「セーラちゃんっ」
「セーラさんっ」
 激しく狼狽する薫子とブレイザ。そんな中で「ジャンス」は「にぃっ」といやな笑みを浮かべていた。

 突然飛び出してきた少女にトラックの急ブレーキは間に合わない。
「味方」相手に油断していたセーラは無防備でそこに突き飛ばされた。
 そして跳ね飛ばされる。やっと止まったトラック。
「だ、大丈夫かっ」
 運転手が慌てて飛び降りてくる。騒然となる現場。何台かの車は止まり、ドライバーが状況を確認に来る。
 中には携帯電話で救急車を要請しているらしきものもいる。
 誰もが即死と思ったが
「あたたたた。なによもう」
 なんとジャージ姿の少女が平然と起き上がったのだ。仰天する野次馬たち。
 その中には驚きつつも安堵する薫子の姿も。
「セーラちゃん。無事でよかった。でもなんで?」
「お忘れですか? 一城さん。わたくしたちのこのウエアがエンジェルフォームのそれということを」
 そう。いつもと違うから錯覚するがデザインが違うだけでこれも「魔力の鎧」には違いないのだ。
 攻撃力は低いものの顔とか手とかむき出しの部分も守られている。
 だからトラックに跳ね飛ばされても無事だったのだ。

「さて。悪ふざけが過ぎるんじゃありませんこと? ジャンスさん」
 冷たい目つきのブレイザ。明らかに「敵」に対するものだ。
「うふふ」
 微笑でかわす「ジャンス」。いきなり走ってきた方向に逃げ出した。
「あっ。お待ちなさいっ」
 ヴァルキリアフォームなら追いつけるが姿も変る。野次馬だらけの前で変身は出来ない。
 人ごみにまぎれて逃げ切られた。

戦乙女セーラ

EPISODE32「嫌疑」

 一方のセーラは必死に弁明を続けていた。
「大丈夫です。あたしちゃんと受身取りましたから」
「し、しかしもろに直撃だったぞ」
「あー。当る瞬間にフロントを蹴ったんです。自分から飛んでいるからダメージはないです。心配かけてごめんなさい」
 トラックの運転手としては最悪で業務上過失致死。
 「少女」の一方的な過失と認められ罪は逃れても、人一人轢いてしまったのでは罪の意識もある。
 ところが当の少女自身が無事を主張している。
 実際にかすり傷一つない。
 困惑するがとにかく病院へ連れて行こうとする運転手。
 悪意どころか善意なので強くはでれないセーラ。ましてや突き飛ばされたといえど自分のほうに原因がある。
(こうなったら)
「ごめんなさい。ちょっと離れてくださいね」
 周囲から人を離すと
「キャストオフ」
 ジャージが吹っ飛ぶ。最低の威力にしたのでぱらぱらと散るだけで被害なし。
 これに驚いた野次馬だがさらにセーラがレオタード姿になったことで思考回路が停止した。
 そして飛んだことで「これは夢だ」と結論付けた。
 もっと大きなインパクトで上書きしてしまったのだ。
「あれって……正義のヒロイン?」
 そんなバカな。子供番組じゃあるまいし。トラック運転手は頭を振った。

 パトカーと救急車は薫子が身分を明かして説明。救急車はUターン。
 パトカーは形式的に事情聴取。飛び出したのがセーラのほうだし、ブレーキをかけ病院に運ぼうとまでしていたのでトラック運転手は無罪放免であろう。

「ふう。何とかなったわね」
 運動ではない汗をかいた薫子。
「お姉さま」
 半そでのスクールブラウスとプリーツスカート。いかにも夏季講習に行く女生徒というような格好に変装したセーラが戻ってきた。
「ああもう。逃げられましたわ」
 ブレイザも戻ってきたそこに
「どうしたんですか? 何の騒ぎですか? 皆さん」
 怪訝な表情のジャンスが現れた。

 ジャージ姿の若い女性。ランニングでもしていた印象のそれが人気のない場所に入る。
 ほんの一瞬だけ揺らぐと長島の姿になる。
「彼」はケータイを取り出すと通話を開始する。
 傍目にはサラリーマンが連絡しているようにしか見えない。
「申し訳ありません。アヌ様。セーラ暗殺に失敗しました」
『かまわん。エボ。お前の任務はやつらに化けてやつらの間で疑惑を持たせること。成功すればよし。失敗しても互いに疑いあえばチームワークどころではない』
 報告を受けたアヌは薫子の意図が不明でも、これで連帯意識が芽生えては面倒。
 だから倒せないまでも結束させないように妨害を差し向けた。
 それがこの擬態能力を持つエボだった。
「はっ。では続けます」
 短く通話は終わった。
「さて。今度は」
 一瞬だけカメレオンを印象させる異形の姿に。
 そしてそこからブレイザの姿へと衣類もろとも変わる。
 あまりに素早いためアマッドネスの波動を出すのはほんの一瞬。だから戦乙女たちも感知できない。
 この擬態能力は指紋まで一致させることができる。
 そしてこれはアマッドネスの姿でないためか戦乙女たちにも感知できない。
 だからニセジャンスも気がつかれなかったのだ。
 ブレイザの姿を盗んだカメレオンアマッドネスことエボは確認だけして元の姿に戻る。
 そしてセーラたちのトレーニングしている施設へと出向いた。

「そんなのあたしじゃないですよぉ」
 無実のジャンスは当然ながら抗議する。
「でもあんたに突き飛ばされたのよ」
 『被害者』のセーラにしたら怒りはもっともだ。
「だから知りませんってば」
 堂々巡りである。
「ねえ。それじゃジャンスちゃんはどこにいたのよ?」
 薫子が言うと「よくぞ聞いてくれました」という表情になる。
「途中のお店。ウエディングドレスが展示してあったんですよ。それ見てうっとりしてて」
 思い出したのか恍惚の表情になる。
「あんた……嫁に行く気?」
 怒りを忘れて突っ込むセーラ。まさか毎日変身して過ごすわけでは?
[やっぱり憧れますよねー。女の子ですし」
 笑顔で同意を求めるジャンス。どん引きのセーラとブレイザ。薫子は生粋の女性ゆえに花嫁衣裳に憧れる気持ちは理解出来たので引かないものの
「うーん」
 うなる薫子。これがセーラやブレイザだと考えにくいが、ジャンスとなると否定しきれない。
 しかしアリバイはない。
 もやもやしたまま訓練に向かう。

 前日と同じメニューだった。
 対空に難のあるブレイザは薫子をパートナーにその特訓。
 残りの二人でスパーリングだった。
「さぁて。さっきのうらみもあるからね。ちょっと厳しく行くわよ」
「だから知りませんってば」
「本当かウソかは体に聞けばわかることよね」
 取り様によってはかなり危ない台詞である。

(ふふふ。夢中になっているな)
 激しくやりあうセーラとジャンス。その激しさにギャラリーが出来るほどだ。
 それにまぎれてブレイザへと姿を変えるカメレオンアマッドネス。
 なんとヴァルキリアソードまで出現。能力までコピーできる。
 ブレイザの姿で油断させ、接近したところで斬りつける。
 失敗しても亀裂は確定。だが
「お二人とも。ちょっと特訓に付き合っていただけます? やはり一城さん一人ではどうしても単調になって……」
 言葉を失う二人のブレイザ。
 ギャラリーは「双子か?」という程度だったがセーラとジャンスも仰天した。
「ブ、ブレイザさんが二人?」
「どういうこと。ニセモノ? しかしアマッドネスの気配は?」
 だから混乱した。アマッドネスの波動を捉えてなかったので『油断していた』のだ。
 動いたのは本物のブレイザのほうだった。アルテミスフォームほどではないが、素早く刀を抜き胴を薙ぎに掛かる。
 ニセブレイザはとっさにニセのヴァルキリアソードで受け止めた。その際に胸元がかすかに揺れた。
「わかったわっ。お前がニセモノねっ。ブレイザにしては胸がありすぎるわっ」
 真顔で指摘するセーラにブレイザ(本物)が斬りつける。
「貧乳貧乳といつまでもしつこいですわ。胸があるのがそんなにえらいんですのっ?」
「ふふふ。安心していいわよ。世の中にはナイチチ好きな男もいるから」
 真剣白羽取りをしているのに憎まれ口を叩くセーラ。
「ああ。そんなことしている場合じゃないのにっ」
 人がいなければジャンスも撃ったが事情を知らない人前で発砲は躊躇われた。
 そのスキにニセブレイザは逃げた。

 スポーツ施設の休憩室。薫子を含めた四人は話し合っていた。
「敵は擬態能力を持つみたいね」
 冷静な分析をする薫子。
「あたしに化けたのもそいつですね」
 いつもは飄々としているジャンスもさすがに憤慨している。
「参ったわね。攻撃されるまでわからないのよね」
 実際にやられかけたセーラが頭を掻きながら言う。
「そもそもここにいるのは全員本物ですの?」
 ブレイザの余計な一言である。互いに疑惑の目を向ける。
「とりあえずあんたは本物みたいね。ここまで胸がまっ平らな女なんてほかにはいないわ」
 何度言われてもカチンと来る一言。ブレイザも青筋を立てながら言い返す。
「……あなたも本物のようですわね。延々同じことをしつこく繰り返すあたり。胸に栄養を全部持っていかれて軽くなったおつむだから同じことしか言えないんですわ」
「何よ? やる気」
「望むところですわ」
 一触即発のセーラとブレイザ。
「やめなさい。敵の思うつぼよ。暗殺というより仲たがいが目的かもしれないわ」
(いつもどおりの気がしますけど……)
 薫子の制止をぶち壊さないように心中で思うだけにするジャンス。
「とりあえず」
 薫子は身だしなみ程度の抑えたメイクをしていたが、少し濃い目にしなおした。
 これを知らないで薫子に化けたらメイクの差で偽者が判明するというわけである。
「あの……あたしもいいですか?」
 おずおずと切り出すジャンス。
「一応は高校生なのよね。ちょっと早いけど今回は非常事態ということで」
「わぁっ。ありがとうございます」
「じゃ口紅だけでもね」
 大人しくなったジャンスの唇を自分のルージュで彩る薫子。
「お姉さまは詩聖堂のルージュなんですね。あたしはカゼボウのなんですよ」
 自分のポーチからメイク道具一式を出すセーラ。
「あなた、家をでる時はまだ男の精神が残っていたでしょう? どうしてそんなものを持って来ようと思ったんですの?」
「駅まで歩いているうちにどうしても持ってきたくなってひきかえしたわ」
「……そうまでして自分の化粧道具を持ってくるとは」
 呆れるブレイザである。
「そういわないであなたもやってみなさいよ。女の嗜みよ」
「そ、そうですか?」
 実は少々興味がわいていた。

 そのころ、留守番である使い魔たち。そして友紀。森本。岡元は「自主トレ」中だった。
 不在の時にアマッドネスが出現したらまずいのでまだ数多く残ると推測される福真市で留守番だった。
 何かがあれば念で伝える。

 福真市にある倒産したビルの解体現場。
 その敷地に広いスペースがある。そこでこちらも訓練中だった。爆走するサイドカー。本格的なレーシングスーツの少年が乗っている。
「森本君。もっと体勢を傾けて」
「こう?」
 森本はドーベル・サイドカーモードを駆り走り回っていた。
 ブレイザがカーゴ部分に乗っての攻撃をサポートするのを想定してだ。

 夏にもかかわらずジャージの上下で肌の露出を防いでいる友紀。
 しかも肘や膝にサポーターをつけている。手袋までしている。
「キャロル。お願い」
「いきますよ。友紀様」
 キャロルは鎧のパーツへと変化した。そして友紀の頭部。胸部。腰部。脚部を覆う。
 翼を展開させて舞い上がる。
 セーラのサポートをするためにその持続時間を延ばす目的であった。

 そして元々強い岡元は…
俺の強さにお前が泣いた……違うな。この場合ポーズはこうか?」
 見栄えのいいポージングを研究していた。
 岡元に言わせるとまず心理戦で優位に立つべく、相手を圧倒する目的で名乗りをあげるのだそうである。
 闘いは出会った瞬間に始まっているという持論なのだ。
「それじゃジャンスの好みとはあわねぇな」
 ウォーレンがそれを見て評価していた。

 偽者対策で4人まとまることにした一同。だが生理現象はガマンできない。
「ちょっとごめんね」
 トイレにたつ。そしてその際の危険性を失念していた一同。
(くくく。メイクを変えたところで無駄だ。それもまねることは出来るぞ)
 エボは薫子と同じ姿に転じるとすぐさま三人のところに行く。
 疑っていたとしても薫子の姿で現れればいきなり攻撃はされないと読んでいた。だが
「このニセモノ!!」
 いきなりセーラがニセ薫子を殴り飛ばした。
「ちょ…何するのよ? セーラ
 一応とぼけて見る。内心は自信のあった変身が見抜かれて愕然としていた。
「お姉さまはあたしのことをセーラちゃんって呼ぶわ」
「いきなり殴られてそんな友好的に出来ると思う?」
 言い訳にはなる。
「あなたの口紅。その色だとカゼボウのものね。でもお姉さまは詩聖堂のを使っているのよっ」
「……って、普通そんな違いはわかりませんわ」
 自分もその詩聖堂の口紅をさしたブレイザが呆れて言う。
「伊達にメイクとファッションの研究はしてないわよっ」
「さすが。ぶりっ子の第一人者」
 今回は胸のことを散々にいじられているせいかいちいち突っ掛かるブレイザ。
「ちょっと。こんなときに喧嘩売る気?」
 あまり「ぶりっ子」はありがたくない印象のセーラ。これまでのことも伏線となってまた火花が散る。
「あああっ。だからそれで逃げられますってば」
 同じことの繰り返しだった。

 水中トレーニングとなった。一応は更衣室に行く4人。
 出てきたのは薫子。ブレイザ。ジャンスだけだった。
(罠か? だがそのタイムラグが命取りよ)
 セーラに化けるエボ。シンプルな競泳用水着で合流する。

「ごっめーん。遅くなっちゃったぁ」
 女の子走りのセーラがかけてくる。
 それにいきなり斬りつけるブレイザ。ばれているケースを想定して逃げることを頭に置いていたので間一髪逃れたカメレオンアマッドネス。
「いきなり何するのよ?」
(何でこいつらはこうも躊躇いなく攻撃して来るんだ。ちったぁ迷え)
 心中で毒づくエボ。
「ふん。研究不足ですわ。あのぶりっ子女が水着と聞いてそんな地味なデザインにするものですか。最低でもフリルやリボンをつけないと」
「くっ」
 そこに本物のセーラがやってきた。ピンクのビキニ。盛大にフリルとリボンをつけて。
 あんぐりと口をあけるニセセーラ。
「あれでもまだおとなしいほうですわ」
 呆然としているうちに本物の接近を許してしまった。
「あっ。そいつは!?」
 いうや否やキャストオフ。体操着姿のヴァルキリアフォームに。だがニセセーラはにやっと笑う。

「キャスト オフ」

 なんとこっちもヴァルキリアフォームと転じた。そこまでコピーされたのだ。
「このまねっ子が」
「ニセモノの分際で」
 激しい拳の応酬。もはや人目など関係ない。派手にやり合っていた。
「ああっ。どっちが本物かわからないっ」
「こうなったら本物に勝ってもらうしかありませんわ」

 不意に片方がプールに飛び込んだ。逃げるなら走った方が速い。
 プールを使っていた他の人間の元に向かっている。人質に取るつもりと感じた。
「させるもんですか。超変身
 セーラは飛び込むとマーメイドフォームに転じた。しかしニセモノがにやりと笑う。
「ありがとう。これで全部のフォームを見せてもらったわ」
「えっ?」
 ニセモノは水から飛び上がるとフェアリーフォームに転じた。
「そうか。あのトラックの事故のときにセーラちゃん飛んでいるわ」
 それを見られていたのだ。
 そしてニセのフェアリーは上半身を浮かせたマーメイドを空中から攻撃する。
 飛べないマーメイドでは攻撃を避けるだけだ。
「それなら」
 本物も俊敏体へと変化する。ところがニセモノが今度は剛力体へと転換。プールに飛び込む。
「それっ」
 水をかける。それもマーメイドの豪腕でのそれである。かなりの水圧になる。
「きゃあっ」
 叩き落される妖精。水中をテリトリーとする相手に苦戦は必至。だが時間が長すぎた。
 他の利用者がみんな逃げてしまった。
 それで戦乙女たちの制約がなくなった。
 いくらダメージが殴られた程度といえど当たり所が悪ければ致命傷もありえる。
 それを嫌って撃たなかったジャンスだがもうそれも考えなくていい。

「キャストオフ」

 わずかな瞬間だけジャンバースカート姿になるがそれをふっ飛ばしてメイド姿に。そして

「超変身」

 黒いゴスロリ姿でガトリングを乱射するロリータフォームへと姿を変える。
 後は二人を狙うだけ。本物のセーラにはダメージはないも同然だが、アマッドネスには大ダメージ。
 トリガーを引くと嵐のように銃弾が。
「ぐぎゃああっ」
 弾丸をくらいカメレオンの異形としての姿を晒す。
「どうやら化けていられなくなったみたいね」
 セーラはマーメイドフォームになるとカメレオンアマッドネスをリフトアップ。
 それをプールサイドにたたき出した。
 本人は飛び出してフェアリーフォームで高度を取り、とび蹴りを見舞う。
 充分なスピードが乗ったところでヴァルキリアフォームに。

「ヴァルキリィィィィッ、キィィィィックゥゥゥッ」

 銃弾を食らった状態ではよけることもかなわず。
 あっさりとキックの前に散華した大根役者であった。

「恐ろしい敵だったわ」
 一同に合流したセーラが正直な感想を告げた。
「でも片付きましたわ。終わったのでいいますが……セーラさん。あなた人の胸のことをどれだけけなせば気が済むんですの?」
「あんたこそさっきいきなり斬りつけていたでしょう? あれは本物のあたしでも躊躇ってなかったわね?」
「まぁまぁふたりとも」
「そもそもあんたが腹黒だから付け入る隙が」
「ひ、ひどい。それにセーラさん。人を散々非難したけどニセモノのやったこととわかっても謝ってくれないんですか?」

 三人娘のケンカは続く。
 はては決裂して二泊の予定を切り上げて帰ってしまうほどであった。

 カメレオンアマッドネスは倒されはしたものの「戦乙女の協調性を失くす」という任務は完遂したことになる。


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