PanicPanic初夢スペシャル

忍くんの憂鬱

 他者からは長女。次女。長男と思われている赤星家の子供たち。しかし実は全員が男である。
 だが女の子の欲しい母親の執念なのか。三人が三人とも女性的な部分があった。

 瑞樹は小柄な体躯。それは父親譲りとしても占い。甘いもの。そしてぬいぐるみが好きと言う点が。
 そしてこれはさすがに違いそうだが、ある事故をきっかけにしての「変身体質」。
 本当に少女になってしまうのである。

 薫は人格が女性のそれである。あまりに堂々と女性服を着こなすから誰も男とは思わない。
 背が高めで胸は薄いけど綺麗な女の子と。
 声を出してもばれないのだから相当なものである。

 そして末っ子の忍。十歳。小学四年生の場合はおとなしい性格。
 どちらかと言うと従順なタイプである。
 彼もまた128センチと小学四年生の男子平均から比べると小柄で、そして可愛らしい顔をしていた。
 この場合は「悪いことに」髪の毛もさらさらで、なおさら少女のような印象を与えていた。
 羨ましがられそうなその容貌も彼には不安要素。

 名前が悪かったのか。文字通り『耐え忍ぶ』日々である。
 それは兄…と言うか「姉」たちの存在。
 肉体こそ男のままだが精神的に、そして見た目は完全に女にしか見えない薫。
 忍が小さい頃は父。あるいは母と一緒に入浴していたがそれが薫とするときには男女どちらか混乱をきたしたものである。

 一番上の兄。瑞樹に至っては精神こそ男だが、あるアクシデントからは水をかぶると女になる体質に。

 忍としては上二人は嫌いじゃない。はっきりと好きだといえる。
 しかし不安を掻き立てる。
 自分もいつか長男のように女の体になってしまうのではないか?
 いつか次男のように女の心になってしまうのではないか…と。
 その不安といつも戦っていたのである。

 そんなある日。秋の日のことである。
 小学生である彼のクラスでは「学芸会」に備えての学級会が行われていた。
 出し物が演劇と決まり、芝居も「シンデレラ」と決定していた。
 ところがシンデレラ役選出で難航していた。
 女児が互いにやりたがってもめたのである。誰に決めても角が立ちそうなそんな状況。
 担任教師すらほとほと困り果てた騒ぎの中で一人の男児が手をあげた。
「はい。西本くん」
「シンデレラ役は赤星君がいいと思います」
「えっ?」
 何を言われたのか瞬時には理解できなかった忍。反対に彼以外はまるでパズルで最後のピースがはまったかのようになる。
「そうか。それならいいよな」
「うん。赤星君ならクラスで一番小さいから」
 これは女子も含めての話。成長自体は女子の方が早い。10〜12くらいで体格の上昇は止まり、内側が変化する。
 それに対して男子はそのあたりからぐんと大きくなりだす。
 だからこの時点で女の子より小さい男の子の存在は不思議でもない。
「それに可愛いし」
 さすがにこれは女子の発言。
「あの…僕、男なんだけど」
 おずおずと発言する忍。いくらおとなしくてもこれは黙っていられない。
(シンデレラなんてやることになったら、みんなの前でスカート履くことになっちゃう。女の子の格好なんていやだ)
「男だからいいんじゃねーか。どの女がやってもけんかになるなら、いっそ男がやっちゃえばいいんだ。それなら文句ないだろ」
 推薦した西本と言う少年が無責任に「押し付ける」。
「そうねぇ。赤星君がやるんじゃ仕方ないわね」
「赤星君相手じゃかないそうもないし」
「決まりよね」
 いじめではなく、あくまで冷静なジャッジで女児たちは決定していく。
 こうなるとおとなしい忍ではなす術もない。流されてシンデレラ役になってしまった。

「はぁ……」
 まさにとぼとぼと言う感じで帰宅する忍。
(学芸会のこと、喋ったら笑われる…黙ってないと)
 当然の思考だがこの家族ならではの特殊な心配を出来なかったのは、まだまだ子供と言うことか。

 帰宅しても黙っていた。そして夕食時。
「はぁ。終わった終わった。やっとこの服を脱げるな」
 ウェイトレスとして喫茶店を手伝っていたみずきが、その可愛らしい格好のまま食卓に。
 先に男に戻りたかったが、ちょっと長めに手伝っていたためお腹が空いて食事を優先した。
「お疲れ様。とっても可愛かったわよ」
 ファンシー趣味の瑞枝が笑顔で言う。
「冗談。こんな格好はうちだけで充分だよ」
「ウチだけ?」
 一緒にあがってきた薫。こちらは今日はウェイトレスはしてないが、女の子の格好はいつもどおり。
「て、ことはどこかでこういうかっこうするのかしら?」
「ああ。文化祭の芝居でジュリエット役をやる羽目に…」
 薫には別に誘導尋問のつもりはなかったが、簡単に白状してしまうみずき。
「まぁ。ステキじゃない」
 予想通りの反応の瑞枝。
「兄ちゃんも女の役なの?」
「兄ちゃん『も』?」
 こちらは自爆。
「忍。あんたもヒロインなの? 何で!? 何で二人がヒロインなのにあたしはウェイターなの?」
 薫のクラスは喫茶店。普通にやってもつまらないからと、男女逆転。
 男子がウェイトレスで女子がウェイターである。
 そして薫は普段から女子扱いになっていたため、ここではよりによって男の服を着る羽目に。
「あらぁ。しのぶちゃんもなの? それじゃお母さんがその日にはお化粧してあげる」
 この人が言うとギャグと思えない。忍は戦慄した。
「じゃあたしはコーディネートしてあげようかしら?」
 薫まで言い始めた。
「やめてよ」
 からかわれていると感じた忍は、小さいながらも持っていたプライドを傷つけられた。

 忍は浴衣姿だった。どこか見知らぬ、それでいて見覚えのあるような『旅館』
「ここ……どこ?」
 甲高い声でひとり言。
「あらあら。ここにいたのね」
 ピンクの浴衣の瑞枝。みずき。かおるが出てきた。
 その後ろを守るように紺色のがらの浴衣を着た秀樹が。
「父ちゃん。母ちゃん」
「さぁ。みんなで温泉に入りに行くわよ」
 一行はぞろぞろと移動する。

 混浴の場所もあるがここは男女別の温泉。
「じゃあな」
「ゆっくり入ってきてね。あなた」
「女の子のお風呂は時間がかかるんだから」
 瑞枝の言葉をかおるがつなぐ。
 男湯に消える秀樹の後からついていこうとする忍。その浴衣の襟首を捕まえるみずき。
「なにすんだよ兄ちゃん。僕はあっちに入るよ」
「お前はこっちだ」
「どうしたんだよ。兄ちゃんだってお湯をかぶったら……」
 言葉に出す前に連れ込まれた。

 強引に剥ぎ取られて湯船に。そこで忍は驚く。
「ウソ…なんで兄ちゃん元に戻らないの?」
 肩まで湯に浸かりながら女体のままのみずきに詰め寄る忍。
「兄ちゃんじゃない。姉ちゃんだろ」
 みずき自身が訂正してくる。
「そ…それに姉ちゃんだってどうしておっぱいが…」
 人格は女性のものだが肉体は男のはずのかおるの胸が立派に膨らんでいる。
「お姉ちゃんなんだから胸があるのは当然でしょ」
 胸だけではなくウェストが見事な曲線を描いていた。肌も白く、いつの間にかみずきは腰まで。かおるも同じくらいの髪の長さになっていた。
「心配しないで。しのぶちゃんもお年頃になればちゃんと胸が膨らんでくるわ」
 後ろから母が抱きしめる。
「そうそう。これから女らしくなるわよ」
「なに言ってんだよ。姉ちゃん。僕は男だよ」
「じゃ鏡を見てみな」
 みずき。かおる。そしてしのぶで並ぶ。
 肉親であるものの両側の少女の裸の肉体に赤くなりながら自分の体を見ると…
「ない…」
 「男の子のシンボル」がない。それどころか「女の子のシンボル」の胸が少し膨らんできた。
「え…ええっ」
 激しく混乱。狼狽するしのぶ。
「おめでとう。しのぶも女の子になったのね」
 次女・かおるが祝福をする。いつの間にか三人とも湯船に浸かっている。
 しのぶだけはその傍らに立ったまま十歳とは思えないメリハリの利いた女体をさらしていた。
「うそだ」
 悲鳴のような悲痛な叫び。
「諦めな。オレだって結局元に戻れなくなったから、今じゃ女として生きているし」
 長女・みずきも運命を受け入れろといっている。「赤星三姉妹」の誕生だ。
「うそだ。うそだ。そんなことーっっっ」
「もう。何をそんなに騒いでんのよ。女になったのがそんなに嫌?」
 怪訝な表情のかおる。みずきまでもが「なに騒いでんだ?」といわんばかりの表情だ。
 母・瑞枝はひたすらニコニコと微笑んでいる。
「うそだよぉぉぉーーっっっっ」
 しのぶの悲痛な叫びがこだまする。

このイラストはOMCによって作成されました。
クリエイターのmr2さんに感謝!

 忍は泣きながら目を覚ました。
 不安が見せた悪夢だった。
「もう。なぁに。しのぶったら」
 ピンクのネグリジェ姿の薫が目をこすりながらやってきた。
「ね…姉ちゃん……」
 その胸元に赤ん坊のように泣きながらすがりつく忍。
「ど…どうしたのよ?」
 目を丸くして驚く薫。問いかけても忍は泣きじゃくるだけで答えられない。
「るっせぇなぁ…夜中になんだよ」
 瑞樹もパジャマ姿で騒ぎの大元にやってきた。
「兄ちゃん…僕も女の子になっちゃうの?」
「はぁ?」
 突拍子もない質問に毒気を抜かれる瑞樹。

 ようやく落ち着き、それが悪夢によるものと判明する。
「ばっかねー。忍。そんな簡単に女になれるんなら、とっくにあたしがやってるわよ」
 軽い調子だがかなりの本気であろう薫の言い草。
「でも…兄ちゃんみたいに」
 そうだ。薫は自分の意思だが瑞樹は不幸な偶然でだがこの体質に。
「あんなことそうそうあってたまるか。そう言うのをな、小学生にゃ難しい言葉で『杞憂』ってんだ」
 瑞樹は軽く忍の頭を引っぱたく。
「あいた!」
「それにな」
 一転して優しく言う瑞樹。
「たとえ体が女になっても、心は男のままでいれば完全に女になったりしねぇ。それを忘れるなよ」
 また納得がいかない様子ではあるものの、確かに無用の心配と感じた忍は忘れることにした。
「わかったよ。兄ちゃん。姉ちゃん。お休み」
 ベッドにもぐりこむ。不安が解消されたのかすぐに寝息を立て始める。
「小さいなりに色々考えてんだな」
「そうね。ま、お姉ちゃん見てりゃもっともかもね」
「なんだとこいつ」
「きゃーっ」
 もちろんふざけているだけだが、深夜なので切り上げた。

 学芸会当日。
 母親の瑞枝が来たときは「女装なんて」と抗議かと身構えた担任だが、その逆は考えなかった。
「動かないで。忍君」
「くすぐったいよ。母ちゃん」
 お察しの通り舞台メイクをされているのである。ここぞとばかしに可愛らしく。
 もちろん小学生の舞台だったのでその予定はなかったのだが、ちゃっかり子供用のメイクセット持参である。
 忍だけでなくほかの女児にもメイクを施していた。
 大人に憧れる少女たちはその提案を拒むはずもなく、薫に顔を任せていた。
(オレも笑えない状況なんだよなぁ)
 横目で見ながら瑞樹は「明日は我が身」と思っていた。

 「シンデレラ」は忍が「男らしく」潔く演技に身を入れて「ヒロイン」を演じたので好評のうちに幕を閉じた。
「忍。よくやったな」
 まだお姫様スタイルの忍の頭をなでる瑞樹。
「兄ちゃんの言うとおりだよ。女のかっこうしたけど僕は男なんだって思いながらやったよ」
「ああ。それさえ忘れなきゃ大丈夫だ」
 そんなことをいっていた瑞樹だったのだが…

 11月。
 シンデレラを演じて以来、男児にやたらよくされるようになった忍である。
 中には忍に見つめられると赤くなる男児もいるから困ったものである。
 その彼が友達を連れて帰ってきた。
 正確には押しかけを振り切れなかった。
「……ただいま」
 ひどく気乗りしない調子で喫茶店の入り口から帰宅。
「おじゃましまーす」
 元気な小学生の一団が続く。そこに
「いらっしゃいませ。忍君のお友達かしら」
 髪が腰まで伸び、柔らかい笑みで過剰に女性的になってしまっていたみずきが彼らを出迎えたのだ。
 その優しい微笑みにポーっとなる男児たち。
 それを忍は心の中で叫ぶ。
(兄ちゃんのうそつき。今の兄ちゃん、完全に女じゃないか)
 みずきがショックで女の心になってしまったのを見て、また不安に心を支配される忍であった。


あとがき


 あけましておめでとうございます。
 今年の年賀代わりは「PanicPanic」の番外編で、瑞樹の下の弟である忍君にスポットを当ててみました。

 構成のへたくそさゆえに本編でなかなか目立たせられない忍君ですが、普段こんな不安と戦っているのです。
 今回は読みきりでそのあたりを表現できたのは良かったです。

 またこれに踏み切ったのは第30話「本当の私」についたイラストの忍君の可愛らしさで。
 確かに「女性読者が萌え死ぬくらい可愛く」と依頼しましたが(笑)あんなに可愛くなるとは思いもよらず。
 文字通り「インスパイア」されてこの構想が。

 ちなみに他の構想も色々あったのです。
 赤星夫妻の馴れ初めとか。
 2005年夏コミの同人誌用の構想だったメインキャラの性別が逆転した世界。
 姫ちゃんならぬ「若様」とまで(笑)
 上条なんか女の子だったら間違いなくコスプレに手を染めていたでしょうし。
 榊原はお水の女性みたいになってたんじゃ…
 そして水をかぶると男になる女の子。みずき。
 完全少女バージョンのあの性格がデフォルトになってたんじゃ。

 更には時代劇バージョンも。
 もちろん主役は十郎太と姫子で。
 かぶき者の上条。蘭学者の榊原とか。

 いつか披露したいネタですね。

 それでは今年も「PanicPanic」そして城弾シアターをよろしくお願いします。

城弾

 

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