空からぐんぐんとブレイザの間合いに接近するセーラ。
 一閃される刀。回避不能。居合いの間合いだ。
 とっさにむき出しの部分をガントレットでカバーする。
 それがヤイバをブロックして、ブレイザの愛刀を弾き飛ばす。
「ちちぃっ」
 本人ものけぞり攻撃態勢が崩れる。

 そのまま逃げるかと思われたセーラだったが、それが癪だったらしく再び向かってくる。
 ブレイザが慌てて刀を拾いにゆくそこへと。そして
ドレスアップ
 瞬時に防御形態エンジェルフォームに戻る。
 エンジェルフォームに戻ったことにより当然飛行能力は消失するが、そのまま勢いで突っ込んでいく。
 
「え? え?! ええーっ」
 まさかそのまま突っ込んでくるとは!? さすがのブレイザも慌てる。
 反射的に逃げようとして向けた背中に、逆に直撃を受ける羽目に。

戦乙女セーラ

EPISODE16「真相」

「きゃあっ」
 とても本来は男とは思えない可愛らしい悲鳴を上げ、もつれ合って倒れこむ両者。
「ほっ」
 最悪の場面を回避して安堵の息をつくキャロル。
 相変わらず微動だにしないドーベル。

「いったぁーい」
 セーラが肘を押さえながら立ち上がりかける。
 膝を閉じたまま「スカートの中身」が見えないようにである。
 言葉遣いだけでなく仕草もだいぶ女性的になってきていた。
「あたたた」
 こちらは腰を押さえた状態で立ち上がるブレイザ。
 逃げようとした背中に直撃されたのだ。
 愛用の刀はその際に遠くへ放り出してしまった。
 限界が来たのもあり、エンジェルフォームに戻っている。

「もう。思い切り胸を打ちつけたから痛いじゃない。やるんじゃなかったわ」
 ぴく。
 セーラのその言葉を聞いたブレイザの顔に血管が浮き上がる。
「今、なんて?」
「え?」
 ケンカの最中と言うのを忘れている間抜けな表情のセーラ。
「何て仰ったと聞いているんです」
「だから…胸を打ったって」
 もしかしたら戦闘中より凄まじいかもしれない形相のブレイザ。
「そ……それは、わたくしに対する嫌味ですの?」
「は?」
 何のことかわからずセーラは思わずブレイザを見る。上から見て、胸の辺りで視線が止まる。
 一瞬にして察した。
 一方のブレイザはうかつにも「弱み」を見せたことに気がつくが後の祭り。
 にやっと嫌な笑みを浮かべたセーラが、からかうように言う。
「あー。そっかぁ。あんたペッタンコだもんねぇ」
 ストレートに言い放つ。精神攻撃というならかなり効いた。
 言葉どおりブレイザの胸は恐ろしく薄い。
 ブラジャーのサイズで言うとあってもAカップ。フォームによってはAAAというのもあった。

「そこだけ変身してなくて、男のままなんじゃないのぉ?」
 何しろ殺されかけている。出てくる言葉も辛らつになる。

 言われたブレイザとしては最大の泣き所だ。
 そして精神が完全に女性化していたので、コンプレックスになっていた。
 男の胸がいくら薄くてもまったく関係ない。
 気にするということはそれだけ女の精神状態という証拠だ。

 だから思わず口で反撃する。
「こ…この…カマトト。腹黒ぶりっ子女!」

「な!」
 しかしセーラは身に覚えがあった。
 変身時間が長くなり、精神が完全女性化すると、かなりかわいらしく振舞うようになると。
 既に「中身」が女で帰宅したときは、寝るまでファッションとメイクの研究というのがパターン化していたし、その際も可愛らしい衣装を好んでいた。
 的中したのを察してブレイザに余裕が戻る。
 上からの物言いになる。
「あら。図星ですのね。それで何人の殿方をたらしこんだのかしら?」
 もちろんそんなことはあろうはずがない。
 しかしかなりの侮辱にキレかけてきた。
「セーラぶりっ子なんかじゃないもん。取り消しなさいよ。つるぺた女!」
「お…大きければいいってもんでもありませんわ。このでか尻
「なんですってぇ」
 二人同時に飛び掛るが、アマッドネス相手の闘いとまるで違う、低レベルなケンカだった。
 髪を掴み、引っかき、そして主体となるのが女ならではの言葉による攻撃。
 甲高い声を上げながらキャットファイトを展開していた。
「な。心配いらなかっだろう」
 人間だったらウィンクしかねないドーベルの口調。
「…………ええ……」
 いろんな物にキャロルは脱力して、もはや止める気にもなれなかった。

 散々に罵りあい、攻撃しあって疲れ果てたところで止めに入ったドーベル。
 話し合いを提案する。
 疲労もあり、意外なほどあっさりその案に乗る二人。

 工場の床であるがきちんと正座しているブレイザ。
 その傍らにドーベルが座っている。
 対面には同様のキャロル。そして割座。いわゆる「ペッタンコずわり」のセーラ。
「おやおや。とても可愛い座り方ですこと。さすが『ぶりっ子の第一人者』。それにその座り方ならお尻がはみ出さないですわね」
 まだ口の方は続いていた。むっとなるセーラ。それまでヒップは気にしていなかったが、急に気になってきた。
 それをごまかすのと反撃で一言。
「ブレイザは和服がよく似合うわよねぇ。やっぱり胸がない方が着物は似合うもんね」
「なんですって?」
「やる気?」
 またやりだしそうな二人。だが力が続かない。
 代りにブレイザは従者を見る。
「ドーベル。何か考えがあってわたくしを止めませんでしたね」
「は。お二方にはまことに失礼をいたしました。しかしこれでご理解いただけたかと思います」
「何をよ?」
「これは全て私の推測でしかありませんが…」

 太古の昔。前世のセーラ。ブレイザ。シャンスは攻めてきた魔物軍団。
 アマッドネスを迎え撃っていた。
 彼女たちの聖なる力はかつては人間だったものの、今や魔物と化した者たちには有効であった。
 しかしそれもクイーンアマッドネスが倒れたアマッドネスに力を与えて復活させて切りがない。
 意を決した三人は最後の技でクイーンを封印するが、自らも「封印」されてしまう。

「ここまではよいですね」
「ええ」
「キャロルから聞いているわ」
「現代の戦いにおいてブレイザ様たちに倒されたアマッドネスが復活できないのは、恐らくはクイーンがまだ完全には封印を解けていないからと思われます」
「『恐らく』と『思われます』って、推測が重なっているわよ。ドーベル」
「実際に推測だからな。もしかしたら完全に蘇えっているかもしれない。どちらともいえんよ。キャロル」
 真面目な印象のドーベルも、キャロルの前では若干だが砕ける。

「奴らも前の闘いでは本来の肉体を持ってました。しかし長い年月でその遺体も朽ち、誰かに取り付いて乗っ取ることでかりそめの復活を成し遂げられます。それを断ち切られるともう奴らには昇天するしかないのです」
「朽ちる前に焼いてもいたけどね」
「待ってキャロル。遺体を焼いてって…爆発したんじゃないの?」
「いえ。セーラ様たちの戦いはどちらかというと『お払い』でして。奴らの魂にダメージを与えて切り離す際に一度肉体はあのように爆発します。しかし当時のオリジナルの肉体を持っていた彼女たちだと普通に死んでましたから爆発はしてません」
「爆発というより拡散かしら。奥底まで魔物に取り付かれたのを払うとなると、一度ああやってばらさないといけないみたい。ただ聖なる力で再生はされるけど、取り付かれていたときに女性化していたせいか、必ず女性になるようね」
 ここは潤滑に進めるため、ブレイザも補足だけにとどめる。
 セーラも素直に聞いていた。

 他にはアマッドネスにより体を作り変えられた者たち。
 それが再生される際に男である遺伝子情報が伝わらす、必ず女性化してしまうのもある。
 言うまでもなく元が女なら問題はないが、それでも作り変えられているのには違いない。

 その頃。
 薫子と桜田は王真高校にきていた。
 授業中で生徒に話が聞けないので、空き時間で待機している教師に話しを聞くべく職員室に。
 キャロルバイクモードの情報を足がかりにしていたら、二度ほどここにそのバイクが来ていたと証言を得た。
 そしてそれがどうやら王真高校生徒会副会長。伊藤礼に合う目的だったらしいとも。
「この辺りも怪人頻出地帯なのよね」
 データが頭の中に叩き込まれている薫子が言う。
「ウチの方でも『着物姿の女剣士』が倒したなんていう話が出てますがね」
 苦笑混じりに中年男性の教師が言う。
「着物? レオタードや水着じゃなくて?」
「なんですかそりゃ?」
 セーラ・フェアリーフォームを見たのは礼。森本。そしてゲーリングだけであった。
(こっちにもいるのね。でもそれより空飛ぶ美少女の方が捉まえ易そうだわ)

 話しをさらに聞き、どうやらバイクの主は男。そして福真高校の生徒らしいと判明した。
 二人は福真高校へと移動することにした。

 再び廃工場。
 昼下がりだが四人の話し声だけが響く。
 まさに喧騒から切り離された空間。
「さて。セーラ様。あなたが覚醒したのは確か二月とか」
「え…ええ。そうよ」
 黒猫のキャロルが喋るのにはもうすっかり慣れたが、名の通りドーベルマンの姿の従者が人語を話すのはまだ慣れないセーラだった。
「ブレイザ様は夏だったんでしたっけ?」
 入れ替わるようにキャロルがブレイザに確認する。
「そうですわよ」
「そしてジャンス様がその前の春。四月と聞きます」
「ねぇ。もったいぶった言い方やめない?」
 痺れを切らしてセーラが言う。
「順序があります。それに…この方が冷静にお聞きいただけるかと思い」
 渋みのある男の声で言い聞かせる。
 その声に含まれた響きにただならぬものを感じてセーラは引き下がった。
「わかったわ。続けて」

「結論から申し上げます。ブレイザ様。セーラ様。ジャンス様。お三方には恐らく、クイーンの魂のカケラとでも言うべきものがついてます」

「!!!」

 セーラ。そしてブレイザも衝撃を受けた。
「どういうこと。ドーベル。何の根拠があって」
 かすかに震える声でブレイザが尋ねる。
「私、キャロル。それとウォーレンの遣い魔たちは先代の亡くなった後、転生を待ちました。皮肉にも『クイーンのカケラ』のおかげですぐにわかりました。そう。先代のブレイザ様たちがなくなった17才に近づくとそれが強くなるのです」
「それでキャロルはあたしのことがわかったのね」
「はい」

「しかし我々は何度も絶望しました。幾度転生しても男にしか生まれず。さらには粗暴な存在になってました」
 果てしない時を乗り越えて、そして転生を繰り返す。
 生まれ変わるのは全て男児。だが少しずつ善性を増していっていた。
「恐らくはクイーンのカケラが戦乙女としての転生を阻害してました。ゆえに男にしかなれず。また性格にも難が」
「それであなたはあんな不良になったんですのね」
 ここで再び見下すような視線を。
 この仲の悪さも『カケラ』の影響らしい。
 アマッドネスは人間の負の感情をエネルギーとして実体化するが、この『カケラ』は逆に負の感情を増幅していると思われた。
 だから礼は『不良学生』の清良を心底見下し、清良も反発したためあの闘いに至った。

「なによ。それならブレイザだって高飛車じゃないのよ」
「そうなのですよ。本来のブレイザ様はむしろストイックなお方で、喋り方もそういう風でした。それが何故かどこかの姫君のような」
「セーラ様も随分と可愛らしくなってしまわれますし」
「おそらく伊藤礼としての女性像。高岩清良としての同じく女性像が出るのではないかと」
「幼女シュミなのかしらね?」
 意地の悪い目つきで笑うブレイザ。
「ふんだ。あんただって王女というより女王様じゃない」
 それを口にしてセーラはあることに気がついた。

「キャロル。どうしてあたしとブレイザじゃこんなに違うの? それに覚醒時期も」
「これも推測なのですが…」
 代わって答えたのは黒犬だった。
「呪い自体はクイーンのカケラが大きいですが、その前にセーラ様は奴らを拳で倒してます。つまり直接触れているのが最も多いのです。それだけに奴らの影響を受けたものと思われます」
「だからあたしが最後まで覚醒が遅れたのね」
「なるほど。わたくしは剣士ゆえに返り血は浴びても、直接の接触は少ない。それなら遠距離攻撃のジャンスがああなのも納得ですわ」
「ねぇ。そう言えばジャンスってどんな人なの?」
 まだ見ぬ三人目。厳密には一人目に興味を抱くセーラ。
 嫌なことを訊くな…そんな表情のブレイザ。
「ご自分で確かめたらいいですわ。わたくしはあまりあの人の話をするのは気が進みません」
(なんか性格に問題あるみたいね)
 それ以上追求するのはやめにした。

 話はさらに続く。
「クイーンに攻撃した時に呪われたわけね。でもそれがどうして今頃」
「長い年月が経ちましたからな。少しずつ薄れていきます。ただ恐らくはそれは奴がとりもどしているから」
「それで今になってアマッドネスが復活したのね」
 少しずつ話が見えてきた。

「それにしてもピンと来ないわね。どうしてもその太古の戦いが思い出せなくて」
「癪ですがそれに関しては同意いたしますわ。わたくしもさっぱり」
「それはあなた方の覚醒が不完全だからです。肉体は再現出来てますが、精神はまだ途中で」
「だからかつてのセーラ様やブレイザ様と性格が違うのね」
 引っ掛かりの取れたキャロルの相槌。
「ですがあなた方の中からクイーンのカケラがなくなれば、本来の姿と記憶をとりもどせるかと思われます。それに皮肉にも人間を怪人に変えるあの力のおかげで、現代の戦乙女は姿を変える力を獲得してます」
「わたくしのは必殺技のためだけですわ。それで充分」
 漸馬刀を振るうために筋力が強化されガイアフォーム。
 居合いのため五感が研ぎ澄まされるアルテミスフォームのブレイザ。
「あたしは前線タイプだからどこでも戦えるようにか」
「ただ先代のセーラ様は『気』を用いて僅かながら宙を舞えました」
「なんだ。空の支配者だなんて大げさに言うから」
「とんでもない。あの時代では10メートルも上に行かれたら絶望するしかなかったですよ」
「ははは。そうかも」

「つまりこういうこと? 『クイーンのカケラ』があり、それが本来の戦乙女に戻るのを妨害していると」
「それにわたくしたちが共闘しないようにする効果もあるようですわね」
「それゆえ先ほどはあそこまでの死闘を演じました。ですからセーラ様。今はまだ無理のご様子。援軍には時期尚早です。なにとぞご容赦を」
 頭をたれるドーベル。
「あん。いいわよ。色々わかってすっきりしたわ。それにそういうことなら森本君もわかってくれるでしょ。あたしとしてもこのつるぺた女とはそりが合わないから構わないわよ」
「………何かいいまして? カマトト」
 再び険悪な空気が流れる。
「言ったわよ。それがどうしたってのよ」
 セーラも謝るつもりは毛頭ない。
「よくもぬけぬけと」
 互いに相手の頬にビンタを。それが見事にヒットした。
「「はぅ」」
 激闘の疲労もあり、それがとどめとなって気を失った。
「やれやれ」
 キャロルもどっと疲れが。

 昼下がり。
 さっさと学校に戻った礼に対して、清良はのんびりしていた。いや。学校に行くのを渋っていた。
 思わず声をかける従者。
「セーラ様。のんびりしてていいんですか? 学校に行くのでは?」
「この精神状態でいけるか! ああ。まったく。なんだって女になりきるとああまでぶりっ子になるんだ? 『セーラぶりっ子じゃないもん』って…どこの幼稚園児だよ」
 それゆえ落ち着くまで学校に戻らないことにしたのである。
「まぁ伊藤の野郎もかなり恥ずかしい思いをしてると思うがな。お嬢様口調で貧乳を気にしてたんじゃ、男として恥ずかしいわな」
 それゆえか逃げるようにこの場から消え去った。
「しかしこんなに仲が悪いのでは、協力して敵を叩くどころか背中から斬られかねませんね」
 キャロルも若干落胆している。
「それじゃとてもじゃないが一緒には戦えねぇ。当面はお前とだけでがんばるがな」
 とはいえどそれはあまり楽観視出来ない。その証拠に僅かに共闘できないことを惜しんでいる。
「まぁ険悪なのもカケラとやらがなくなってしまえば……」
 ここで重大なことに気がついた。

「待て? それがなくなって『本来の戦乙女の姿と記憶を取り戻す』…確かドーベルはそういっていたよな」
「はい……あっ?」
 キャロルはその時点で言葉の意味を察した。

「それってつまり…クイーンのカケラがなくなったら完全な女に。いや。俺の記憶や人格も消え、セーラになってしまうって事か?」

 それは即ち、『高岩清良』の消滅を意味していた。


EPISODE17『遭遇』へ

戦乙女セーラメインページへ

『TS短編作品専用掲示板』へ

TS館へ

『少年少女文庫』へ

トップページへ