警察病院。薫子は退院の運びとなった。
「お姉ちゃん。たいいんするの?」
 入院中に仲良くなった幼女につぶらな瞳で訴えられると軽く罪悪感を覚える薫子。
 幼女の目の高さまで屈むと優しい声で「ごめんね。葉子ちゃん。今度遊びに来るからね」再会を約束した。
 過労が原因の入院である。それゆえ退院後も一週間の自宅療養も命ぜられていた。その間にこられる。
 これはかぎまわられるのを疎ましく思った三田村の陰謀。

 出入り口をでると見知った顔がいた。
「退院おめでとうございます」
 迎えに桜田が来ていた。しっかりと警察車両だが。
「いいの? 職務中に」
 とか言いつつちゃっかり乗り込む薫子。
「大丈夫ですよ。アマッドネス特捜班ですから奴らが何かしでかさなけりゃ……あ!」
 言っているそばから車から無線の呼び出しがなっている。桜田は慌ててそれを取る。短く会話を済ませる。
「出たようね」
「一城さん!」
「行くわよ」
 その瞳を見たら降ろす事はできなかった。
 桜田は薫子を乗せて現場へと車を走らせた。

戦乙女セーラ

EPISODE30「連携」


 屋外プールは阿鼻叫喚の図であった。
 駆けつけた警官も客を逃がすので精一杯。
 またあくまで人命優先でアマッドネスに対抗するのは後回しという指示も出ていた。
 これは別に三田村の陰謀ではない。人外の魔物に対抗する有効な手段を彼らは持ち合わせていない。
 もちろん実際に相対すれば知力と武力を駆使して戦うが、とにかく一般市民を守るのが最優先であった。

 その混乱の最中。主の元に駆けつける使い魔たちがいた。

 プールを見渡せるビルの屋上。
 軽部。そしてプロフェッサーと秋野光平。
 蘇生して地獄へと逆戻りになっていない六武衆の半分がいた。
 軽部は監視で鋭い目つきだが秋野は見物というノリだ。
「僕たちより下っ端でも相性によっちゃいい感じで戦えるんだね。でもなんで三人まとめてさ? バラバラにすればもっといいんじゃない」
 もっともな疑問をぶつけるホストのような男。
「タイムラグが生じてはまずい。ジャンス。ブレイザ。セーラ。三人同時に襲わないとシノ。ズダ。ヒオの誰かが2対1になりかねない。そのためにはこの手が有効だ」
「ふふふ。考えたものだな。アヌ。まずはブレイザを狙いシノが空から襲う。そしてその場にいればどちらかが助けようとして動き、その刹那に隙が生じる」
 補足するように「プロフェッサー」が続ける。
「そう。そこで先に動いたほうをズダかヒオが襲う。さらに生じた隙を残りが狙うというわけだ」
「ふーん。見事な連係プレーだけど、奴らもやれるんじゃない。それくらい」
「いや。奴らは太古のそれとは違う。手を取り合うような感じではない」
 それを肌で感じ取った軽部の立案した作戦である。
「戦乙女同士は助け合わないかもしれないけど、奴らの従者や付き人はどうなんだい?」
「遣い魔やミュスアシの末裔ごときに何ができる」
 驕りにすら似た「アマッドネスのプライド」がこの作戦に成功の確信を抱かせていた。

 真夏の太陽がセーラの肌を容赦なく焼き付ける。
 しかしセーラが苦悶の声を上げているのはそのためではない。
 単純にタコの能力を持つオクトパスアマッドネスの触手の締め付けがきついのと、今まで男として生きてきて感じたことのない「感覚」に対する戸惑いである。
 前世のセーラたち戦乙女は男を知らぬまま若い命を散らせた。
 その当時である。17と言えば立派な大人扱いだったにも関わらずだ。
 だから正真正銘「初めての感覚」である。

「あ……ああぁんっ」
 明らかに攻撃されているのにもかかわらず吐息のように甘い、そして自分で驚くほど艶かしい声が出るセーラ。
 オクトパスアマッドネスの髭のような三本の触手。後ろ髪のような後方の三本の触手が大きくなり、腕には及ばないまでも巨大な触手となりセーラを攻め立てていた。
 セーラは外からは締め付けられ、そして弄ぶことがもたらす内側からの「女ならではの感覚」が声に出た。
 男としても女としても屈辱。赤い顔をして耐えていた。
(友紀。あたしの……あたしのこんな恥ずかしい姿を見ないで)
 屈辱か。それとも苦痛ゆえかセーラの目から一滴の涙が。
 だが願いも虚しく友紀の目は釘付けになっていた。

 友紀にしてみれば悪夢であった。目をそらしたくても出来ない。
 幼馴染み。そしてほのかに思いを寄せる少年が「女」として顔を赤らめている。
 友紀も「まだ」である。けれどセーラが今どんな感覚に内側から攻められているのかはわかる。
(助けなくっちゃ。でもどうやって?)
 一刻も早くセーラを解放したいものの友紀には格闘技の心得もない。
 とりあえずセーラのために持参した新体操アイテムをバッグから取り出す。
「クラブ」を手にオクトパスに敢然と挑んでいく。
「キヨシを離して!」
 だが本来の使い方とはまるで違う凶器としての使用。あっさりと空いている触手に弾き飛ばされジャンスが翻弄されているほうに飛んでいく。
「心配せんでもこやつを葬ったらお前も相手してやる」
 融合した老人は好色だったらしい。
「変態。あなたも女なんでしょ。女を弄んで楽しいの?」
 腕ずくがだめなら口先である。挑発して解放させるつもりだった。だが
「ああ。好きだよ。あたしらアマッドネスは一部を除いて女だけの一族。だから女同士でいい仲にもなるのさ」
 完全に「化物」となる前のアマッドネスは普通に子孫繁栄のために男が必要であった。
 あくまでも子種を提供する奴隷であり、優秀な男だけが囚われた。
 残りは殺されるか、肉体労働の奴隷として囚われていた。
 そして女だけが優秀であり、男は無価値と考えるアマッドネスは「奴隷」との交わりを否定し、女同士で密接な関係になるものも少なくなかった。
 その名残なのか現代に復活したアマッドネスはまず男を中心に襲撃する。
 取り付くのも男がほとんどである。
 これは当時の人間の体力に比べて現代人は体力がないため、いくら変質できるといえど依り代は非力な女より男を作り変えるほうを選ぶ。
 また戦闘民族だけに戦闘意識の高いほうが相性はいい。
 例外的に友紀が取り付かれたのは第一に清良に対しての盾としての肉体。
 そして新体操部所属の上に若い娘で体力も問題はなかったからである。

 ブレイザは動けなかった。まさに釘付けであった。上空遥かな位置からの狙撃。
 距離があるだけに正確とは行かないが、それでもいつどこから来るかわからない。
 何とか風切り音を直前には察して避けられるが、それでもいくつかはブレザーを模した魔力の鎧で防いでいる状態。
 そして上空の敵に対抗手段がない。セーラは飛べる。ジャンスは撃てる。だがブレイザはどちらも出来ない。
(こ、これではなぶり殺しですわ。皮肉にも遮蔽物がないから風で正確にはわたくしを狙えませんのが幸いですが)
 上空を見上げるが敵は見えない。それほど遠い。しかし確実にいる。
(水中に飛び込めば……ダメですわね。音が聞こえないし何よりも動きが鈍りしかも体温を奪われる。長くは無理ですわ)
 ちらりと別の方向を見る。タコの化物にセーラが締め上げられていた。
 ジャンスの方も見るがジャガーアマッドネスが飛び回り連続攻撃で防戦一方。
 とてもではないが救援は期待できない。

「うぉーっっっ。ジャンスから離れやがれ」
 唯一この場にいた遣い魔。ウォーレンがジャガーアマッドネスに突っ掛かっていく。
 本物の烏は実は「蹴り」による攻撃を主体とするが、人造生命体であるウォーレンはくちばしで攻撃を試みる。しかし
「邪魔だ」
 スピードにはついていけるが重量差。ジャガーアマッドネスに弾き飛ばされる。
「ぎゃっ」
 地面に叩きつけられるが痙攣してぴくぴくと動いてはいる。「生きて」いる。
「ウォーレン!?」
 ジャンスの悲痛な叫び。余裕もなくなっている。
「ほらほらぁ。よそ見してていいのかい?」
 目線を外したら背後からジャガーアマッドネスが飛び掛ってきた。
「くっ」
 未だキャストオフも出来ず弓で殴りつけようとするが間に合わない。
 キャストオフで吹っ飛ばす手もあるがその隙すらない。
(でもいくら魔物でも生物には違いないわ。「休む」時があるはず。そのスキに)
 そしてそれは意外に早く来た。チャンス到来とばかしに弓を正面に運ぶ。
「よし。キャスト…」
 上から羽手裏剣がジャンス目掛けて降ってきた。
「きゃあっ」
 これでチャンスを逃した。息を整えたジャガーの死角から死角へと移る攻撃が再開される。
「くくくっ。お前らと違ってあたしらは連携ができるんだよ」

 やっと客を逃がした岡元と森本が助けに戻ってきた。そして惨状を目の当たりに。
「ジャンス! ウォーレン!」
 岡元はウォーレンを拾い上げる。
「おい。しっかりしろ」
 激しく揺さぶる。生き物なら脳震盪を警戒してやらないが、そうではないので遠慮無しだ。
 それが功を奏したのかウォーレンの意識が戻る。
「う……番長か? すまねえ」
「戦えるか?」
「当然だぜ。ジャンスを守るのもそうだが、あのスピードキング気取りをぶちのめさないと気がすまないぜ」
「よし。手を貸せ」
「おう」
 返答するなりウォーレンは大型バイクへと変化する。
「X4か。これなら」
「あんたはでかいからな。このくらいありゃいいだろ」
 またがる前に岡元は転がっていたクラブを拾い上げる。まだシェルアマッドネスとの闘いで痛めた拳が本調子ではない。武器の代りにするのだ。
 唸りを上げて走りだす。ジャガーアマッドネスをひき殺すべく突進する。
「アマッドネスのスピードを甘く見るなよ」
 避けられた。だがそのままジャンスの周りをぐるぐると回りだす。
「ジャンス。俺たちが壁になっている間に上の奴を」
「OK。キャストオフ
「させるか」
 間一髪メイド姿へと変貌したジャンスに、岡元とウォーレンバイクモードを飛び越えて上から襲い掛かる。
 二丁拳銃で撃ち襲撃は防いだ。しかし相変わらず他の助けにはいけない。

「会長! 僕も戦います」
「森本! きてはいけません」
 ブレイザを案ずる森本の心情と、森本を危険に晒したくないブレイザの心情がかみ合わない。
「で、でも」
「来るなといっているのです。足手まといです」
 助けたいという気持ちは涙が出るほど嬉しかった。だが危険に晒したくないから心を鬼にして「足手まとい」と言い放つ。
 これは効いたのか森本も涙目になる。抑えていた思いが爆発する。
「会長のバカ!」
「な!?」
 思わぬ後輩の罵倒に状況を忘れて驚いてしまう。
「わからずや。石頭。えぐれ胸
「あ゛?」
 さらっとひどいことを言っている。ブレイザもきちんと反応した。
「誰かを守りたいのは会長だけじゃないんです。僕だって会長が大事だから守りたいんです」
 ぽろぽろと涙をこぼしながら訴える。その傍らにドーベルがやっと到着した。
「そう。その思いは私もです。ブレイザ様」
 ドーベルは姿を変える。サイドカーへと変化する。
「森本君。力を貸してくれ。二人でブレイザ様を助けよう」
「う…うん」
 森本はいつものカーゴではなく単車部分にまたがる。走り出したサイドカーはカーゴにブレイザを乗せるとそのままプールサイドを爆走する。
 それを追撃するように羽手裏剣が降って来るが追いきれず後からになる。
 イーグルアマッドネスもブレイザを狙うべく移動する。
 即ちジャガーとオクトパスの助けは出来ない。

 苦痛にあえぐセーラを前に友紀は自分の無力感を感じていた。
(ああ。キヨシを助けたいのに自分には何一つ出来ないなんて)
 打ちひしがれるが足元の感触で目を開けるとキャロルがいた。
「キャロル……」
「友紀様。セーラ様を助けたいですか?」
 なにか覚悟を試すような物言い。
「助けたい」
「なら私と共に」
「でもあたしには彼らのように戦えない」
 自転車には乗れるがバイクとなると経験がない。それを言っている。
「セーラ様を思う気持ち。つまり慈しみの心。そしてセーラ様を助けたい思い。闘志があるなら可能です」
「そんな手が?」
「ええ。ただ本来はセーラ様のためのもの。それでさえ3分程度が限度。友紀様とでは一分持つかどうか」
 かなりの無理があるらしい。キャロル。そしてセーラにも。友紀ではどうなるか。
「やるわ! その一分にかけるわ」
 即答だった。
「わかりました。では」
 キャロルは光ったかと思うといくつかのパーツに変化した。
 一つは鳥を模したヘッドギア。羽ばたく翼がこめかみを守り、鳥の首が脳天を保護していた。
 もちろん胴体部分が眉間をガード。
 亀の甲羅を思わせる形状の鎧が胸部を守る。甲羅の部分がちょうど胸の膨らみと合うようになっている。
 ウエストガードは龍がぐるりと回ったようなデザインだ。
 太ももからつま先までを守る部分は虎の足のように見える。
「こ、これは? そう言えばセーラが盾を使ったことがあったけどあれもあなた?」
 ファルコンに憑かれていたときの話である。
『はい。あの盾は私です。そしてこれも肉弾戦を主体とするセーラ様のための鎧です。防御をすべて私が引き受けた分、セーラ様は攻撃に魔力を回せます』
 キャロルの声がどこからともなく響く。
「ええっ。でも腕は?」
『申し訳ありません。セーラ様用ですのでそこはセーラ様ご自身のガントレットで守られているから無いのです』
 キャロルとしても無理をしているのでパーツは少なめにしたいのである。
『時間がありません。飛びますよ』
「わかったわ」
 友紀の瞳が闘志で燃える。その刹那、胸部プロテクターの背面から翼が展開した。
 羽ばたきもせずに高く飛び上がる。
「きゃあっ」
 ジャンプというレベルではない。まさに飛んでいた。驚いて悲鳴を上げる友紀。
 以前にファルコンアマッドネスとなっていた友紀ゆえに飛翔は経験済みだが、まさか鎧姿で飛ぶとは思っても見なかったのだ。
「なんだ?」
 異様な展開に思わず動きの止まるオクトパス。それを目掛けて友紀がドリル状にスピンしながらキックを見舞う。
「わわっ」
 空いている触手すべてでからめとろうと試みるが高速回転で逆に引きちぎられる。
 いくら衝撃を吸収するといえど限度があった。
「ぎゃああああっ」
 友紀が勢い余ってプールに飛び込むと同時に、さすがにたまらずセーラを離してしまうオクトパス。
 解放されたセーラは自分のことより飛び込んだ友紀を案じた。
「友紀?!」
 だがプールから友紀が顔を出した。
 普段から新体操で激しい動きに慣れているので、三半規管が回復するのも早かった。
「あたしは平気。みんなを助けてあげて」
「うん。ありがとっ!」
 弄られた怒り。そして友紀にもらった闘志がセーラを高揚させ戦闘モードにあっと言う間に戻した。
 友紀の持ち込んだボールを拾うとジャガーアマッドネス目掛けて投げた。

「ふぎゃあっ?」
 岡元&ウォーレンを掻い潜りながらジャンスに攻撃していたジャガーアマッドネスは、この不意のボールをまともに食らった。
 ましてやセーラのコントロールでありえない方向から来たので完全に予想外の攻撃。ダメージはさほどでもないが動きが止まる。
「もらったあっ」
 岡元がバイクからジャンプして空中回転。ジャガーの前に飛び降りると手にしていたクラブを思い切り腹に叩きつけた。
「ぐあっ」
 内臓をしたたかに打ち付けられて一瞬呼吸すら止まる。怪人といえど女。子宮もある。
「ちょっとしたリボ○ケインだな」
 憎い相手に得意げな岡元。続いて声高にジャンスに合図をする。
「今だ!」
 もちろんジャンスもわかっている。阿吽の呼吸だ。

「超変身」

 ピンクのオートマチックをのばして、黒いリボルバーの銃身にジョイントする。
 ロングバレルのライフル銃へと変化する。これでファルコンを撃墜した。
 変化したのは武器だけではない。
 紫色のメイド服が赤を経て鮮やかなピンクへと変化。ところどころにレースやフリル。
 ツインテールはそのままだがヘッドドレスがバニーガールの頭に鎮座する「ウサミミ」に。
 赤い靴。ボーダーのニーソックス。メガネはそのまま。

「完成! ジャンス・アリスフォーム」

 名乗りだけは忘れないが時間がない。狙撃用のフォームゆえ五感が倍以上に研ぎ澄まされている。
 だから神経の負担で30秒しか維持できない。ちなみに耳は飾りではない。本当に感覚器なのである。
 視力も向上しているがメガネはゴーグルとしての役割で残っていた。

 彼女は空を探して、敵を見つけた。ちょうどドーベルを追ってプールサイドを一回りしてしてきた。
「い、いかんっ」
 寸前で気がついてイーグルも背中を向けた。狼狽から来たとはいえど無防備な背中を見せる痛恨の大失策。
「もーらい」
 ジャンスのライフルがイーグルの翼を直撃した。
「ぎゃああああっ」
 動く相手ゆえにさすがに難しく心臓とは行かなかったが、撃墜には成功した。
 プールに落ちて激しい水柱をあげる。

 ドーベル・サイドカーモードはオクトパスアマッドネスの前で停車した。
 そして余裕を取り戻したブレイザがオクトパスの前に立ちはだかる。
 セーラは岡元に反撃しようとしたジャガーを背後から殴り倒した。
 そしてアリスフォームで限界までは魔力を使わずヴァルキリアに戻ったジャンスは、ずぶ濡れのイーグルが這い上がるのを待ち構えていた。

「……帰るぞ」
 ビルの屋上では軽部が諦めて背を向けていた。
「そうだね。逆転しちゃったし」
 秋野もプロフェッサーも興味を失いその場から去る。

 セーラに殴られても蹴られても衝撃は吸収できる。ジャンスの射撃も防げる。
 だが刃物となるとだめだ。オクトパスは青ざめていた。
 そして懸念どおり伸ばした触手を片っ端から斬られてしまう。
「ふん。下衆の末路は哀れなものですわね」
 相手は違うがブレイザの報復だった。
「ひいいいいいっ」
 たまらず逃げ出すオクトパス。相性のいい相手を目掛けて走る。興味を失ったように見逃すブレイザ。
(ま。あれだけやっときゃ大丈夫でしょ。それより)
 ブレイザは超変身の準備をする。

 スピードを誇るジャガーだが、セーラ・フェアリーフォームは上を行く。
 散々ジャンスを弄ったが、今度は逆にセーラのスピードに翻弄されていた。
「遅い!」
 セーラはジャガーの顔面を蹴り飛ばした。吹っ飛ぶジャガー。その行き先は…
 そして姿を変えるセーラ。

 今度は自分が弄られる羽目になったイーグル。
 罠として誘いこんだプールだが、皮肉にもそこに叩き落されて羽根が重くてなかなか飛べない。
 いや。羽ばたけば何とかなるがそれをジャンスがさせない。
 翼を盾としているのでどうにか急所を撃たれずにいるがどんどんとボロボロになる翼。
 それでも必死に飛び上がる。飛行機の離陸のようになんとか飛び上がる。
 そこに誰が待つかも知らずに。

 ジャンスはオートマチックの銃身にリボルバーをジョイントした。

 辛うじて残った二本の触手でセーラを絡め取るオクトパス。そのままプールの中へと引きずり込む。
「ぐはははは。今度は得意の水中で…」
 相性のいいはずの相手と戦うことになって得意だったが青ざめる。
 セーラは既にマーメイドフォームへと転じていたのだ。
「そうねえ。今度はあたしのバトルフィールドに入ってくるなんて、なかなか正々堂々としているじゃない?」
 怪力の人魚姫は難なく触手の戒めを解く。その触手を引っ張り手繰り寄せたオクトパスアマッドネスをリフトアップする。
「解放されたらそのスケベも治るでしょ。ちょっと痛いけどガマンしなさい」
 ミキサーのように回転して大渦を作り出し、そこにオクトパスを放り出した。
 怪人はなす術もなく錐もみ状態でダメージを受け落下していく。

 蹴り飛ばされたジャガーがよろよろと立ち上がると眼前にはゴシックロリータに身を包んだジャンスがいた。
「はぁい。ちょっと痛いけどガマンしてね」
 バルカン砲の様に回転して銃弾が射出される。
 蜂の巣となったジャガーはよろよろとあとずさる。

 やっとの思いでプールからのテイクオフに成功したイーグルアマッドネス。
 だがその線上に巫女装束のブレイザがいた。
 青ざめるイーグルだが濡れた翼が重くて高度が取れない。
 方向転換はなおさら出来ない。半ばやけくそで高速で突破することを選択した。
 しかし超感覚を持つブレイザ・アルテミスフォームの敵ではなかった。
 前方への斬でイーグルの首筋を。通り過ぎる前にぐるっと一回転した剣が足元を切り裂く。
 巌流・佐々木小次郎のつばめ返しだ。
「痛いですか? けどガマンなさい。罰です」
 奇しくも三人とも異口同音に同じことを口走っていた。

 力なく落ちたイーグルの上にオクトパスが落下してくる。そこに重なるようによろよろとジャガーが倒れこみ、三つの爆発音が闘いの終焉を告げた。

 セーラたちは困っていた。警官にどうやって言い訳しようかと。
 幸い既に三人の「元・アマッドネス」は警察が見つけている。
 今までの例から濡れ衣は着せられまい。だが逃げ遅れたにしては不自然だ。
「えーと、その。あのですね」
 無駄に女らしくなったセーラが警官相手に口ごもる。ちなみに逃げ遅れを装うためにまた水着姿になっているが、それを男の警察官に見られているのがたまらなく恥ずかしい「乙女心」だった。
「ああもう。じれったいですわね。わたくしたちが逃げ遅れたから隠れていた。それが信用できないというんですの?」
 誰が相手でもブレイザの高飛車は変わらない。警官もたまらなくなってきた。
「ああ、やはりいたのね。あなたたち」
「お姉さま」
 天の助け。薫子が駆けつけた。彼女のとりなしで一行は解放された。

 一応は着替えるふりをしてから出る。ジャンスはもちろん。既にセーラもブレイザも女の心が基本になっている。
 男になる気が失せていた。
 キャミソールにキュロットと友紀とまったく同じ格好になったセーラ。ある意味究極のペアルック。
 そっとセーラは友紀の手を握る。
「キヨシ……」
「助けてくれてありがとう。でも…もう危ないまねはしないでね」
「うん。でもまさか飛ぶとは思わなかったからビックリしちゃった」
 いい雰囲気の二人。しかし今は女同士である。
「それにしてもキャロル。あんな手があるなら普段から使えばいいのに」
 恥ずかしくなったのかごまかすようにキャロルにふる友紀。
「いえ。昔のセーラ様なら完全に女性ですから切り札で使えたのですが、今のセーラさまではまだ男の心が残っていてそれがわたしとのシンクロを阻害するんですよ」
「なるほど。だからわたくしたちではあれが出来ないのですね」
「キャロルちゃんもセーラさんも女の子同士だからシンクロできるけど、あたしたちの使い魔は男の子だしねぇ」
 ジャンスやブレイザの精神女性化が進めば進むほどシンクロできなくなる。
 そもそも戦闘スタイルが違う。
「会長があれを使えたらもっと凄いのになぁ」
 そのつぶやきで思い出したかのように森本をにらむブレイザ。
「そういえば森本。誰がえぐれ胸ですって?」
「す、すいません会長。あれはつい」
 いえなかった。森本を優しく抱き寄せてブレイザは自らの胸に森本の顔をうずめさせた。
「これでもえぐれてますか?」
 しかしその声には怒気はない。普段の高飛車からは信じられないほど優しい笑みを浮かべる。
「助けてくれてありがとう。そして……これからも守ってくれますか?」
 信じられないというように顔を見上げる森本。そして元気よく「ハイッ」と返事した。
「いいなぁ。みんなラブラブで」
「ちょっと。あんたが言うの?」
 疲れているだろうと岡元がジャンスを「お姫様抱っこ」しているのである。
「ねえみんな。ちょっと提案があるんだけど。敵も連携で攻めてきたことだし」
 薫子が切り出した。

 翌朝。洗面所で落胆している順。上半身裸。
「あーあ。やっぱ一度変身が解けるとだめかぁ。憧れなんだけどなぁ。ビキニの日焼けあと」
 さすがに水泳の授業は男子の服装で受けている。上半身ムラなく焼けていた。

「お兄ちゃん。夏休みだからっていつまでもふとんに入ってないで出てきなさいよ」
 理恵の甲高い声が響く。しかし清良は亀のように引っ込んだままだ。
「理恵様。実は…」
 プールでの経緯を喋ってしまうキャロル。途端ににやっという表情になる理恵。
「あー。昨日はずっと『お姉ちゃん』だったんだぁ」
「言うんじゃねぇ」
 天岩戸が開いた。

 そして伊藤家。その玄関先。
「あ。森本さんですか。兄はまたこんな書置きを残して」
 礼の妹。瑞穂が事務的に言う。ちなみに胸は歳の割には結構ある。
「ああっ。あそこまでしてたから心配してたけど」
「今度は何したんですか?」
「………ハグ」
「まったく、そのくらいで兄さんてば」
 書置きには「旅に出る」とだけ記されていた。

 そのころ、礼は禅寺で座禅を組んでいた。
(……あんなことまでしてしまうなんて)
 清良との不仲は「近親憎悪」もあるかも知れない。


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