都内のとあるガード下。商店街などの近道というわけでもなく人通りもさほどないここで三人の『男』が立ち話をしていた。
 一人はホストか役者かというイメージの華やかな美男子。
 もう一人はローブを纏った老人。
 そしてもう一人はスーツ姿の青年。丸いメガネをかけているが猟犬のような鋭い目つきのきつい印象は緩和されていない。
「それで。奴らの弱点がわかった今、残った僕ら三人で戦うのかい?」
 何処か芝居じみた口調の青年。秋野光平が尋ねる。
「いや。我々は出ない」
 答えたのは六武衆のリーダー格・アヌが取り付いた軽部。
「我らでないと言うならだれがきゃつらを叩ける?」
 ローブの老人。プロフェッサーがゆったりとした口調で問いただす。
「適任者がいる」
「おいおい。もったいぶらずに教えてよ。僕たちそろそろ闘いかと思ってそれを確認したくてアヌを呼んだんだから」
「まさか…あの反乱者を差し向けるつもりか? 危険すぎて六武衆に入れられなかった奴を」
 プロフェッサーのその言葉も首を横に振り否定する。
「適材適所。そして相性というものがある」

 真夏の太陽が容赦なく地面に降り注ぐ。
 影はいっそうくっきりと浮かび上がり、闇を形成していた。


戦乙女セーラ

EPISODE29「水難」


 六武衆の生き残りの会談から二日。夏休みのとある一日。正午を回ったばかり。
 例によって「感触」を味わった清良はTシャツ姿でキャロル・バイクモードにまたがりそれをおっていた。
(あの車の中にアマッドネスがいる。どういうつもりだ? 変身したままで車に? 俺を誘っているのか?)
 不思議には思うがとにかく追跡である。
 敵はまだ行動を起こしていない。そして車道である。こんなところで戦闘をするわけにはいかない。
 追跡しつつ様子見であった。

 不意に「感覚」が交じり合う。思わず「上」を見上げる。
(もう一体? やはり待ち伏せか)
 そちらに気をとられているうちに追っていた方の感覚が消えた。
 とりあえず消えた先の建物。そして新たなる感覚の導くままに入る。彼はヘルメットをまぶしそうに顔をしかめた。真夏の太陽がまぶしい。
 「敵」が入ったと思われる建物を見上げる。中から特に甲高い女子供の楽しそうな声が聞こえてくる。
「なんでこんなところに?」
 それはレジャー用のプールであった。

「高岩。どうして貴様がここにいる?」
 いきなり声をかけてきたのはボーダーの半そでシャツを着た伊藤礼。
「お前こそ。ここはお前のエリアから離れているだろう」
「貴様こそ」
 つまり互いにここまで誘導されてきたらしい。
 ぞろぞろと入る客に注目されるので言い争いは中断した。小さな声で会話する。
「よーするに俺達はここにおびき出されたと言うわけか?」
「バカか? わざわざ二人そろえるような手を奴らが使うか?」
 清良はむっとしたが正論である。分断して一人ずつ叩くなら納得だが、いかに不仲といえど二人をそろえるとは理解に苦しむ。

「あれぇ? 二人ともどうしてここに」
 どうやら周辺をぐるっと回ってきたらしい順が二人を見つけて声をかけてきた。
 彼もまたシャツだが長袖。女顔とメガネで女性的なイメージがある。
 そのイメージだと長袖も女の子の日焼け対策に見えてくる。
「お前こそ」
「僕は空にアマッドネスの気配を感じてここまで」
「オレは車に乗った奴を追って」
「俺は車じゃないな。たぶん高速で走っていた」
「…………」
「最低でも三体いると言うことか?」
「それが鉢合わせ?」
「やはりここで何かやるんじゃ?」
 上空には未だ気配がある。だが
「降りたね」
「それも中だ」
 何処か物陰に高速で降り立ったらしい。

「どうする?」
 明らかに誘いのわな。しかし無視すれば客に対して何かを仕掛けられそうだ。思わずどちらというわけでなく尋ねる清良。
「ふん。臆病風にふかれたのなら帰れ。足手まといよりマシだ」
「誰がそんなことを言ったよ?」
 礼の言葉にカッとなる清良。
「じゃあ中で手分けしてさがしましょうか?」
 少女の声。驚いて振り返るといつの間にか順がジャンスになっていた。
 しかもいつものジャンバースカートではなく肩と胸の谷間を大きく露出したサマードレスだ。
「なんでいきなり?」
「考えてくださいよ。中でアマッドネスと遭遇したとして、周りに他のお客さんもいるのにいきなり男から戦乙女になったら大騒ぎですよ。その点これなら水着とはいえどエンジェルフォームだから凌げますし、客が逃げてからキャストオフすればいいし。もし別の目的で的が集結していたとしても、あたしたちを見て敵が作戦を諦めてくれたらそれでもよし。どう転んでもいいほうになりますよ」
「ウソつけ」
「貴様はただ女姿でいたいだけだろう」
 とはいえどジャンスの主張もわかる。二人が悩んでいると
「もしもし。番長? あたし今ね帝江州プールにいるの。それで応援に来てくれないかな?」
 ジャンスが可愛らしいストラップがやたらについているケータイで応援を要請していた。
「まぁ岡元なら援軍として頼もしいが」
「そうですね。ブレイザ様のバックアップで森本君を呼んでおきました」
「友紀様もすぐ駆けつけてくださるそうですよ。セーラ様」
「「何勝手に呼んでるんだ。おまえら」」
「ええ? 何をそんなに怒っているのですか? ウォーレンは上空から監視できますが犬の姿のドーベル。猫の姿の私ではプールに入れませんからサポートをお願いしたのですが」
 それはわかる。だが同時にジャンスの主張も受け入れるとなると女の姿で中に。しかも友紀と一緒に。
 それで憤慨していた。

「お待たせ」
 友紀と森本。岡元がまとめて合流した。友紀は大荷物を持っている。
 岡元は相変わらずの学ラン。森本はワイシャツとスラックス。友紀はキャミソールとキュロットだった。
「おい。電話してからそんなに時間経ってないぞ? それなのになんでこんなに早く準備してこれるんだ?」
 清良の突っ込みどころ。
「そこはそれ。俗に言う井○ワープで」
 時空間を飛び越えるといわれているあれである(笑)
 森本の言葉に突っ込む気も失せた清良である。
 反対にテンションがやや高めなのが友紀である。
「任せてキヨシ。サポートして見せるから」
 妙に力が入っていた。
「だめだ。ヤバイから帰れ」
 清良としては当然の言葉。それに対して食い下がる。
「そんなことを言わないで。だって……あなたのことを殺しかけているのだし。罪滅ぼしがしたいの」
 それで出てきた友紀である。
「あれは操られていたからお前に責任はねえ。わかったなら帰れ」
「そんな……力になりたいのに」
 しかられた仔犬のようにしょげ返る友紀。「罪の意識」は深いようだ。
 逆に清良の方が罪悪感に囚われてきた。
(セーラ様。ここはお願いし方がよろしいかと)
 キャロルに言われる前に清良はそういうつもりになっていた。何より泣かれるのは苦手だ。
「わかったよ。頼む」
 いわれてぱあっと表情が明るくなる友紀。
「うん。もし戦いになってもいいように道具も持ってきたから」
 バッグを開くと新体操で使うクラブやリボン。ボールなどが入っていた。
「いや……場所がプールだからむしろマーメイドフォームの方がありそうだが」
 もちろん最後までいえない。

「さあ。二人とも。それじゃ変身を」
 結局やたら嬉しそうなジャンスに押し切られて物陰で変身する二人。
 セーラはキャミソールにデニム地のミニスカート。サンダルとアクティブな印象。
 ブレイザは真っ白なワンピース。胸元に大きなリボンという清純なイメージであった。
 変身直後で男の意識が勝っているはずなのに、いきなり薄い胸元を隠すデザインだ。

 もちろんエンジェルフォームの能力を使えば一瞬で水着姿になれる。
 だがその現場を見られるのもまずいとジャンスが主張して岡元と森本以外は女子更衣室へ。
 ちなみにウォーレンは空から。キャロルとドーベルは周辺を警戒している。

 ぎりぎりまで男姿でいたのが祟った二人。女子更衣室の中は裸の女子でいっぱいだった。
 もちろん銭湯のようにやっているわけではなく、隠しながらではあるがそれでもまだ男の心のままのセーラとブレイザには刺激が強すぎた。
 女の肉体を有する二人だが基本的に戦うときのみ。
 性的好奇心を満たす目的で変身した事はない。
(さっさと出て行こう)
 着替えるふりを続けるブレイザ。ワンピースのスカートから下着を取り瞬時に水着に変化させる。
 それを穿いているように見せかけてワンピースを水着に変えていた。

 大変なのがセーラである。何しろそこに友紀がいる。
(友紀の前で女としての裸を……)
 以前に理恵と入浴した時は完全に女の精神にシフトしていた。
 しかし今はまだ男の精神が残っていた。意識すればするほど恥ずかしくてたまらない。

 それは友紀も一緒だった。
 確かに小さい頃はお隣さんということで一緒に風呂に入ったこともあった。
(でもそれは子供の時の話よ。今じゃ二人とも大人だし)
 そこでなんとなくセーラを見てしまう。
 白い肌。柔らかそうな肌。二つの豊かな丘。くびれたウエストライン。細い脚だが健康的な脚線美。

 カチンと来た。

「ちょっと? もしかしてあたしよりスタイルよくない?」
 それが羞恥心を吹き飛ばした。

(うわ。まさかここでTSの古典的名台詞を聞けるなんて)
 別の列のロッカーで聞き耳を立てていたジャンスが喜んでいた(笑)

「な、何を?」
 セーラにしてみれば何で友紀が切れたかわからない。
 だが友紀は納まらない。幼馴染みの少年が逞しい肉体になっていると思いきや美しい少女に。
 しかもヘタしたから自分よりもプロポーションがいい。
 これは女のプライドを傷つけるのに充分であった。確かめないと気がすまない。
「うっわー。このウエストなに? 55切ってんじゃないの?」
 べたべたと無遠慮に触りまくる友紀。
 女性化して敏感になった肌に友紀の柔らかな指先かセーラに妙な刺激を与える。
「ちょ、ちょっとやめて。くすぐったい」
「何よ。すっかり女の子じゃない」
 ここで今度はいつもの女子同士でのじゃれ合いがでてくる。
 セーラのむき出しの胸を揉む。
「や、やめて。そんなとこいじるの」
 逃げようとするが力が入らずだめ。
「きゃはは。柔らかくてマシュマロみたぁい」
「やめてよぉぉぉ」
 赤い顔をして荒い息をするセーラ。

 数分後。
「あの、ごめん。キヨ……せいら。悪乗りしすぎたわ」
 神妙な表情で謝る友紀。反省していた。
 ちなみに女の子の姿ゆえに人目を気にして「せいら」と呼ぶことにしていた。
「ううん。いいの。おかげでもう女の子の気持ちになれたから」
 それで裸の女子ばかりという状況が恥ずかしくなくなっていた。
「さっ。行こう。森本君たち待っていると思うから」

 既に着替えた森本と岡元は女子更衣室から少し離れた場所で待っていた。
「森本。待たせたわね」
 ブレイザの言葉に反応できない森本。
 彼女は純白のワンピースの水着を着用していた。
 最初は競泳用だったのだが途中で女心になったため華麗さをましていた。
 特に胸元の大きなリボンがボリュームを上げていた。
「キ…綺麗です。会長」
 本気で見ほれていた要。
「ありがとう。でも」
 精神が女性化して、男ならない筈の胸に対するコンプレックスが出てきた。
「大丈夫です。それなら胸元はばれません」
 ピク。ブレイザのこめかみに青筋が。
「森本。それじゃまるでわたくしが胸にコンプレックスがあるみたいに聞こえますが?」
 ずいと迫るブレイザ。美人だけに凄みがある。
「す…すいません。つい本音が」
「なんですって?」
「本当のことじゃない。森本君いじめたらかわいそうよ」
 からかい半分。擁護半分でセーラが声をかけた。
 紫色のビキニ。セパレートという方が近い。ボトムスにはスカートまでついている。
 友紀の方はピンクのワンピース。どうやら新体操のレオタードのイメージがあるらしい。
「おやおや意外ですこと。貴女の事だから盛大にフリルでもつけるかと思いましたわ」
 ギク。セーラが引きつる。
「……図星だったんですのね」
 女性化するとどうにも可愛い系に走るセーラ。
 今回は友紀がいたので辛うじてこの程度で収まっていた。
「二人とも可愛いですよねぇ」
 最低でもDカップはあるであろう胸を申し訳程度の布地で隠していたジャンス。
 下はまだ面積が広いが、黒いのもあってコントラストを強めて裸よりエッチに見える。
 髪は二つお下げ。
 髪のさほど長くないセーラ(エンジェルフォーム)はそのままだがブレイザは纏め上げていた。

(くくく。役者が揃ったな。だがまだ仕掛けない。焦らして焦らして。それからだ)
 悪魔をその身に宿すもの達が不気味に笑っていた。

 とりあえず3組に分かれてアマッドネスの気配を探っていた。
 組み合わせはセーラと友紀。ブレイザと要。ジャンスと岡元である。
 セーラのガントレットは例によってブレスレットへと変換。
 ブレイザとジャンスは変身アイテムである小太刀と弓を取り出した空間に仕舞い込んでいた。
 いつでも取り出せるらしい。

「かーのじょたち。俺たちと遊ばない?」
 日焼けしている男二人が「美少女二人」に声をかける。女の子目当ての行動だ。
(ちょっとキヨシ。うまいこと追っ払って)
 友紀はナンパに乗るほど軽い女ではない。
(うん。任せて)
 セーラはウインクで答える。その仕草が女性的過ぎることに不安を覚えるが任せることにした友紀。
「ごめんなさい。あたしたち実は待ち合わせなんです」
「ええっ? まさか男じゃないよね。女友達だよね」
「残念。男の子たちです。きゃはっ」
 悪戯っぽく笑いナンパ男二人を置き去りにするセーラ。ついてくる友紀。
「あんた一体どこでそんな女っぽいやり取り覚えたのよ?」
「うーん。なんとなくかな。自然と心からわいてくるのよね」
 まさしく心の底から女の子になりきっているセーラ。
 真夏の暑さのせいではなく冷や汗が出る友紀であった。

 歩くたびに揺れ動く巨乳。折れそうにくびれたウエスト。
 大き目のヒップを揺らしてのモンローウォーク。
 それでいて清楚なイメージのメガネっ娘。ジャンス。
 男たちの視線を独占していたが誰もアプローチをかけない。
 後ろから怪獣のような大男がのっしのっしとついてくるからだ。
(うーん。やっぱり番長がにらみ利かせていると男の子が寄って来ないわねぇ)
 ジャンス本人は女として扱われるのを望んでいるため、むしろナンパされたがっていた。
 しかし屈強のボディガードがそれを阻んでいた。

 顔を見て凄い美人だと感嘆のため息。
 次に胸元を見て絶望的な平野に落胆のため息。
 これを繰り返されてブレイザの「女のプライド」はずたずたであった。
 もちろん時間経過により完全に女性の精神になっているからの話。

「どう? 怪しい奴がいた?」
 一度集まる。セーラが尋ねる。
「ダメだ。盛りのついたオスネコだらけで」
 もちろんナンパ男をさしている岡元の言葉。
「いや。一番盛ってんてのはそのメガネ巨乳だから」
 セーラの突っ込み。
「ばんちょおー。男の子がよってこなくてつまんなぁい」
 口調は砕けているが本気で言っている。
 三人の中でもっとも女性よりの順ならではである。
「はいはい。外はどうかしら? ドーベル」
 ブレイザは外を見回っている使い魔に念を送る。
(私は南を見ていますがとりあえず探知できません)
(私は北ですがやはり見つかりません。セーラ様)
 同様に問い合わせていたセーラにも返答が来る。

 とりあえず一箇所にまとまり「作戦会議」
「どうしましょ?」とジャンス。
「逃げたんですかね?」と森本。
「確かにこの人ごみで人間の姿で紛れ込まれたら見逃すわね」
 何しろ夏休みで猛暑である。まさしくイモ洗いという状況である。
「もう暫くここにいますか?」
 ジャンスの提案は一見するともう少し探ってみようと取れるが、実際は「もうこのままプールで遊んじゃおう」という思いを含んでいた。
 それを知ってか知らずかまだいることに。

 一度緩んだ緊張感はすぐには元に戻らない。ましてや解放的なプールである。
 セーラやブレイザも結果としてではあるが「遊ぶため」に女姿である。新鮮な感覚が麻薬のように彼女たちを麻痺させる。
 そして精神もすっかり女性のそれになっている。ハイテンションな女子高生そのものになっていた。

「セーラさん。勝負ですわ」
 見事に遊びモードのブレイザ。「クイーンのカケラ」の影響で対立状態だがこのレジャー施設という舞台のためその方法もさすがに殺伐としたものではなく泳ぎでの競争だった。
「言っておきますがマーメイドフォームは反側ですわよ」
 何しろ水中における活動限界なし。ブレス無用のフォームではそれだけで競泳は有利と言えよう。
「あなたこそ反側じゃない。その水の抵抗のないまっ平らな胸」
「ぬわんですってぇ」
 何度言われてもこれだけは我慢できない。
「会長。プールです。刃物はやめてください」
 後ろからしがみついて制止する森本。暴れるブレイザ。だから弾みで森本の手がブレイザの胸に。
「きゃっ」
 顔を赤らめ胸を押さえてしゃがみこんでしまう高飛車女。
「ご……ごめんなさい。会長。でも…大丈夫です。ちゃんと膨らんでました。柔らかかったです」
「そんな感想はいりませんっ」
 森本はあくまで真剣にフォローしている。はたから見ていた友紀が一言。
「それに出産すれば胸は大きくなりますよ」
 暑さでやられたらしい天然発言。それを真に受ける下級生。
「出産……そんな。僕というものがありながら他の男となんて。会長の裏切り者ーっっっ」
「誰がそんな想像をしろといいましたっ」
 大騒ぎであるそんな中。
「赤ちゃんかぁ」
 夢見るようにつぶやくジャンスに底知れぬ恐怖を覚える一同であった。

 三時ごろ。気温のピークも去って少し遊び疲れが出てくる頃合。一同はまとまって休んでいた。
 セーラと友紀は仲良く並んでアイスキャンデーを口にしている。
 セーラがだらけているのに対して友紀は「警戒中なのにいいのかな?」と言う思いが顔に出ている。
「はい。あーん」
 そんな思いをよそにジャンスは岡元にカキ氷を食べさせている。
 ブレイザに至っては貴婦人よろしく寝そべって飲み物を口にしている。
 まるで遊びに来たかのようだ。

ただいま長めの休憩中

このイラストはOMCによって作成されました。
クリエイターのていくあうとさんに感謝!

「やっぱりいないねぇ」
 疲れたようにセーラがつぶやく。その表情が一変する。
「おおー。いいのう。若い娘はやはり」
 セーラの尻を大胆にも衆人環視の中で撫で回す老人がいた。頭髪はまったくない。しかし生命力は漲っている肌の色。
「ななななななな……何すんのよ? 誰。あんた」
 当然だがセーラには痴漢の被害にあった経験がここまであるはずがない。
「ワシか? ワシは三吉晴海というロマンスグレーじゃ」
「どこにグレーがあるのよ? このタコジジイ」
 セーラはその老人を思い切り蹴り飛ばした。勢いよくプールに転げ落ちる老人。
「まったく。油断しているからそんな目に遭うのですわ」
 心底バカにしたように冷たい目で言うブレイザ。
「へえ。じゃあんたはセーラと違うってワケだ?」
 まったく知らない男の声。ブレイザは瞬時に戦闘体勢をとる。
「お前、何者? どうしてその名を?」
 誰もこの男の前でセーラの名を口にしていない。それを知っていた青年に問いただす。風貌としてはどこにでもいる普通の青年。
 この時期だからか普段からかとにかくよく焼けていたのが特徴だ。
「おれ? 岩下了。ま、あんたらの言い方だとイーグルアマッドネスということになるのかな」
「キサマ」
 ブレイザが空間にしまっていた小太刀を取り出して本来のエンジェルフォームに戻ったのと同時に岩下は鷲の特徴を持つアマッドネスへと変貌していた。
「きゃあああーっ」「ば、化物だ」
 異形の出現に周囲は大パニック。我先に出口へと逃げていく。
「落ち着け。落ち着いて逃げろ」
「慌てないでくださーい」
 誘導をしていたのは岡元と森本。二人ともジャンスないしブレイザと戦い続けて長い。
 こういうケースの対処もできていた。
「だ、大丈夫ですから」
 避難誘導に加わる友紀だがそれも上手く出来なくて「自分は足手まとい」と思い始める。

「おーし。それじゃ始めるか」
 軽い口調でイーグルがいい浮かび上がる。
「意外ですわね。この客たちを人質に取らないとは」
「は。むしろ邪魔なんだよ。あれだけいたらお前らと見分けがつかねぇ」
 それでわざわざ怪人としての姿をさらし人払いをした。
「戯言を」
 小太刀を抜いて切りつけるがさらに高い位置に逃れるイーグル。そのまま上昇を続ける。見えなくなる。
「逃げたの?」
 仕掛けておいてそれもないだろうと見ていたセーラは思っていた。
 だがそれは間違いだった。はるか頭上から雨あられと羽根手裏剣が降り注いできた。
「きゃあっ」
 既に水着から本来のエンジェルフォームであるブレザー姿に転じていたのでまともに食らった部分も弾き飛ばしていた。それで難を逃れた。
「ど……道理でプールに誘い込むはず。ここでは遮蔽物がありませんわ」
 街中では逃げられるからプールに誘い込んだ。
「待ってて。ブレイザさん」
 ジャンスもジャンパースカート姿に転じる。もちろん弓を手にしている。
「よし。キャスト…」
「させるかよっ」
 新手がジャンスへと襲い掛かり妨害する。
「きゃっ」
 弾き飛ばされるジャンス。敵も止まる。豹柄のチューブトップと短パン。そして豹の仮面を被っている女という印象である。
 だがその顔は仮面ではない。
 ジャガーアマッドネス。取り付かれた人間の名は兵藤速人。
「へへ。どうだい。あたしのスピード。伊達に豹の能力を取り込んでないというところ」
 言い終わらないうちにまた高速で攻撃を始める。
「ったく。二人そろってなにやってんのよ」
 軽い口調なのは自分が加勢すればどちら相手でも「2体1」と優勢になるという余裕である。
 セーラは本来のエンジェルフォームへと戻る。そしてキャストオフ。さらに超変身。
 ブレイザを狙い撃つイーグルアマッドネスを叩くにしても、ジャンスを襲うジャガーアマッドネスを迎え撃つにしても飛翔と俊敏性の形態。フェアリーフォームは必然だった。
 だがそれは罠。だからこそセーラだけそこまで待っていたのだ。
 プールの中から触手が伸び非力な妖精を絡め取る。
「きゃっ?」
 ぬめぬめとしたおぞましい感触も手伝い悲鳴を上げるセーラ。
「ぐふふふっ。さっきはよくも蹴飛ばしてくれたな。お礼にたっぷり辱めてくれる」
 まるで茹でたタコのような鮮やかな赤。姿もまさにタコのまま。長い触手が腕となり、他の六本が三本ずつ胸と背中でうねうねと動いていた。
「『蹴飛ばしてくれたな』? お前は…まさかさっきのジジイ?」
 三吉と名乗った老人もオクトパスアマッドネスだったのだ。
「余裕も今のうちだけだ」
 セーラを捉えた触手が彼女の胸と足の付け根に絡みつき、それが動くたびに女ならではの感触を味合わされて赤い顔になるセーラ。
「あ……あああっ」
 赤い顔をして息も荒くなる。精神を集中できないし何より片方のガントレットを叩こうにもがんじがらめ。
「こ……この」
 何とか闘志を奮い立たせて触手を叩くが元々非力なフェアリーフォームの上に、触手自体が弾力性があり暖簾に腕押しであった。

 三対三。だが高所の相手に対抗手段を持たぬブレイザに対するイーグルアマッドネス。
 射撃中心のせいか他の二人よりは動きが速くないジャンスにジャガーアマッドネス。
 非力な姿に転じたところを絡め取った、しかも柔らかい肉体ゆえに打撃がさらに効きにくいオクトパスアマッドネスとかなり相性のよくない戦いを強いられていた。

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