あの決戦から約2ヶ月。二月十四日。
 長であるクイーンが倒れたことでアマッドネスは壊滅した。
 だが警察としては「残党」も考えられるため警戒の手を緩めずにいた。
 元々不可解な事件だったのもあり、何が起こるかわからないという思いもあった。
 だがそれも二ヶ月もアマッドネスによる事件が発生せず。
 そして大半の事後処理も済み薫子の提出した報告書もあり終結と判断。特捜班の解散となった。
 出向いていた薫子も本来の部署である警視庁に戻る。

 そして福真市。拳の戦乙女。セーラとしての戦いの日々を終えた高岩清良。
 彼は二度と女になることはなく平穏な学園生活の日々を過ごしていた。
 この日も友紀と共に登校をしていた。
「あれ? やだ。抜き打ち検査?」
 福真高校の正門では風紀委員などによる所持品検査が行われていた。
(よりによって今日やるなんて)」
 友紀はカバンの中身…可愛く包まれ、甘い香りを放つ贈り物を没収されないかと不安になる。
 

戦乙女セーラ

EPISODE49
(EPILOGUE)

「清良」


 福真署。特捜班の本部では片付けも終わり別れを惜しんでいるところである。
「世話になったわね。ノリ」
 こちらに出向いてから親友とも言える存在となった女性警察官に握手を求める。
「寂しくなるね。けどまた逢えるわね」
 以前に比べて格段に柔らかくなった渡会のり子が寂しげに微笑む。
「そうね。また逢えるわよ」
 少なくとも二人は元の姿のままなのだ。

「今日は非番でしょ。どうするの?」
「うん。挨拶回り。色々回るけどなんと言ってもあの子達に一番お世話になったからね」
 戦乙女たちの勇姿が脳裏に浮かぶ。
「いいわね。私の分もよろしく頼むわ」
「うん。わかった。のんびりと回るわ」
 挨拶回り。それが別離を強調する。空気が湿る。
「今度は仕事じゃなくてプライベートでつきあいたいわね。いつか飲みに行きましょ」
 空気を換えるべく薫子が笑顔で言う。
「そんな事を言っていいの? 私は強いわよ」
「飲み比べね。受けて立つわ」
 朗らかに笑う。湿っぽさのかけらもない別れであった。どこか男性的ですらある。

 福真高校。抜き打ち検査は風紀委員長の飛田翔子自らが陣頭指揮を行っていた。
「ほらよ。変なものはないぜ」
 清良はカバンを開いて見せる。
「不良」と言われる割に入っているのは教科書だけだ。
 翔子は中身を一瞥する。しかしもとより興味がなかったかのようなそぶりだ。
 むしろここからが本題だった。
 彼女はずいと清良に詰めよる。キスできそうな至近距離だ。
 元は男といえど今は綺麗なロングヘアのメガネ美少女。
 思春期の少年がドキッとなるのも無理はない。
 わかっていても軽く友紀の心に曇りが生じる。
 それを知ってか知らずか翔子は小声で清良にささやく。
「高岩君。私と付き合いなさい」と。
 どこか上ずった声で言う。頬も赤い。
「はぁ? だから説教されるようなものは持ってないだろうがよ。まぁ喧嘩はちょっとしているけどよ」
 「つきあい」をそう解釈した清良。
 そしてケンカの数が多いのも事実だった。
 まるで以前の調子を取り戻そうとしているかのように見えた。

「……そうね。やはりそう思うわよね。なら間違えないように」
 言うなり翔子は清良の首に両手を回した。
「お、オイ。拘束かよ?」
 翔子がかつては男である事。そしてそのころから不良である自分にいい感情を持ってないと認識していた清良はそう捉えた。
 だが生まれたときから女である友紀は違う解釈をした。
 翔子が完全に女。それも「恋する乙女」の表情をしていたと。
 そして目を閉じて唇を寄せてくる翔子にさすがに清良も普通でないと理解した。
「だめぇっ」
 友紀が叫んで翔子の動きが止まる。くすっと笑う。
 ゆっくりと。名残惜しそうに腕を離す。
「さすがの喧嘩無頼もこう言うのには弱いみたいね」
「なんなんだよ? まるで女みたいに」
「失礼ね。私は女よ」
 演技抜きでためらいなく言いきれた。男の時代に未練はない。
「飛田。お前はもう……」
 清良が何か言いかけるのを「さぁ。遅刻するわ。行きなさい」諭して行くように促す。
 なんなんだ? そう思いながら清良は友紀と共に校舎内に。
 友紀の方はまるでチェックが入らなかった。

 二人を見送り翔子は悪戯っぽく笑う。周辺は風紀委員長の「乱心」に絶句している。
 翔子は周辺に「からかっただけよ」と一言で。
 力押しではかなわない相手だけに「女の色香」を悪用したと解釈した面々。
 だが「からかった」は嘘ではないが翔子の真意は別にあった。
「ちょっと煽り過ぎたかな。でも止められてなかったら人前でもきっと…」
 翔子の上着のポケットにも甘い香りを放つものが有った。

 とある喫茶店に薫子はよる。アンティックな雰囲気が渋めであるが若い男が大勢いた。
 理由は従業員に有る。
「いらっしゃいませぇ…あっ。薫子さん」
 メイド姿のひかりが出迎える。ただし以前と違い明るい笑顔だ。
「こんにちわ。あれ? しのぶさんは」
「お散歩ですよ。潮さんと」
「あら。そうなんだ」
「ええ。もう二人ともラブラブで。妬けちゃうくらい」
 屈託なく笑う。
 女王の呪縛から解放されたので明るくなった。
 だが「邪心」が吹き飛んだ事で女性を食い物にしていたことを悔いていた。
 そのため今度は自分の意志で奉仕する立場へとなった。
 メイド服はその決意表名。
 だがそんな込み入った事情を知らない男性客が珍しいメイド目当てに大挙してくる。

「ひかり。早くお席に案内しなさい」
 ちょっときつい印象のある女性に注意されひかりはぺろっと舌を出した。
 そして座席へと案内すると入れ替わりにその注意した女性がお冷とメニューを持ってやってきた。
「いらっしゃいませ。御注文は何にいたしますか?」
「ブレンド頂戴。純子さん」
「かしこまりました」
 深々とお辞儀をして去って行くワンピースの女性。ショートカットがアクティブな印象だ。
(タバコの匂い全然しないけど、浄化されちゃうとそんなところも変わっちゃうのかしら?)
 純子…かつての中屋敷純郎は記憶の大半を抜き取られていた。
 しかしタイガーアマッドネスと分離して大半の「元・アマッドネス」同様に善良な女性と化した。
 その激しすぎる上昇志向はプロ意識と言う形になってわずかに残留。
 短い期間で接客のプロになっていた。

「ただいま。あら。薫子さん」
 勝手口が存在しないため客同様に入り口から戻ってきたのが軽部しのぶ。セーターとスラックスと言う姿である。
 そして手を引かれている和服の女性。三十後半くらいだが生気のない顔。
 それをまるで恋人を扱うようにしているしのぶ。
 彼女こそかつて三田村警部だった三田村潮(うしお)である。

「やっぱりまだ…」
「ええ。潮さんは心を閉ざしたままです」
 薫子の問いに沈痛な面持ちのしのぶ。
 潮を部屋に戻すと自分もカウンターにはいるべくエプロンをつけながら答える。
 大将軍ガラとして戦いに挑み、そして敗れた三田村は最後に心まで散らせてしまったのかようだ。
 しのぶの手がないと何も出来ない状態である。
「あの…なんていったらいいかわからないけど」
 本当に言葉に詰まる薫子。
「でも…こんな事を言ったらいけないのかもしれませんが……私は今しあわせなんです」
 強がりでないのはその表情でわかる。そして薫子は警察官の洞察力でなく「同じ女」として理解した。
 自分がいないといけない。潮にとってしのぶはなくてはならない存在。
 互いにかけがえのない存在となった。それでしのぶは満たされていた。

「それに薫子さんがここをお世話してくれたから私達は路頭に迷わなくて済んでるんですよ」
 中屋敷。軽部は女性警察官として復職も視野にあったが中屋敷は興味をなくしていた。
 そして軽部は潮の介護のため職を辞した。
「まぁ変なご縁だったけど」
 その意味は奥から現れた中年男性が謎解く。
「ああ。一城さん」
「どうも。葉子ちゃんお元気ですか?」
 そうなのだ。この男性は広瀬葉子の父親にしてこの店のオーナー。
 自分の愛娘が怪事件を起こした集団のトップであると言う事実はひどく彼を打ちのめした。
 その罪滅ぼしもあり「付き従っていた」彼女達を雇ったのである。
「ええ。とても入院していたとは思えないほど元気ですよ」
 今にして思えばその肉体でロゼを封印していたのかもしれない。
 爆発して再生されたことで不具合がなくなり健常体へとなったのだ。
「学校がとても楽しいようです」
 僅かずつだが友達が増えつつある。それを聞いて薫子は満足そうに微笑む。

 その後は各方面に挨拶をして回っている。休みなのでのんびりしたものだ。
 そして最大の協力者である人物がフリーになる時間を待っていた。

 福真高校の二時間目。清良たちは体育の授業だった。
 男女混合でソフトボール。グラウンドへと移動する。
「あっ、あの。高岩君」
 三つ編みの少女が赤い顔で歩み寄る。
「おう。魚住。お前らが一時間目の体育か?」
 こちらもソフトボールだったらしい。
 しかし体育だと言うのにポーチを持参と言うのは?
 半分は女として過ごしていた日々があり、そのあたりに気が回るようになっていた清良は不思議に思う。
 しかし目の前の少女はもじもじするだけ。
 普段は流しているロングヘアを体育と言う事で編んでいる。
 それが恥らうごとに揺れて振り子のようだ。
「ほら。美奈子。勇気出して」
「ちょ、ちょっと」
 ショートカットの少女に背中を押されるが美奈子は踏み出せない。
 かつては魚住平。平田歩と言う名の二人の少年は水泳部のレギュラーの座を駆けて憎悪を燃やした。
 そこを平はつけこまれてアマッドネスとなった。そして歩も手にかけられてこの姿に。
 現在は魚住美奈子と平田鮎美と名乗る少女二人。シンクロナイズドスイミングでのパートナーで親友となった。
 この場も親友の応援でいるようだ。
 その応援でやっと美奈子は勇気が出たらしい。
「これっ。受け取ってくださいッ」
 勢いよく差し出されたかわいらしい包み。
 包装紙越しに甘い香りが。
「これ……チョコか?」
「そうでーす。美奈子から高岩君への愛の告白のバレンタインチョコでーす」
「あ、あゆみっ」
 美奈子は耳たぶまで赤くなった。
 照れ隠しもあり甲高い声で奇声をあげながら鮎美と追いかけっこを初めてしまい、そのまま清良の前から立ち去った。
(なんだったんだ。あれは? それにこれ?)
 手の中には確かにバレンタインのチョコレート。
(あいつは元々は男だろう。それが男のオレ相手にこんなものを…もう頭の中身まで女と言うことか?)
 チョコをもらって浮かれるどころか「自分の所業」を再認識して気持ちが沈む清良であった。

 それを遠くから見つめる黒い影。

 放課後。王真高校の生徒会の会議が開かれている。
「来年度の生徒会長だが、この森本要を推薦する」
 いきなりの現生徒会長・伊藤礼の指名であった。
「会長……」
 緊張している森本。だが「いずれは後を任される」と覚悟は出来ていた。
 そして尊敬する相手からバトンを託されることを誇りにも。
「森本。頼んでいいな?」
 礼にしてはおとなしい言い回しだが有無を言わせぬ迫力はあった。
 だが森本もたじろがない。まっすぐに受け止める。
「はい。お任せください」
 その力強い言葉に礼が微笑んだ。
 そしてその笑みは森本を狼狽させた。
(ブ…ブレイザさん?)
 目の前で分離して天へと上ったはずの「もう一人の憧れの存在」の幻影を垣間見た。
(びっくりした。会長の笑い方がブレイザさんそのままで。元は同一人物だったといえど…未練かなぁ?)

 会議は潤滑に進み閉会となった。
 礼と森本は二人だけで高校の中庭をあるいていた。
「驚いたか?」
「いえ。いつか言われるとは思ってました」
「そうだな。俺が後を任せられるのはお前だけだ」
 ブレイザを追いかけ、サポートを続けるうちに森本もたくましくなっていた。
 そしてそれを頼もしく感じていた思いは礼の胸にも残っていた。
 だから後任に指名した。
 礼の任期は三年の一学期いっぱい。その間に引継ぎをすることになる。

「しかし穏やかだな」
 成績優秀な礼は既に進学問題はクリアしてある。だが「穏やか」なのはそれだけではない。
「随分いろんな相手と戦いましたもんね」
「ああ。挙句の果ては仲間であるはずの戦乙女とまでな」
 その当時としては大問題だったが、無事に日々を過ごす今となっては笑っていえる。
「どうしてますかね? 高岩さんと押川さん」
「さぁな。アマッドネスが出なければ特につるむつもりもない」
 相変わらずのクールさである。

 その二人の前に黒い影が。
「お前は!?」
 狼狽。そして笑みが浮かぶ礼。

 福真高校。一年前は元・男子校の名残で男子の比率が高かったのに度重なるアマッドネス事件。
 とどめがロゼがここで多数の男子を奴隷女にしたため現在の男女比は3:7と完全に女子が上回っていた。
 仕方のない事とは言えど自分がかかわってこの現象が引き起こされたのを思うと清良の気が晴れない。
 だが当事者達はまるで元から女だったかのように振舞っている。
 すっかり溶け込み新しい性別での生活を堪能している。
 考えて見れば同じ人間。別に動物や虫になったわけではない。
 当事者はそう考えるが「変えてしまった」清良としてはなかなか割り切れない。
「あっ。高岩くーん」
 清良が「最初に女にした」安楽千由美が笑顔で駆け寄ってくる。
「安楽? なんか用か?」
 友紀の部活が終わるのを待っていた清良。それが目的ではない女の子が来て困惑する。
「うん。これ渡そうと思って」
 千由美もチョコレートを差し出した。
「お、お前もか? 安楽。俺は男だぞ」
「そうだよ。そしてあたしは女。問題ないよね」
「い、いや。元々は男だろ?」
「今は女だもん。男としてはぱっとしなかったけど女になったら色々解放されて楽しいんだ。高岩君。女にしてくれてありがとう」
 周囲がざわめく。
 「性転換」ではなく「大人との階段を上った」と解釈した。
「ずるい」「ひそかに目をつけていたのに」「千由美だけ高岩君に告白なんて」「こうなったらあたし達も」
 一斉にチョコを取り出す少女達。大半が性転換組だが生まれたときからの女子も混じっている。
(な、何でだ? いくらバレンタインだからってなんでこんな?)
 清良は混乱していた。

 百紀高校。
 校庭のど真ん中で巨漢の岡元とジャンパースカートの制服姿の少女。順が向かいあっていた。
「はい。番長。バレンタインのチョコ」
「お、おう」
 実はこれが初めて。いくら女性的だった順でもさすがにこの行為はしてなかった。
 しかし完全に女性化したことで堂々と出来る。
 わざわざ校庭でと言うのは堂々としすぎだが。
 進学をせず就職した岡元はこの時点ではある程度落ち着き学校にも顔を出せた。
 しかしたまたま顔を出したらまさかこんな公開での恥ずかしい思いをするとは思いもよらなかった。

 表向きはアマッドネス事件の被害にあい女性化した事になっている順。
 授業などは男女別のが女子の方に移ったが、元々物腰が柔らかい上に女子制服姿も珍しくない。
 女子に馴染むのも早かった。
 さすがに女子更衣室で最初に裸になった時は女子に「これ本物?」とその立派な胸をいじられて閉口はしたがそれももう落ち着いた。
 長年の思いである「女の子に戻りたい」と言う思いがかない、その意味でも心穏やかな順だった。
 何よりもう戦わなくていい。それが大きい。

「それからこれはお誕生日プレゼント。18才おめでとう。番長」
「何? 別にしてくれるのか?」
 バレンタインデーが誕生日と言うこともあり、母など女性からはプレゼントがチョコと言うケースが大半だった。
 だからいっぺんに片付けられずちゃんと祝われたので嬉しい。
 だが表情がこわばっている。
「あれ? プレゼント気に入らなかった?」
 順の表情が曇る。現在は完全に女子なので余計にわかりやすい。
「い、いや。そんなことはない。だが俺からも渡すものがあるのだがこんなところでは」
 窓から何人かが見ている。
「いいじゃない。ラブラブなところをみんなに見せてあげよ」
 それを狙っての校庭でのプレゼントだった。
 自分が完全に女である事。そして番長に好意を抱いている事。
 その二つを知らしめるべくここでだ。
「そ、そうか。わかった。俺も男だ。覚悟を決める」
「さすが番長。かっこいい」
 相変わらずの軽いノリの順だが岡元が取り出した物を見て表情が変わる。
「それって…まさか」
 信じられないという顔つきに。
「オヤジに借金して買ってきた。順。これをお前に」
 それは指輪だった。
「ば…番長」
 いつも飄々としている順が珍しく感極まっている。泣きだしそうだ。

「約束だ。お前が完全な女になった今、俺の嫁に迎えたい」

 その言葉で限界を迎えた。順の双眸から熱いものが流れ出す。
「いいの? あたし元は男だよ?」
「今は完全に女なんだろう」
 アマッドネス事件のせいで戸籍の性別変更が用意に出来るようになっていた。
 現在の順は押川家四男ではなく長女になっていた。
「俺も18になったからな。結婚出来る年だ。こちらの親は承諾してくれた。後はお前と」
「大丈夫だよ。きっとわかってくれる。この人ならあたしを幸せにしてくれるって」

 順が完全に女になったのはまさに今、この瞬間といえる。

 ダイヤの指輪を左手の薬指にはめる。ぴったりだった。
 うっとりしている順だったが笑顔で礼を言う。
「ありがとう。番長……ううん。三郎さん」
 いい改めた。
「いっ!?」
 不意打ちだった。
「おま…いきなり下の名前と言うのは」
「だって旦那様のことを他人行儀に『番長』なんていえないでしょ?」
 いたずらっぽく笑う。そしてそれが合図であったかのように校舎から歓声が。
 いくら遠目でも指輪を渡している様子はわかる。リアルプロポーズと察しがつく。
 そしてそれが成就したのを見越して声が上がった。
 すっかり二人の世界に入っていた順と岡元は我に帰る。
 猛烈に恥ずかしいことをしていたのを思い出した。そこに
「よーう。困っているようだな」
 空から黒い影が。

 時間を潰していた薫子のケータイにメールが。
(あら? お久しぶり)
 ちょっと御無沙汰な相手からだった。
(へぇ。それならそっちでみんなと)
 薫子は指示された場所へと足を向けた。

 福真高校。清良も男ではある。一度くらいは女に迫られて見たいと思ったこともある。
 ただしそれは常識的な人数である。
 校内の女子から一斉にと言うのは考えてない。しかも大多数は「元・男」。
 セーラとしてではあるがその強さに「男」を感じ、同時に男を異性と感じた自分を「女」と認識した。
 それでこんな極端な行動にも出た。
 ただしバレンタインである事。そしてある扇動があったのも起因。
「ど、どうしたの? キヨシ」
 清良と落ちあうべくやってきた友紀だが異常なシチュエーションに絶句。
「ゆ、友紀。逃げるぞ」
「えっ。どこに?」
「知るか」
 清良は友紀の手を握り締め外へと走り出す。

「やっぱりあの子を選ぶわよね」
 「黒幕」は生徒会長。高森雅だった。
 なんと生徒会直々の扇動だった。
「ほんとじれったかったもん」
「見てていらいらするのよね」
「それにこれであたしらがもう完全に男時代に未練がないと知ったでしょ」
「気にしすぎよね。仕方のないことなのに」
 そういうことであった。
 戦うたびに一人の男を女に変える。それで清良は苦悩していた。
 だから自分達がもう女でいることに抵抗がないと知らしめるべくこの行動に出た。
 男を異性として意識している。これほど「女ならでは」のことはないと言う認識だ。
 そして悪の尖兵として戦った自分達を解放してくれた清良に対する礼でその呪縛を断ち切ろうと画策していたのだ。

「でも、ちょっと本気だったけどね」
 何人かは千由美と同じ思いを抱いていた。

 中にはしつこく追いかけてくる者もいた。
 友紀をつれている手前そんなに速く走れない。
 つかまりそうなときに一匹の黒猫が。
「お困りですか? セーラ様?」
「お前、キャロル?」
 使い魔達はあの最終決戦の後で姿を消していた。
 役目を果たした上に本来の主が全て天へ召された。
 それでどこかに消えたのかと三人とも思っていた。
「今までどこに行ってたんだ!?」
「いやぁ。やっと後始末が終わりまして」
 今度こそ完全にと改めて封印を施していたのであった。
「それでもう我々も隠居の身となりまして。もはや転生に備えて眠りにつく必要も無くなりましたので残り五十年ほどは暇になりました。それでとりあえずはセーラ様にお仕えしようかと」
「暇つぶしかよ!?」
 思わず突っ込む。だがこれで戦乙女だったころのノリに戻ってきた。
「まぁいい。それなら付き合え。オレ達をどこかに逃がしてくれ」
「わかりました。それでは」
 キャロルが変化したバイクに二人はまたがると一目散に逃げ出した。

 二月なので四時ともなるとだいぶ日が傾きそして赤い。
 そんな河川敷にキャロルは運んできていた。
「変なところに来たな」
「ちょっと待ち合わせがありまして」
「待ち合わせ?」
 怪訝な表情をする清良と友紀。
 その背後から朗らかな声で呼びかけが。
「セーラちゃん。友紀ちゃん」
「薫子さん?…っていうかもうセーラじゃないし。オレ」
「はぁ。そう仰られても癖になってまして」
「あはは。そうよね。じゃあ高岩君」
 正反対な反応の両者である。
「それでキャロル。待ち合わせって薫子さんのことか?」
「いえ。他にも。ああ。いらっしゃいました」
 大型バイクにまたがる岡元。その後ろにしがみつく女子制服姿の順。
 反対方向からはサイドカー。駆るのは礼でカーゴには森本が。
「そう言う魂胆か。ドーベル」
「なし崩しに疎遠になってましたからな。きちんと終結をさせないといけないかと思いまして」
「なるほど。ウォーレン。全員集合だね」
「まぁ俺等の長いお勤めが終わったささやかなパーティーみたいなもんなんだがよ」

 清良。礼。順が顔を合わせるのもロゼとの最終決戦以来だ。
 そもそも直後に三人とも疲労から倒れ冬休みを静養に費やしていた。
 三学期が始まってからも清良はわざわざ礼達に逢いにいく気になれなかった。
 どうしても戦いの日々を思い出す相手。
 順は自身が女性化でやはり余裕がなかった。
 礼にしても生徒会があった。
 だから二ヶ月振りであった。

「まだまだ寒いね」
 今や完全に少女となった順。それを誇示したいのかストッキングを着用せず「女の足」をさらけ出していた。
 なだらかな斜面の短い草の草の生えている辺り。
 薫子。友紀。清良。順。岡元。森本。礼と言う並びで座っていた。
 全員で同じ方向を見ている。
 そこには何もない。ただ平和な光景があるだけ。
 命がけで守りぬいた平和があるだけ。
 だけどこれ以上ない褒美だった。

「押川。体は大丈夫なのか?」
 ぶっきらぼうな言い回しだが心配しているのは伝わる。だから順も明るく答える。
「平気だよ。一昨日終わったし」
「はぁ? 何が終わったんだよ?」
 まるでわからない清良。半分は女だったし24時間以上女として過ごした日もあるがさすがにこれは経験してない。
「いいのよ。知らなくて」
 友紀が赤い顔をしている。「女同士」で通じ合ってしまったらしい。
「『終わった』……か。俺達の戦いはあの日にどうやらちゃんと終わったらしいな」
 礼の言葉で思い起こす。僅か二ヶ月前が何年も前のことのようだ。

「押川を見ていると信じざるを得ないんだが、オレが女になって戦ってたなんて夢のようだぜ」
「どちらかと言うと悪夢だがな」
 礼の本音ではあったが森本が泣きそうな表情しているのを見ていい直す。
「倒しても倒しても次から次へと。気の休まる暇もなかった」
 これも本音。終わったからこそいえる言葉だった。
「ほんと。頼もしかったわよ。それ以上に三人とも可愛かったわよ」
 茶目っ気たっぷりに薫子が言う。
「やめてくれよ」「勘弁してください」「やだ。可愛いだなんて」
 三人三様であった。

「けどまぁ。確かにずっと男だったら見えないものもあったよな」
 チラッと友紀を見る清良。友紀もその視線をまっすぐに受け止める。
「女同士」としては友情があった。それゆえだ。
「それは同意せざるをえんな」
 礼も森本を見る。当人は赤くなって下を向いてしまう。
 礼にしたらブレイザとして感じていた「年下の男の子の意外なたくましさ」を思い出していた。
 森本の方はブレイザへの淡い思いを思い出していた。
「あたしはこれからずっと女だけど、ぜんぜん後悔はないよ」
 あっけらかんとした順の言葉。その傍らでひどくあわてている岡元の姿。
「そりゃお前は男の時からあれだけ……なんだ? その指輪?」
「えっ? もしかして岡元さんと?」
 さすがに女の子である。友紀が一発で正解を言い当てた。
「えへへへー。ついさっき三郎さんにもらったのーっ」
 ひらひらと婚約指輪のは待った左手を舞わせる。
「まぁ。おめでとう」
 儀礼的ではなく本心から祝福する薫子。友紀も同様。満面の笑みの順。女になって一番幸せなときだ。
 対照的に赤くなる岡元。そして青くなる清良と礼。
(場合によってはオレもあんな風に完全な女になっていたのかも知れない)
 もしそんなことになっていたら友紀とは一生友人どまり。それを怖く感じた自分に驚いた清良。

 戦いの日々を夕日の中で語りあっていた。
 だがそれもそろそろ別れの時が来た。
「なんにしてもみんな元気そうでよかったわ」
 薫子が明るくいう。しかし次の言葉は神妙だった。
「ごめんね。あなた達ばかりにつらい思いをさせて。私達には手が届かなかった…」
 アマッドネス相手に警察は無力だった。結果として戦乙女達に多大な負担をかけたことをわびている。
「気にすんなって。サポート。ありがたかったぜ」
 雰囲気のせいか。普段なら照れてしまう言葉がすんなり出る清良。
「そういってもらえると助かるわ。ほんと。みんなお世話になったわね。ありがとう」
 この町を去る前にやり残したこと。それはこの言葉を伝えることだった。

 薫子が去っただけで寂しい雰囲気になった面々。
「さてと。それじゃあたし達も」
「ああ。帰るとするか。順」
 自然に腕を絡める二人。冷やかすようにその頭上でウォーレンがとぶ。
 その背後から「戦友」に声をかける二人。
「元気でな」
「戦いの終わった今、もう逢う事もないだろうがな」
「なに言ってんのよ。結婚式には招待状を送るわよ」
 もう完全に「婚約者」になっている。
(女になってそこまで突っ走るか?)
(人生急ぎすぎだろう)
 とはいえど二人の人生。そこまでの干渉は出来ない。
「送るぜ」
 ウォーレンが大型バイクに変形。それにまたがる岡元。その彼の胴に両手でしっかりとしがみつく順。
「じゃあ、またね」
 ウインクをしたのが合図にでもなっていたかのようにバイクは走り出す。

「それじゃ俺達も帰るか。森本」
「はい。会長」
 礼と森本も立ち上がる。だが礼は清良の方に来た。身構える清良。
「高岩。正直に言うが俺はお前が大嫌いだった」
「……それはこっちのセリフだぜ」
 クイーンのかけら以前に相性が悪かった。
「だが貴様に助けられた部分もあるのは認める」
 これは不意打ちだった。まさか礼にこんな台詞を言われるとは思っても見なかった。
「意外だな」
「俺はそこまで傲慢じゃない。戦っていたうちは負けたくない思いからいえなかったがな」
 そして驚くことになんと礼が頬を赤らめたのだ。
 彼の人生でここまで心情を吐露した事がなかった。それゆえだ。
「ふっ」
 清良はなんとなく気分がよくなった。上から見たというわけではない。気持ちが通じていたらしいことにだ。
「負けたくない…か。だったらいつかガチでやるか?」
「望むところだ」
 また一触即発? ひやひやする友紀とキャロル。対する森本。ドーベルは落ち着いている。
「だから次に逢うまで簡単に負けるんじゃないぞ」
「ああ。てめーこそ剣の腕をさび付かせるなよ」
 清良は自分でも意識せずいい笑顔で語っていた。
 そしてそれは礼も笑顔にしていた。
「ああ。また逢おう」
 そして彼は照れ隠しのように素早く歩き出す。
 主の考えを察したドーベルは即座にサイドカーモードに。
 森本は清良と友紀に一礼するとカーゴに納まる。
 既に運転をこなせるようにはなっていたが、ここは意地で礼がカーゴになんて納まらないとわかっていたからだ。
 そしてその読みどおり礼はバイク部分にまたがると、後ろを振り返ることなく走り出させた。

 その場には清良と友紀。そしてキャロルだけに。

「みんな行っちゃったね」
 夕暮れもありさびしい雰囲気に。
「ああ。そうだな」
 短い言葉の清良。
「あっさりしているのね」
「生きていりゃまたあえるさ」
「そりゃそうだけど」
 会話が続かない。逆方向からのアプローチで「怒って見せた」友紀。
「ところで清良。最近ケンカ多いよね」
「そうだな。確かめているんだ」
「確かめて?」
 意外な返答に友紀はつい怪訝な表情に。
「拳の戦乙女・セーラではなくただの男・高岩清良である事をな」
 いくら戦意を高めても変身もしなければ飛べもしない。それで自分がただの男である事を再確認していた。
 またただの男相手に対等の喧嘩。これもまた「人である証明」としていた。
「あの…清良」
 慰めたくても言葉が出てこない。
「一心同体だったからわかるんだ。セーラは優しい奴だった。戦いながらも心の中で泣いていた」
 それは清良も常に気にしていたことだった。
「話し合って引っ込んでくれりゃそれでいい。だがやつら…アマッドネスはそうは行かない。暴力に暴力で挑まないといけない」
「清良」
「結果として何人もの男達を死ぬまで女にしてしまった。仕方ないとは思う。けど…申し訳ないと言う気持ちも消えない」
「でもあなたが戦ってくれたから」
 犠牲者は食い止められた。そう言いかけたがそんな安直な言葉でいいのかと自問自答する友紀。
「それもわかる。けどオレが男達の人生を変えたのも本当だ。だからせめてオレはこの思いを背負って生きて行こうかと思う」
 人々を救うために拳をふるい、そしてその「罪」を背負うと言う。
 それはあまりにも重すぎた。
「しかし一人じゃ正直きつい。だから友紀。すまねぇがオレのことを支えてくれないか?」
 その時の清良は優しい表情をしていた。まるで女の子のようだった。
 分離したはずの「セーラ」が残っていたかのようだ。
「うん。清良。ずっと一緒にいてあげる」
 友紀もまた「罪」の意識の消えないもの。だが二人でなら軽く出来る。

 微笑みあうと二人は自然と抱きしめあっていた。
 夕日で二人の影が長く延びる。

 時間にすればほんの2〜3分だが気持ちの上では随分と長くしていた感触。
 どちらからともなく離れる。

「さぁ。帰るか」
「そうね」
 友紀としてはまだチョコを渡してないが不満はない。もう既に心は通じ合った。例え遠く離れても途切れない。そんな確信を抱いていた。
「でしたらわたくしがお送りしましょう」
 キャロルの申し出。顔を見合わせる二人。
 そうだ。キャロルもずっと長いこと戦い続けてきた。かけがえのないパートナー。
 みんなで帰ろう。そんな思いが「頼むぜ」と清良に言わせていた。

 バイクモードにキャロルが転じる。
 それにまたがる清良。後ろに座る友紀が清良の胴に腕を回す。
 両者ともキャロルの用意したヘルメットで表情は見えないが仕草に照れが見て取れる。
「お二人とも。よろしいですか? 行きますよ」
「私はいいよ。キャロル。清良」
「よしいくか。キャロル。しっかりつかまってオレから離れるんじゃねぇぞ! 友紀」
 友紀は声が上ずりそうだったので返答せず、代わりにきつく抱きしめた。
 それを返事とした清良は合図としてグリップを回す。

 二人を乗せたバイクは走り出し、夕日へと消えていった。
 もはや怪人の出る事はない平和な町に。







高岩清良/セーラ

伊藤礼/ブレイザ

押川順/ジャンス


野川友紀
森本要
岡元三郎

キャロル
ドーベル
ウォーレン

一条薫子
渡会のり子


三田村健治(潮)/ガラ
軽部士郎(しのぶ)/アヌ
秋野光平(ひかり)/ライ
中屋敷純郎(純子)/イグレ


広瀬葉子/クイーン・ロゼ


スズ



戦乙女セーラ

完結によせて

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