ。海だ。水着だ。海水浴にやってきたかおるたち一同。千明を「男」として目覚めさせるためにビキニで悩殺を謀るかおる。
 そして夜。宴がもたらした変化とは?
 次回。PanicPanicEX 2nd Impact The Giant Atack
 coming soon(いつになるやら)


製作秘話EX

 20万ヒット記念で番外です。もう一つの第一話と言うか。

 もともとはこれ「もしもみずきがあの体質を喜んでいたら」と言う発想でした。
 しかしそれなら女になりたがっているかおるをその体質にした方がいいと思い、かおるが主人公で進みました。

 弟や妹を同じ学校にするため無限塾の新入生と言うことで。
 本編で描かれる予定のない「一年後」…とは言えないんですよね。
 別世界を協調するために斑の件はないことになってます。だから一年のときから氷室先生が担任で、ゆかりの死因も交通事故と気持ちの整理がつく形に。

 問題の千明ですが…これ。もし本編で二年生編を書いていたら、みずきのクラスに来るはずのキャラでした。
 色々と難関を乗り越えたみずきと七瀬の幼なじみカップルに波風立てようと思ったら、それ以上に「同じ体質」で同じ苦悩を分かち合えるキャラでもないと張り合えないと。
 それにリスペクトした「らんま1/2」では出てこなかった設定のキャラですし。

 髪型は女の子そのものですが、伸ばしただけなら何とか男と言い張れるからそのまま。
 名前も女を連想する名前だけど、男に使えなくもない名前からでチョイス。

 かおるは本人が望んでいるくらいなのであっさり女の子になっちゃうでしょうが、果たして千明は女の子でいられるか(笑)

 もう一人。江川裕一はもうすぐにモチーフがお判りいただけるかと。
「うる星やつら」の諸星あたるです。
 諸星あたるのあたると言う名前は、元巨人投手江川卓氏の実弟。中(あたる)氏から取られたと言うことで苗字は江川。裕一はフィーリングで。

 格闘ゲームとしては回転系です。
 ただ男キャラ相手にはハンマーでぶっ叩くのですが(Pで前から。Kで背後に回って)
女性キャラ相手には変化してPで胸に顔をうずめる。Kで背筋をなぞると。

 サブタイトルは「STREET FIGHTER3」シリーズの一作目から。
 予告してあるのは2作目のタイトルから。
 つまり三部作くらいのつもりは。

 さてさて。次はいつになりますやら。

 お読みいただきありがとうございました。

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