薫子倒れるの報を受けた清良は見舞に出向くことにした。
 入院先は警察病院でその病室まで桜田刑事が伝えてきた。
 桜田も清良が戦乙女セーラと知っているからの話。
「あたしもいくよ。キヨシ」
「頼めるか?」
 薫子は過労で倒れた。その程度では一般病室であろう。つまり相部屋。
 そして普通は同性でまとめられている。
 いくら見舞とはいえど男ひとりではいきづらい。
 友紀の申し出は助かった。
 一方の友紀は取り付かれていたとはいえど清良を殺しかけている。
 それが負い目となり、とにかく清良の役に立ちたいと考えていた。


戦乙女セーラ

EPISODE27「見舞」


 警察病院。急を要するわけではないこともあり、連絡を受けた翌日に一度帰宅して着替えて出向いてきた。
 その際に見舞いの品の選出に友紀の意見が役立ったのは言うまでもない。
「わさわざきてくれてありがとう。でも大したことはないのよ。疲れが出ただけ」
 水色のパジャマ姿の薫子が気丈に言う。
 「ピンク」でも「ネグリジェ」でもないところに彼女のアクティブな部分を垣間見ることができる。
 しかし白い腕に刺さった点滴が痛々しい。
「ホントかよ?」
 「不良」には不良の体面というものがあるのか?
 「体制側」の女性警察官相手ということもありぶっきらぼうな口調の清良。
 それでいてセーラとなって精神が女性化すると「お姉さま」と甘えるのだから不思議なものである。
 もっともこのぶっきらぼうな態度は清良の「安心感」を示していた。
 心配する要素がないと判断したから「いつもどおり」に接することができる。

「ところで……あなたは確か?」
 傍らにいる友紀に視線を移す薫子。
 制服姿ではともかく私服では印象が変わる。
「野川友紀です。キヨシだけじゃ女の人のお見舞いは難しいと思ってついてきちゃいました」
「それはわざわざありがとう。それとも『ごめんなさい』かしら?」
「えっ?」
 友紀。そして清良も露骨なほど顔色が変わる。
 実は事前に友紀がファルコンだったことは黙っていようと口裏を合わせていた清良と友紀。
 厳密には清良が友紀に釘を刺して黙らせた。
 邪心がすべて抜けたせいなのかとにかく罪の意識がひどい。
 しかし邪心が抜けたということはアマッドネスが友紀につく「つなぎ」がない。ルコの魂も消えうせた。
 この話は終わっていたのだ。蒸し返すのは避けたい。
「ああ。やっぱりね」
 薫子のこの台詞でふたりは「引っかかった」と察した。
「どうして……」
「セーラちゃん…高岩君のひどい思いつめ方が気になっていたのよ。もしかしたら家族でもアマッドネスになったのかと」
 病院のベッドに横たわり、天井を見上げながら薫子が言う。
「あのときかよ」
 セーラとして相談した時がある。そのときはファルコンの正体は知らなかったがどうにもすっきりしない闘いと。
「キヨシ。話すよ」
「待て。友紀」
「話した方がすっきりするよ」
 そう言われては黙るしかない。

 友紀は自分の異変をすべて喋った。嫉妬からきたどす黒い心につけこまれたことまで。
「あー。それじゃあたしも謝らなくちゃ。誤解を招くようなことを言ってたし」
 出会ったときに口走っていたことを思い出していた。
「そんなことないです。あたしの心がもっと強ければあんなことには」
 二人して頭を下げている。
「ああ。うぜえな」
 このぶっきらぼうな言い回しは当然ながら清良。
「自分の妹を庇う格好になるけどよ、あんな言葉からああなるなんて想像も出来るわけねーよ」
 薫子はともかく理恵はアマッドネスの事件についても直前まで知らなかったのである。
 対処が甘かったとしても責められない。
「つまりは事故みてーなもの。誰にも責任なんざねえ」
「でも」
「まだ言うか? だったら悪いのはみんなアマッドネス。それでいいだろ」
 強引なまとめ方であった。あまりのむちゃくちゃさに友紀がふいた。
「もう。めちゃくちゃよ」
「なんだよ。笑うなよ」
 むくれる清良。それを見て微笑む薫子。
(仲がよくていいわね)
 自分もこんな状態だし、蒸し返すだけの事情聴取はやめておこうとそっと心に決めていた。

 夏休み寸前の猛暑日ではある。
 それなのにガクランに身を包んだ暑さを忘れた男。
 その男。貝塚真樹男は百紀高校のそばである人物の下校を待っていた。
「順。さよなら」
 幾人もの女子生徒が明るく下校の挨拶をしていく。その「順」という名を聞いて貝塚の心臓は跳ね上がった。
 百紀高校の女子制服であるジャンバースカートに身を包んだメガネの生徒。
 髪の毛はショートカットでボーイッシュだが、色々と細やかな仕草が誰よりも女性的である。
 胸は絶望的にないが気にならなかった。
 貝塚はその「女子生徒」に恋をしていた。
(きた!)
 緊張する貝塚。
(今日こそ…今日こそ打ち明けて…そして一緒に海に行くんだ。それからビキニ姿の彼女を抱き締めて)
 貝塚はホモというわけではない。つまり順を女子と勘違いしていたのだ。
 しかし無理もない。
 色白の女顔。華奢で小柄。仕草も女性的。しかも自然。
 声も若干ハスキーな女声に聞こえなくもない。
 接近して初めて実は男とわかるレベルだった。
「今日は大丈夫そうか? 順」
 山のような大男がのしのしと歩いてくる。見た目は不良。しかし実態は百紀高校の守護神。番長・岡元だった。
「うん。『気配』も感じないし。平和だね。だからもう帰るよ」
「そ、そうか。なら一緒に行こう」
「うん」
 照れながら提案する岡元の左腕にごく自然に腕を絡める順。
 傍目にはカップルに見える。
 そして二人は貝塚には目もくれず下校した。
(ちきしょお。またアイツだ。いつもいつも邪魔しやがって。あの岡元の野郎さえいなければ……)
 トス黒い嫉妬心が浮かび上がる。

 それを遠巻きに見ていた三人の男。
「あれなんかいいんじゃない? アヌ」
 端整な顔立ちのファッションモデルのような男が言う。
 着ているのはワイシャツではなくブラウスなのだが、それに違和感を感じないほど女性的な印象だった。
 もっともその甘い顔立ちと振る舞いで女性にひどい目を見せていた「詐欺師」というのが正体。
 取り付かれるのは時間の問題だった。
「まて。ライ。あんな奴につけてなんの意味がある?」
 もう一人は痩身の初老の男。何処か狂気を感じさせる。ローブのような服装に身を包んでいるが「プロフェッサー」と呼ばれている。
「いやギル、あの男が憎悪を向ける『番長』はジャンスのパートナーだ。恐らくはあの一緒の小僧(?)が正体だが」
 六武衆のリーダー格。死将・アヌが説明する。
 彼女……この時点では人間社会で行動している姿と性別に合わせて「彼」と表現するが、ススト。ルコを復活させた後さらに残りの三体を蘇えらせるべく依代探しに奔走していた。
 六武衆がそろえば心強い。作戦遂行も格段に進めやすくなる。
 とはいえど既に二人までも失っているのは相性の問題。
 スストもルコも土壇場でコントロールを奪われるという失態を犯している。
 三度目は許されない。飛び切り邪悪な魂を選び、慎重に事を運んでいたら時間が掛かった。
(つまりあの『番長』を襲えばジャンスが現れるというわけだね)
 六武衆でただひとり依代の見つかってなかった『剛将』が事情を理解した。
「そういうことだ。ふふ。それに奴らにとっては皮肉。ルコの敗因が恋心だが、今度はそれが戦乙女どもを苦しめる」
 貝塚の「横恋慕」を指している。
 友紀の嫉妬心を利用したファルコンアマッドネスはぎりぎりまでセーラを追い詰めた。
 逆に友紀の恋心がルコから肉体の主導権を奪い返させた。
 ふたたびそれを為そうというのである。今度は単純に岡元に対しての憎悪。
 それゆえ問題はなかった。
 そして岡元を足がかりにジャンス。あわよくばブレイザの正体もつかみたい。それが狙いだ。

 余談だが武功争いをしていた名残でターゲットを隠匿する傾向がアマッドネスにはある。
 セーラの初陣の相手。スパイダーアマッドネスことタランは独り占めを目論み誰にも話さなかった。
 下級戦士なら蔑んでいるのもあり放って置くのだが、さすがに上級たる六武衆の一員。スストまでブレイザの正体を隠匿していたのには閉口した。
 おかげで未だにブレイザの普段の姿が伊藤礼とは確信を持てない。
 それもあり以降は知った情報はすべて伝えるように命令が飛んだ。
 正体を知れば対処法はぐっと増える。
 だがアマッドネスも一枚岩ではない。己が欲を優先して勝手な行動を取るものも多く、それゆえ戦乙女たちは各個撃破に成功している。
 ガラやアヌにとって頭が痛いのはそのあたりだ。

(これであれがジャンスかどうかわかる。それを確かめたら次の段階に移ります。ガラ将軍)
 この場にいない上官に心中で報告する軽部ことアヌであった。

 警察病院。薫子のいる病室に一人の可愛い闖入者が現れた。
「お姉ちゃん」
 年齢一ケタ台の少女。いや。幼女か?
 もちろんあどけない顔立ちだが、将来は美人になると言われたらほとんどの人間が納得する整った上に愛らしい顔立ち。
 ストレートの黒髪が背中まで伸びて「女の子」を演出する。
「あら。葉子ちゃん」
 薫子が今までで一番の笑顔を見せた。「お姉さん」らしい表情になる。
「この子は?」
「広瀬葉子ちゃん。患者としてはあたしより先輩ね」
 つまりもっと長く入院している。
「お姉ちゃん。遊ぼう」
 用件も可愛らしい。
「ごめんね。今日はお友達が来ているからまた今度ね」
 僅かな入院期間中に仲良くなっていた。
 それは薫子の人柄か。それとも葉子という少女の孤独さか。
「えー。つまんなぁい」
 葉子は可愛らしく頬を膨らませる。母性本能が刺激されて思わず笑顔になる友紀と薫子。
「じゃあまた今度ね」
 慣れているのか物分りはいい。入院患者と思えない軽い足取りで立ち去りかける。
 だが立ち止まって清良の顔を見る。
「? なんだ? オレの顔に何かついているのか?」
「キヨシ。相手はちっちゃな子なんだからもっと優しく言いなさいよ」
「あ、ああ。悪い」
 薫子はまた噴出した。
「あははは。あなたたちまるで夫婦みたいよ」
「なっ!?」
 瞬間的に赤面する清良と友紀。特に友紀は白い肌だけに赤くなったのがわかりやすい。
 反論したかったがここは病院。騒げないし子供も見ている。

「えーと。なんでもないよ。お兄ちゃん」
 清良の顔を見ていた葉子は自分でも自分の行動が理解できないような表情をしていたが、やがて笑顔で立ち去った。
 そして入れ違いに一人の中年紳士が入ってきた。ノックをしようにも扉は大部屋で開放されている。
「失礼する」
 いくら空調の効いている病院とはいえどスリーピースで平然としているのは奇異に見えた。
 オールバック。そして口ひげ。それ以上に印象的な蛇のようなその冷たい目つき。
「三田村警部!?」
 薫子が思わず半身を起こしかけるが三田村に制止される。
「お取り込み中だがこちらも時間がない。一緒にさせていただこう」
 二人の同意を得ずにその場に割って入る。
(何だ? このやろう。知り合いらしいが好き放題だな)
 清良は半ば本能的に反感を抱いた。三田村も清良たちを一瞥する。
 しかし鼻で笑っておしまいだった。
 カチンときたがこの手の態度には慣れている。何とか抑えた。
「えーと。警部。この二人は私の友人で高岩清良君と野川友紀さん」
 間に立たされた薫子が潤滑に進めるべく紹介を試みる。
「こちらはあたしの上司。三田村健児警部」
 現在は福真署の特捜部に出向いているが、本来は警視庁所属の彼女にとって直接の上司は三田村であった。
「よろしく」
 事務的に手を差し出す三田村にとりあえず手を握り返す清良。
 情報を得ている三田村は清良がセーラと知っている。
 だが三田村がアマッドネスのナンバー2.ガラ将軍とはその場の誰も知らない。
 ルコの意識が混ざったことで事情を察した友紀も、ルコが自分をターゲットにした経緯は理解しても三田村がガラの仮の姿であることを知る前に分離したので知らなかったのである。
「こちらこそ」
 三田村の冷たい視線を不良である自分に対する蔑みと解釈した清良。
 もちろん隠そうともしない「敵意」もその一部と解釈した。

「調子はどうかね?」
「はい。だいぶ体調も戻ってきました」
「そうか。だが無理はいけない。潰れては元も子もないからね」
 心配というよりは戦力ダウンを気にしているように見えるが「エリート」というのはそういうものというイメージが誰にもあった。故に気にされなかった。
 過労を引き起こすように仕向けたのは三田村自身であるが、がんばりすぎたのは薫子の性分。
 三田村にしても、こうまで狙い通りに倒れてくれるとは思いもよらなかった。
「ゆっくり養生したまえ。事件の方は気にするな。我々に任せろ」
 それだけ言うと軽く会釈して病室を後にした。
 いなくなったであろう時間が経ってから清良は本音を漏らす。
「気にいらねえ野郎だな」
「まあまあ。ちょっと冷徹に見えるけど警部は凄腕よ。でも、ちょっと印象変わったかな?」

 時間がだいぶ経ち、そろそろ引き上げようとなった。
「じゃあ薫子さん。とにかく後は任せてくれ」
「お願い。あたしもとにかく早く退院して復帰するから」

 清良たちが警察病院を立ち去ってからもっと時間が過ぎ「本来の目的」を終えた三田村が出てきた。
(あれが「拳の戦乙女・セーラ」か)
 聖なる戦乙女。邪なる大将軍の仮の姿同士での「対面」もこうして終了した。

 翌日。順が男と知らないまま悶々としている貝塚に剛将・サザが悪魔の誘惑をかける。
 抗えない貝塚はあっさりと「悪魔に魂を売り渡した」。
 融合した瞬間に学生服を突き破り「トゲ」が出現する。
 服を引き裂き本来なら全裸になるところが既に変身済み。
 まるで戦国時代の鎧武者。ご丁寧に面までしているように見える。
 その鎧はどことなく巻貝。特にサザエを連想させる。
 六武衆。剛将・サザの復活。そしてシェルアマッドネスの誕生であった。

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