太古の昔、アマッドネスがセーラたちの守る都市の直前ではった陣。
 そのひときわ豪華な一角に手に杖を持ち、ローブをまとった人物が訪れた。
 警護のものと会話を交わし、そして警護が中の人物に取り次ぐ。
 許可が下り中に入るローブの女。
 彼女は中にいた人物に一礼した。
 現代風に言うならソバージュのロングヘア。
 美人だがきつい印象の顔立ち。
 まるでバラのような真紅の唇が印象に残る。
 着ているものも現代で和服と呼ぶもの。ただしこれまた血の色のような赤。
「ロゼ様」
「何用だ? 大賢者・スズ」
 スズと呼ばれた女はローブのフードを取る。
 年のころなら20代前半。化粧っけがなく少々地味だが、すっきりした美人といえる。
 ローブで体形がわからないが、ところどころでメリハリが利いているのを垣間見ることができる。
 髪は編みこんで後ろに垂らしてある。
「神聖都市・ミュスアシへの侵攻。思いとどまれませんか?」
「スズ。お前はわらわを笑わせに来たのか?」
「私は真剣です。どうかこれ以上の殺戮はもうおやめください。共存共栄。それこそがこれからの生き方ではありませんか?」
「くだらん! 弱ければ奪われるだけの話。命も。財産もな。強ければよいのだ」
「奪うばかりでは何も産みません。これ以上虚しい闘いをするのはどうか考え直して……」
「くどい!」
 ピシャリと跳ね除けるクィーンアマッドネス。ロゼ。
「どうしてもお考えを改めませんか。ならば仕方ありません」
 スズは杖の仕込み刀を抜いた。
「お命頂戴して、この戦を止めるまで」
 微動だにしないロゼに切りかかる。



戦乙女セーラ

EPISODE17「遭遇」



 激しい金属音。止めたのもまた刀。ただしこちらは仕込などではなく、厚く拵えた本格的なもの。
 いわゆる半月刀だ。
 長い髪を無造作に後方で束ねた鎧姿の女が受け止めていた。
「そこをどけ。将軍」
「クィーンの盾。そして剣となるがわが使命。キサマこそ気でも違ったか。スズ」
「私は本気だ。この無益な闘いを止めたい。どかぬとあらばガラ。お前から倒す」
「戯言を」
 将軍が力に物を言わせてスズを弾き飛ばす。むしろスズが間合いを取ったというべきか?
「儀式」のために。
 スズは左手を腋にひきつけ折りたたむ。握りこぶしの手の甲が下に向いた状態。
 その手首に右手の手首を合わせている。
 それを反対側へと移動させ、それから真ん中へ。ゆっくりとそれを突き出して伸びきったところで右手の甲を下へ。左手の甲が上になるように回転させる。
 異形へと変化する儀式だった。
 スズは異形へと変化する。
 黄色を基調とした全身。ところどころに黒い模様が走る。
 特に釣りあがった黒い複眼が擁す顔が仮面のようだ。額からは触角が伸びている。
 ウエストの極端な括れで、異形となったのにどこか女性的。
 彼女はスズメバチの能力を付与されていたのだ。

「その力とてクィーンに頂いた物だろう。恩知らずめ」
 将軍。ガラも変化する。
 金色に光る大きな目。全身にウロコが。
 ガラ将軍の戦闘形態はガラガラヘビのそれであった。
 そして衛兵はそれだけではない。
 さらに六人が現れた。それぞれが異形へと変化する。
 これでは暗殺どころではない。
 クィーンの前から引き離され、表での闘いとなる。

 七対一ではあったが逆に言えばスズの実力を示していた。
 賢者では有るものの同時に戦士としての実力もあった。
 一人ずつ確実にしとめて行く。空を飛べるのが何よりも有利だった。
 しかし疲労はある。やっと六人を倒したところで、指揮をしていたガラが参加してきた。
「貴様、部下たちを捨て駒に?」
「それがどうした? 戦とはそういうものだろう」
「許せん」
 再び切り結ぶ。実力は互角。だがスズが空へと浮かぶ。
「逃さん」
 ガラのわき腹から左右三本ずつの肋骨が肉を突き破って出てくる。
 そしてなんとそれをミサイルのように打ち出した。
 それを空中で全て回避するスズ。高度を取っての切込みである。だが
「ぐあっ」
 六発は避けた。しかしひそかに背中から発射された「七発目」が六発全て回避した直後で無防備な心臓を串刺しにした。
「お…の…れ…」
 落下して地面に倒れ伏すスズ。それでも剣の先をガラに向ける。それを撃ち出した。
「ふん。猿真似か」
 断末魔と思い余裕で避けた。そこに油断があった。刀身がリモートコントロールされて、ガラを串刺しにした。
「き……きさまぁっ……」
 ドボドボと流れ出る血。いくら異形でもまず助からない。両者共に異形から人の姿へと戻る。
「ふ…ふふふ…クィーンにはもう届かないが、せ…せめて盾であり剣であるお前をしとめれば考え直してくれるかも知れぬ…」
 スズは勝利したかのように微笑んで絶命した。そしてガラも息絶えた。

 口ひげの中年男はそこで目を覚ました。ひどい寝汗である。
(あのときの夢か…それは私がガラ。お前との同化が進行してきたから見たものか?
 それともそうではなくお前の記憶を横から見たということか?)
(どちらかな。私にもわからん。しかしミュスアシの民の末裔に、我々に近しいものがいたとはな。だからお前は自我を保ちながら私と肉体を共有できるのか)
(ふ。光栄だな)
 男はパジャマを脱ぎ捨てシャワールームへと向かった。

 その頃、福真高校の校門では伊藤礼が高岩清良を待ち構えていた。その時間の話。

 スーツに着替えた男は職場へと出向く。
 その際にも頭の中での「会話」が続く。
(しかしあの時の夢をまだ見るとは…さすがに自分を殺した相手のことは忘れられないか)
(もう一度あったら今度はやつだけ殺してやりたいものだ。もっとも奴は我々と考え方が違っていたから、お前たちの言う「欲望」を糧として実体化は出来まい。出来るとしたら自分を捨てて民のことを考えるようなバカ相手くらいだが)
(そういう「バカ」に一人だけ心当たりがあるがな)
(……そんな奴がいるのは望ましくないな)
(わかっている。それに奴はやたらに精力的にこの事件に首を突っ込んでくる。そろそろ目障りになってきた…一城薫子が)

 昼下がり。
 清良は重い気分で高校へと向かっていた。
 本人が歩いてではなく、キャロルバイクモードが運んでいる形だ。
 ドーベルの仮説。それが自分の消滅を示すもの。気が重くなるのも無理はない。
「セーラ様。ドーベルの言った事は単に仮説ですから、あまり気になされてはお体に触りますよ」
「まぁな。だが……気にするなってのは無理な相談だ」
 どちらかというと豪快なほうに入る性格の清良だが、これはさすがに考え込む。

 ガラと同化した男は「職場」で思案していた。一人だけの部屋。
「消しておくか」
 彼はインターホンで一人の男を呼び出した。
 やがて呼び出された人物が現れた。
 何の変哲もない青年。メガネくらいしか特徴がない。
 しかしぞっとするほど冷たい目。
 その反面。まさに犬のような忠誠心を表情が物語っていた。
「ガラ将軍。アヌ。ただ今参りました」
「ここではミュスアシの言葉を使え」
 アマッドネスは自分たちが滅んだ都市。ミュスアシの後に出来たこの町。東京をミュスアシと同一視していた。
 一応は潜伏している身である。カモフラージュは徹底しないといけない。
「失礼しました。三田村警部。ご用件は?」
「適当な奴らを見繕ってこの女を始末させろ。いいな。軽部」
 盗聴を嫌い主語を省く。見せた写真は薫子のそれ。
「はっ」
 疑念すら抱かない。彼もまたアマッドネスに取り付かれた存在。
 そして太古にスズによって斬られた者。

 警視庁の警部。それが今のガラ将軍の社会的地位であった。

 福真高校の近くのファーストフード。
 いくら聞き込みの最中とはいえど食事はする。
 桜田がエンジンをかけ、薫子が車に乗り込んだときにちょうど清良が通り過ぎた。
(いた! 例のバイクの目撃情報がここにもあったから来たけど、いきなり本人に出会うなんて)
 清良は気乗りしないこともありゆっくりと走らせている。
 だから発進が間に合った。
 横に並ぶと呼びかける。
「ねぇ君。ちょっと話がしたいの。いいかしら」
「はぁ?」
 最初に連想したのはいわゆる逆ナン。
 しかしよく見ると三浦半島で出会った女の顔だと思い出した。
 心配事など吹っ飛んだ。とうとう自分のところまでたどり着いたか。
 迷ったが逃げるよりむしろ学校に入ることにした。
 確かにケンカなどはしょっちゅうだったが、ここ最近ではアマッドネス相手で忙しく、普通の人間まで相手にしてられなかった。
 つまり警察に追われる理由もない。
 だから校内に逃げ込めば放課後までは踏み込めない。
 清良は決断するとスピードを上げて校内に。
「もう。でもその態度。もしかして」
 核心に近いものを感じた二人は張り込むことにした。
 本当は乗り込みたいが、何しろ「正義のヒロインがここにいるはずです」などといえるはずもない。
 だから出て来るのを待つことに。

 バイクで逃げるなら正門から。だから薫子は車で正門に。
 裏門は桜田が張っていた。

 警視庁内の留置所。様々な被疑者が拘留されている。
 そこに軽部は現れた。中までは行かず、入り口手前でたむろしている。
(ふん。催眠術を悪用した医者。そして放火魔か。どす黒い感情は持っているようだ)
 そして人の目には見えない二つの「魂」に「イオ。エバ。行け」と命じる。
 やせこけた放火魔・斎川の中にイオと呼ばれた魂が。
 太った悪徳中年医師・鯖江の中にエバと呼ばれた魂が入り込む。
 斎川はイカの特性を持ったスクィッドアマッドネスに。
 そして鯖江はハエの特性を持ったフライアマッドネスに変化した。
(行け。お前たちの使命は一城薫子の抹殺だ)
 怪物の出現に恐慌に陥る留置所だが、他の拘留者には目もくれず、二人は窓の鉄格子を破り脱獄した。

 放課後。清良は帰るに帰れなかった。
 明らかに待ち伏せしている。
 不良相手なら深く考えずに蹴散らすが、さすがに警察相手にはやりたくない。
「しゃーねーな」
 清良は屋上に出た。
 飛んで逃げる手もあったが、そんなことをしたらここにセーラがいると教えているようなものである。
 幸い(?)自分は不良のレッテルを貼られている。
 だから警察から逃げ回るのは不自然でもない。
 なんとか目をくらませたかった。

 屋上で誰もいないことを確認。そして変身した。
 それからガントレットをリストバンドに変えて校舎内へ。
 女子トイレに飛び込む。そして伸縮警棒を取り出す。
「応用で出来るかな?」
 意識をこめてみたらメガネへと変化した。
「やって見るもんだな。それなら」
 二本持っているもう片方を今度はカチューシャへと変化させた。
 前髪を全て後ろへ長し、それをカチューシャで止める。
「結構印象変るな。おっと。いけね」
 タイの色を変化させる。この年の一年の使う白である。ちなみに三年は黄色。

 一年女子に変装したセーラは下駄箱へと。
 そこで新体操部に出向く友紀たちと出くわした。
 さすがに驚いた表情が出たが、そ知らぬ顔で通り過ぎた。
「今の娘。誰? 友紀の顔見て驚いていたけど」
「さぁ? タイが白いし、一年じゃ。誰か知り合いと見間違えたのかもね」
 友紀はセーラを見ていない。だからごまかされるのも無理もない話しである。

 そして拍子抜けするほどあっさりと脱出成功。
 変装と言えば顔を隠すイメージがある。まさか額を見せて顔がよく見えるようにするとは、薫子も考えなかった。

 ある程度過ぎてから
「ふぅ」
 ため息を吐き出すセーラ。人目がないのを確認してから一気に元の姿に戻る。
「あぶねえあぶねえ。あのまま続けていたらまた心が女になっていたぜ」
 商店街でキャロルと落ち合うつもりで連絡する。そこでの時間つぶしが必要になった。

 定時連絡で薫子が福真高校を張り込みしているのは知れている。
 だが薫子はセーラを追っているらしい。つまりこの高校にセーラがいる可能性もある。
 ここでなくとも近隣にいる可能性は無視できない。
 そのそばで事を起こせば邪魔されるのは目に見えている。
「どうやってここから連れ出すかな」
 物陰に隠れて薫子の覆面車を見ている斎川がつぶやく。
「そうだな。こんなのはどうだ?」
 自信満々な鯖江が反対方向に歩き出す。

 学校をサボったと思しき若者が商店街でたむろしていた。
 それを見つけた鯖江は真っ直ぐに歩み寄る。
 無関心だった三人の若者は、その鯖江の態度に異常を感じ取った。
「なんだ? てめぇ」
「ポリか。それとも補導員か」
 威圧的に顔を近寄せてくる。それに対してにやりと笑う鯖江。
「……どれでもない。アマッドネスさ」
 目が光る。その途端に三人の男は意識…むしろ意思を失う。
 催眠術で操作したのだ。そして三人の暴力に対するリミッターと、物欲に対するリミッターを解除した。
 つまり……無差別な強奪が始まった。

「本部より入電。福真署官内の○○商店街で強盗発生。付近の移動は急行されたし。繰り返す」
 こんな事件がおきては清良の張り込みどころではない。
 薫子は車を発進させて裏に回り桜田を乗せる。そして現場へと急行する。

 その頃、清良は当の商店街の端っこのほうにいた。
 そうしたら騒ぎが起きている。
(「感触」はねぇからアマッドネスじゃないか。だが何か揉め事か?)
 ちょうどそのときにキャロルが到着した。小さな猫の姿では何かと無理がある。
(行きますか? セーラ様?)
(しゃーねーな)
 すっかり「正義の味方」が身についたせいか、キャロルともどもとりあえず見に出向いた。

 薫子の駆る車が現場に着いた。
「やめなさいっ」
 甲高い声で叫ぶ。まるでそれが合図かのように、糸の切れた操り人形のごとく崩れ落ちた。
「なんだ? こいつら」
 桜田がつぶやく。しかし異変は序の口。
「ちょっと……どうしたんですか? 皆さん」
 八百屋。魚屋。パン屋。本屋。スーパーの店員。学生。主婦と思しき人物もいる。
 それが二人をぐるりと取り囲んでいる。
「ふふふふ。一般市民に取り囲まれては、手荒な真似も出来まい」
 鯖江が現れた。
「お前…いつのまに脱走した!?」
 刑事だけに最近の逮捕者の顔くらいは覚えていた。
「ふふふ。こっちにもいるよ」
「お前は…連続放火魔の斎川!?」
 一体誰が警視庁に拘留されている二人を逃がしたというのだ?
「エバ。ここからはあたしがやるよ」
 斎川はイカを思わせる異形へと変化した。
「あ……アマッドネス?」
 被害者は数多く見たが、怪人そのものは初めてだ。恐怖する薫子と桜田。
 その恐怖を倍化させる行為にスクィッドアマッドネスは出た。
 口から火炎放射器のように火を吐いたのだ。
「まったく。イカ墨に相当する物がガスになって燃料となるとは、アマッドネスの中でも変わり者だ」
 勝ち誇ったもう一体。いつの間にか変化したフライアマッドネスが、巨大で不気味な複眼をぎらつかせて言う。
 「力」を得て得意げな犯罪者たち。「肉体」を得て浮かれているアマッドネスたち。油断があった。
 リングの外での音に気がつかなかった。
 操られている面々を飛び越えてバイクが飛び込んできた。そしてそのままスクィッドアマッドネスの後頭部に車輪を当てる。
「ぎゃっ」
 さすがにたまらずつんのめり、攻撃を中断。
「何してんだよ。こんなところで」
 飛び込んできたのは清良だった。二人の刑事に怒鳴りつける。
「知らないわよ。暴動が起きているというから駆けつけたらこれだもん」
「ちっ。はめられたか。俺か? それとも」
 清良の姿のまま戦う羽目に。
 さすがに商店街で変身は出来ず、キャロルバイクモードで走っていたらアマッドネスを感知。
 とりあえず飛び込んだのである。
「げ。二体かよ」
 アマッドネスの常套手段として、まず人を襲い「戦闘員」に。
 そして仕上げが自分自身。それが多い。
 清良もそうだと思いこんでいたが、これは全てフライアマッドネスの催眠術によるコントロール。
 ちらっと二人の刑事を見る。
「仕方ねぇ。この周りは操られて正気じゃないようだし。あんたらだけならな」
 清良は右手を天に。左手を地にかざした。その手にガントレットが出現する。
「くぉぉ」
 この間にスクィッドアマッドネスはやっと立ち上がった。
 何しろバイクで後頭部を蹴り飛ばされたのだ。普通の人間なら死んでいる。
 清良は両手を水平にすると、思い切り腋に引き寄せ、

「変身!」

両腕を突き出して交差させる。
 眩い光と共に大柄な少年は、小柄な少女戦士へと変わる。
「や……やっぱりあなたがあの……」
 目を見開いて興奮したかのようにつぶやく薫子。
 それを肯定するかのようにセーラは、アマッドネスたちに宣戦布告代わりに名乗る。

「戦乙女ぇっ! セーラぁっ」





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