※ 「華代ちゃん」シリーズの詳細については、以下の公式ページを参照にしてください。

http://www.geocities.co.jp/Playtown/7073/kayo_chan00.html



 こんにちは。初めまして。私は真城華代と申します。

 最近は本当に心の寂しい人ばかり。そんなみなさんの為に私は活動しています。まだまだ未熟ですけれども、たまたま私が通りかかりましたとき、お悩みなどございましたら是非ともお申し付け下さい。私に出来る範囲で依頼人の方のお悩みを露散させてご覧に入れましょう。どうぞお気軽にお申し付け下さいませ。

 報酬ですか? いえ、お金は頂いておりません。お客様が満足頂ければ、それが何よりの報酬でございます。

 さて、今回のお客様は……

 


華代ちゃんシリーズ
老人と少女

作:城弾


まるでお城のような巨大な屋敷。これが一代で築かれたものとにわかには信じがたい。
その最上階の見晴らしの良い部屋。そこにこの屋敷の主が伏せっていた。
年齢は九十を超えている。頭髪はすべて抜け落ち皺が刻まれた頭皮を晒していた。
腕も足も幽鬼のように細り生命力を使い果たしたことを物語っていた。
ただ眼光だけは鋭い。
老人の名は本屋敷伝次郎。彼は今、人生の終わりにかなり近いところまで近づいていた。

「おじいさま。お加減はいかがですか」
孫と思われる青年が揉み手をしながら愛想笑いを浮かべてベッドへとよる。傍らにはスーツ姿の男が控えている。弁護士だ。
伝次郎は「ふん」と鼻を鳴らすとそっぽを向いてしまう。
「おじいさま。どうやらお元気そうですね。どうか長生きしてくださいね」
口先だけなのは子供でも見抜ける。伝次郎はますます気分が悪くなる。
「でていけ」
鋭い眼光ととがった口調。二度いう必要はなかった。孫は弁護士を連れて出て行く。

「ちっ。あのようすじゃまだくたばりそうにないな。もっとも財産分与をこっちに多くするよう遺言状を書き換えてくれないうちは死んでもらっちゃ困るがな」
青年は一転して横柄な態度になる。こちらが本性であった。だから使用人たちにも嫌われていた。
「私も早く書き換える気になって欲しいものですな。そうでないと日参する羽目になりますし」
弁護士はもちろん遺言状作成のための立会いで付き添っている。言うまでもなく青年の息が掛かっている。
「さてと…おい。そこのお前。飯を食っていくぞ。何か作れ。それからこの廊下。もっと綺麗に磨くように伝えろ」
「は…はい」
たまたま居合わせたメイドの一人は不機嫌な調子でものを言われ内心穏やかではなかったものの上下関係に逆らえず言葉どおりにする。

「おじーちゃん」
「?」
伝次郎は空耳かと思った。彼の年齢だとひ孫もいるがまずここにはつれてこられない。首だけを動かして声の主を探す。
「こっちよ」
小学生くらいの女の子がひょいと顔を出す。すその広がるワンピースが愛らしい。
「なんじゃ? お前さんは誰じゃ? どこから来た」
「質問は一つずつにしてちょうだい。それからまずは自己紹介」
彼女はその年齢の人間が持っているのは不自然なもの。名刺を差し出した。そこには
『ココロと体の悩み 解決します 真城 華代』とだけあった。
彼は退陣する前はこの巨大企業のトップだった男だ。それだけに数多くの名刺も受け取ったがこれだけ文面の少ないのも珍しい。
「はなよ…ちゃんか?」
「かよ、よ」
少女は一人前であると主張するつもりか名前の誤りを訂正した。
「ああ。こりゃすまん。それで華代ちゃん。ここには何をしに来たのかのう」
伝次郎も商売上の敵は多かったがそれでもこんな少女に対してまで鋭い眼光と口調をぶつける人間ではない。
「まずははじめの質問。私はセールスレディーです。おじーちゃんの悩みを解決して差し上げます」
「解決・・・か」
彼はこの思わぬ来訪者との会話を楽しんでいたがふと暗い顔になる。
「何もないのう。もうこの年になるとかなえたい願いなんて」
「そんな。本当に何もないんですか?」
華代は困った顔になる。なんとなく伝次郎は閥が悪くなり
「あえて言うなら儂の馬鹿な孫じゃ。子育てを間違えたのか愚かな人間になってしまった。最近じゃ儂の遺産を多く取ろうとご機嫌取りに毎日来る」
「遺産って・・・」
「儂ももう長くはない。死ぬ準備をしなくちゃいけないんだよ」
「そんな。もっと長生きしてくださいよ」
「はははっ。華代ちゃんは優しいのう」
ぎこちない動きで華代の頭をなでる。
「じゃがな。長生きしても何もいいことはなかった。仕事一筋に生きて結婚も政略結婚。財産はたくさん作ったが墓の中には持っていけん。
馬鹿じゃった…もっと人生を楽しむべきだった。買えるものなら全財産をなげうってでもやり直したいがきっと同じことの繰り返しだろうなぁ」
華代に言い聞かせるというより自分の生涯を省みていたようである。一筋の涙は悔恨のそれか。
「わかりました」
「?」
伝次郎は今の会話で華代が何を「わかった」のか見当もつかなかった。
「まとめて解決して差し上げます」

伝次郎はまず体内に違和感を感じた。背骨がまっすぐになっていく。力が沸いて来る。思わず半身を起こす。
「おお。体を起こせるとは」
両手を見てみた。皺だらけの老人の手が見る見るうちに皺が消えてゆく。やせこけた腕に肉がつきふっくらとする。
「この指・・まるで白魚のよう…これは女の指か?」
次に違和感を感じたのは腰の辺り。左右に広がる感じだ。
「なんじゃ」
布団を剥ぎ取り下半身を確かめる。すでに足もふっくらとしてまぶしい白さを見せていた。
胸元が疼く。パジャマをはだけてみると白い肌が餅のように膨らんできた。
「こ・・・こりゃあ」
声が続かない。声もしわがれたものから青年のものに。そして心地よい澄んだ女声に。
鏡を見ていなかったからわからなかったが鋭い眼光を放つ目は大きく開き黒目がちに。まつげが伸び眉はいわゆるゲジゲジ眉から柳眉に。
皺の伸びきったスキンヘッドからツクシか筍のように勢い良く翠なす黒髪が伸びてきた。
シミだらけの顔は白く輝きふっくらとした頬は生命力にあふれるピンクの頬に。
「それから」
華代の一声で変化は第二段階に入った。
どこからか出現した。にじみ出たという表現が一番近いがブラジャーがその控えめな少女の胸を持ち上げる。
ブリーフは面積を狭め純白のショーツに。
パジャマが特撮のモーフィングのように夏用のセーラー服に変化した。もちろんズボンがプリーツスカートに。
「これで完成」
またどこからか出現したスカーフがセーラータイになり胸ポケットに「生徒手帳」が。
伝次郎は女子中学生になってしまった。

「会長。ご無事ですか」
物音を聞きつけて警備員が見たものは床にへたり込む女子中学生。当然ながらつまみ出された。
「はは…本当に全財産を失ったのか…」
乾いた笑いをあげて元・老人の少女はかつて王として君臨した屋敷の門の壁に寄りかかる。

これでおじいさんのほうは解決ですね。生命力のある女の人。それも13歳にしてあげたからきっと後70年は生きるんじゃないかな。
さて。それではもう一つも。

食堂。食い散らかすように孫は食べていた。
「けっ。まずい飯作りやがって」
言いたい放題である。だけど本当にまずいものを出したら勝手に解雇されてしまった。だから手は抜けない。
文句を言いつつも咀嚼していた孫は突然蹲る。
「どうしました」
弁護士は尋ねるが彼もまた同様に蹲る。
使用人たちが一応は助けるために集まってきた。その見ている前で二人の背は縮み髪は伸び胸は膨らみウェストはくびれ男性のシンボルは消失し声は高くなりスーツはメイド服になりメイクも施された。
ふたりは全員の前でメイドに変身してしまったのだ。
何が起きたかは理解できなかったがこの先は理解できた使用人たち。邪悪…というより凶悪な作り笑顔を浮かべる。
「これで立場は同等。いや…新米ということで一番下っ端だな」
「ふ…ふざけるなよ。こんなもの親父に言えば」
「あなたが息子であると証明できますか? そして身元もはっきりしないのではどこの企業も店も雇わないでしょうね。ここでならなんとか掛け合ってあげて住み込みでお給料を出して差し上げますが」
メイド長の言い分を飲むしかなかった。
この二人が徹底的にメイドとしてしごかれ五年後にはすっかり心身ともに立派な女性になったのだがそれはまた別の話。

これでお孫さんのほうも人生修行のやり直しで真人間になるでしょう。ひとりではかわいそうだから一緒にいた弁護士さんにも付き合ってもらいました。それではまた。






元・老人の少女はこれからどうすればよいか途方にくれていた。だが
(途方に暮れる…つまりこれから先は長いということか。もうじき死ぬなら考える必要はないのじゃ。
それに考えてみればあのままだったら一年もしないで死んでいたじゃろう。それを考えれば大もうけじゃないか。一度死んで女に生まれ変わった。そういうことじゃ。
確かに財産はすべて失ったがそれでもう一度人生できるんなら安いもの。
しかも女になったのなら前と同じ繰り返しじゃない。これまで生きていた経験が役に立たない。これから何が起きるかわからない。
わくわくするじゃないか)
少女は力強く立ち上がり屋敷に背を向けた。
(まずはこの体。この服で町を歩いてみよう。何しろスカートをはくのも初めてじゃからな。さて。どこへ)
彼女はふと胸元のポケットに手帳が入っていることに気がつく。取り出してみると今の姿の写真。そして本屋敷さくらという名前が。
(全寮制の中学校に明日から転入することになっているのか。そして、さくら…か。儂の世代の名前であるが現代でも女の赤ちゃんに良くつけられるというからちょうど良いかも
さあて。こうなったら腹をくくるかのう…いや。くくらなくっちゃ。こんな可愛い姿と名前で老人の言葉は変だし。早く女言葉になれなくちゃ。ようし。あたし。がんばるわよ)

さくらは新しい世界に向かって一歩踏み出した。風とスカートが太ももをなでる感触がまず新しい体験だった。
 

 


華代ちゃんシリーズ初挑戦です。
シリーズのほとんどは被害者が不幸な目にあって笑いを取るわけですがはて。みんながみんな不幸だろうかと考えました。
今回のように死期の近づいた人ならとりあえず性転換しても生きていられりゃむしろラッキーなんじゃないかな・・・と。
一人くらい「不幸じゃないラスト」の主人公がいてもいいかなと思い書いてみました。
もっともスタンダードバージョン用のキャラもいますが(笑)
孫と弁護士がそうですね。同情の余地のない最低な奴にしたかった。五年もメイドとしてしごかれて心身ともに立派な女性になったのでは(笑)
そういう点では伝次郎の依頼を遂行した形ですね。

伝次郎という名前はとにかく爺さんぽくしたかっただけ。女バージョンのさくらは本文中にある理由。もうちょっと今風にすればよかったかな。

それにしても僕は相変わらず変化球ですね。

ではまた。

城弾


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