(……まさかセーラが現れるとはなぁ)
 三浦海岸の沖ではウェットスーツに身を包んだ男。矢追が舌を巻いていた。
(悪いね。ススト。あたしも命が惜しいからな。ブレイザはともかく、セーラは飛べるし水中じゃ活動限界のない体にもなれるしな)
 アマッドネスの邪悪な魂が勝っていたとき、スコーピオンアマッドネスが伏兵としていたのがこのアーチャーフィッシュアマッドネスだった。
 水中からの狙撃が目的。
 命中すればよし。外れてもスコーピオンアマッドネス相手に致命的な隙を見せる。
 それを狙った布陣たった。

 しかし計算外なのがセーラの乱入。ブレイザの性格から行けば助っ人を頼むはずがない。そういう読みだったが外れた。
 それでもまだ二人がかりでスコーピオンと戦えば自分には気づかれにくい。
 そこを背後から撃つ手もあった。
 しかしただひたすら待機している状態。これまたブレイザの「プライド」が物を言っていた。

 いくら沖とはいえどこのタイミングで「変身」などしようものなら、感知してたちどころにこちらに向かってくるだろう。
 それで躊躇しているうちにスコーピオンが倒された。

 しかしさらに信じられない光景が展開している。
 ブレイザが仲間であるはずのセーラに平手をみまい、そして切先を突きつけている。

戦乙女セーラ

EPISODE15 「激突」

「どういうつもり?」
 仲がいいとはお世辞にも言えない両者。
 しかし仮にも同志である。
 刀を突きつけられる筋合いはない。
 ましてやこんな殺気満々で。
「あなたはわたくしの誇りを踏みにじった。それで充分ですわ」
 その目は本気であることを物語っていた。
「それでこんなことをするの? おかしいじゃない!」
 未だ立ち上がらせてもらえないセーラが抗議する。
「問答無用」
 ぐっと小太刀を突き出し、むき出しの部分である顔に突き刺そうとする。
 大きく振り上げれば隙が出来るからだ。
 傷をつけて動けなくする。恐らくは狙いは目。視力を奪い、行動をできなくしてからとどめを刺す気だ。

(仲間割れとはいいぞ。セーラを倒してくれるなら好都合。あとはスストとの闘いで疲れきったブレイザをここで)
 矢追はアーチャーフィッシュアマッドネスへと変化した。
 元となっているテッポウウオは海水と川の水が交じり合う「汽水」では生きられるが、純粋な海水となると無理である。
 だから一発だけ。もししくじったら即座に逃げる。
 人の姿でいる内はウェットスーツで耐えられるが、当然泳ぐ速度はがた落ちである。
 だから欲張らずに一発放ったら即座に逃げて、限界まで距離を稼ぐ。そのつもりだった。

『本部より。三浦海岸で爆発音を聞いたとの通報あり。付近の移動は急行されたし』
 神奈川県警の無線を傍受した薫子の覆面車。
 例のバイクもこの付近に来た。
 もし話に聞く『化け物を倒す存在』なら無関係ではないかもしれない。
 いく価値はある。そう判断した薫子は三浦海岸へと車を走らせる。

「むっ!?」
 狂気に取り付かれても戦乙女。アマッドネス出現の感知をした。
 もちろんセーラもだがこの状態ではままならない。だがブレイザに隙が出来た。

「キャストオフ」

「きゃあっ」
 ばらばらに吹っ飛んだセーラー服がブレイザを跳ね飛ばす。
 突き飛ばした形のセーラはそのままフェアリーフォームへと超変身。沖へと飛翔する。
 再びヴァルキリア。そして水中モードのマーメイドへと変化して海中に。
 水中なら淡水でも海水でも問題ないマーメイドフォームと、海水では難のあるアーチャーフィッシュ。
 勝負は見えていた。

「ちっ。無粋なこと」
 ブレイザには水中や空中を行く能力がない。
 そこに逃げられてはどうしようもない。だからあっさりと諦めた。
「日を改めますわ。帰るわよ。ドーベル」
 興ざめしたブレイザは、サイドカーにドクトル・ゲーリングだった女性を乗せて帰路に着く。
 精神が完全に女性化したため女のままである。

「一城さん。あれ」
 同乗した若い刑事が指し示すほうを見ると、海中と思しき場所から竜巻が。
「行って見ましょう」
 いよいよはっきりした目的地へと向かう。

 到着すると爆音が。
 舗装路の路肩に車を止め、ドアロックももどかしく現場と思しき砂浜に駆け下りる。
 走ることを前提としている職業がらかかとの低い靴なので、何とか砂浜も歩ける。
 爆音の有ったほうを目指していくとスクール水着姿の少女と、気絶した全裸の女性がいた。
「え? なんなの? これ」
 あまりにシュールな取り合わせであった。
 まだスクール水着は理解できるが、全裸の女性というのが不可解だ。
 死体遺棄の際に身元判明を避けるため衣類を剥ぎ取ることは多々有るが、どうやら生きている様子。
「それ、もしかしてあなたが?」
 こちらは「職業病」とでも言うべきか。つい尋問する調子に。
「あ…あの…」
 それに気圧されたわけでもあるまいがあとずさるセーラ。
 確かに爆発も竜巻もこの少女が原因。
 魔物退治といえど少々後ろめたい。
「ねえ。教えて。ここで何があったの?」
 おびえている「少女」に出来るだけ優しく語り掛ける薫子。
 しかしもう一人の青年刑事。桜田がさり気なく挟みうちのように移動していた。

 そこに一台のバイクが走ってきた。薫子の背後から。桜田には前方。
 直視した桜田は仰天した。そのバイクが無人走行。しかも音を立てていない。
 言うまでもなくキャロルである。
 すれ違い様にひらりとまたがるセーラ。瞬時にエンジェルフォーム。セーラー服を模した戦闘服に戻る。
「その人のこと。お願いします」
 鈴を転がすような声で言うと走り去って行った。
 とっさに彼女はデジカメで写真を撮った。

「変身した…あれがもしかして例の『正義の味方』?」
 爆発。竜巻。無人のバイク。変身した少女。ここまでそろうと眉唾物とも言ってられなくなってきた。

 翌日。

 大学病院へゲーリングの見舞いに礼が訪れた。
 アマッドネスの被害者の病室は可能な限り他の女性患者とは離す様になってきていた。
 元々女性の患者は別に気にしないのだが、まだ自分が女性化したのになじんでいない『被害者』達のほうに配慮してである。
 これにはアマッドネスに変身していた人物も『被害者』扱いである。
 経緯はどうあれ魔物のせいで性転換させられたのだ。

 余談だがアマッドネスに変化してからの『犯罪行為』は立証自体が難しく、さらにはいわば『心神喪失状態』とみなせほとんどは不起訴であった。
 ただしホースアマッドネスの馬場や、マンティスアマッドネスの釜本のように取り付かれる前に犯罪をしていたものは別で、同一人物と判明したら起訴に流れていた。
 邪心がアマッドネスに吸い尽くされているので、喜んで罪の償いに応じるものがほとんどである。
 馬場は既に刑が確定。問われたのは取り付かれる前の強盗のみ。
 既に収監されているが模範囚となっている。

 ドクトル・ゲーリングの場合、礼に対する殺意が命取りで取り付かれた。
 しかしそれゆえ他の人間には手を出さず。
 また邪心が少なかったのか自我も失わなかったのも理由だ。
 だから礼が訴えないことにより刑事罰はない。

 それでも深く後悔しているゲーリングだった。
 そして止めるためとはいえど自分の手で師に刃を向けた礼も。

「ドクトル。お体は?」
「ああ。大丈夫だよ。医者もそういっていた」
 男のときは深く渋みのある声であったが、今はやや細く高い女の声である。
 年齢ゆえか優しげな顔つき。当然だがトレードマークのひげは微塵もない。
「私は大丈夫だが、妻がね」
 様々な方法でゲーリング本人である証明は為された。
 それは同時にゲーリング婦人の「夫」がいなくなったことを証明していた。
「この体になった以上、妻とは別れなくてはなるまい」
 法律上の話である。
 子宮や卵巣もある完全な女性の肉体。そんな二人での「夫婦」は成立しない。
 ゲーリングの戸籍が女性に変わればなおさらである。
「ドクトル…俺は…」
「なにも言わなくていい。よくやってくれた」
 一つの家庭を崩壊させた罪悪感に悩まされる礼。
 それに対して本心から感謝するゲーリング。
「しかし…俺は正々堂々とは戦いませんでした。望まないといえどあんな奴との二人がかりだなんて」
 異様な激怒はその思いが原因である。
「待て! レイ。何で君たち二人はそんなに仲が悪いのだ? 私に取り付いた悪魔が語っていたが、君とあのラーイダは太古の昔は盟友だったという。それがどうして」
「正直、俺にもわかりません。しかし……どうにもこうにもアイツと顔をあわせていると怒りや憎悪がこみ上げてくるんですよ」
 相性の悪さというレベルではない。
「やはりアイツは許せない。俺とドクトルの一対一の神聖な戦いに土足で踏み込むようなマネを」
「レイ。その考え方はおかしいぞ!」
 思わず男の口調で窘めるゲーリングだった女性。
 しかしブレイザの腹づもりは決まってしまったらしい。

 次の日。
 一城薫子は撮影した写真を元にセーラ。そして彼女のバイクの手配図を作成していた。
「女の子の方は可愛いけどこのくらいならほかにもいるわね。けどバイクは別ね」
「そう言えば一城さん。白バイ隊員は高校生らしい男子が、この女の子になったといってましたっけ」
 既に桜田は出会った少女をセーラと決め付けていた。事実そうでは有るが。
「そうね。まずは裏を取りましょうか」
 彼女たちは証言を取るべく所轄の交通課に出向いた。

 さらに翌日。

「……まさかテメーのほうからこっちに来るとはな」
 登校した清良を福真高校の正門前で伊藤礼が待ち構えていた。
 以前の逆で学生服とセーラー服の福真の生徒たちの出入りする校門に、ブレザーの礼はかなり目立つ。
 遠巻きに見ながら校舎へ入る生徒たち。
 しかし退治している相手が清良と見ると「また喧嘩か」で片付いてしまう。

「生徒会副会長様がサボりとは関心しないな」
 傍らの友紀も不思議そうに見ている。
 今までも清良を待ち伏せてここにいた不良はいたが、この男はいかにも真面目そうだ。
 もっと的確な言葉としては「エリート」といえた。
(こんな真面目そうな人が…最近のキヨシ。なんだか変だわ。色々隠し事が増えたし。もしかしてみんなが見たというペガサスとか怪人が関係あるのかしら?)
 新体操部の彼女は基本的に体育館での活動。
 屋外の事件を直接目撃するケースは少ない。

「高岩。ちょっと用がある。出来れば誰もいない場所に行きたい」
 その口調はとても「話し合い」という雰囲気ではない。それは清良も察した。
「わかったよ……」
 荒事には慣れている彼である。理解できた。
「こいよ。ちょうどいい場所がある」
「いいのか?」
 背中を向けた清良に礼が言葉を投げかける。
「ああ。副会長様と違ってサボりなんざしょっちゅうだ」
 自嘲気味に笑いながら言う。
「今生の別れになるぞ」
 その言葉で自分の見立てが甘いことを知った。
 喧嘩じゃない。殺し合いだと。
 振り返った清良の視界に不安そうな友紀の顔。
「心配すんなよ。後で行くからよ」
 精一杯の「ウソ」だった。

 町外れの廃工場。機械などは既に撤去されているが、老朽化した建物は取り壊しを待つばかりだ。
 一部鉄骨など横たわっていた。解体も始まっているようだ。
 天窓もすすけて薄暗い。むろん照明などもない。
 有るのはほこりにまみれた薄汚い空間。

 その中央に二人は対峙していた。まるで西部劇のガンマンの決闘のようだ。
 傍らにはそれぞれの従者。

「おい。本気か? 協力しないのはともかく、戦う理由もないだろう。俺たちが戦って喜ぶのはアマッドネスだけだぜ」
 ついでに言うなら一部プロデューサーと脚本家とおもちゃメーカーもである(笑)
「言ったはずだ。踏みにじられた誇り。それだけで充分」
 威圧的…もはや狂気の漂う目でにらむ礼。
 臆したりしないが、ため息をつく清良。

「なら仕方ねえ」
 彼は右手を真上に。左手を真下に向けた。

「やっとその気になったか」
 礼は右手を方の高さで真正面に。左をへその位置に。

「一発ぶん殴って、目を醒まさせてやる!」
 ゆっくりと腕を水平にする。

「それが貴様の遺言か?」
 出現した小太刀を腰だめにして、右手をかける礼。
 両者が同時に叫ぶ。

「変身!」

 清良は腋につけた腕を前方に突き出してクロスさせる。
 礼は小太刀を引き抜く。
 共に眩い光を放ち、戦乙女へと姿を変える。

「うおおおっ」
 どちらからともなく相手に突進して行く。
 ぎりぎりまでひきつけて小太刀で一撃を加えるつもりのブレザー美少女。
 しかしそれはセーラー服美少女の拳の間合い。
「目ぇ醒ましやがれ!」
 渾身の力を込めて真紅のガントレットがブレイザの頬げたを砕きに掛かる。
 それをスゥエー。後方にかわすというのが長年の喧嘩三昧で鍛えた勘が出した予想だった。
 当然目線が外れる。そこに左の膝を腹部に叩き込むつもりだった。
 手段を選ばないのなら股間が近い。ましてや無防備なスカート。
 いくら「男の泣き所」が消失しているといえど、痛いことはいたいはずである。
 そうでなくても『男の習性』で反射的に身をかわす。
 だがそれはしないセーラ。むしろ「清良」か。

 ところが予想外。ブレイザは小太刀を盾にした。ご丁寧に刃をセーラに向けてである。
 ガントレットは拳まではカバーしてない。自分で自分の拳を切り裂くことに。
「うおっ。危ない。えげつねぇ真似しやがって」
「お前なぞに手段を選ぶ必要はない」
 挑発は理解していても頭に血が上るには充分だった。
 左手を軽く顎目掛けて振りぬく。
 顎の先端にヒットしててこの原理で顔面全体をブレイザから見て左に振り向かせる。
 たまらず後ろによろける。
 体勢の崩れたところで追い討ちとばかしに飛び掛るセーラ。だが

「キャストオフ」

「うわっ」
 散り散りに飛散したブレザー風戦闘服に吹っ飛ばされる。
「自分が使った手に引っかかるとは、並外れた馬鹿だな。死なないと治らんなら殺してやる」
 和装のヴァルキリアフォームになったブレイザは、一回り大きくなった得物で横薙ぎにセーラを「斬る」
 これはエンジェルフォームのセーラー服風戦闘服が「鎖帷子」のようにブロックした。
「このやろう…本気で斬りつけやがったな」
「何度言えばわかる。殺すといっているだろう」
 完全にセーラも逆上した。

 一方、キャロルははらはらしてみていた。
 両者共に呼ばれるまで加担しないことになっていた。
 だがキャロルにしてみれば見ちゃいられない。
「ああもう。ドーベル。どうしてそんなに落ち着いているのよ。早くブレイザ様を止めないと。それ以前にどうして窘めなかったのよ?」
 さすがに同様の存在相手となると若干砕けた口調になる。
「膿は出してしまった方がよいと思ってな」
「膿?」
「ああ。私の考えが正しければお二方…いや。ジャンス様もみな…」

 セーラもキャストオフして服を飛び散らせる。その間に間合いを取る。
 放置されていた錆びた鉄骨のところでマーメイドフォームに。
 まるで空き箱でも持ち上げるかのように鉄骨を持ち上げ、そして投げつける。
 これを避けないとセーラは読んでいた。ブレイザはそういう性格とわかってきた。
 予想通りブレイザはガイアフォームに超変身して、鉄骨を空中で真っ二つにする。
 その隙にヴァルキリアを経てフェアリーフォームになったセーラが飛ぶ。
 その俊敏性と飛翔能力で背後を取る。どう見てもパワーのみのタイプと見立てたからだ。
 それが最初からの狙い。
 例え読まれていても相手もまだ見せぬ「俊敏性のフォーム」になるのに隙ができると。
 それは甘い予想だった。

「超変身」

 着流しが巫女装束に。どことなく雰囲気も清楚な、それでいて引き締まった表情の巫女姿にブレイザは変化した。
(えっ? ブレイザは直接別のフォームになれるの?)
 自分が必ずヴァルキリアフォームを経るので、ブレイザもそうだと思いこんでしまった。
「にぃ」
 不気味に笑うブレイザ・アルテミスフォーム。
 完全にセーラの動きを見切っていた。
(とりあえずすり抜けるしかない)
 だがその動きすら見抜かれていた。
 筋肉の動き。気の流れで読めるのである。

 そしてブレイザの刀が一閃された。

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