篭城しているやくざの屋敷。そこになんと「主犯」自らが姿を見せた。
 まるで舞台に現れた千両役者。あまりの雰囲気に射殺命令を出せないでいる警察側。
 そんな中で女の声が響く。
「三田村さんっ。どうしてこんなことを?」
 さすがに当人を前にして感情の制御が難しくなった薫子。ハンドスピーカー越しに高い声で叫ぶ。
「篭城のことかね? それとも」
 舞台役者のように声を上げて返答する三田村。ふしぎとよく聞こえる。今は牽制だけで攻撃も休止しているから静かなのも理由。
「こうしてアマッドネスになったことがかね?」
 またもや一瞬だがアマッドネスとしての姿を見せる。
「そんな…」
 非情な現実に薫子は立っているのがやっとだ。
「どうして…どうしてあなたが邪心を抱いて取り付かれたりしたんですかっ?」
 後半は涙声だ。尊敬していた相手か化け物に身を落としていたのだ。涙も落ちる。
「邪心? 心外だな。私は平和を願っただけだ」
 それはあまりにも意外な動機だった。

戦乙女セーラ

EPISODE46「覚悟」

「たわごとをっ」
 直接面識のなかったのり子が代わりに言葉を叩きつける。
 かつてアマッドネスに憑かれた身としては「恨み」の相手ともいえるので言葉の棘がいつも以上にきつい。
「私はね…うんざりしていたんだよ。なくならない犯罪に」
 意外なほど静かに語りだす。
 警視庁の警官として日夜人間の汚い部分を見続けてきた。それで人間に嫌気がさしたというなら若干だが気持ちもわかる。
「だがすべてが一つの価値で統一されればどうだ? すべてを恐怖で縛り上げればどうだ?」
「ま、まさかそのために」
 のり子もその思考の異常さに圧倒されて狼狽する。
「その通り。この東京だけでもアマッドネスの支配におかれれば少なくとも東京の犯罪は消える」
 長年隠していた思いを日の光の下でかつての同僚たちの前で吐露していた。
 それはまさに舞台役者のようだった。
「あんたバカぁ?」
 辛らつなのは彼女にふさわしくないがジャンスはそれだけ嫌悪感を抱いていた。
「それで略奪者どもに体をゆだねていては本末転倒ですわ」
 待っている間に精神も女性化したブレイザが独特の口調で言う。
「今度はあんたが取調べを受ける番よ。覚悟なさい」
 一番短気な清良から変身したせいかセーラがもっとも戦闘的だった。
「君達だけかね?」
「えっ!?」
「スズはいないのか? そう聞いているんだ」
 ジャンスとブレイザは連れて来なかったいきさつは聞いていた。そして納得していた。
「関係ないでしょ」
「まぁいい。これも任務。とりあえず小娘どもを血祭りにあげてくれる。そうすればスズも引っ張りだせるし(スズとの)戦いの邪魔も出来まい」
 ここで三田村はガラの姿へと転じ、暑く拵えた刀を手に雄たけびを上げて突進してくる。
 同時に元・機動隊員の奴隷女たちが援護射撃を再開する。
 ガラには銃弾など効かないが人間はたまらない。
 しかし戦乙女たちの援護もある。警察側も応戦して銃撃戦になる。

「はっ」
 唯一の飛び道具を持つジャンスが矢を放つ。それをなんなく手にした刀で弾き飛ばすガラ。
 だがそれで充分。キャストオフを済ませてメイド姿のジャンスが二丁拳銃の乱れうち。
 ところがそれがうろこに守られてはじかれる。
「うそぉっ?」
 盾ならともかく体に当たったのがはじかれればもっともな叫び。
「ならばわたくしがっ」
 和服姿のブレイザが日本刀を手にかけだす。
 奴隷女の射撃をかいくぐり間合いに詰め寄りうろこのない部分を狙い刀を振り下ろす。
 だがガラ自身も剣の達人。そうやすやすとは攻撃を受けない。激しく斬り合う。
(あのコノハさんよりも強い? そう言えば彼女を斬ったのが確か…)
 実力が下では斬る事も出来ない。単純に考えて死闘を演じたオウルアマッドネス以上の剣豪となる。
「ブレイザ。どいてっ」
 超変身には充分な時間があった。
 ヴァルキリアを経てマーメイドに転じていたセーラは常備している伸縮警防を元に作り出した槍をそのパワーで投げつける。
 だがその能面のような蛇の怪人が笑って見せた。
 そして手にした刀で正確にセーラにランスを跳ね返した。
 投げた後で多大な隙が出来ていたセーラは防御体制に移りきってない。
「きゃ…」
 しかし悲鳴をあげる前に飛び込んできた黒い影がセーラをその場からどかした。
「友紀!?」
 そう。スズが駆けつけていたのである。「愛馬」ダークブレイカーで飛び込み、そのままセーラの腕をつかんで槍をかわしたのだ。
「あ。違う。今はスズか。でもどうして? わざと教えなかったのに」
「ふ。私がこうして現世にいるのは後始末のためだと言わなかったか」
 感知能力はスズにもあるのだ。
「そしてそれがここにいる」
 スズにとっても遺恨の相手。自分の仇であるガラがいた。
 仮面の騎手は敵をにらむ。そして視線が激しくぶつかり合う。
「ガラ。まだわからないのか?」
 スズはダークブレイカーのハンドル部分からニードルを抜き地面に立つ。
 再びにらみ合いが始まる。
「ようやく逢えたな。スズ。私……そして恐らくはアヌの仇。討たせてもらうぞ」
 死を飛び越してまで持ち越された因縁である。恐るべき執念だった。
「それは私にとっても同じ。そして倒さねばならぬ相手。こい」
 スズには珍しく激情をあらわにして向かって行く。ガラも逃げない。
「その首もらったぁっ」
 まるでギロチンのような厚く拵えたガラの剣がスズの首を狙い振り下ろされる。
 スズはそれを軽やかにかわし脇からガラの左側から胸を狙い剣を繰り出す。
 無論それとてガラの計算にある。左手でスズの繰り出す『ニードル』を横に払う。
 軽さがたたり弾き飛ばされる。丸腰のスズにガラの剣が今度は横薙ぎに迫る。
 スズはなんとその刀そのものに手をかけ体操選手のように軽やかに攻撃をかわす。
「こ、こいつ」
 刀を振り切ったガラに多大な隙が出来る。
「はぁっ」
 体勢を崩させるように軽いが素早くパンチを見舞う。体重が移動していたところにこれでたたらを踏む。
 スズはニードルを拾いにはいかない。行けば多大な隙をさらすことになる。
 逆にうってでた。ガラの右手めがけて蹴りを放つ。
 これまた軽いが素早い蹴り。軽くても足の力。手首に当たればさすがに重い剣を離してしまう。
 飛ばされた剣はくるくる回って石灯籠に突き刺さる。
「これで五分と言う事だ」
「ぬかせ。素手とて負けぬわ」
 徒手空拳の格闘になる。

 この間に戦乙女たちは一般人への被害を防ぐのもあり邪魔な奴隷女たちを片付けにかかっていた。
 性別は戻せないが人間ではある。殺してしまうわけには行かない。
 セーラ・フェアリーが飛び回り的確に延髄を攻撃して奴隷女たちを気絶させていた。
 ブレイザはいわゆる峰うちで。ジャンスも拳銃そのものを打撃武器としていた。
 次々と倒れる奴隷女たち。
 それでも屋敷に控えて散発的に狙撃をしてくる奴隷女のために警察は防戦を余儀なくされていた。
「そちらは!」
 自分は目前の相手を倒したブレイザが二人に問う。
「こっちはOKです。セーラさんは?」
「あたしもよ。スズは?」
 一対一の戦いをしていたスズを案じる。
 武器を落とされた二人は徒手空拳での戦いを繰り広げていた。
 俊敏性とスピードに長けるスズと、パワーと防御で上回るガラ。テクニックは互角で達人同士の戦いを繰り広げていた。
「超変身」
 迷わずジャンスはアリスフォームへと転じた。
 流れ弾がスズに当たらないように正確にガラだけ狙うためだ。
「ちょっと卑怯な気がするけど」
 セーラは言うが止めるつもりはない。これはスポーツではない。戦闘なのだ。
「あっちもこんなに戦闘員がいるからおあいこですよ」
 笑顔まで作るジャンス。人当たりはいいが抜け目のなさが侮れない。狙撃に移る。
 しかしくるくると踊るように互いの体が入れ替わる。これではいくらなんでも狙えない。
「ああんっ。もう」
 神経の疲弊限界寸前。魔力を使い果たす前にジャンスはヴァルキリアフォームへと戻る。
「それならばっ。セーラさんっ」
「あたしたちで行くわよ。ブレイザ」
 潜り抜けてきた戦いの分だけわだかまりが消え、このころには戦闘の時は呼吸が合うようになって来た二人。
 セーラはフェアリーフォームでクラブを手に頭上から迫る。
 ブレイザは駆けつけてガラに太刀を振り下ろす。
 にぃ。そんな不気味な笑みを…文字通り蛇のように浮かべるスネークアマッドネス。
 悪寒が走るスズ。思わず叫ぶ。
「危ない。セーラ!」
「えっ?」
 叫びに驚いて止まったところの鼻先を掠めて「骨のミサイル」が飛んでいった。
 ブレイザもガラの背中から得体の知れないものが射出されたことに驚いて呆然と立ち止まっている。
「な、何? 今の」
 空中に静止した状態のセーラ。危うく串刺しになるところで青ざめている。
「くくく。よく覚えていたな。スズ。わが秘策」
「それに貫かれて死んだのだ。忘れるはずがない」
 かつて切り結んだとき、スズはガラが打ち出した肋骨。「サイドワインダー」を全てかわしたものの秘策中の秘策。背中からの一撃に貫かれて命を落としている。
 ただしその際にレイピアを打ち出してガラの心臓を貫き結果的に相打ち。
 そして間接的にミュスアシで将軍と六武衆を失ったアマッドネスが封印される事態となった。
(それにしてもセーラの身を案じて叫ぶか)
 さすがに将軍とまで言われた存在。流しそうな一言もきちんと捉えていた。
(そう言えばセーラの方もスズを何か違う名で呼んでいたな? もしやヨリシロが?……試す価値はあるな)
(ガラ。何をたくらむ?)
 スズは様子を見るべく、そして蓄積した疲労を回復させるべく静かに出方をうかがう。

 自前のヨロイとも言うべきガラのうろこの防御力が思いのほか高い。
 パワーに欠けるフェアリーフォームでは決定打が打てない。その上に対空射撃まであるのだ。
 別の手を講じた。
「キャロル」
「ドーベル」
「ウォーレン」 
 呼ばれた使い魔たちは共に変形しキャロル・バイクモード。ドーベル・サイドカーモードに転ずる。
 セーラはバイクにまたがるがブレイザはカーゴ部分に立つ。そしてふたり同時に超変身。
 セーラ・マーメイドフォーム。ブレイザ・ガイアフォームと共に膂力に優れた姿に。
 ジャンスはウォーレン・ロケットモードで空中にうく。
 小回りの効くバイクのセーラは大回りしてターン。
 ガラを基準にして前方のブレイザ。後方のセーラ。
 ブレイザは斬馬刀・ガイアブレードを構えている。
 セーラはマーメイドランスを。それがハサミのように互い違いに。
 前も後ろも逃げられないなら上か下。だがガイアブレードが腰の辺りに刃を走らせようとしていた。
 下は無理となると上しかない。
 だがそこでジャンスの出番。タイミングを見計らい狙撃形態。アリスフォームへと空中で転じる。
「ふん。所詮は小娘の浅知恵か」
 ガラは自分の肋骨を抜き出した。それを盾として二つの刃を食い止めた。振り落とされるブレイザとセーラ。
「そんなっ!?」
 狼狽して隙が出来たブレイザの首をわしづかみにすると、そのままジャンスめがけて投げつけた。
「わわっ」
 飛翔能力のないブレイザをよければ墜落して大ダメージ。
 受け止めようとするが受けきれず撃墜される。
 ガラは投げた勢いそのままで後方に振り返るとセーラの顔面をわしづかみ。そのまま壁に向かって投げつけた。
「きゃあっ」
 背中がめり込むほどに叩きつけられ気を失いかける。
「死ね」
 セーラに正対すべく石灯籠の所に位置を構えたガラは残りの四本の「サイドワインダー」を放つ。
 この場合マーメイドフォームなのがまずい。エンジェルフォームと違い露出した部分は守られていない。このサイドワインダーがもろに刺さる。手足はともかく頭部に食らったら即死。
「危ないッ」
 それを承知なのかこれまで同様にセーラの危機にスズが駆けつける。
 剣をたくみに使い骨のミサイルを受け流して危機を回避する。
(よし。これで全部使った。しばらくはあれは撃てない)
 この間合いでの攻撃手段がないのを知っていた。スズはセーラの無事を確認すべく視線を後方に流した。
 その瞬間をガラは待っていた。
「ぬんっ」
 飛ばされて石灯籠に刺さっていた刀を力任せに引き抜き、そのままスズめがけて投げつける。
「!?」
 気がついたときには既に遅かった。よければそのまま壁にめり込んだセーラにあたる。そして剣で受け流しきれず刺さった場所は…

「う…スズ?」
 セーラはかろうじて意識は失わなかったが大ダメージでエンジェルフォームへと戻っていた。
 朦朧としていたセーラがかすむ目で前を見るとスズの後ろ姿。だがどこかおかしい。
「スズっ!?」
 異変に気がついた。スズの背中からガラの刀の切っ先が出ていたのだ。心臓は避けたが右胸を貫かれた。肺が潰れた。
「がはあっ」
 仮面の下の部分。むき出しの口から大量に吐血するスズ。崩れ落ちる。
「す、スズ。友紀。スズ。友紀」
 大事な二人を同時に失いかけてセーラは涙をぼろぼろとこぼす。
「ふ…ふふふふ。ふはははははっ。やった。ついに我が因縁の敵。スズを倒したぞ」
 宿願と任務を同時に果たして満悦する将軍。
「それが貴様の言う『愛』がもたらした結果だ。貴様はセーラをかばっていたからな。絶対に自分よりセーラの命を優先すると思ったぞ。それが命取りだ」
 倒れるスズと泣き喚くセーラを見下して愉悦に浸るガラ。だが危機に対するアンテナがここで作用した。
 ジャンスの射撃を寸前でかわした。
「ガラァァァァァッ」
 ブレイザが憎悪むき出しでかけてきた。武器をすべて失った上に奥の手を使い果たしたガラはかわし続けるだけだ。

「スズ。友紀。死ぬな。死なないで」
 友紀に対する清良としての意識。スズに対するセーラとしての意識が混在している泣き叫び。
 横たわるスズを抱きかかえガラの剣を抜こうとしていた。
「無駄だ…アマッドネスの再生能力でもこれは無理だ…」
 死に直面しているのに人事のように語るスズ。
「私はいい。本来この時代にあるべき命ではない。ただやり残したことをしにきただけ。それも帰る時が来た。だが…つれてはいけない」
 もちろんそれは一人の少女をさしている。
「セーラ…君の手で私を友紀から切り離してくれ」
「それってあんたを手にかけろってこと? そんなことが出来るわけがない」
 かつて友紀がファルコンアマッドネスに取り付かれたと知った時も、手を出すことがとうとう出来ずジャンスの狙撃で終結している。
「やるんだ…君の手で命を終わらせることになるが…それで救われる魂がある事をわかって」
 だんだん言葉が弱くなってきた。このままではヨリシロである友紀もろとも死んでしまう。迷っている暇はない。
「わかった…覚悟を決めた」
 泣き腫らした目でセーラは決意の表情を見せた。涙は止まった。
「頼む。それが私と、そして友紀の罪滅ぼしにもなる……」
 セーラはこくりとうなずいた。再びスズを地面に横たわらせる。右手のフレイムガントレットが赤く燃え上がる。
「スズーッ」
 死に行く盟友の名を叫び、涙と共に炎の拳を撃ち下ろす。ガラの刀が聖なる魔力の効果か灰となり崩れ落ちた。
 送り火に包まれるスズ。その仮面が取れ、人としての顔が出る。笑顔だった。
「ありがとう…そして頼む。アマッドネス…彼女たちを闇から救ってほしい…」
 既に命の炎を燃やし尽くしていたのか爆発せず何かが抜けて行く。
 燃え尽きた後に残るは傷一つない少女。
 セーラは生まれたままの姿の友紀を抱きしめる。
「許して。スズ。ごめんな。友紀」
 泣きながら謝っていた。

「セーラちゃんっ」
 薫子とのり子が駆けつけてきた。
「友紀を……お願いします」
 拳の戦乙女は大事な存在を静かに託した。戦場へと戻る表情。
「わかったわ。でも」
 心配する薫子にセーラは背中越しに答える。見えない表情は怒り? それとも涙か?
「大丈夫です。覚悟なら出来ましたから」
 それだけ告げるとセーラはかけだして行った。

「ガラァッ」
 一転して激しい怒りを叩きつけてのセーラの叫び。
「おのれ。死にぞこないめ」
 単純な疲弊。特に切り札であるサイドワインダーを使ったのが大きい。
 そして精神面ではついに宿敵スズを葬ったことで張り詰めていたものがきれた。
 さらに欲が出た。この状況は勝ち戦。それを味わうには死ぬわけには行かない。
 自分ではなく戦乙女の分でロゼの復活に足りるだけにもって行けばいいではないかと。
 戦乙女を一人減らし、自分は生きて女王を補佐する。そちらの方が良いに決まっていると。
 つまり命を惜しみだした。守りに入ってしまった。
 それで逆にそれまでの優位を保てなくなった。
 一方のセーラは怒りにより攻撃モードマックス。
 気おされてブレイザとジャンスが攻撃を忘れるほどだ。

「……んっ」
 とりあえずのり子の制服の上着で裸体を隠されている友紀が覆面パトカーの中で目を覚ました。
「大丈夫? 友紀ちゃん」
 病院に搬送しようと思ったら目を覚ましたので優しく尋ねる薫子。
「一城さん。スズさん? スズさんはどこです?」
 沈痛な面持ちになる薫子。頼れる女戦士はもういない。
「友紀ちゃん。残念だけど…」
 真実を告げる。それを信じない友紀。
「でも感じます。一体化してたんですもの。スズさんはまだどこかにいるのがわかる」
「えっ?」
 どうも状況が違うらしいと薫子は悟る。
 友紀は祈る。
(お願い。スズさん。清良を助けてあげて)

 まるで目を開けるように黒いバイクのライトが灯る。

 怒り任せのセーラの攻撃に対し冷静なガラは自分の体力を回復させつつセーラの消耗を誘っていた。
 エンジェルフォームでは守りは固められても決定的な一打がくわえられない。
 ゆえにバランスのいいヴァルキリアフォームで立ち回るが、こちらは防御が手薄な分かわす必要があった。
 そのためどうしても動きが大きくなり体力の消耗が激しい。
 スズの弔い合戦の一念で戦っているが、次第次第に劣勢になる。
「セーラさんっ」
「させるかっ」
「きゃあっ」
 加勢しようとするブレイザやジャンスへの牽制も忘れてない。うろこを手裏剣のように飛ばす。
 顔を狙ってくるのも有りひるんでしまうのは女ゆえ。だがガラにとって思いがけない攻撃がきた。
 黒い鉄の馬。ダークブレイカーだ。それが死角から突っ込んできた。そもそもこんなことは考えもつかない。精神的にも死角と言うことだ。
「ぐあっ」
 不意打ちをくらい昏倒する。追い討ちをかけるべきセーラは劣勢だったこともあり立て直しを優先した。
 何より両者ともに驚愕していた。
(バカな? どうして無人のバイクが走ってくる。コントロールできるスズはこの手でしとめたはずだ?)
 ガラは立ち上がりながら考える。
(そう言えば…あのバイクはスズの魔力で走っていると言ってた。もしまだそれが蓄積されているのなら…)
 セーラは迷いのないはっきりした言葉で叫ぶ。
「スズ。一緒に戦って」
 それに呼応してダークブレイカーが走ってくる。ひらりとまたがるセーラ。その手にどこからともなくスズの剣。ニードルが。
(スズ。まだ完全には燃え尽きてないのね)
 剣が存在しているのが何よりの証拠。
「キャロル!」
「はい!」
 完全に主の考えを読んでいた黒猫は呼ばれる同時に光の玉に変化する。
 次の瞬間、四つに別れた光がセーラの鎧になる。セーラ・アテナフォームだ。
「行くわよ」
 宣言してバイクを発進させるセーラ。その姿が消えた。
「どこだ……うあっ!」
 上から走ってきた。すれ違いざまにニードルで斬りつけられる。
 次は折り返すように地面の下から出現。胸元を斬りつけ消える。
 そうかと思えばガラの左から出現して斬りつける。
 アテナフォームで体勢無視して全方位から攻撃をくわえる技がディメンションストリームと名づけられていた。
 さしづめこれはダークブレイカーのパワーを加えての嵐。
 ディメンションハリケーンと言うところ。
 ガラはなす術もなく刻まれて行く。だがかろうじて二本の肋骨が撃ち出せる程度に再生された。
(おのれ。調子に乗るな。これで串刺しにしてくれる)
 その思惑に乗ったかのように今度は距離を置いてしかも真正面に出現するセーラ。
 ダークブレイカーが加速する。とどめの一撃。
「食らえっ」
 ガラが撃ち出したサイドワインダーはバイクの上のセーラには当たらなかった。飛んでいたのだ。
 しかも右足にはスズの剣。ニードルが魔力でくっついていた。
(行くよ。スズ。あなたの技で)
 セーラは盟友に思いを届ける。
 射出して硬直したガラにダークブレイカーが直撃する。そして空中に舞うセーラが高速回転をして吹っ飛ばされたガラに突っ込んで行く。
「ホーネットスティンガー」
「ぎゃあああああっ」
 スズの必殺技でガラを貫いた。まさに弔いの一撃だった。
 将軍の腹部に大穴が空く。勝負あった。

「セーラさんっ」
 ジャンスとブレイザが着地したセーラに駆け寄る。セーラは力を使い果たしてエンジェルフォームに。
 キャロルも分離して猫の姿に。
 スズの魔力を使い果たしたダークブレイカーは元の鉄くずに。
「へ、平気。キャロルがちゃんと着地させてくれたから。そういえばプールでは友紀がヨロイをまとって同じ攻撃をしていたから、元々の得意技だったのかもね」
 若干だが気が抜けている。どう見ても勝ったとしか思えないゆえ。だが
「ふ…ふふふ…見事だよ。戦乙女の諸君」
 それを一気に緊張感を戻す声。
「ガラ!?……じゃなくて三田村?」
 そう。人の姿に戻っていた。ただしスーツの腹部は血で赤く染まっていた。
 戦乙女がフォームチェンジで肉体の再構成を行い傷をなくすように、ガラも人の姿に転じる事で傷口を塞ぎに掛かったらしい。
 それでも間に合わず出血となると致命傷には違いなかった。
「どんな気分だね? 私を『殺した』のは?
 三人は嫌がらせかと思った。罪の意識を持たせようとしているのかと。
「あなたを闇から救うためよ。性別は変わるけどこれで解放…」
同じだよ! この思いが吹き飛び別の肉体になれば死んだのと変わらん。そして戦乙女。君達もいずれそうなる」
 それは言われるまでもなく懸念されていた事。
「私を倒した君たちに敬意を表し一つ忠告だ。クイーンとは戦うな。顔すら合わせるな。高岩清良。伊藤礼。押川順のままでいたいのならばな」
「……」
 言葉の出ない三人。ここでガラの姿になる。今度はガラとしての遺言だ。
「我が魂を得ればクイーンは立てる。そしてお前たちの魂を奪いにくる。お前らの魂が奪われ完全復活になるか。それともお前たちが戦いを避けて逃げるか」
 ここでガラは笑い出した。心底おかしくてたまらないと言わんばかしの大笑いだ。
「いずれにせよ貴様等に勝利はない。結局は……我々の…勝利なのだ。ふはははははーっっっ」
 まるで万歳をするように両手を挙げて、そのまま後ろへと倒れこみそして爆発を起こす。
 後には三田村だった女性が死体のように横たわる。

 警察病院。ガラの魂がクイーンに引き寄せられて胸から広瀬葉子の中に。カッと目を見開く少女。
「ひっ…ひぃぃぃぃっ」
 おびえて腰をぬかすひかり。その眼前で立ち上がる葉子。ベッドの上で20代の女性の姿へと変転。
「ふふふふ。よくやったぞガラ。全てのアマッドネスは私と一つになった。これでやっと動ける」
 妖艶な赤い唇が言葉をつむぐ。
「後は貸した物を返してもらうだけだ」
 狙いは太古の戦いで戦乙女にかけた呪い。そして戦乙女たちを男としていた力。

 ガラの死により奴隷女たちは正気に帰り武装解除され事件は終結した。
 あわただしく事後処理が行われている。
 そんな中で戦乙女たちは制服姿のままでたたずんでいた。ガラの最後の言葉が胸に刺さる。怯えが心にのしかかる。女性になりたいと願うジャンスにしても自分でなくなるのは嫌だった。
「ああんっ。もうっ」
 その考えを払拭しようと頭を振るセーラ。そのときに衝撃で飛んでいたらしいニードルを見つけた。
「こんなところに」
 拾い上げたがそれは砂のように崩れ風になった。
「あっ」
「スズさん」
「これで完全に…」
 スズの命が完全に消えたと悟った。

 脳裏に蘇るのは仮面の女戦士の勇姿。そして人生の先輩としての優しげな素顔。
 共に戦った「仲間」の死が三人に覚悟を決めさせた。
「そうだ。私たちは負けられないし、おびえてもいられないんだ。あの人のためにも」
 セーラの言葉が三人の思いだった。

 最終決戦は近い。

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