「ジャンス。でやがったぜ」
 福真高校の上空から思念を送るカラス型人造生命体のウォーレン。
(読みどおりだね。さぁて。セーラさん。僕が行くまで逃がさないでくださいよ)
 押川順は放課後になると即座に福真高校へと出向いた。
 ファルコンアマッドネスがセーラに対して並々ならぬ敵意を抱いている。
 どうやらセーラに対しての刺客と判断。
 そこでウォーレンが先行して福真市を見ていたのである。
 そうしたら過去にも出たシースターアマッドネスが暴れだし、そしてそれに呼応すべくセーラが。
 さらにファルコンが現れて役者が揃った。
 後はそこを狙い撃つ。
 高速飛行をされると骨だが、地上での戦闘中なら倒せる。
 それで押川順はひたすら待っていたのである。

 やがてウォーレンと合流して現場へと急行する。

戦乙女セーラ

EPISODE23「奈落」

 福真高校の白昼夢。
 まさに悪夢だった。いや。夢なら醒めるだけいい。
 しかし現実に幼なじみの少女。友紀が宿敵であるアマッドネスに変貌した。
 正体を知らないとはいえど憎悪で呼応したセーラ。
 それは叩きつけられていた憎悪を跳ね返したもの。

 だから愕然となった。
 友紀が自分をそこまで憎んでいた?
 確かに今の姿では自分が「高岩清良」とはわからないだろう。
 それでもアマッドネスに取り付かれるほどの「闇」があったというのか?
 そして友紀と殺し合いをしていた。それが一気に襲い掛かりセーラは眩暈がしてきた。
「セーラ。私と戦え」
「やめろ友紀。俺はお前とは戦えない」
「どうした? お前のホームグラウンドだぞ。有利な場所でこないのか」
 にじり寄るファルコンとあとずさるセーラ。こう着状態でにらみ合いが続く。
 避難途中だった生徒たちも校舎から固唾を呑んで見守っている。それほどの緊迫感だった。
「臆病者め。私が倒してやるわ」
 これまでの苦手意識が勝てそうになると一転して攻勢に出るシースターアマッドネス。
 これまでなら問題のない相手だったが、茫然自失して戦意喪失のセーラには防御が精一杯だ。

 福真高校近くのビル。その裏手に順はいた。「儀式」を済ませてジャンスへと。
 そしてウォーレンがその背中にランドセルのように張り付いた。
 脚が伸びてベルト状になりジャンスの腕につく。
 翼を大きく広げて真上に上昇する。ウォーレン・ロケットモードだった。
 一気に屋上に上がると福真高校の様子を見られる位置に。
 あらかじめ狙撃ポイントとして調べていた。
「いたわね」
 三者の姿を確認するとキャストオフ。ヴァルキリアフォームへと。
 そしてひたすらタイミングを待つ。

 これまでのお返しとばかりにひたすらセーラを殴り続けるシースター。
 その背後からいよいよファルコンが接近して来た。
 加勢。否。まったくの予想外の行動。

「邪魔だぁっ。消えろぉっ!」

 ばっさりとシースターアマッドネスを一刀両断した。

「あっちゃあー。これはまずいわねぇ」
 のん気な口調で言うジャンス。
「もう。また仕留め損なったわね」
 彼女は更なる姿へと変わる。
 そしてスコープを覗き込み……

「な……なぜ?」
 信じられないといわんばかりのシースターの言葉。
 守ってくれるはずのファルコンがどうして?
「セーラを殺すのはこの私だ。他の誰にも邪魔はさせん! 例え同胞でもだ」
 言葉どおりだった。今まではさっさと逃げていたのでこうならずにすんだのだ。
「いけない。このままでは」
 キャロルが焦った口調で言う。しかしセーラは死んだような目をしている。
 救いは遠方から来た。
 空気を切り裂いて魔力の弾丸。それがシースターに命中。
「ジャンス様!?」
 攻撃手段から見て間違いない。
「ぐわぁぁぁぁっ」
 ルコに斬られ、そしてジャンスに撃たれた事で致命傷になっていた。
 シースターは力なく倒れ、そして爆発四散した。
「くっ」
 ジャンスに気をとられていたためもろに爆発のエネルギーを受けた。
 多大なスキを攻撃ではなく逃亡に使ったセーラ。
 爆風が収まると鳴海星一だったやせこけた女が全裸で横たわり、セーラはキャロルともどもいなくなっていた。
「ふん。腑抜けめ。臆したか」
 ファルコンもその場を離脱した。そして物陰で友紀と入れ替わる。

 意識を取り戻した友紀はワケがわからなかった。
「?」
 軽く頭を振る。意識をなくす前の光景と違う。
 さすがにルコも同じ場所で友紀の姿に戻るのは避けた。
 異形になったときは校舎からは刺客になる位置の上に見ていたのはセーラだけだから変身して見せたが、校庭から元の位置に戻って友紀がいれば関係性が疑われる。
 ましてやかつてアマッドネスだった女子生徒も幾人かいるのだ。疑われないほうが不思議だ。
 だからわざと飛び去ったように見せかけ、人気のない別の場所で切り替えた。
 本人の記憶なら改ざんできる。もっとも戦闘の際に友紀がセーラに抱いた嫉妬心を利用しているので、戦っている間の記憶が少しずつイメージとして残っている。
 そろそろ分離し続けるのも難しくなってきた。
「あたし……何でこんなところに?」
 意識が戻ると途端に疑問が。
(本当にどうにかしちゃったのかな? それに……さっきまで誰かとケンカしていたような……そんなわけないか。話に聞く「怪人」が出て避難していたはずだし)
 軽い現実逃避もあったか、強引に結論を出してしまった。

 そのころのセーラは飛んでいた。キャロルを抱えてひたすら飛んでいた。
 ぐすぐすと泣きながらひたすら空を行く。
 どこまでもどこまでも逃げていく。

 そんなときでも感知してしまう「信号」。
 無意識で彼女はそちらへと進路をとる。
 福真市をだいぶ離れている。ここは王真市。そう。ブレイザの守るエリアだ。

 ブレイザは手こずっていた。
 相手は強敵というより逃げ足が素早かった。
 ビルの工事現場。その基礎工事中でほじくりかえされた地面を舞台に戦っているのは鼠の能力を持つラットアマッドネス。
「ええいっ。ちょこまかとっ」
 素早さに物を言わせてブレイザを翻弄していた。
 しかしあくまでもブレイザを倒すのが任務らしく逃走だけは選ばない。
 攻撃しては素早く物陰に隠れて漸撃を避けている。
「会長。大丈夫ですか?」
「下がっていなさい。森本」
 心配してきた相手に対してつれない態度だが、戦闘では足手まといなのは事実。
 いわれた通りに森本は引き下がる。しかしそのドサクサでラットの動きを見失った。
「こうなったら……超変身
 ブレイザは巫女装束へと姿を変えた。その名はアルテミスフォーム。
 五感どころか六感まで研ぎ澄まされた超感覚の戦士で、敵の動きを完璧に察知できる。
 しかし神経への負担が大きく三十秒が限界である。
 それが頭に入っているラットアマッドネスは、文字通り息を潜めて待っていた。
 ブレイザの背中の位置。あまりにミエミエで逆に疑われない位置。しかし

「超変身」

 いきなり姿を着流し姿の強力戦士に変貌したブレイザは、振り替えるや否やガイアフォームの膂力で思い切り地面を蹴り上げた。
 無数のジャリが散弾のように襲いくる。飛び出せば被弾確定。だから蹲った。
 その間に今度はヴァルキリアフォームに戻ったブレイザが駆け寄っていた。
 急停止するなり逆手もちの刀を大きくバックスイング。
 タメを作りラットアマッドネスを切りつけた。
「ぐぎゃあああっ」
 胴から胸にかけて大きな裂傷。致命傷だ。
「ど……どうして潜んでいる位置があんな短時間で? 息も止めていたのに」
「簡単ですわ。その『不自然さ』を察知したまで」
「に……逃げるべきだったか……」
 悔恨を残し鼠のアマッドネスは四散して果てた。後に残るは小柄な女。
 根津楽人という名の男性だった存在の変貌した姿。
「やりましたね。会長」
 傍らでサポートしていた森本要が駆け寄る。
 既に「伊藤礼」としては2年の六月を迎え、生徒会長選が行われていた。
 これを圧倒的多数の支持を得て当選。現在の役職は生徒会長であったのだ。
「森本。いつものようにお願いしますわ」
「はい」
 言われた少年はあらかじめ探していた公衆電話で救急車を要請する。
 携帯では自分の身元が割れかねない。
 そうなるとブレイザが伊藤礼と知れてしまうかも知れないという判断だ。
 彼は電話の元へと走る。それを見送りブレイザは正反対を向く。
「それで……それはあなた自身の喪服ですの?」
 ブレイザの目の前にはセーラが下りていた。
 目立たないような服のつもりが黒いワンピースでまさに喪服であった。
 心象が如実に現れていた。
「話、いい?」
 あまりにも昏い瞳。さすがに戦意も霧散したブレイザ。
「手短に頼みますわ」

 あわしたわけではあるまいが薄い色のワンピース姿になるブレイザ。
 資材を椅子代わりにして並んで腰掛ける。
「それで。用件はなんですの。戦闘直後で疲れているわたくしと戦おうというなら姑息ですが良い手ですわ。もっともそれなら不意打ちすべきですが」
 セーラは否定すらしない。何も考えられない状態だ。
「ブレイザ……前にドクトル・ゲーリングと戦ったときはどんな気持ちだった?」
 いわれてブレイザは顔をしかめる。あまり良い思い出ではない。
「なぜ、今頃そんなことを」
「教えて。大事な人を手にかけなければならなかったその気持ちを」
 真剣な表情だ。ただならぬ事態を察した。
「最初から話していただけます?」

 文字通り最初から。といってもわかっている内の話で、ファルコンの襲撃からその正体が友紀だったことまでを洗いざらい話した。
 最後のほうでは涙さえ浮かべて。
「なにかと思えば……」
「な!?」
 ブレイザの態度は知っていたつもりだったが、これはないだろうと沈んだ心にすら怒りが。
 しかしブレイザのマイペースは変わらない。
「良いですか? ドクトルの場合は男から女へ変わってしまったし、それで離婚にまで行ったので確かに問題でしたわ。けれどその友紀さんは元々女性。一度リセットされるから完全に元通りとはいえないものの、むしろ障害がなくなって都合がいいくらいですわ。さらには邪心はすべて吸い尽くされますし」
「でも……相手は友紀なんだよ。友紀に手を挙げるなんて……」
 例え死なないとわかっていても。そして再生後は問題がないといえど友紀に手を出すことなど出来ない。
 しかし放っておけばファルコンがセーラおびき出しで無差別攻撃をしないとも限らない。
 そしてよりによって友紀の変身した姿に対して憎悪で戦っていたことが自己嫌悪で落ち込んでいた。
「甘いですわね。自分の手を汚す覚悟もないなんて」
「貴女に何がわかるのッ!?」
 思わず立ち上がるほど激昂するセーラ。
「いいこと。わたくしたちが相手にしているのは暴力を崇拝する者たちなのですよ。そんなけがれた相手と戦うのに自分が綺麗でいられると思っているんですの? だとしたら拳の戦乙女はとんだ甘ったれですわ」
 確かに奇麗事じゃない。それはわかる。しかし
「質問に答えて差し上げますわ。確かにドクトルとの闘いでは躊躇しました。ですが解放こそが弟子として師匠に対してわたくしのなすべきこと。それについては後悔してません。そして」
「そして?」
「わたくしはいつか完全にブレイザとなってしまい、今の人格でも伊藤礼の人格でもなくなってしまうことを怖れてはいません。既に覚悟を決めています」
「覚悟……」
「そうです。闘いの場に身をおく以上は倒されるのも覚悟のうち。ただその形が『死』ではなく『男としての消滅』というだけの話」
「でも」
「そんな覚悟すらないと言うなら、今すぐ戦場を去りなさい」
 正論だった。しかし今のセーラには受け止めるだけのタフさがない。
 また涙を流しながら無言で立ち去る。
 それを見届けてから森本とドーベルがでてくる。
「どうやらカケラの影響はだいぶ薄くなっているようですな」
 ドーベルの言葉は二人がいきなり戦いにならなかったことをさしている。
「ふん。あんな泣き虫を斬っても刀が嫌がるだけですわ」
 心なしか頬が赤い。
「ブレイザさん。やっぱり優しい」
 心底感心したように要が言う。
「だから、違うと何度言えばわかるんですか?」
 そっぽを向く。セーラの去った方角を。
(個人的には嫌いですが、仮にも戦乙女の一人ならその程度は乗り越えると信じてますよ)
 彼女なりのエールだった。

 翌朝。否が応でも新しい一日が始まる。
 清良は登校拒否をしようと思っていた。
 無理もない。どんな顔をして友紀に会えばいいのかわからないのだ。
 ところがなんとその友紀のほうから家に寄ってきた。昨日の今日だというのに。
 それがこの朝はわざわざ玄関で待っていた。
(どういうことだ? アマッドネスの差し金か?)
 今までが今までだ。幼なじみを疑うとは悲しいがこの思考も無理はない。
(そうか…ここは逃げちゃダメな場面ということか)
 文字通り覚悟を決めて友紀に逢うことにした。

 玄関で待っていた友紀は無理して笑っているように見えた。
 それは殺意を隠した笑みではない。
 むしろ隠しているのは自分の不安。そう清良は受け止めた。

 短い挨拶の後は黙って歩く二人。
 清良にしてみればアマッドネスに取り付かれているのが確実な友紀との登校。
 いつ幼なじみと殺し合いになるかわかったもんじゃない。
 しかし友紀の方も過度の不安を抱えているよう見える。
「ねぇ。キヨシ。あたし最近変なの……」
 意外な一言だった。
 確かにアマッドネスに憑かれているのだ。異変は当然。
 しかし過去の例から言えば人格が融合している。
 つまりわざわざこんなことを言ってくるはずがない。
(まさか…そういやドクトルのおっさんも完全には融合してなかったな。友紀はもっと…)
 清良の不安そうな表情を自分への心配という意味にとった友紀は、それを打ち消さずに告白を続ける。
「気がつくとおぼえのない場所にいたり、やたらに疲れていたり。それなのに全然その記憶がなくて」
 この一言で清良の考えは「ファルコンと友紀の人格は分離している」という方向に定まった。
 実は正解だが、そう思いこもうとした産物でもある。
(ということは…奴らに付け込まれる部分はあったとしても友紀自身は何も知らないということか?)
 人間である。どんな…例えば「聖人」と呼ばれる存在にも多少なりとも「闇」がある。比率の問題なのだ。
 だから友紀がつけこまれたこと自体は、今にして思えばありえなくはない。
 しかしまったく友紀が知らないとなると話が変わる。
 つまり本人にまるで罪がないのだ。
 ますますもって手を挙げられないと認識したのは皮肉というものである。

「清良。あたし怖いの」
 幼子がはぐれた親を見つけて泣きながらしがみつくように友紀は清良に抱きついた。
「……友紀」
 言葉以上に触れ合った肉体が雄弁に胸の内を物語る。
「あたし、どうなっちゃうの?」
 不安からその巨躯をきつく抱き締める。その上から清良が優しく腕を回す。
「心配すんな。俺がお前を助けてやるよ」
「……キヨシ……」
 例え気休め。いや。ウソでもその優しい言葉と表情が嬉しかった。

 ルコにとって皮肉なのは、セーラに対する友紀の嫉妬心を利用。そして増幅した結果、友紀がこの幼なじみに抱いていたほのかな思いを強めたことであった。

 このまま時が止まればいい。二人ともそう思っていた。
 アマッドネスがでなければ友紀の中のファルコンもでてこないはずだ。
 直感で清良は感じ取っていた。
 そうすれば今までどおり。仲の良い幼なじみでいられる。

 それは許されない幻想だった。
 軽部ことアヌが清良に恨みを持つ不良・針草にサボテンの能力を持つノトの魂を植えつけた。
 それによって誕生したカクタスアマッドネスが、セーラ打倒のために福真高校に向かっていた。

 そしてそれは、清良と友紀がまた戦うことを暗示していた。

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