「ほう」
 スクィッドとフライ。
 二人のアマッドネスの成果を見届けるべく、通りすがりを装ってその場を見ていた軽部は軽く驚く。
 本命はあくまで一城薫子の始末。
 しかしその場にセーラが飛んでくるならいざ知らず、目の前で変身して素性を明かしてくれるとは。
(もっともこの場で倒してしまえば意味はないか。さて。命令どおりに一城を始末か。それともセーラからか?)

 当然ながら暴動の起きている地区に警官が集まる。
 いくら多人数といえど制圧されるであろう。
(最優先は一城薫子。だがセーラが邪魔なら始末しろ)
 結局こういう指令しか出せない。


戦乙女セーラ

EPISODE18「相棒」

 180を越える大男が160もない小柄な美少女へ。
 変身するとはきいていたものの、漠然と同性と思いこんでいた薫子である。
(まさか正体が男だなんて……でも三浦半島で見たときはちゃんと胸もあったし、プロポーションも声も女の子だったけど)
 探し当てた「正義の味方」は想像の斜め上ではすまない存在だった。

 ジリジリと輪が狭まる。
 フライアマッドネスの触角がせわしなく動いている。
 決め付けるのは危険だが、かなりの確率でこれでリモートコントロールしている。
 そうセーラは考えた。
「セーラ様。お気づきですか?」
「ば…バイクか? AIでも搭載しているのか?」
 周囲に警戒しつつも桜田は驚いた。
「ああ。わかっているよ。『男』がいるよな」
 男をくだらない存在と考えるアマッドネスは、優秀な男だけ「種」として残し、それ以外は殺していた。
 やがて術を操れるようになると、殺すと言う非生産的な行為でなく女に作り変えるようになった。
 したがってアマッドネスに襲われた男はみな一部を除いて女になる。
 だがこの取り囲んでいる連中には男がいる。
 学生。中年。老人。年齢もバラバラだが、まごうことなく男である。
 つまりアマッドネスの「奴隷」ではない。
「催眠術か何かか? くそ。奴隷になった状態なら多少ぶっ飛ばしてもそんなにひびかねぇが、ただの男じゃ怪我させちまう……」
 さりとて自分たちが代りにやられる道理はない。

 サイレンが迫る。程なくしてパトカーが到着した。
 暴動となると機動隊の出番だが、相手は武装勢力というわけではない。
 商店街とあっては威嚇射撃とも行かず怒鳴って威嚇する。
 しかし意思を奪われたものたちはまるで相手にしない。
 ならばと実力行使。取り押さえに来る。
 十数名の「暴徒」と6名の警官。
 人数は不利でも鍛えている。だから輪を崩せた。
「ええい。サツに構うな。一城薫子を殺せ!」
「ええ? 狙われていたのってあたし!?」
 何てことだ。狙われている自分から罠に飛び込んだと。
「そういうことか。だったら話は早い。キャロル」
「はい」
 既にコンビを組んで長い。意思が伝わるようになってきた。
 キャロルは本来の白い天馬に戻る。またがっていたセーラは飛び降りると、薫子をいわゆる「お姫様だっこ」で抱えキャロルの背に。
 そのまま空を飛ぶ。輪から脱出するとバイクモードに。
 バイクに追いつける人間はいない。催眠で操られていた人間たちはほったらかして二体のアマッドネスは追跡を開始した。

 解体中のビル。その三階部分に二人と一匹はいた。
 セーラは若干躊躇ったが、薫子の目前で元の姿に戻った。
「……驚いたわ。関係者かもとは思ったけど、まさか本人とは」
 さすがに薫子も壁を背にへたり込んでいる。その横に座る清良。
「俺も驚いたぜ。こっちを追っていたあんたが、今度はアマッドネスの標的だ」
「アマッドネス? あたしたちがコードネームとして呼んでいた名前だけど、それは正式名称なの?」
 ひそひそ声だが女の声。結構響く。
「大昔からの由緒ある名前らしいぜ」
 清良の方は男らしい太く低い声。
「大昔? 何でそんな奴らとあなたが戦っているの?」
 職業柄か、どうしても尋問調になってしまう。
「それは……あいつらが気にいらねぇからだよ」
 ウソではない。
 男としての人生を歩んできたものを、勝手に女に変えてしまう「暴力」に怒りを感じていた。
 もっとも本音としては「実は太古の戦乙女の生まれ変わり」などとは説明する気にはなれなかった。
「私が補足しますね」
 ちょこんと座る黒猫が、女の声で喋る。
「バイクと思えばペガサス。そして今はネコの姿…なんだか頭がこんがらがるわ」
 まったくの本音であった。
「キャロルと申します。以後よろしく」
「おい。何のつもりだ?」
「いえ。セーラ様。警察の協力をあおげれば、随分と戦いやすくなるはずです」
「……」
 確かにそうだ。色々とやりやすくなる。ましてやブレイザやジャンスの協力を期待できない今ならなおのこと。
「勝手にしろ」
 ふてくされたように横になる。彼らしい照れ隠しだ。
「ではお言葉に甘えまして」
 キャロルの説明が始まった。

 その頃、人の姿に戻った斎川と鯖江。
 鯖江が催眠の力で人々を操り、薫子たちを探させていた。
 今度はランニングしていた大学の空手部や、作業中の肉体労働者など腕に覚えの面々をえりすぐって支配した。
 そして廃ビルに入ったと言うのを突き止めた。

 薫子も警官である。
 相手が自分に不利なことを喋らないのは百も承知していた。
 それでもキャロルの話は信じて見る気にさせた。
 本当に戦ってきたものゆえの迫力ということか。
 ましてや辻褄が合う。これまで幾人もの『被害者』を見てきたのだ。
 キャロルの話はぴったり一致するのだ。
「いいわ。協力しましょ」
「な」
 期待していなかったと言えばうそである。
 しかしこんな軽く言われるとは清良も予想してなかった。
 思わず跳ね起きた。
「マジか? あんた。見ただろう。あの化け物どもを」
「ええ。見たわよ。別に怖くはないわよ」
「強がりはよせ」
 思わず声が強くなる清良。それでも薫子は怯まない。それどころか微笑む。
「あんな見た目で悪そうな奴ら。わかりやすくて良いわ」
「何を言ってんだ? あのなぁ」
 面倒そうに説得する清良。それを遮り、落ち着いた声でつぶやく薫子。
「本当に恐いのはね、善人のような顔をして、簡単に自分の弱い心に負けて平気で暴力を振るう相手よ」
 犯罪者相手の警察官である。人間の闇の部分を見てきた。
 綺麗な顔をどれだけ無念で歪ませたのか。

 心の弱さから悪に走る。
 その点ではアマッドネスに取り付かれたものたちもそれに近い。
 薫子はそれを相手にしてきた。
 そのせいか清良は同様に戦ってきた薫子に親近感を覚えた。
 薫子が手を差し伸べる。躊躇うが清良も手を合わせる。
「これからはパートナーよ。仲良くしましょ。相棒」
「……相棒って言うな」

 気配を隠そうともせずにフライアマッドネスの操る男たちが迫る。
 奴隷として作り変えていないので、セーラとしても簡単に手を出せないのが狙い。
 もちろん薫子の抵抗を封じる目的ある。
 気配をむき出しなのはいぶりだす作戦だ。

 ある意味狙い通り。薫子や清良にも気配が伝わる。
「ちっ。見つかったか。ちと目立つが空から逃げる手も」
「それよりこんなのはどうかしら? ああ。変身した方がいいかな」
 薫子の提案は……

 階段は一つしかない。
 それを鯖江が先導して登っている。
 三階に迫る。甲高い女の声が二つ。罵り合っている。
「ああもう。あんたなんかを探すんじゃなかったわ。とんでもない目に合わされて。この責任どう取ってくれるのよ?」
「それはこっちのせりふだ。足手まといのクセに首突っ込みやがって」
 既にヴァルキリアフォームのセーラと、薫子が罵り合っている。
「?」
 怪訝な表情になる斎川と鯖江。
(いぶり出しの効果が出たか?)
 恐怖から恐慌に陥ったと解釈した。
(他愛もない)
 笑いたいのをこらえて斎川たちは「変身」した。
 全員を突入させる。驚いた表情になる二人の女。
「くくくく。はははは。これが戦乙女。そして民を守る存在か。片腹痛い」
 本気で笑っていた。
 自分たちが絶対の有利と確信しているからだ。
「なんとでも言いなさいよ。やってられないわ」
 セーラはフェアリーフォームになると、窓から飛び去った。
「逃げた。戦乙女が我らに恐れをなして逃げやがった」
 ますます笑いがひどくなる二人。
「おい。一城はあたしが始末するから、あんたはセーラを追いな」
「わかった。なぁにあんな腑抜け。あたし一人で充分さ」
 フライアマッドネスも空に舞う。

「ふふふふ。さぁて。女刑事さん。戦乙女に裏切られ、絶体絶命の気分はどうだい?」
「絶体絶命? どこが」
 薫子の強気な微笑。とても相手に責任を擦り付け合っていたとき思えない。
「強がりはよせ。ここは三階。そしてこの人数相手にどうやって逃げる気だ?」
「あたしが戦うのはあなただけよ」
「忘れたか。この男たちはエバの催眠で……」
 スクィッドアマッドネスはハッとなる。
 指令を与えるフライアマッドネスはセーラを追って行った。
 つまりこの男たちは誰の命令もきかない状態。
「あなたの『相棒』の『催眠』。どれくらいの距離まで有効なのかしらね?」
 本物の催眠術なら術者がいなくてもきき続けよう。
 だがフライアマッドネスは指令を与える際に触角を動かしていた。
 つまり何かしら「電波」のようなものを出していた。
 その「有効距離」である。ましてやここはビルの中。遮蔽物もある。
「さ…さては、我らを分断するために芝居をしたな?」
「大当たりぃ。ほんと単純で助かるわ」
「お…おのれぇ」
 逆上して火を吹くスクィッドアマッドネス。だが薫子は柱に隠れる。
「伊達にここに逃げ込んだわけじゃないわ。ここなら柱に逃げられるわ」

 その頃、十分な高度を取ったセーラはフライアマッドネスに向き直った。
 コンビの「相棒」をチラッと見るが青い空があるだけ。
「し…しまった。ここでは一対一かっ」
「そういうこと。彼女の迫真の演技に騙されて、勝ち誇ったのがあなたの敗因よ」
 既に時間が経過して精神の女性化が始まっているセーラ。
「くっ」
 こうなると逆に男どもが邪魔だ。
 スクィッドに襲い掛からないまでも、薫子がその混乱を利用して逃げることは考えられる。
(コントロールせねば)
 ついフライアマッドネスは下へと意識が向いた。それが命取りだった。
 セーラ・フェアリーフォームがもともと頭上。それがそのまま脳天目掛けて蹴りを見舞う。

「ライトニングハンマー」

 いかに軽量で非力のセーラ・フェアリーフォームでも、脳天に全体重を。しかも加速つきでかけられてはたまらない。
 フライアマッドネスは脳震盪を起こしてふらつく。
 なんとか姿勢を保ち、墜落を免れている「だけ」のフライアマッドネスが多大な隙を見せている。
 その機を逃す手はない。
「今ね」
 セーラは伸縮警棒を取り出した。それをいつものようにクラブへと変える。二本ともだ。
 そして高速で飛翔して横薙ぎにする。薄い羽根を引き裂く。
「ぐああっ」
 これで空中の自由を失った。
 さらにセーラは追い討ちとばかしに触角を叩き潰した。
 これでリモートコントロールも絶たれた筈だと考えるセーラ。
 立て続けのダメージで、ふらふらと地上へと落下し始めたハエ女。
「あっと。まだよ。空中で人間に戻ったら地面に落ちて死んじゃうわ。そうならないように」
 セーラが地面に押し込むように運ぶ。

 廃ビルの中。
「あれ? 何だここ?」
「確か走りこみの最中だったはず?」
 フライアマッドネスのコントロールが完全に切れ、正気に帰った男たちが辺りを見回す。そして
「わああっ。何だコイツ」「イカの化け物だぁあああっ」
 我先に逃げ出した。残されたのはスクィッドと薫子とキャロル。
「ば…バカなぁ…」
 狼狽していたら窓から「相棒」が飛び込んできた。
 ただしセーラに押し込まれて。そのままスクィッドに激突。
「ぐあああっ」
 フライアマッドネスはその衝撃で断末魔をあげ爆発四散。中年女だけが残った。
 スクィッドは辛うじて昇天を免れた。
「ああ。なるほど。この調子で増えるわけか」
 やっとそれを理解した薫子。
「きさまぁ」
 逆上したスクィッドは火炎放射でなく、生体ナパームとして「イカ墨」を使う。
 闘いの場数を踏んでいるセーラはそれを見越して既にヴァルキリアフォームに。
 発射されるものを回避。あるいはガントレットで防御しつつ接近。
 そのうちに生成の限界が来た。
「し……しまった」
「もらったわっ」
 セーラの左手がスクィッドの胴を凪ぐ。凍りついたように動きが止まる。
 そこに右手の強烈な大振りアッパー。
 十字を描いたそこから炎が吹き上がる。
 苦悶の声を上げるスクィッド。しかし仰向けにひっくり返ると「相棒」同様に爆発して果てた。

 戦いの一部始終を見ていた薫子は驚いていた。
 そしてセーラが人類の味方と認識した。
「やったわね。相棒」
「相棒なんて呼ばないでください」
 すっかり「女の子」の性格になったセーラが、上目遣いで薫子に言う。
「セーラって呼んでください。お姉様
「お…お姉さま?」
「うふ。頼もしい味方ですぅ。もうキャロルとだけ戦わなくてもいいんですね」
 セーラは幼子のように薫子の胸に飛び込んだ。
 薫子の「母性本能」が刺激をされて、思わず抱き締める。
「もう。可愛いんだからっ。でもどうしていきなり?」
「あー。それはたぶん」
 今回は傍観者になっていた形のキャロルが、ここぞとばかしに説明を開始する。
「太古のセーラ様は孤児でして、しかも最年長でした。厳しく指導してくれる師匠はいても、甘えさせてくれる存在はいませんでしたからね。それに孤独な闘いを強いられてましたし。それでではないかと」
「そっか……あたしでよければお姉さんでもお母さんでもなってあげるよ」
「嬉しいです……お姉さま」
 きらきらと潤む瞳で見上げるセーラ。
(よかったですね。セーラ様。味方が出来て……明日の朝が大変だけど)
 従者の杞憂を他所に「姉妹の契り」を交わした二人の抱擁は続いていた。

 警視庁。軽部の報告をきいていた三田村。
「警部。一城薫子はどうします? また誰かを」
「かまわん。蘇えるかどうかもわからん『強敵』より、確実にいる敵を倒す。まずは変身前の素性を洗え。そこから糸口が見つかるはずだ」

 標的はセーラその人でなく、周辺にあった。

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