男子校だった福真高校が共学化したのは近年で男女比は男7対女3くらいだった。
 しかし度重なるアマッドネス事件であるものはアマッドネスと化し、あるものはその被害に。
 他にも外部で被害にあう男子生徒が続発。
 それもあり現状では男45パーセントに対し女55パーセントと逆転していた。
 もちろん逃げ出した者もいるがこの街に住んでいたら同じだからと学校にとどまるものも多かった。
 また「被害者」たちがほとんど健康な美少女と化した上に鬱屈から開放されているケースが多いためか「女になっちゃってもいいか」と思う生徒もいたのがこの傾向に拍車をかけていた。

 余談だが市内の福真高校の制服取扱店は一時的に女子用が在庫切れを起こす始末。入学シーズンならともかく中途半端な季節に制服が売れたためである。
 そんな学校だから前日まで男子生徒だったものが女子生徒として登校してくるのは日常茶飯事であった。

 ただそれが野川友紀と共に登校してきたとなるとざわめきが起きる。
 そしてそこにいるはずの高岩清良の不在。

「まさか高岩までやられたのか?」
 喧嘩無敵のあの男もさすがに怪人にはかなわなかったのか?
 そんな思いゆえである。


戦乙女セーラ

EPISODE40「少女」


 ホームルーム。出席をとる。
 清良が一年のときに起きたアマッドネス事件のときに女性化した生徒たちに配慮して、現在は男女をわけず五十音順の出席番号である。
 もっとも例え区別されていても女子扱いに抵抗感を感じるものはいなかったのだが。
「高岩……はサボりか」
 担任は決め付けている。いや。むしろそう思い込もうとしている。
「はい」
 綺麗な声で一人の少女が挙手をする。
 ショートカットをツインテール。そしてめがねと狙い済ましたような姿だ。
「あー。君は?」
「高岩せいらです」
 ざわめきが起きる。とうとう本人が言い切った。額を押さえる友紀。
(変装の意味がないじゃない)
 どうしても登校すると聞かなかったセーラに示した妥協案が別人としてもぐりこむと言うものだった。
 その際に変装していたが無意味に。
 両腕にはガントレットを変化させたブレスなど一切のものがない。
 つまり「変身していない」と言うことになる。
 この姿が基本と言うことである。

 短いインターバルにクラスメイトが殺到する。
「高岩? 本当に高岩なのか?」
「おまえまでまさか!?」
「しかしなんてかわいらしい姿に」
 質問の内容がさすがに普通の学校と違う。
「あー。ごめんなさい。実はあたし替え玉なんです」
 軽く上目遣いで申し訳なさそうに言うセーラ。
「替え玉?」
「はい。あたしはキヨシの従姉妹で」
「ああ」
 安堵したのが本音。高岩はやられてなかったんだと。
「じゃ本人は?」
「なんか喧嘩無頼の旅に出ると言ってました。武者修行かしら?」
 かわいらしく首をかしげるセーラ。
(よくそれだけ嘘八百が…)
 友紀はあきれ返っていた。それをよそに納得して行く生徒たち。
「あー。それならわかる」
「あいつならやりかねん」
「でもなんで替え玉が女の子?」
「アマッドネスにやられたことにして清良としてもぐりこめって頼まれて」
 男子が女子になる際に極端な変化をおこすケースもあった。それを見越したと一堂は理解した。
「そんないい加減な」
「まぁあいつは細かいことにはこだわらなさそうだしな」
 「本人」の目の前で言いたい放題である。
 それを当の「本人」はニコニコと人当たりのいい笑顔で聞いていた。
「なぁんだ。それじゃ化物の被害にあったわけじゃなくて普通の女の子なんだ」
 この中には男が転校して行き、よく似た名前の女の子が来たら本人の変身した姿と疑うものにはいなかったらしい(笑)
「ええ。あたし普通の女の子ですから」
 芝居ではなくセーラは言い切る。
 その優しく愛らしい笑顔とてもではないが男の心では出来ない表情だった。

 一時間目がすみ二時間目は女子は家庭科だった。
「友紀。行きましょ」
 笑顔でセーラが呼びかける。
「ちょっと。男子は技術科でしょ?」
「なに言ってんのよ? あたしは女の子よ」
「キヨシ……」
 うきうきとスキップしかねないセーラの後姿につぶやく友紀。

 家庭科は女子のみなのでクラスの半数以下。そのため合同と言う形で行う。
 本来は違うクラスである安楽千由美や飛田翔子。そして他にも元・少年の少女たちが多数いた。
 視線の集まる中、調理実習でセーラは見事な包丁さばきで野菜を切り刻んでいた。
「ふうっ。これでよし」
 準備完了で息をつくセーラ。その途端に絶賛の嵐。
「わっ。なになに?」
「すっごぉーい」
「高岩君。そんな事もできたのね」
「ううっ。あたしには無理だわ」
 ちなみにこれはすべて元・少年たちのコメント。
 奴隷女にされて解放されてもある程度は男時代の負担が消し飛んでいる。
 そのためか女性化をネガティブに考えるものもなく、むしろ男時代より明るくなったものも多い。
 もちろん女にも男とは違う苦労があるがそれはまだこれからの話。だからかもともとの女性より明るくハイテンションな傾向がある。
 今まで背負い込んでいた「男としての気苦労」から解放されてか女性化を受け入れていたものが大半だ。
 中にはかつての親友である男子と現在は恋人として付き合っているものもいる。
「大丈夫よ。女の子ですもの。出来るようになるわよ」
 優しく柔らかい笑みで言う。戦わないときのセーラはどちらかと言うと優しい性格のようだ。
「でもコツがあったら教えてぇ」
「そうねぇ……好きな相手を思って作って見たらいいんじゃない?」
 盛り上がる周辺。ただしセーラは「好きな男」とは言ってない。
 思った相手が友紀である可能性もあるのだ。

 その友紀。そして千由美と翔子はやたら女性的なセーラに苦々しい表情をしていた。
 少なからず好意を寄せる彼女たちにして見れば「思い人」がこうまで女らしくては当然の反応だ。

 ワンルームマンション。最低限の家具しか置いてない。
 これはその「男」。秋野光平が女性の家に泊まり歩くことが多いからだ。
 そのベッドで主である秋野が苦痛にうめいていた。
(くそっ。一夜明けても吸収できないなんて……)
 未だにセーラから奪い取ったものを自分のものに出来ないでいた。

 三時間目の英語を終わらして四時間目の体育。この学校は男女も混合。
 その能力で一瞬にしてコスチュームを変化させられるはずのセーラはもたもたと「着替えていた」
 さすがにランジェリーは持ってないためこれは能力で変化させているもの。
 わざわざ普通のBカップブラを外してスポーツブラに変化させてから付け直している。
 あくまで「普通の女の子」として振舞おうとしている。

 授業内容は陸上競技であった。残暑もあり軽く走っただけで汗だくである。
「ふぅーっ。あっついわねぇ」
 屈託のない笑顔で同意を求める少女。セーラ。
「ほんとよねぇ」
 これは元からの女子が返答。まるでセーラももともと女子であったかのように溶け込んでいる証。
「ふう。暑い暑い」
 暑さのあまり、そして周りがみんな女子のせいか体操着を開いたり閉じたりして風を取り込もうとしている。
 素肌が見える。男子の目が集まる。それに気がついたセーラは
「エッチッ」
赤くなって走り去ってしまった。
 どうやら女性としての羞恥心まであるらしい。

 同じころ。ライはやっと苦痛から解放された。
「ふう。やっと吸収できたか。さて。何が出来る?」
 ためしに怪人の姿になりイメージをして見る。すると女でありながら筋力のついた肉体になった。
「これはセーラの剛力タイプか。すると」
 反対に話に聞くフェアリーフォームをイメージする。果たして俊敏な肉体に変化した。
「これはいい。早速使ってみよう」
 クイーンに対しての謀反から討伐される危険性がある。
 すばやく次のターゲットのブレイザをおびき寄せるべく行動を開始した。

 お昼休み。中庭の木陰で友紀とセーラ2人で弁当を広げる。
「それ……自分で作ったの?」
「ええそうよ。女の子ですもの。自分のお弁当くらいはね」
 これはセーラの返答。ただし見た感じかなり「凝っている」あたりは弁当を作り始めた初心者を思わせる。
(まだ少しは男の部分があるのかしら?)
 思わず凝視してしまう友紀。
「なによぉ。そんなに見つめられたら照れるじゃない」
 本当に頬を染める少女。
「ねぇ。キヨシ。本当に自分が男だって事を忘れたの?」
「ううん。覚えているよ。あたしは男として生まれ、ずっと男として生きてきたと」
 この言葉にほっとした友紀。
「でもね、今はなんだかそれが夢だった気がするの」
「えっ?」
 希望から絶望へ。
「やっと元の自分に戻れた。そんな感じよ」
「!?」
 たわごとで片付けるには重すぎた。
 高岩清良は過去の戦乙女。セーラの生まれ変わりと聞かされていた。
 セーラを清良にしていたものをライが奪い取った。だから「元のセーラ」が現れた。
 今はまだ「高岩清良」の記憶がある。しかし人格は完全に少女のもの。
 完全に取り除かれていたら清良は消滅していた。
 そしてそれも既に風前の灯。
 この少女は今の姿こそが元の姿と言い切った。
 何とかしてライから「力」を奪い返さないとこのまま消えてしまう。

 そのころ薫子はのり子と仕事の話をしていた。
「中屋敷純郎?」
「本庁のマル暴よ」
 暴力団相手の担当警察官のことをさす。
「その人がどうしたの?」
「ええ。私も取り付かれてわかったけどアマッドネスと言うのは何か精神的にシンクロすれば融合できるみたいね」
「セーラちゃんの話だといじめられっこが復讐を考えて蜘蛛の怪人になったこともあると言うけど、それも報復と言う点ではシンクロするわね」
「歴史に現れないほどの昔から封じられ続けていたんじゃ負の感情もそりゃたまっているわよね。だから負の感情で取り付きやすいと言うことらしいわ」
「なるほど」
 とりあえず薫子は話を全部聞くことにした。口を挟まず促す。
「警察が後手後手なのは突拍子のない話と言うのもあって本腰を入れてなかったのもあるけど、どうも上の足並みがあってないと思ったのよ。それでもしかしたら私のように」
「……警察内部にも奴らが?」
「それでとりあえず『噂』を聞いてみたわ。何かいつも不平をももらしているような奴を。もちろん給料がどうとか対人関係なんてのより思想家のようなのを重点的に」
 なるほど。いわれてみればアマッドネスも「軍」だ。そのほうが確率は高い。
「それで引っかかったのが中屋敷?」
「ええ」
 しかしあくまで「疑わしい」だけである。何も証拠はないし手は出せない。
 そのあたりはのり子も踏まえていた。
 頭の片隅にでもと言う程度の話だった。

「ところで彼。高岩君。どうなのかしら? 治るの?」
「それはなんとも。でも鍵はその美形男子とやらね。今日はモンタージュを取りに行くわ」
 本体とも言うべきライが健在なため未だ奴隷女状態ではあるが、被害を免れた生徒もいる。
 それに話を聞くべく薫子は部屋を出た。

 放課後にあたる時間。
 ライはブレイザにターゲットを絞り移動していた。
 遠距離攻撃の得意なジャンスは二人のパワーを取り込んでから戦うつもりだった。
 だが拠点から移動中に福真市の近く。とある駅前で立ち止まる。
(な、なんだ? おさまったはずなのに)
 再び内部での苦悶が始まる。
 たまらず醜い異形姿をさらす美青年。
「きゃあーっっっっ」
 その怪物出現に逃げ惑う人々。
「うぐぁわわわっ」
 本人もまるで嘔吐するように毒胞子を撒き散らす。今度は無差別に奴隷女へと転じていく。

「むっ」
 一人の「女」が感知した。
「いたか。ライ」
 甲を下にした左腕を右に。その手首に右手首を重ねる。
 そのまま右へ運びさらに中央へ。
 そしてゆっくりと前方に運び上下反転させる。
 スズメバチの異形と言うよりそう言うデザインのスーツとヘルメットのライダーがいた。
 彼女・スズは鉄の馬。ダークブレイカーを召還して感じる波動。「クイーンのかけら」を頼りに走らせた。

 そのころ。福真高校。中庭で理想の男子について盛り上がっていたセーラと幾人かの女子(全員元男)
「あれっ?」
 突如としてセーラの表情が険しくなり怪訝な表情をする少女たち。友紀は新体操部があるのでこの場にいない。
「どうしたの? せいらちゃん?」
 既にファーストネームで呼びあっている。
「女の子はお嫁に行って苗字が変わるから名前で呼んで」と本人が言い出していた。
「ううん。なんでもない。気のせいだったわ」
 戦乙女やアマッドネスが互いの存在を感じ取るのは共に同じ力。クイーンのかけらのせいである。
 だがその大多数を奪われたセーラは感じ取る力が著しく下がっていた。
 普段なら感じ取れる距離にいるライだが、それがひどく弱々しくて確信が持てない。
 だから「気のせい」で片付けてしまった。
 そのエリアであるセーラでこの始末。
 いくら通常の状態とは言えど礼や順ではなおのこと感知出来ない位置だ。
 つまり掛けつけることがない。一人だけを除いて。

 暴走するライは戦略も何もなくただ毒胞子を撒き散らしていた。
 そこに一台のバイクが駆けつけてきた。
 黒地に稲妻のような黄色いラインの走るそのバイク「ダークブレイカー」が減速なしでライに体当たりを敢行した。
「ぐわぁぁぁっ」
 比ゆではなく吹っ飛ばされるライ。青果店に突っ込み梨や柿など季節のものを盛大にぶちまけつつ飛び込む。
「そこまでだ。ライ」
 ブレイザでもジャンスでもなくスズメバチの女戦士がいた。
「き、貴様はスズか? ギルが倒されたときいていたが貴様だったのか?」
 激しく狼狽するライ。かつて自分を切り捨てた相手。まして今は体調不良。戦いはご免こうむりたかった。
「ライ。セーラから奪った物を返してもらうぞ」
 スズはダークブレイカーの右ハンドルから細い剣(銘・ニードル)を抜き切っ先をつきつける。
(待てよ。こいつ翅がない? どうやらヨリシロと相性が悪いらしいな。飛べないなら)
「丁度いい。おまえの魔力もいただこうか」
 元は同じ力。こちらでも同じだ。
「正面から戦って私に勝てると思うのか?」
「いつまでも同じと思うなよ」
 キノコの異形は一回り大きな肉体になった。
「何?」
「そおらっ」
 ライは地面をえぐる。そのまま掘り起こしたアスファルトをサッカーボールのように力任せに蹴り飛ばした。
「くっ」
 塊だったのでそれを切り裂いて難を逃れたスズ。
 その背後にライが現れた。今度は逆に一回り小さく、そして羽を出していた。拳を見舞うが何とかかわして体勢を立て直すスズ。
「その能力。セーラのものか?」
「どうやらそうみたいだよ。はははっ。自慢の翅がなくては逃げ切れないだろう」
 力を取り込んだせいか気分が高揚しているらしいライ。
 それに対しあくまでクールに戦うスズ。

「はっ!?」
 今度ははっきりと感じ取れた。ライの戦意が高揚してより強く波動が出たからだ。
「この感触…間違いないわ。あいつね」
 怒りの表情。つややかな唇にそっと指を当てる。
「ごめん。用事を思い出したの。またね」
 いうなり彼女は外へとかけだしていく。そして呼び寄せる。
「キャロル」
「はい。セーラ様」
 状態が異常なため学校そばで待機していた。そしてコンビをくんで長い。すぐさまバイクモードに転じる。
 セーラはひらりとまたがるとライダースーツへと姿を変える。
「待ってなさい。ファーストキスの代償は高いわよ」
 全開で飛んでいく。

 華麗に宙を舞い毒胞子をかわす。そしてスズは剣できりつける。
「ぐぁっ」
 短い悲鳴をあげて肩を抑えてうずくまるライ。傷自体はすぐに再生したが痛みは残る。
 ゆっくりと歩み寄る仮面の女戦士。仮面なのに怒りの形相が見えるのは露出した赤い唇がゆがんでいるからか?
「なんだ? スズはこんなに熱い奴だったか?」
 まるで誰かの仇と狙われたようだ。
「場合によってはヨリシロごと葬る」
 はったりにしては重すぎた。
(こいつは本気だ…戦乙女ならヨリシロを再生できるからその分だけ迷いが少ないが、同じアマッドネスのこいつではそれはない。それでもやる気だ)
 迫力に飲まれた。しかし今の自分は前とは違う。
「やれるものならやってみな。僕はもうパワーアップしているのさ」
 それを寄り所に立ち上がった。

「ライィィィィィィィィィッ」
 甲高い少女の声がこだまする。
「おまえ?」
 ライが振り向くとセーラはその顔面に飛び膝蹴りを見舞った。
「ぎゃあっ」
 派手に倒れこむ。それを見下ろす仁王立ちのセーラ。
「乙女の唇をもてあそんだ罪。うけてもらうわよっ」
 完全に女の子として怒っていた。
「おのれ」
 ライはゆっくりと立ち上がる。どうやらまた体内のものが暴れだしたらしい。

 キャロルはここで気がついた。
「(今のセーラ様なら完全に乙女心。ならば)セーラ様。今こそ鎧をまとうとき」
 セーラもその意図を理解した。
「わかったわ。キャロル。来なさいっ」
「はっ」
 黒猫は飛び上がると体を丸める。
 それが光の玉になり四つに別れてセーラめがけて飛んでいく。
 鳥を模したヘッドギアは翼がこめかみを。胴体部分が眉間を。脳天を取鳥の首が守っていた。
 胸元には亀の甲羅に似たプロテクターが。
 腰にはぐるりと龍が巻きついたようなスカートが。
 足にはトラの脚部を思わせるレガーズが。
 両腕には既に自前のガントレットがある。
「完成。アテナフォーム」
 セーラの最強フォームが蘇った瞬間だ。

「やったわ。完全にセーラ様とシンクロできた。例えクイーンのかけらをまた宿しても今度は合体出来るわ」
 鎧が甲高い声でまくし立てる。今までは鍵穴が隠れて見つからなかったようなもの。
 一度探り当てれば今度はセーラの方の準備が整えばいつでもこの姿になれる。
「こけおどしを。その首をはねてやる」
 ライは自分でもどうしてこんな事を思ったのかわからなかった。
 ただどうにも取り込んだものが自分を駆り立てる。
「食らえ」
 再びアスファルトの散弾を見舞う。それを回避したところに生じた隙を狙う。
 だがセーラはまったくよけない。キャロルがすべてブロックするので相手の攻撃を一切無視しての接近だ。
 そのたじろがない姿にライは恐怖した。

「行くわよ。キャロル」
 言うなりセーラの姿がライの眼前から消えた。
「なにぃ!?」
 動揺している暇すらない。廃語から背中を蹴られた。
 かと思えば右の頬に「左フック」。
 あごを打ち抜く下からの「ストレート」
 脳天に見舞われる「アッパー」
 まるで影から攻撃してくるかのような「キック」
 全方位から体勢を無視した攻撃がくる。
(超高速! それも直線だけではなくあらゆる角度で)
 そう。セーラとキャロルの連携により「一人」で「袋叩き」をしている状態だ。
(嬲り殺しだ…う、ぷっ)
 再びライの体内から何かがほとばしる。それは光の玉となりセーラの胸に飛び込んでいく。
 セーラはまるで赤ん坊を抱くようにその光を抱きとめ受け入れる。
 その瞬間、キャロルの変化した鎧がパージしてそしてセーラが清良に戻った。
 飛び込んだのはライが奪った物だったのだ。
「オレは……?」
 どこか焦点のあってない瞳の清良。戻ったばかりで本調子ではない。その隙をついてライは逃走した。
 大ダメージを受けスズもいたのだ。逃げるしかない。

「戻ったか」
 安堵の声でスズが問いかける。
「スズ? オレは一体? あの野郎と戦ってからの意識がないんだが……」
 首をかしげている。
「なるほど。ほとんど分離していたようなものだからな。ライの体内に取り込まれていたのではな」
「ああ。その間は…うっ?」
 ここで分離していたセーラの方の記憶が融合する。

「もう。礼ったら。一緒に戦っているんだから仲良くしましょうよ。ね」

「あたしお嫁に行く時はやっぱりドレスね」

「大丈夫よ。女の子ですもの。出来るようになるわよ」

「乙女の唇をもてあそんだ罪。うけてもらうわよっ」

 次々と清良の脳裏に浮かび上がる「とてつもなく女の子らしい行動」
「ああああ……なんてことを」
 あまりと言えばあまりの恥ずかしさに清良は心の奥底に引きこもった。つまり気絶した。
「やれやれ」
 どこかほっとしたような口調のスズ。
「まぁいい。ライの方もあれだけやられればしばらくはおとなしいだろう。それに奴は多分裏切っている。こちらに手を出す余裕などあるまい。今は元に戻っただけでよしとしよう」
 その声は安らぎに満ちていた。

 夜。ぼろぼろの姿で逃避行中の秋野。貴公子が無残な有様であった。
「うう。くそ。まだブレイザかジャンスの魔力を奪えば」
「残念だがそれは出来ない」
 いつの間にかスーツ姿の三田村が秋野の前に。
 三田村の背後には軽部と中屋敷。
「将軍……」
「裏切りは死刑だぞ。ライ」
「はっ。よく言う。スズが謀反を起こしたとき僕たちを捨て駒にしたのは誰だ。裏切りはあんたが先だ」
 もはや気取る余裕もない。心のままに吐きだす。
「おまえのような野心を持つもの。わらわは嫌いではないぞ」
 響き渡る女の声に秋野は背筋に寒気がした。どこか幼さの残る声。だが恐ろしい声。
 同時に軽部がジャッカルアマッドネス。アヌの姿に。
 中屋敷がタイガーアマッドネスの姿になり臣下の礼をとる。
 三田村までスネークアマッドネスに変化している。
 その三者に傅かれて現れたのは一人の童女。
 一城薫子が入院中に知り合った広瀬葉子だ。
「クイーン……」
「だが役立たずには興味はない」
 セーラにバラを差し出したときと声は同じでも口調がまるで違う威圧的なものだ。
 表の人格は広瀬葉子としてのもの。
 そして真の人格。普段は眠りについているクイーンアマッドネス。ロゼとしてのものが今ここに。
「や…やれるものならやってみろ」
 完全に自暴自棄だ。変身してクイーンの魔力そのものを吸収しようと接近する。
 しかしその五体にバラの茨が絡みつく。
「吸収とはこうするのだ」
 吸血鬼の牙の様にバラのとげが突き刺さりライに預けられていた魔力が吸い込まれていく。
「あああああああっ」
 苦悶の声をあげるトードスツール。それが人の姿に。さらに女性のものへと変わっていく。
 やがて完全に吸い取り終わると秋野だった女は力なく倒れこむ。
「このヨリシロは女を食い物にしていたらしいな。これからはわらわが下女として死ぬまで使ってやる。名前は…そうだな。光平と言うなら『ひかり』とでもするか」
 童女と思えぬ冷たい視線が女王の威厳として現れていた。
 それだけ言うと彼女はふらっと意識を失った。あわてて支えるガラ。否。既に三田村の姿に戻っている。
「眠りにつかれたか」
「われらが女王様も不憫だなぁ。生まれつき体の弱い娘として転生なんてするから普段は意識を眠らせっぱなしだ」
 これまた人の姿に戻った中屋敷が敬意のまったくない口調で言う。
「寝首をかきたければ試してみろ。ライの後を追うことになるぞ」
 軽部が「忠告」する。
「へっ。なら『忠誠の証』にオレが戦乙女三人の魔力と首をとってきてやるか」

 現時点で直接の戦闘力は皆無。だから前線には出ない。
 だが逆らえば即座に魔力を吸い上げられ無力化される。
 クイーンの恐怖はアマッドネスを縛りあげていた。


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