王真高校生徒会副会長・伊藤礼は、金色の髪を持つ優雅なる少女剣士。ブレイザへと姿を変えた。
「さぁ。どうした」
 小太刀を突き出して挑発する。
 わざわざ間合いを教えるのだ。これは挑発以外の何物でもない。
 それに乗せられたのかマンティスアマッドネスは、威嚇するように両手を挙げる。
 肘から先の腕が、肘の部分から割れる。
 本来なら手首に当る部分で繋がっている。割れた部分はまさにカマキリの腕そのものだ。
「ふん。アマッドネスの中でもさらに化け物じみているな」
 挑発と言うより単純な感想か。
 マンティスアマッドネスは高々と振り上げた腕を二本同時に振り下ろす。
「ふんっ」
 それを小太刀で素早く敵の腹を薙ぐ事で防御した。
(いけない)
 すっかり乙女モードになっていたセーラだが、戦闘となると目つきが変わる。
 服装こそ未だ王真高校女子制服だが、瞬時に紅と蒼のガントレットを出現させる。
 慌てたのはマンティスアマッドネス。
「な…何? そのガントレットはセーラか? どうしてここに?」
「なんだ? 今頃になって気がついたのか」
 クールに言い放つブレイザの台詞はセーラにも衝撃を与えた。
「ぎぎ。いくらなんでも戦乙女を二人同時に相手に出来ん。出直すまでだ」
 負傷もある。マンティスは飛び込んできた窓から外に出て逃走した。
「ちっ。案外逃げ足が速かったか。まぁいい。どうせまた来る。そのときにな」
 さほど悔しくもなさそうに言うブレイザ。
 それに詰め寄るセーラ。
「さっきの台詞。どういうこと? あたしがあなたと同じ戦乙女とわかっていたということ? それでいながらキスを迫ったというの?」
 セーラとブレイザ。最悪の出会い…否。「再会」だった。

戦乙女セーラ

EPISODE12 「剣士」

「決まっているじゃないか」
 ブレイザはあっと言う間にもとの男子高校生の姿に戻る。
 セーラはだいぶ時間が経ち今は女の心に。だから女子の服のままだ。
「お前が俺にほれれば利用しやすくなる。前線タイプだからな。『盾』なり『矛』なり使い道はある」
「な?」
 セーラは絶句した。
「そ…そんなことのために乙女の純情を弄んだって言うの?」
 すっかり女になりきっている。傍目に見ると痴話げんか。
 長身の礼を下から上目遣いで睨む可愛い顔などまさに女のそれ。
「世の中には2タイプの人間がいる」
 よくあるせりふである。
「俺が使える人間と、そうでない奴だ。後のほうには『敵』も含まれる。お前もそっちに回るか? 使えないほうに」
 ふたたびセーラのあごを持ち上げる礼。
「それとも…愛されるのを代償に俺に尽くすか?」
 どうやら品行方正な生徒会副会長と言う顔と裏腹に、女の子の扱いは心得ているらしい。
 同時に「戦乙女」達が時間経過と共に心まで女性化するのも理解している。
 だからこそあくまで「女」として扱い、そして利用しようとしている。
 セーラは瞬間的に頬が熱くなり、照れと怒りの混じった複雑な感情に見舞われる。
「ばかぁっ」
 平手を見舞う。いくらエンジェルフォーム。そして変装用に通常とは違う姿と言えど変身しているのだ。
 同じ戦乙女といえど変身前の礼はかわせずまともに食らう。小気味よい音を立てて「ビンタ」が炸裂する。
「それが返事か?」
 ゆらりと鬼気迫る表情の礼。
 叩かれたことで戦闘意欲が沸いたのか「儀式」である変身ポーズ抜きでブレイザに姿を変える。
「女の敵!」
 セーラも本来のセーラー服風の戦闘服に。
 セーラー服とブレザーの美少女同士の対峙。一触即発だったが
「何をしているんですか? セーラ様? ブレイザ様?」
 さすがに怒気を孕んだキャロルの言葉。
 アマッドネス出現で駆けつけてきていたのだ。
「邪魔が入ったか」
 ブレイザは男の姿に戻る。紅くなっていた頬は一度変身したことでダメージがなくなっていた。
「…………」
 女の目をしてセーラは怒る。
「帰るわよ。キャロル」
 従者に告げるとつかつかと歩き出す。
「ま…まってくださいよ。セーラ様」
 怒りのオーラを撒き散らすセーラを必死で追いかける黒猫だった。

「まったく。なんて奴なのかしら」
 すっかり女モードのセーラは、女としての怒りを抱いていた。
「キャロル。本当にあんなのが『聖なる戦乙女』だったって言うの?」
「はい。ですが…かつてのブレイザ様は高潔でプライドの高いお方ではありましたが、それだけに手段は選ぶ方でした。いくら転生を繰り返したといえど、かつての同胞を唇を奪ってしもべにしようなんて考えは…」
 だがここでキャロルは考えた。そしてそれを素直に口にした。
「しかしセーラ様。それを仰るならセーラ様もお変わりになられてます。かつてのセーラ様は闘志を前に出しはしても、喧嘩っ早くはありませんでした」
 これは高岩清良のそれを指している。
「何万年も転生してりゃ性格だって変わるわよ。アイツもきっとそうなんでしょ」
 納得したのかさばさばと。だが一転して怒りが蘇える。この感情の急転は「女」そのものだ。
「それにしても腹が立つわ。やけ食いよ。キャロル。パフェ食べに行くわよ。『女同士』付き合いなさい」
「猫の姿で飲食店に入れませんよ。それにたしか甘いものは御嫌いだったのでは?」
 清良はそう告げたことがある。
「男のときはパフェなんてかっこ悪くて食べられないけど、今は女の子だもん。おかしくないわよ。パフェよりケーキバイキングがいいかな」
 どうやら本来は嫌いじゃないが、体裁が悪いので嫌いなふりをしていたらしい。
(甘いものだけで機嫌が直るなら…しかしこれはこれで明日の朝が…)
 見事に女性化しているのを見てキャロルはため息をついた。

 翌朝。

 案の定ふとんから出てこない清良である。
(ああ。やっぱり)
 予想していたものの主の態度にため息の従者。
「あの……セーラ様?」
うるせぇっ。ああ。恥ずかしい。今までも女になりきったのはあったが、キスを迫られ女っぽく怒り、挙句の果てにパフェのやけ食いだなんて…」
 そりゃ恥じ入りもするか。さすがにキャロルも同情する。
 それでも何とか説得して登校にはこぎつけた。
 ただしそれは礼に対して報復したい気持ちが上回った故に成立した話。
 そう。放課後に再び乗り込むつもりだった。

 繁華街。

 当て所もなくさまよう釜本。
 見た目からして「悪そう」な彼である。
 普通の人々は彼を避け、悪い奴らは突っ掛かる。
 だがふらふらと焦点の定まらない瞳で夢遊病者のようにさまよう彼はひたすら不気味であった。
 だからか「悪い奴ら」ですら無視に掛かっていた。
 いかにもの奴らが三人。釜本とすれ違う。
 ほんの一瞬。釜本の両腕が動いた。
 まるで居合いの達人のような速さである。
 何事もなかったかのような三人の不良。
 その背中に釜本は語りかける。

「振り向くな!」

「あ?」
 無視した相手だが「変なこと」を言われたので注意する。
 だがその途端に三者同時に胸板から血を吹いた。
 ぱっくりと大きな傷が開いていた。
「え?」
 痛みもない。それほど鋭利に切られていた。しかも三人同時に。
「きゃあああっ」
 通りすがりのOLらしい女性が悲鳴を上げる。突然の凶行にその場はパニックに陥る。逃げ惑う歩行者。
 切られた三人は失血死確実と思われたが血が止まった。
 切られた傷から肉が盛り上がり塞ぐ。
 それどころか豊かなバストへと変貌する。
 アマッドネスの被害者の例に漏れず三人も奴隷としての女性に変化した。
「……こんな奴らじゃ物足りねぇ。伊藤。やはりあの野郎を切りたい…伊藤ぉぉぉぉぉぉぉっ」
 その異常な「切ること」に対する執着に目をつけられて、人間でなくなった現代日本の切り裂きジャック。
 彼は礼のいるであろう王真高校へと走り出す。

 その王真高校では校門の前で大柄な不良生徒を生徒会副会長が迎え撃っていた。
 この高校では恒例の光景を遠巻きに見ている生徒たち。
 その注目の中で芝居のように伊藤礼が口を開く。
「君は……初めて見る顔だな?」
 疑問形なのはどことなく「雰囲気」に覚えがあるからだ。
「ああ。この『高岩清良』の姿じゃ確かにな」
 不良男子…清良は鬼ですら逃げそうな笑みを浮かべる。
 そして右手を突き出して見せる。既に不死鳥を象った真紅のガントレットが具現化している。
「……なるほど。高岩といったか。君がそうだったのか。雰囲気でわかったがとんでもない姿のギャップだな」
「また唇を狙われちゃたまらねぇからな」
 清良としては素直に口にしただけだが
「唇?」
「男同士で」
「副会長。そんな趣味が…」
 清良のこの発言に八割が引き、二割が喜ぶ(90%は女子)
「それで…今度は何をしに来たんだい? 一人じゃ手に負えなくなったから助けて欲しいとでも?」
 この発言は図星だけにカチンと来た。
 どことなく…否。間違いなく見下ろした態度。
 確かにプライドは高そうだ。そしてどうやら好きになれそうもない。清良がそう結論付けた時だ。
「伊藤ぉぉぉぉぉぉっ」
 釜本が再び現れた。
 走りながらマンティスアマッドネスへと変身する。
 「怪人」の出現に悲鳴を上げて逃げ惑う王真高校の生徒たち。
 もちろん礼。そして清良はそんなことはない。
 だが戦おうにもこの場はまずい。
 前日の人気のない廊下ならまだしも、ここでは多数の目がある。
(くそっ。こいつらが全部逃げるか、アマッドネスをどこかに連れ出さないと戦えない)
 しかしさすがに『フランチャイズ』の伊藤。この辺りの地理も知り尽くしている。
 だから連れ出す先も心当たりがある。問題はその誘導手段だが…
「ドーベル」
 礼は彼の従者を呼び寄せる。
 名前の通りドーベルマンの姿をした従者は、走りながら一台のサイドカーへと変化した。
 単車の右側にサイドカーがある。黒と言うか濃い紫のサイドカー。
 それはマンティスアマッドネスを跳ね飛ばす。
 したたかにダメージを受けた怪人をサイドカー部分に無理やり乗せた。
 無数の鉄格子が出現して逃亡も攻撃も防ぐ。
 そして礼も単車部分にまたがりどこかへと走り去る。
「追うぞ」
 清良もキャロルに言う。
「はい」
 充分に理解しているので黒猫もオートバイへと姿を変える。
 礼達を追っていく。

 マンティスアマッドネスに乗せて走るドーベル・サイドカーモード。
 それが止まったのは河川敷。
 急停車して怪人を前方に投げ出す。
「ぐわっ」
 だみ声の悲鳴を上げて放り出される。礼はゆっくりと降りる。
 そして清良も駆けつけた。
 役者が揃ったのを見て礼は言う。
「高岩。そこでよく見ていろ。貴様と俺の実力の違いをな」
 マンティスアマッドネスは投げ出されてやっと立ち上がり始めたばかり。
 その間に礼も戦闘体制に変わる「儀式」を。
 右手を肩の高さで前方に突き出し、左手をへその位置に運ぶ。
 へその前に光の渦が現れる。そこから「つか」が出現。それを引き抜く。
 持ち替えて左の腰に。右手もつかにかける。抜刀術の体勢になる。

「変身」

 言うなり刀を抜く。
 小太刀が眩く輝くと礼の姿が少女剣士へと変貌していく。
 ワイシャツはブラウスに。ブレザーは左前から右前のそれに。
 ズボンが融合して短くなりスカートへと。
 全体的に華奢な体躯に。胸元は薄い。
 優しげな女の顔に。同時に金髪の縦ロールへと髪も変わる。
 肉体的には完全に女である。
 変身が完了した彼は…彼女は宣言する。

「剣の戦乙女! ブレイザ」

 さすがにマンティスも立ち上がり襲い掛かる。
 今度は右腕だけの攻撃。左腕はガードに徹している。
「ふん。そこまで馬鹿でもなかったか」
 変身しても上から見下す態度は変わらない。
 だがそれはポーズとも取れる。
 右腕一本だが意外に素早い。
 前回は肉体が馴染みきってなかったということか。
 時間経過で段違いに動きがよくなっていた。
「やばいな」
 援軍を求めてきた清良は、逆に加勢すべく変身する。
「高岩。いや。セーラ。そこで見ていろと言ったはずだ!」
 甲高い女声で叫ぶブレイザ。どことなく高飛車なお嬢様と言う印象の声。
「くっ」
 セーラ自身相手が一体でこちらが二人と言うのに抵抗があった。
 それゆえぎりぎりまで手を出さないことにした。
 身を守るための変身になった。

 実力に絶対の自信を持つ彼女は、加勢を拒んだ。
 しかし意外に攻めあぐねる。
 ガードが思ったより固いのだ。
「仕方ないな。それじゃ」
 攻めていたが動きを止める。再び抜刀術の体制に。
 わなか?
 そう思うマンティスアマッドネスだが、素体となった釜本の礼への怨念が動かした。
 ガードにまわしていた手も振り上げて切りかかる。

「キャストオフ」

 女子ブレザーが散り散りに吹っ飛び、マンティスアマッドネスを吹っ飛ばす。
 ブレザー。スクールブラウスの下にでも着込んでいたというのだろうか。
 剣士らしい和装である。
 下もたたんでスカートに隠していたのか袴である。
 金髪縦ロールと言うのが恐ろしく違和感。
 それほど見事な和装。剣士姿であった。
 武器も日本刀へと変化。
 それがブレイザ・ヴァルキリアフォームだった。

 セーラー服の少女は呆然とつぶやく。
「なんでアイツは体操着じゃないんだ?」
「セーラ様は肉弾戦タイプですからね。それゆえに動きやすさであの服をイメージなさいました。ですがブレイザ様は元々が剣士」
「なるほど。アイツのイメージじゃ剣を振るうならこの姿と言うことか」

 吹っ飛ばされたマンティスアマッドネスはやっと立ち上がるが、そのときにはもうブレイザが攻撃態勢に入っていた。
 切先を肩に入れる。
「ぎゃああああっ」
 激痛に悲鳴を上げるカマキリ女。
 それを無視してもう片方の肩に小さな動きで素早く傷をつけるブレイザ。
 セーラがヴァルキリアフォームになったときと同様に、こちらも運動性能が格段に向上していた。
 素早く、そして正確だ。

 マンティスアマッドネスにゆらりと迫るブレイザ。
 一方腕が上がらず攻撃を封じられたマンティスアマッドネス。勝負はあった。
「た…助けて。もう人は襲わない。あんたにも手を出さない。どこかでひっそりと暮らすから…」
 命乞いである。
 ブレイザはそれを無視して右上に刀を振り上げ、そして一刀両断。斜めに振り下ろす。
「ぎゃあああああっ」
 袈裟切りにされて悶絶するマンティス。
 そのまま振り下ろした位置から横に凪ぐ。
 さらにそのまま反対の肩口へと切り上げる。
 大上段から真っ二つ。唐竹割。
 とどめとばかしに胸に深々と突き刺す。それを一瞬と言っていいスピードでやってのけた。

『剣 撃 乱 舞』

(スラッシュダンス)

 深く刺さった剣を引き抜く。そのまま背中を向けて歩き出すブレイザ。
 結果など見るまでもないと言うことか。
 マンティスはもう立っている力もなく、膝を折る。
 ブレイザは刀を一振りして血を振り払い、鞘に収める。
 それと同時にマンティスは倒れ、爆発を起こした。

 不健康に細い全裸の少女。それがアマッドネスから解放された釜本の今の姿。
「ふん。女になってしまえばもう付きまとってはくるまい」
 いくら凶行を繰り返したといえど、こいつも取り付かれたあげく女になった。
 仮にも「犠牲者」に対して言う台詞ではない…セーラはそう思った。
 余裕の笑みのブレイザと、睨みつけるセーラ。
「なにか文句でもあるのかい?」
「ああ。いくらなんでもむごくないか?」
「ふっ」
 鼻で笑うブレイザ。これはまともにセーラの怒りに火をつける。
「随分と優しいな。遠慮していたら死ぬのは自分だというのに」
「だがもうケリはついていただろう。あそこまでやる必要は」
「甘いな。俺たち戦乙女はアマッドネスにとっては鬼でなくてはいけない。姿を見ただけで震え上がるほどにな。だからなるべくむごたらしく倒す。それが俺のやり方だ」
「な?」
 呆気に取られていたら、ブレイザは元の姿に戻りサイドカーにまたがってさっていく。
 セーラも男の姿に戻り、その走り去った方向を見ていた。

(俺…アイツとは絶対にうまくやれない気がする…)
 清良本人がそんなことを思うほど、相性の悪い両雄であった。

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