「キヨシの嘘つきーっっっ」
 友紀の涙声が響く中で始まった女王との戦い。異変が起きた。
 セーラの動きが一瞬だけだが止まり、ロゼも何故か不適な笑みが凍りついた。
(……なんでだろう。あの子の叫びが胸に響く。わずかに心に残る何かが震える)
(くっ。やはり戦乙女に渡していた力では完全に我が物にするにはいささか時間がいるか)
 ロゼが力を取り戻すのは同時に過去の戦乙女が完全復活する事を意味していた。
 吸収したその場で戦闘になるのはわかっていたものの、一気に命を吸い取るには邪魔な聖なる魔力が増していたのだ。
 しかも三人が相手。そこまでは出来なかった。
 だからあらかじめ兵隊を作っておいた。
 福真高校男子生徒を元にした奴隷女たちが戦乙女の邪魔を試みる。
 相手が一般人である事を使い魔から知らされた戦乙女たちは、傷つけないように地上での戦闘を避け天馬で空からの攻撃に専念した。
 魔力は無害でも転倒させて打ち所が悪いなどと言うケースもありえるからだ。
 しかし飛び道具であるジャンスはともかく徒手空拳のセーラと剣士であるブレイザは動きに制約が掛かる。
 結局セーラは自力で飛ぶ。だが飛べないブレイザは牽制程度にしか攻撃できない。
 礼が変身していた時も高所からの攻撃に弱かったのそれゆえ。
 そのブレイザを狙って茨のつたが伸びる。
 絡め取ろうとしているがブレイザは難なく切り裂いてしまう。
 その隙にセーラが突っ込むが別の「触手」が延びる。
〔きゃ〕
 しかしそれは突如飛来した「ボール」によって阻まれた。
〔助かった。しかしどこから〕
 離脱したセーラはボールを投げた人間を探す。それはすぐに見つかった。
 校門から友紀が新体操で使うボールを投げつけていたのだ。
〔あの子、どうして私を?〕
 今のセーラにとって友紀との過去の記憶はない。だが胸が熱くなるのを感じた。

戦乙女セーラ

EPISODE48「女神」

「友紀ちゃん!?」
 その無謀とすら言える行為に校舎内に取り残された千由美が思わず叫ぶ。
「なんであんなものを?」
「たぶんセーラさんのために準備していたんだとおもいます」
 フェアリーフォームが非力さを補い、俊敏性を活かすのに新体操の道具がもっとも相性がよかった。それゆえに友紀は自分のものを持参した。
「それにしても恐ろしいことを」
「あれを無謀と呼ぶか勇気と呼ぶか。それは私たちの気持ち次第か」
 翔子がつぶやく言葉がその場の元・アマッドネスの少女たちに染み入る。
 眼下にはかつての自分たちのように悪の尖兵と化した同窓生が。
 その中の剣道部員だったと思しき面々が緩慢な動きで校門の三人に迫る。
 窓から見ていた少女たちは息をのむが

「岡元パァァァンチィィ」
 とびながら繰り出される豪腕に奴隷女たちが吹き飛ばされる。
 恐らくは奴隷女撃退で持ち出した(まさにミイラ取りがミイラで自分が奴隷女に)木刀を手放して飛んで行く。
 それを確認もせず着地してわずかにためをつくり巨漢は飛び上がる。
「岡元キィィィィックゥゥゥゥ」
 そのひねりを効かせたドロップキックがさらに蹴散らす。
 意志のない奴隷女たちなのに恐怖心が蘇ったのか遠巻きに見ているだけで襲いかかってこなくなった。
 敵がこないのを見越して番長は空へと叫ぶ。
「ジャンス! お前が忘れたと言うならそれでもいい。だがお前はお前だ。約束どおり俺はそのことを忘れん。そして共に戦う」
「そ、そうだ」
 森本は投げ出された木刀を拾い上げると数人の奴隷女の手首を狙って攻撃を仕掛けた。
 華奢な手首である。一撃で攻撃不能に陥る。
「見ていますかブレイザさん? あなたのそばであなたの戦いを見つめ続けた僕の太刀筋」
 それはまさにブレイザの剣の舞にそっくりであった。
 常に彼女の戦いをそばで見守っていたからこそ出来る「見取り」である。

 ファルコンアマッドネス。そしてスズのベースとなった友紀だが戦いそのものは素人だ。
 だがその新体操で鍛えた卓越した運動神経で奴隷女たちの間を潜り抜けかく乱して行く。
 それで空白の地帯ができた。
「今よ。地上からいけるわ」
 「見知らぬ少女」の健気な態度に戸惑うセーラだがチャンスを活かすことを考えた。
 降り立ちかけていく。飛翔に回していた魔力が攻撃に使える。
〔やあっ〕
 繰り出した拳がクイーンに当たった。いや。その外部で漂う花びらを散らしただけだ。
 そしてすぐに花びらが「穴」を塞ぐ。防御壁だった。
〔一撃でダメなら何度でも〕
 セーラは立て続けに攻撃を繰り出す。
 それを奴隷女たちが邪魔しようとしてきた。だが
「えーいっ」
 千由美が振り下ろした金属バットで防がれた。
 彼女だけではない。翔子。雅らかつて悪の誘惑に負け異形の者に身を落とし、結果として女としての人生を歩む羽目になった元・少年たちが大挙して繰り出してきた。
 他にも奴隷女になっていた事のある少女たちなども。
〔この子達はいったい? どうして危険を犯して私を助ける?〕
 セーラにはその記憶もない。だが何故かやはり胸が熱くなる。
「みんな」
 友紀が感動したようにつぶやく。
「まったく。一度はこんな醜悪な存在になっていたかと思うと恥ずかしくてたまらない」
 長い髪を振り乱して、それなのに何故か美しく見える飛田翔子が笑顔で友紀に言う。
「そうよ。この人たちはかつての私たち」
 友を妬みピラニアの異形になっていた魚住美奈子が水泳で鍛えた体力で奴隷女たちを食い止める。
「今度は私たちが闇から引き上げる番」
 雅も陣頭指揮で参戦していた。
 そんな最中でパトカーのサイレンが近づいて福真高校に乗りつけてきた。
 これだけの事態だ。それはわかる。
 異様なのは出てきた警官が全て女性だったことだ。
「いけ。汚名返上のチャンスは今だ」
 マイク越しに指示を出すのは度会のり子。
 出てきたのはアマッドネスの手に掛かり奴隷女になった警官ばかりだった。
 既に性転換をしている。もはや失うものはない。だから果敢に奴隷女を取り押さえに掛かった。
「今よ。セーラちゃん」
 声が変わった。一条薫子だ。彼女は警察病院で気絶しているところを駆けつけたのり子に助けられた。
 そのまま福真高校の騒ぎを聞き駆けつけたのだ。
「あつっ」
 叫んだ途端に頭を押さえて崩れ落ちた。のり子が駆け寄る。
「カオル。無理しないで。車の中で休んでなさい」
「いいえ。戦乙女たちのサポートは私の役目よ」
 そのふらつく体で彼女はライフルを構える。
「今度はちゃんとやるわ」
 彼女にとって幸いだったのは既に葉子が「バケモノ」に転じていたこと。
 童女の姿でなかったから迷わず引金を引けた。
 轟音と共に繰り出された弾丸は腹部を狙ってのものだ。
 正確な射撃が難しい状況だから大きな的を狙った。
 期せずして「狙いがそれて」心臓の位置に弾丸が。
 それ自体は花びらのヨロイが防ぐができた穴をジャンスが見逃さない。
 魔力により弓を変化させて長距離射撃仕様にする。即座に心臓をめがけて射出。
〔ぐあっ〕
 防がれはしたがダメージは与えた。花びらが乱れる。
〔うおおおおおおおーっっっ〕
 天馬から飛び降りてその頭上から唐竹割りとばかりに剣を繰り出すブレイザ。
 さすがにまともに食らうほど甘い女王ではないが、防御が頭上に集中して背中に隙が生じた。
〔そいやぁっっ〕
 そこを思い切りセーラが蹴り飛ばしてよろけさせる。そのまま左右の拳を女王めがけて繰り出す。
 とても女性同士とは思えない荒々しい戦いだ。
〔小娘が。調子に乗るでないわ〕
 戦いは激しさを増して行く。

 戦闘開始から一時間以上。互いに決定打が出ない。
 戦乙女たちにとって幸いなのは警官隊や有志によって奴隷女たちが一掃されたこと。
 これによりクイーン相手に集中出来る。
 そしてそのクイーンが予想していたより「弱い」ことだ。
 正確に言うと本調子には思えない。完全復活のはずが体が重そうだ。
(そう言えば…あれは私がまだ男だったころ)
 クイーンの呪縛ゆえ逃げるに逃げられないひかりが男だった…アマッドネスたったころのことを思い出す。
(あの時もセーラの力を取り込みきれなくてひどく苦しんだけど…まさか女王も? 元々が彼女の力。それなら私と違って元に戻すだけ。それでこんなに苦しむはずが?)

 違和感は当の本人が痛感していた。
(おかしい…わらわは元に戻ったはずではないのか? 器であるこの少女の病だがそれとてこの姿になればなくなった筈。ならばどうして戦乙女ごときをしとめきれない?)

 そして戦乙女たちも完全に元に戻ったはずなのにどこか頼りない。まるで半身を失ったかのようだ。
〔埒が明かないな〕
 ブレイザが刀に寄りかかるようにして立ち上がりつつ言う。
〔どうしましょう?〕
 不安そうなジャンス。
〔このままじゃこちらが先に倒れて…まずい。女王の力が膨れ上がる〕
 ごうを煮やした女王が一か八かの勝負に出た。
〔このままでは我々の負けだ。いや〕
 ブレイザは木刀の少年を見る。
(何故だ? 彼とは何かあったのか。ひどく気になる)
〔そうですね。あの勇敢な民を死なせることは出来ません〕
 ジャンスも岡元を見る。
(あの人にはいつも助けてもらっていたような気がする)
〔例え私たちの命に代えても守らないとね〕
 セーラは友紀に視線を送る。
(あの子だけは絶対に守らないといけない…どうしてかそう思う)
〔決まりだな〕
〔ええ〕
〔いくわよ〕
 三人は女王を取り囲むように三角形をつくり呪文の詠唱に掛かる。
〔セーラ様! まさかまた?〕
〔あとは頼んだわよ。キャロル〕
 太古の大乱のときと同様に三人はとんだ。そして女王と自らを封印すべく蹴りを見舞う。

 その蹴りは確かに届いた。
〔くくく。学ばぬ者たちだ。再び女に戻れぬまま気の遠くなる年月を過ごす気か?〕
 戦いの結末を先送りしただけに過ぎない。それを女王は嘲笑した。
〔構わん。彼らを守ることは出来る〕
〔私たちはどうなってもいい〕
〔例え未来永劫続いても〕
(冗談じゃねーぜ。そんなの真っ平ごめんだ)
〔え? あなたは?〕
 以前の時と同様に女王から何かが入り込んでくる。
 かつてはひどく不快だったが今度はどこか暖かく、そして懐かしい。
 セーラ、ブレイザ。ジャンスはその「何か」に心当たりがある。
(ここで完全に敵を叩く。それしかない)
 ブレイザに侵入するものも同様だ。
〔お前はまさか〕
 その答えは残りの一組が示す。
(そう。もう一人の君だよ。ジャンス)
〔ああ。思い出してきた。あなたはジュン〕

 長い年月を戦乙女と共に転生して来た「クイーンのかけら」
 それは気の遠くなるほどの年月で浄化され、戦乙女たちの聖なる力へと変化していた。
 ゆえにかつてのライはセーラの中の「清良」を取り込みきれず。
 そして女王にとってはもはや「異物」である三人の魂は取り込まれずに済んだのだ。

(何でも経験しておくもんだな。一度食らってたんですぐにわかったぜ。だから踏ん張って正気を保ってたぜ)
(正直きつかったがな。戦乙女として戦った日々がなければとりこまれていた)
(お願い。みんな。また僕たちと戦って)
(ええ)
(お帰りなさい。もう一人の私)
(一緒に戦って)
 戦乙女たちは優しくうなずくとそれぞれをふたたび受け入れた。

 激しい光と共に吹き飛ばされる三人。
 友紀の元にふっ飛ばされていたのはガクランの少年。
 森本は同じブレザーの少年を受け止めた。
 ガクランの岡元はグレーの学生服の少年を全身で受け止めた。
「き、キヨシなの?」
「あつつ。どうやらそうらしいな。ちゃんと男だぜ」

「会長ぉぉぉぉっ。御無事でしたかぁぁぁっ」
 森本が泣きながら喜ぶ。
「ああ。足は二本ある。心配かけたな」
「会長…でもどうして」

「順。無事で何より。だが何で?」
「ありがと。番長。でも説明は後。今はあいつを」
「そうだな。いけ。順」
 とはいえど今の今まで女王に囚われていたのである。
 肉体である戦乙女たちも疲れ果てていた。気力も肉体もぼろぼろだ。
 しかし女王も動かない。何かが縛り付けているようだ。

「おのれ。邪魔をしていたのは貴様だったのか」
 女王が本調子でなかったのはセーラ達が異物だっただけではない。
 内部から妨害するものがまだいた。
「あ、あれは…スズさん!?」
 一時的に一心同体だった友紀がいち早く見つけた。
 半透明でいわば幽霊のような状態。戦闘形態ではなく女性としての姿でロゼを羽交い絞めにしていた。
「私も彼らと同じ。あなたとは違う存在になっていた。あなたが吸収したのは私のアマッドネスとしての力のみ。魂までは奪えない」
 スズが食われた三人をぎりぎりのところでとどまらせていた。そこにセーラたちが強く接触してきたので再接続。送り返しに成功した。
「助かったぜ。スズ」
「急げ。私もそう長くは持たない。早く」
「ああ。わかってる」
 清良は両脇の礼。順を見る。うなずきあう三人。
 もはやチームワークを妨げる物は何もない。

「いくぜ。これが最後の変身だ!」

 清良の右手が天を指し燃える炎のガントレットが、左手が地に向けられその手に流れる水のガントレットが出現した。

 礼は左手をへその位置に、右手を肩の高さで前方に伸ばした。丹田に光の渦が現れる。

 順は弓手を空へと伸ばして、空間から弓を取り出した。

 清良の両腕が水平に移動した。

 光の渦から短刀が出現して、礼はそれを左の腰に溜め、柄に右手をかけた。

 弓を真正面に運んだ順は矢手を光の弦にかけた。

 三人で同じ言葉を叫ぶ。

「「「変身!!!」」」

 清良の手が思い切り突き出され交差したガントレットが眩く輝く。
 礼が抜刀すると刀身が光り輝いた。
 順が弦を爪弾くと光があふれた。
 光がおさまるとセーラー服。ブレザー。ジャンパースカートの少女たちがいた。
「拳の戦乙女。セーラ!」
「剣の戦乙女。ブレイザ!」
「射抜く戦乙女。ジャンス!」

 最後の名乗りだった。

「おのれぇぇぇ」
 形相も醜く歪んだ女王が叫ぶ。
 結局は戦乙女たちの力は取り込んでなかったのだ。だからそのままの姿だ。
 しかし戦乙女たちは今となってはこちらが完全体と言うべき姿に。
 そして自身はスズに縛られている。それが呪詛の言葉を叫ばせた。
 セーラとブレイザが制服姿のままかけて行く。その場にとどまるジャンス。
 防御形態で可能な限り近寄る。阿吽の呼吸でジャンスが矢を放つ。
 その防御でキャストオフをやれるだけの隙を作ってしまったロゼ。
 ヴァルキリアフォームになった二人の連携攻撃が次々とバラのヨロイを外して行く。
 その隙間を遠方で安全にキャストオフしたジャンスが接近しつつ二丁拳銃で狙い打つ。
 さらに超変身。アリスフォームで正確に狙撃。
 クイーンが撃たれてひるんだ隙にブレイザはアルテミスフォームに。
 やはり超感覚のフォームで宝石でいう石目を探り当てて斬る。
「閃光一閃」(フラッシュシュート)
 その間にセーラはフェアリーフォームへと。そして脳天から蹴りを見舞う。
「ライトニングハンマー」
「ぐああっ」
 いくら異形の存在とて脳天は急所だ。たまらない。バラの装甲が緩んだ。
「今だ」
 セーラは即座にマーメイドフォームへと転じ、バラの女王を高々とリフトアップ。回転し始める。
「トルネイドボンバー」
 本来ならそのままの勢いで真上に放り投げるがバラの装甲を吹き飛ばすだけにしてブレイザの方へと投げつけた。
 ブレイザも既に距離をとり剛力タイプ。ガイアフォームへと変わっていた。
「豪刀破砕」(ギロチンクラッシュ)
 斬馬刀・ガイアブレードで斬りつける。
 それでも立ち上がるクイーンに対して今度はジャンスロリータフォームが銃弾の嵐。
 とにかく聖なる魔力と体力が続く限り攻撃を休める気はなかった。
 その魔力がつきかけて特殊形態を維持できなくなったジャンスは、ヴァルキリアフォームで撃ち続けていた。
 しかし二つの拳銃が限界を超えてばらばらに吹っ飛んだ。
「きゃあっ」
「まかせなさい」
 入れ替わりでブレイザがでてくる。こちらもヴァルキリアフォームだ。
「剣撃乱舞」(スラッシュダンス)
 袈裟斬。横薙ぎ。逆袈裟。唐竹割り。突きなどを一瞬で見舞う。
 ここでブレイザソードが折れて粉々になった。
「セーラさんっ。後は頼みますっ」
「わかったわっ」
 最後に出てきたセーラが左手のチョップを見舞う。凍てつく女王。
 即座に右手の炎のアッパーが。
「クロスファイアー」
「ぎゃああああっ」
 燃え上がる女王。
 ありったけの力を込めたのでこれまた限界を超えて両方のガントレットが粉微塵になった。
 一度変身を解除して変身しなおせば「再起動」で再生はされる。
 だがそれは多大なチャンスを逃すことになる。
 徒手空拳となった三人はうなずきあうと三角に位置して呪文を詠唱する。
「貴様ら正気か? また呪われたいのか?」
 スズにしばられ、聖なる炎に身を焦がすロゼがあわてたように言う。
「残念でした。それはありませーん」
「なぜならわたくしたちは一人で戦ってきたワケではないのですから」
「邪悪な力の入り込む余地なんてないわよっ」
 その言葉にクイーンは歯噛みしてスズは微笑んだ。次に力強く叫ぶ。
「今こそ邪悪な連鎖を断ち切るとき。災厄の終焉を」
 「災厄の終焉」その言葉が戦乙女たちの合言葉になった。

「キャロル。友紀」
「はい。セーラ様」
 ここで使うとなれば切り札。アテナフォームだ。
 鎧をまとったセーラは友紀に向かって走る。友紀もセーラと共に戦った身。何を考えているかは瞬時にわかった。
「はいっ」
 両手を組んで待ち構える。セーラがそこに足を乗せたタイミングで真上に跳ね上げる。
 そのアシストでセーラは高く舞い上がる。

「森本。ドーベル」
「任せてください」
 ドーベル・サイドカーモードを駆りブレイザの元に。
 ブレイザはカーゴにとび乗ると蹴りの体勢を取る。
 そのままサイドカーは直進し、女王の直前で急ターン。
 遠心力で投げ出された形のブレイザは、その力をもらいジャンピングキックを。

「番長。ウォーレン。お願い」
「よっしゃあ。任せろ」
 ウォーレンがロケットパックに変化してジャンスの背中に。
 そのジャンスを岡元が抱えあげて勢いよく女王めがけて投げつけた。
 それをカタパルトとしてロケットで加速をする。

 三人がとんだ。タイミングを合わせるために同じ言葉を叫ぶ。

「クライシス・エンド」

 そしてキックが同時に炸裂した。
「おのれぇぇぇぇ。ミュスアシの戦乙女とその末裔ども。こんなことをしてただで…」
 最後までいえなかった。今度は逆に聖なる力がクイーンを蝕む。

 大爆発が長い戦いの終焉を告げた。

 清良は友紀のひざの上で目を覚ました。
「キヨシ。キヨシ。しっかりして」
「……う……友紀? オレ…いきてる?」

「会長? 会長ッ!? 大丈夫ですか?」
 礼は森本の腕の中で気がついた。
「森本……ああ。俺なら大丈夫だ。それよりクイーンはどうした?」

「あ…番長。どうしたの? そんな顔して」
「お…お前…その体」
 どういうわけか岡元は照れている。順は自分の肉体を確認して即座にその理由を理解した。

「セーラ様!」
 キャロルのいつもの声が聞こえる。しかしそれは自分に向けられていない。
 不思議に思い清良は友紀ともども声を向けられた空を見た。
 同様に他の面々も同じ方向を見て、そして仰天していた。

 空には五人の女がいた。
 中央の檻に閉じ込められている女は先刻まで戦っていた女。ロゼだ。
 その傍らにはスズがいた。
 そして赤い髪のセーラ。栗色の髪のブレイザ。黒髪のジャンスが薄衣をまとって微笑んでいた。
「キヨシ。今まであなたの体を借りてしまいごめんなさい。でもそのおかげでアマッドネスを全て倒せました」
 生まれる前から共にあった存在が自分から離れ天へ上ろうとしているのだ。
 一抹の喪失感を覚える清良。
「そっか。今度こそ本当に女神になるんだな」

 ブレイザが続く。
「レイ。そしてジュン。キヨシ。我々は君たちの体のおかげでこの世にいられた。だがそれも終わりのときが来た。これより天での修行の日々が始まる」
「そうか……」
 礼も言葉が出てこない。

 順と分離したがやはり柔らかい印象のジャンスが微笑みながら言う。
「その肉体は本来の持ち主であるあなたたちにお返しします。元に戻してありますから安心して」
「あの……だったらどうして僕はこうなったんです?」
 清良は学生服の。礼はブレザーのそれぞれ長身の少年に。
 しかし順だけはジャンパースカート姿。
 低めの背丈。華奢な体躯。輝く肌。自己主張する胸の二つのふくらみ。絹のような細い髪。そしてきれいな高い声。
 順だけは少女の肉体になっていた。
「せめてものお礼で望む姿にと思ったのだけど…男の子のほうがよかったかしら?」
 ちょっとだけ迷う順。今ならまだ戻せそうである。だが「彼女」は自分の気持ちをすぐに確認できた。
「ううん。びっくりしただけ。ありがとうジャンス。私を女の子にしてくれて」
 順が「本当に女になった」のを嫌だとは思わなかった。
 それで自分がジャンスの影響だけでなく本心から女になりたがっていたと察した。

「友紀。君には世話になった。キヨシと二人。いつまでも仲良くな」
「や…やだ。スズさん」
「私はクイーンともども罰を受ける。そして全ての罪を償うべくやはり修行する」
「誰がそんなところに行くものか。わらわは死なん。必ずこの世に戻り、お前たちに復讐してくれる」
「ロゼ様。往生際が悪いですよ。私と共にまいりましょう。この時代は我々のいるべき時ではありません。ふさわしい場所へとまいりましょう」
「嫌だ。死にたくなどない。わらわは生きていたい」
 邪悪の長は見苦しい末路をさらしていた。

「そろそろいかなくてはなりません。さようなら。ジュン」
「サヨナラ。もう一人の私」
 早くも女性的な笑みをつむぎ新たなる女神を見送る順。

「もうあうこともないだろう。静かに暮らすがよい。レイ」
「ああ。さらばだ」
 武人同士。簡潔な別れのブレイザとレイ。

「これからはただの人間。単なる男の子だから無茶してはダメよ。キヨシ」
「わかってるよ。あばよ」
 ぶっきらぼうにしないと涙がこぼれてかっこ悪そうだったので悪そうにしていた清良。
 共に戦ってきただけにそんなのはお見通しだったセーラはくすっと笑う。

 今度こそ女神となった戦乙女たちは高く高く上っていき、そして見えなくなった。

「いっちゃいましたね。ブレイザさん」
 落胆している森本だが礼が無事で喜ぶ気持ちも。
「ああ。そうだな」
 感慨深げな礼。気が抜けたのかよろける。
「危ない」
 それをとっさに支える森本。驚いたように見つめる礼。
「どうしたんですか。会長」
 たくましくなったことに驚いていたなんて言えない。代わりにこういった。
「森本。肩を貸せ」
「はい。会長」
 対等な関係に。二人はまさに並び立ったのである。

「あの番長。私、本当に女の子になっちゃった」
 今までさんざんくっついたりしていたのは「仮の肉体」だからだったらしい。
 女の子として固定されたら急にその行為が恥ずかしくなってきた順。
「そうか。女には優しくせんといかんな」
 岡元は優しく微笑むと順を抱えあげた。
「きゃあっ?」
 突然の行為に驚く。そのまま番長は順を「お姫様抱っこ」した。
「疲れただろ」
「……うん」
 今はちょっとくらい甘えてもいいかな。そう思った順は身を委ねた。

 そして清良と友紀は…
「こら。誰が嘘つきだって?」
「え? 聞こえていたの?」
「ああ。おかけでむかついたんで女王に取り込まれないで済んだがな」
 茶目っ気たっぷりに言う清良。
「ちゃんと約束は守っただろう」
「うん」
 二人は堅く抱きしめあう。それを複雑な思いで見ているかつてはアマッドネスだった少女たち。
「本当に男の子なんだね。もう女の子になって戦わなくてもいいんだね」
「ああ。俺は男だぜ」
 そして友紀は女の子。抱きしめあっていたらいきなり異性を意識し始めた。
 色々ありすぎて思考の鈍っていた二人は人目があるのを忘れていた。
「男の子と女の子」それを確認するかのように唇を重ねあっていた。

 そのぬくもりと唇の感触に清良が確かに男として戻ってきたことを友紀は実感していた。

 こうして。気の遠くなるほどの長い戦いに決着がついた。

アマッドネス…壊滅

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