「むむう。よく見ると」
 巨漢の「番長」岡元がうなる。百紀高校正門前。
 コックローチアマッドネスの従えていた暴走族メンバーがすべて女になっていた。
「きさま…自分の舎弟たちをその手に」
「ほう。キサマはアマッドネスの理を知っているようだな」
 男性を無価値と考えるアマッドネスは、一部の優秀な男性のみ「子種」を提供する「奴隷」として捕らえるがその他は下級構成員として変えてしまう。
 第一条件は「女性であること」ゆえ、その手にかけられたものは魔力により女性へと再構成される。
 アマッドネスは子孫を増やすという代りに、それを持って勢力の拡大を図っていた。
「許せん…」
 番長などと古い呼称は伊達じゃない。
 他人のために怒ることができる。その点でも昔気質だった。
「ほう。許せないならどうするよ」
 にたにたと笑っているように見える害虫女。
「むろん成敗する! それをなすのは俺」
 どうも見得を切るクセがあるらしい。ポーズをつけて大声で叫ぶ。

「俺は怒りの王子。番長・バイオ岡元!」

「いや…言ってる意味わかんないから」
 あきれ返るコックローチであった。


戦乙女セーラ

EPISODE26「射手」

 百紀高校のそばにある雑居ビルの屋上。
 アヌこと軽部は苦虫を噛み潰した表情をしていた。
(チャバの馬鹿め。勝手に肉体を選んでくだらんケンカをするとは)
 六武衆の一人。死将・アヌは肉体の滅した魂だけのアマッドネスとコンタクトが取れる。
 アヌの目の届く範囲ではヨリシロの管理もその仕事だった。
 保留されていたチャバが勝手に肉体を選んでしまったので対処をすべくコックローチをつけていたのである。
 そしたらジャンスにそっくりの制服の高校に来た。
 それで様子を見ていればなんと清良までいる。
 さらにはまた違う学校の制服の男子二人も。
(セーラが動かずジャンスが出た。もしかしたらあの小僧はブレイザか?)
 チャバの処遇を決める前に、あえて放置して他の戦乙女の出現を待ち構えていた。

 応接室。ヤキモキしている清良。そして友紀。
 校門でにらみ合いを続けるアマッドネスの軍勢にたった一人で立ち向かう番長・岡元。
 さらに変身までしたのに未だに駆けつける様子のない順。いや、ジャンスにもいらだっていた。
「おい。押川。加勢にいかねえのか?」
 つい怒鳴る口調になる清良。それに対して右手の人差し指を左右に振って「この姿のときはジャンスって呼んで」と、訂正する始末。
「言ってる場合か?」
「あ。でも。このひとの場合キヨシと違ってあまり変化がないよね」
 もちろん性別が変わっているのだからその意味では大きな変化である。
 しかしビジュアルの落差は清良・セーラや礼・ブレイザよりははるかに少ない。
「あ……ああ。確かに双子の姉か妹といわれたら信じてしまう外見だが……って、そうじゃなくてよ」
 改めてジャンスに向き直りその肩を激しくつかむ清良。
「任せろというから手をださねぇが、いつになったら動くんだ?」
「やだ。乱暴。レディにはもっと優しくするものよ」
 その女の子そのものの口調と声に清良は思わず手を離す。
「ああ。悪い……? ちょっと待て? 変身して大して時間経ってないぞ。それなのにもう口調が?」
 セーラ。そしてブレイザは変身するとまず肉体が女性化する。
 そして時間と共に精神がシンクロしていき、女性としての人格が現れだす。
 その時間がおよそ十分だが、今のジャンスは三分も経っていない。
「うん。やっぱり戦い続けるとシンクロが素早くなるのよね。今では変身した途端に女の子の性格になっちゃうの」
 可愛らしくウインクするジャンス。確かに素で女の子の性格にしか見えない。
(じゃ…じゃあ、やはり俺もいつかは)
 青くなる清良。見かねて森本が助け舟を出す。
「あの、高岩さん。その心配は要りません。ジャンスさん。これが素ですから」
「な?」
 驚いた表情の清良。ふきだしてけたたましく笑い出すジャンス。
「あはははは。ダメじゃない。森本君。こんなに早くばらしちゃ」
 ころころと可愛らしい声で笑う「小悪魔」。
「て、てめー。おちょくるために変身したのかよ?」
「ううん。違うよ」
 笑顔だが少し真顔になっているジャンス。
「少しでも長いこと女の子でいたいもん」

 正門。コックローチの軍勢30に対して現在は岡元だけが防波堤。
「やれやれ。一匹見かけると30匹いるとは言うが」
「余裕もここまでだ。テメーもあたしの奴隷にしてやるよ。ただし意思をなくす前に今までのお礼をさせてもらうがな」
 害虫女は右手を掲げる。奴隷たちが得物を構える。
「やれ」
 振り下ろしたのが号令だった。

 そのころ。薫子は警察病院にいた。
「それではとりつかれていたときの事は覚えていないんですね?」
「はい。ひどくお腹が空いてて、それを満たそうと言う思いだけで」
 病院のベッドで語るのは鳴海星一という名前のホームレスだった女性。
 まだ新しい名前は決めていない。
 シースターに取り付かれていたときのダメージはさほどでもなかったのだが、元々が栄養を摂れていない生活でそのため退院が延びていた。
 いかにもホームレスというこ汚い男だったのが、女性として再構成されたら肌が白くなったせいかとてももとの姿を想像できないほどの美人だった。
 ただし頬がこけて顔色も悪いのは別としてだ。

 薫子はアマッドネスの実態を探るために「元・怪人」の女たちに聞き込みをするのが常になっていた。
 新たな「犠牲者」が出ると必ず訪れる。
 もちろん話ができる状態になってからである。
(やはりダメか…そのアマッドネスは太古の時代のトラウマを持っていたらしいから、何かつかめるかと思ったけど)
 失望が張り詰めていたものを切ったのかも知れない。
 薫子は過労もあり、眼前が暗くなりその場でふらっと倒れこんだ。
「一城さん!」
 幸運といっていいのか倒れたのが警察病院。そのまま空きベッドにと寝かされ、さらに入院することに。

 ベッドの上の薫子。既に意識を取り戻している。
 その腕には点滴が。過労に対処するものだ。
「まったく。最近は徹夜続きだったそうじゃないですか」
「心配かけてごめん。桜田君」
 素直に謝る薫子。
「いくら三田村警部の命令だからって、自分が倒れるまでやってちゃダメですよ」
 そう。これは三田村の陰謀だった。
 怪しまれずに排除するために逆に積極的に聞き込みをさせていた。
 そして過労を理由に捜査から外す算段であった。
 かぎまわられてはたまらない。だが不自然に外せば疑われる。
 ならば徹底的に倒れるまでやらせることにした。
 そしてその結果が入院である。

 応接室。静寂が訪れる。
「女の子でいたい?」
 またからかわれているのかと身構える清良。だがここだけは雰囲気が違う。
「ドーベルちゃんから聞いてないかな。あの仮説」
「……ああ、聞いたよ」
 ドーベルの仮説とは太古の戦乙女たちが男にのみ転生するのはクイーンのカケラとアマッドネスたちの「呪い」と。
 そしてその影響は直接拳を交えたセーラ。刀を使うブレイザ。弓による遠距離攻撃のジャンスの順で強い。
 逆に言えばジャンス…押川順は男性的要素がもっとも希薄であるのだ。
 それが「女装」や「いきなりの女言葉」に出てくる。
「あたしは二人と違ってだいぶ女の子よりなんだよね。そのせいか戦い続けて最終的に男に戻れなくなっても構わない気がしてる。むしろ……ちょっと望んでいるかも」
「正気かよ?」
 ジャンスはにっこりと笑って答えない。
「会長。大変です。岡元さんが」
 森本の声で一同が窓から戦況を見る。
 一対三十。圧倒的に……岡元が押していた。

「どすこーい」
 張り手一発。いくら女といえどアマッドネスの奴隷と化したそれを五人まとめてふっ飛ばしていた。
「わははは。軽い。軽いぞ」
 規格外ぶりに唖然とするコックローチ。それでも数に物を言わせて岡元に襲い掛かるが、まるで力士に小学生が挑んでいるようだ。
 力で叶わないならととにかく群れてくる。蚊がまとわりつくような物だ。
 倒しても倒しても群れてくるのにさすがの豪腕番長もいらついてきた。
「まったくウジャウジャと。イライラする。イライラするんだよ。あ゛ーっっっ
 戦闘中だというのに首をぐりんと回しているあたり、むしろ余裕を感じるが。
「ええい。もっと大勢でかかれ」
 ついに取り巻きが全員岡元に襲い掛かる。つまりコックローチアマッドネスは一人だ。
(掛かった!)
 心中で笑う岡元。

「そろそろね」
 ジャンスはにやりと笑うと変身アイテムである弓を構える。
 本来なら弦のある位置に光の線が現れる。
 それをつまむように矢手。即ち右手を添える。
 光の矢が出現する。ジャンスの「聖なる力」が矢という形で現れた。
 振り絞ると弓の形は変わらないものの光の弦だけは力を漲らせている。
 それが解放されたとき、光の矢がコックローチアマッドネスの腹部を目掛けて飛んで行った。

「ぐはっ」
 何しろ大きな的である。多少避けた程度ではかわせない。光の矢がもろに命中していた。
「キ……キサマ。私の周りから奴隷たちをひきつけて狙撃しやすく…」
「ご名答。だがさすがにちと遠すぎたか」
 致命傷には至らなかった。

「あー。やっぱり『矢』ではダメか。ちぇ。疲れるんだけどなぁ」
 どこまで本気かジャンスはぼやきつつ応接室の窓へと。
「あっと。お二人はそのままでいいよ。特にセーラさんには挨拶代わりにあたしの戦いぶりも見てもらいたいし」
「ぐ……」
 そういわれては加勢もしにくい。ピンチになるまで静観となった。

 ジャンスは窓から飛び出して行った。
 だが既にそのときには奴隷の女たちが射手のいた方向を目指していた。
 半数近くに取り囲まれるジャンス。
 近距離戦となり、弓をまるで刀のように用いて女たちをなぎ倒していく。
 しかし多勢に無勢。ついには輪が狭まり袋叩きの体制に。

「んじゃぼちぼち。キャストオフ

 なんとジャンスは弓を二つに割った。
 割れた弓の黒い部分が曲がってリボルバーの拳銃に変化する。
 ピンクの部分がやはり変形してオートマチックタイプの拳銃に変化した。
 そしてエンジェルフォームである制服を吹っ飛ばした。
 ひきつけられていた女戦闘員たちはそれで気絶させられた。

 黒に近い紫のワンピース。白いエプロン。茶色のブーツ。僅かに素肌を見せる足を包むニーソックス。
 髪型は左右に分けての「ツインテール」に。
 頭にはヘッドドレスといわれる装飾が。
 そう。ジャンス・ヴァルキリアフォームはメイド姿だった。

 応接室。口をあんぐりとあけている清良。
「お…おい。伊藤」
 ぎこちなく指差して言う。
慣れろ! ああいうふざけた奴なんだ」
 なんとなく礼が順を敬遠している理由を察した清良であった。

「な……なんだ。そのふざけた格好は?」
 確かに戦闘形態というにはあまりに場違いだった。
「百紀高校の生徒さんにご奉仕しますわ。まずは害虫駆除から」
 そしてメイド姿のジャンスは応接室に自分の姿を誇示するようにむいて見せた。
 大きな胸元がぽよんと揺れた。

「伊藤……」
「……なんだ?」
 応接室では戦いを見ていた清良が納得したような表情をしていた。
「道理でお前がジャンスのことを嫌っていたはずだぜ。胸か
「あれだとEカップくらいかしら?」
 実際にその数値に触れることの多い女子である友紀の言葉だけに信憑性がある。
 エンジェルフォームの時はそれほどでもないが、ヴァルキリアでの胸の大きさはかなりのものだ
「そんなわけあるか。俺がアイツのことをよく思ってないのは、姑息なやり方がだ」
「よく言うぜ。お前だって手段を選ばないだろうが」
「だったらよく見ていろ。本当の『手段を選ばない戦い方』をな」

 半数は気絶したがまだ15名が残っていた。
 意思をなくした戦闘員たちはゾンビのように襲い掛かる。
 それを二丁拳銃で次々と撃破していく。
 別に正確な射撃は必要ない。周りはすべて敵なのだ。適当というかでたらめでも構わない。
 それでも背後から抱きついて動きを止めようとするものもいる。
 だがそれは撃たないで硬いグリップで殴り倒す。
 向きを変えれば新たな死角が生じるからだ。
 場合によっては銃把ではなく自身の肘で殴り飛ばす。
「あーもう。面倒だわ」
 まずは左手のオートマチックで前方。右手のリボルバーで右側を撃つ。
 統制が乱れた隙を突いて両腕を大きく開き左右の銃を乱射しながら回転する。
 襲い掛かろうとしていた戦闘員たちは片っ端から撃たれて倒れていく。

「ええい。こうなったら」
 コックローチアマッドネスは自分が前線に飛び込むことにした。
 二足歩行から地面をはいずる姿勢に移行しかける。虫そのものの移動方法がより速いらしい。だが

「岡元パァァァンチ」

 番長が跳んでいた。コックローチの顔面にヒットしてふっとばす。
「ぐあああっ」
 無防備なところに直撃されて大ダメージだ。
「決めるぞ」
 番長がふたたび跳ぶ。

「岡元キィィィッッッックゥゥゥ」

 ひねりをくわえたドロップキックがコックローチの腹部に命中していた。

 応接室。
「ア……アマッドネスを戦乙女でもない普通の人間が」
 清良は愕然としていた。自分も腕っ節には自信があったが、それが崩れてしまいそうだ。
「ふん。あれを普通というのか? 貴様は」
 今回ばかしは礼の言葉を全面的に認めるしかない清良であった。

「番長。かっこいい。あたしのヒーロー」
 戦闘員に攻撃しながら「黄色い声」で持ち上げるジャンス。
「ヒーロー? 俺? それってラッキーじゃん」
 硬派に似つかわしくない軽薄な調子で喜ぶ岡元。しかしそれが隙になった。
 ダメージを負っていたものの立ち直り、岡元を羽交い絞めにするコックローチ。
「し、しまったぁっ」
 人質にとられてしまった。
「抵抗をやめろ。こいつを殺すぞ」
 だがジャンスは戦闘員に対する攻撃をやめない。
「見えないのか? こいつが」
「見えてるわよ」
 ついには最後の戦闘員も気絶させたジャンスが、二丁拳銃をコックローチに向けた。
 しかしコックローチは岡元を盾にしている。
「番長。ごめんね。あたしのために死んでちょうだい」
 涙を流してトリガーに指をかける。

「アイツ、まさか味方を撃つ気か?」
 清良はたまらず変身ポーズを取りかけた。

「おお。ジャンス。お前の手で死ねるなら本望だ。やれ。構わずにやれ」
 何処か芝居ががった岡元の言い回し。
 もっとも散々妙な台詞をはいている。そんなものだと五木と融合したアマッドネスは解釈した。
 そしてその芝居じみた部分から決め付けてしまった。
「はったりだ。撃てるはずがない」
 そう言いつつも番長の陰に隠れるアマッドネス。
 はみ出た部分はあるが致命傷を受ける位置ではない。
「さよなら」
 悲痛に叫ぶとジャンスは二つの拳銃から有りっ丈の弾丸を放った。
 その弾丸が岡元の腹部に命中。だが岡元はなんともない。そして
「がはあっ。ば……バカな? 弾丸がすり抜けるだと?」
 ダメージを負ったのはコックローチアマッドネスだけ。
 もはや拘束すら出来ず岡元を放してしまう。
「おバカさん。弾丸といっても魔力で出来たものだからアマッドネスには致命傷でも普通の人には殴られた程度のダメージよ。充填も要らないし、普通の人はすり抜けるし。おまけに番長を盾にして身動き一つしないから狙うのも楽だったわ」
「わはははは。俺にとってはかゆい程度だ」
「だ……だましやがって」
 怨嗟の言葉を吐くもののコックローチアマッドネスは数十発の弾丸を食らい文字通り虫の息。
 やがて倒れ伏し、大爆発を起こす。
 同時に大歓声が起こる。放課後であり少なかった生徒が、怪人出現で校舎に避難していたが爆発音で闘いの終焉を察して出てきた。
 そしてヒーローとヒロインに惜しみない歓声を送る。
「ありがとー。みんなありがとー」
 まるでアイドルのコンサートである。
 調子に乗ったわけではあるまいが岡元がジャンスを右肩に乗せる。まるで恋人同士だった。

「それが返答かよ。ジャンス」
 清良は険しい表情をしていた。
 手を出せば友紀をファルコンから解放出来たのにやれなかった自分。
 それに対して躊躇せず岡元を撃ったジャンス。その差が。
「ふん。撃たせた岡元。躊躇いなく撃ったジャンス。あれも一つの信頼関係といえなくもない。だがやはりあの姑息なやり方は好みじゃない」
 それに対しても同意する清良であった。

(勝手なことをした自業自得だ。チャバ。だがまだたった一つだけクイーンの役に立てるがな)
 払われた魂の行方を見ながら軽部は思う。
(今度はきちんと仕掛けるか。上手く行けばセーラ以外の正体もわかるかもしれない)
 人知れず屋上から去る軽部であった。

 ジャンスから元の姿に戻った順だが疲労もあり、また清良としてもその気が失せたため解散となった。
 帰りはのんびりと電車と徒歩の清良と友紀。そしてキャロル。現在は駅から自宅への徒歩。
「あんなに腹黒野郎だったとはな」
「そうかな。悪い人には見えなかったけど」
「おい。お前は撃たれたんだぞ?」
「うん。でもあの人はアマッドネスを撃ったんであって私じゃないし」
「そりゃあ……そうだが」
 理屈はさておき、なんとなく釈然としない。
 話しを続けようとしたら清良の携帯電話にメール着信。それを確認して彼は素っ頓狂な声を上げた。
「はぁ? 薫子さんが入院!?」

EPISODE27「見舞」へ

戦乙女セーラメインページへ

『TS短編作品専用掲示板』へ

TS館へ

『少年少女文庫』へ

トップページへ