2017年春。
 とある地方都市の駅前で街頭演説が行われていた。
 新しい市議会議員を選ぶ選挙だ。
 どこにでもある光景である。
 短い髪のスーツ姿の青年が、若々しい声をからして叫ぶ。
「田中彼方(たなか かなた)。田中彼方に清き一票を。父から受け継いだものを守っていきます」
 「たなかかなた」と回文になった名前は意図したわけではなく、彼の父である田中伝次郎が「彼方まで突き進め」という意味で命名したら、のちに回文になっていると気が付いたといういわくつきの名前である。
 しかしこれはかなり覚えやすい名前である。
 選挙には有利と思っていた。

 彼方は26歳。
 54歳の父は現役の市長である。
 親子二代の市議会議員を目指す「初陣」だった。
 それだけに気合も違う。
「田中彼方。田中彼方を宜しくお願いします。私を男にしてください。どうか私を男にしてください」
 お定まりのフレーズだったが「言霊」が宿っていたらしい。
 ただし、逆方向に作用したが。

 やがて選挙戦が終り投票日。
 選挙事務所で片目のだるまに目を入れる準備をして彼方は待っていた。
 父親の支持者がどれだけ票田となったか。
 それだけで勝利宣言をしたい気分の彼方だった。

 ところが開票してもなかなか伸びない。
 焦りが出てくる。
 やがて「結果」を察したスタッフが一人抜け、二人抜け。
 落選が確定する頃には数人しかいなかった。
 しかしテレビ局は居合わせていた。
「敗軍の将」を撮り続けていた。
「バカな!? こんな結果が出るなんて」
「やはり若すぎましたね。彼方さん」
 こちらの方がいかにもなきれ者の印象のある秘書。佐藤太郎がいう。
 オールバックと眼鏡をかけた細身の青年は三十歳。
 参謀として貢献していたが、徒労に終わった。
「なんという赤っ恥だ。男になるなんて言っておきながら……なんだ? 今の声?」
 声が裏返ったとかではない。
 完全にソプラノだった。
「まるで二十歳のアイドル候補生のような済んだ綺麗な声でしたね」
 佐藤も驚いている。
「オモッチャマ……じゃなくてお坊ちゃま?」
 スタッフの一人は完全に裏返った声で……恐怖すら混じる声で叫ぶ。
「な、なんだ? 体が熱い。むず痒い」
 呻く彼方。うずくまる。

 変化は声だけではない。
 声にふさわしい優し気な顔立ちに。
 白い肌。やや面長の美人顔。大きな目。
 栗色に変化した髪が爆発的に伸びる。
 肩幅が狭まり、胸がせり出す。
 ウエストがくびれ、尻が大きくなる。
 全体的に背が縮み華奢に。
 甘い香りが漂う。
「こ、これはまさかっ」
 胸を触ると柔らかいながらも弾力があるふくらみが。
 逆に足の付け根はフラットになっている。
 落選のショックも手伝い彼方は気を失って倒れこむ。

 そう。
 田中彼方は選挙に敗れ「男になれなかった」結果、女になってしまった。
 しかもそれをローカルとはいえ、一部始終をテレビ中継され、選挙速報を見ていた人たちに性転換の現場と新たなる姿を目撃された。
 それは新しい議会以上の衝撃をあたえた。

選挙戦

 三か月後。
「佐藤。出馬するぞ」
 柔らかくうねる栗色の長い髪を無造作に縛り、ノーメイクなのに美しさの……厳密にいうと派手さが際立つ顔のかなたがいう。
 女性服は抵抗あれど、ブラジャーだけはどうしてもつけないわけにはいかない。
 なにしろGカップだった。
 ブラをつけないと胸が暴れまくってまともに歩けない。
 スカートも嫌でパンツルックだったが、尻の大きな体形の関係上さすがにレディースである。
 上は半そでのワイシャツ。
「補欠選挙ですね」
 佐藤が答える。
「ああ。これで男に戻れる」

 田中彼方……かなたはずっと女のままだった。
 医学的に検査をしても女性であると証明されただけで、元に戻すことはできなかった。
 科学的なものが通じない神秘力。
 そうなるとオカルティックな方向に行くが、運を味方につけようというのであれば神仏を粗末に扱いはしない。
 少なくとも「祟られる」ようなことはしていなかった。
 後はたどり着くのは「選挙に負けたので男になれず女になった」という結論だった。
 ならばとその逆をしようとなった。
 かなたにとって幸いなことに欠員補充のための補欠選挙が行われることになった。
 それを「利用」する。
 今度は「女になり損ね」男に戻ろうというのである。
 当選するのは難しくとも、落選は苦もない。
「しかし、それで男に戻れるかもしれませんが、あまりふざけたことはできませんね」
 今度はその悪印象が影響すると佐藤は言う。
 そこで「まじめにやったものの空回り」という方向に仕向けることにした。

「しかし逆に当選してしまったら戻れないのではないか」
 トーンを落とした声が逆に大人の女性をイメージさせるかなた。
「あの大統領選を思い出してください。圧倒的に有利と思われた女性候補が、同性に嫌われて敗れた例があります。それを踏襲しましょう」
「女に嫌われるってどうやって?」
 好かれる努力はしても嫌われるように仕向けたことなとない。
「幸いにしてかなたさんはかなりの美人」
 生粋の女性なら間違いなく誉め言葉の「美人」も、元来は男の彼女にしたら皮肉にしか聞こえなくて苦笑する。
「それを活かしましょう。男性有権者に過剰なアピールをすれば、はた目には真面目に見えるものの、女性にねたまれて票を減らすことが期待できます」
「なるほど。しかし皮肉なものだな。票を獲得できなくて女になって、それを戻すためにまた負けるための努力とは」
「男に生まれておきながら、この後をずっと女性として生きるのはつらいでしょう」
「まぁな。生理がこんなにきついもんだとは思いもしなかったよ……病気でもないのに」
 男に戻らないと政治活動どころではなかった。
「出馬の手続きをしますが手始めに」
 体格のいいスタッフが女の肉体である彼方を二人がかりで拘束する。
「なにをする!?」
 暴れるが華奢な女の身ではびくともしない、どうしようもない無駄な抵抗だった。
「覚悟してもらいますよ。かなたさん」
 佐藤がいうと笑顔の女性スタッフ二名もよってきた。
 一人は採寸用のメジャーを手に。
 一人はメイクブラシとメイクパレットを手にしていた。

 二時間後……清楚な印象のワンヒース姿で、元が派手な顔立ち故にした化粧で、まるで舞台女優のようになってしまったかなたがいた。
 髪はおろして緩くウェーブを。足もそれまでのローファーからヒールのあるものへと変えた。
「なんて格好をさせるんだ?」
「まずはある程度は飾りませんと。相手にされないと真面目にやってるようには見えないのではないかと思いまして」
「うー。これで街中を歩くのか?」
 当人にしたら『女装』そのものである。
「これでも入門用ですよ。先生」
「夏なんだから肩くらい出したいところですよね」
 好き勝手なことを言う女子スタッフ。
「さて。それではまず笑顔の練習とまいりましょう。男性相手に微笑む練習です」
「男に媚びるのかよ?」
「それが嫌なら万人相手のもので。どのみち女性には利かないでしょうし。ならいっそ男性相手に絞った方がいいかなと」
 今は美女の姿だが本来は男。
「そっちの気」もないかなたにしたら男相手に愛想を振りまくのは怖気が走る。
 とはいえ、なるべく同じ状態を再現する。
 すなわち、本気で当選目指して「男になろう」として選挙に敗れ「女になった」正反対をである。
 目指す性別は逆と言えと本気で当選を狙うのは必要と察した。

 選挙活動が始まる。
 街頭演説だが近年は経費節減でいわゆる「選挙カー」を使わず駅前とか人の多いところに立ち、ハンドスピーカーでの演説というのも多かった。
 これを活かした。
 近い位置でその美貌を見せつける手だ。
 一見ばかばかしい単純な手だが効果はあった。
 主に男性が取り囲むように見ている。
 ただ演説を聞くより胸や顔に視線が向いているのはかなたにもわかった。
(こうして女になってみると、男がどんだけスケベかわかるな)
 理屈ではなく感覚で理解できた。
(ああ。女に男はバカだと思われるのももっともだ。とはいえこれは本能的なものなんだが)
 そんなことを思いつつもなんとか演説を終わらせる。
 すると拍手が沸き起こる。戸惑うかなた。
「いやぁ。よかったよ」
 男性の一人がそういって近寄ってる。
「あ、ありがとうございます」
 やはりまだ男は同性という感覚があり、あまり近寄りたくないのが本音。
 しかし有権者を相手にした候補ともなるとそうも言ってられない。
 事前に立てた「戦略」を実行に移す。それは
「どうかよろしくお願いしますね」
 その柔らかい白い手で相手の手を包み込むような握手。そしてにっこり。
 これはたまらない。
 ぼーっとなる男性。
「あんた、本当に男だったのか? この手の感触は全く女だぞ」
 否定したい思いが頭をよぎる。別人のふりをしたかった。
 しかしそちらの方が面倒。
 それにせっかく名前と顔がテレビ中継で売れたのだ。それを活かす。
「ええ。実は男です。でも、今は女に」
 狙ったわけではないが伏し目がちな表情が「色気」を醸し出した。
 それに触発される男たち。
「お、オレもよかったと思います」「僕も」「俺だって」
 我先に握手を求めだす「有権者」たち。みんな男だ。
 内心では気持ち悪く思いながら、それでも若干ぎこちないとはいえど、練習した女性的な笑みをたたえ握手を繰り返すかなたであった。
「ありがとうございます。ありがとうございます。どうか私に清き一票を投じてください」
 もちろんアピールも忘れない。

 三日ほど経つ。
「感触はいいようですね」
「そうでもないとたまらんぞ。男相手に握手だけならまだしも、媚売ったりしてるんだし。それで感触が悪かったらやってられん」
 人には見せられない表情。美人が台無しである。
「やはりその美貌は強い武器ですね」
「そうか? だが本来は政策とかで支持を取るのが本筋だろう」
「それでも見た目の印象の良さはマイナスにはなりませんよ。そこでですが明日からは別の服でいきましょう」
「お。やっとこのひらひらした服ともおさらばできるか。どれどれ。今度はスーツか。それとも暑いからホロシャツとかか?」
「これです」
 見せられた「衣装」を前にひきつるかなたであった。

 翌日、朝八時の駅前。
 真っ白いメイクと正反対の真っ黒なドレス……いわゆるゴスロリに身を包んだかなたがいた。
 髪の毛も左右に分けるツインテールだ。
(な、なんでこんな姿で)
 男性性を上げるどころか、女性性の大幅増強だった。
 胸の谷間も見えている。
「信じられない」
「あれ、本当に元は男かよ」
「でも、とてもかわいい」
 評判は悪くなかった。

 しかし黒いドレスが熱を吸い、それがグロッキーにつながった。
 美貌を活かそうとしたがこれは失敗。

 ならばと翌日は一転して肩の出たトップスとミニスカート。
 ツインテールはそのままである。
 太ももを惜しげもなくさらしている。
 アイドルのステージ衣装に見える。
「本当に男かよ」にくわえて「本当に26かよ」も加わった。
 衣装のせいか、メイクのせいか、18くらいに見えた。
「みなっさーん。こんにちわぁ。田中かなたでぇす」
 またこういう衣装という事で、もうやけくそになっていた。
 女性アイドルになり切っていた。

 この姿で三日もやっていると、法被姿の男たちが演説を聞きに来ていた。
「?」
 怪訝に思うかなただったが、特に邪魔ではなかったので予定通りに演説を開始した。
 ところが法被の男たちが踊り始めた。
 手にはサイリウムを持っている。
 つまり「オタ芸」を始めたのである。
 ひきつるかなた。それに耳打ちする佐藤。
「続けてください。彼らにとってかなたさんはアイドルと同等の証。味方につけて損はありません」
 参謀格にそういわれては仕方ない。
 余計なトラブルも避けたく、そのまま放置していた。

 以来その「親衛隊」は、かなたの演説するところに現れてはオタ芸を打っていた。

 利用できるものはとことん利用となった。
 日曜の市民プール。大勢の親子連れが訪れる。
 そこにかなたもいた。
 ただし建前上は「選挙運動の合間の休日」で泳ぎにきたと。
 もちろん違う。
 水着でのアピール作戦を展開しているのである。
 とはいえこんな憩いの場で演説もできない。
 だから休みに遊びに来たとしている。
 口よりも巨乳と美尻が雄弁だった。
 それは多くの「お父さん」たちの視線を集めたことで証明されていた。

 泳ぎにきたというより、暑くなると水につかり、それ以外はプールサイドでそのプロポーションをさらしていた。
 たまに足を組み替えて「見えそうな」雰囲気を出す。
「本来は男」というのが各人の頭からこれで消えた。
 何しろ166センチ。上から91(G) 60 89のプロポーションで白い肌。
 甘い香りもかぐわしいそれが男とは思えなかった。
 まるでグラビアアイドルのようだった。

 なおかなたであるが、もうだいぶ感覚がマヒしてきて、この作戦を提示された時も「いいんじゃねー」で流してしまった。
 しかしプールに入り文字通り「頭を冷やす」と恥ずかしさが蘇ってくる。
 いわば「視姦」されていると思うと尚更である。
「だ、だめぇ。見ないでぇ」
 ほほを赤らめて恥じ入る姿がある意味で逆効果。
 余計に注目を浴びた。
 そしてもう一つの狙いである女性の妬みも順調に増えていたのだが……

 翌日。事務所でかなたはひきつっていた。
「……いつから出ていたんだ? これ?」
「えーと、投稿日は昨日ですね
 それは画像投稿サイトに投じられた漫画だった。
「彼方×佐藤」のBL漫画だった。
 彼方は男時代の姿で描かれている。
「名誉棄損だ! 訴えよう」
 勝手に同性愛まんがの登場人物にされ、事実無根のことを描かれてはこの反応ももっともだ。
 ましてやスキャンダルには人一倍気をつけないといけない立場。
「全く、ルール無視もいいところですね」
 佐藤も苦々しく言う。
「そうだろう。お前も被害者だからな」
 共感してもらえたとかたなは喜びかける。
「こういう『ナマモノ』はモデル当人には知られないようにするのが同人会の暗黙の了解なのに」
「おいっ」
「ああ。もちろん原作付きの作品でこの手の改変したのも、原作者には知らせないというのもありますよ」
「誰がそんなこと聞いたよ。とにかく訴えよう」
「あまり得策ではないですよ。今はそうでなくても表現規制に他する反発も強いんですから」
「それじゃ見逃せと?」
「表現規制を進めている立場ではないので、制限するようなことは望ましくないですね。反発を買います」
「くっ。訴えるのは諦めるにしても、俺は自分がホモ扱いされている漫画なんて読みたくないぞ」
「彼方さんはまだ『攻め』だからいいですが、私など『受け』ですからねぇ」
「なんだ? その『攻め』とか『受け』というのは?」
「行ってしまえば前者が同性愛物で男役。後者は女役ですね」
 そこでふとかなたは違和感を覚えた。
「待て? 今の俺は女なのにどうして男役なんだ?」
「そこが腐女子の不思議なところで。たぶん彼女たちには実際の性別以上にそういう関係性に見えるのでしょう」
婦女子? 実につつましい感じかするのだがな」
 わずかなイントネーションの違いで「認識の差」を感じる佐藤であった。

「しかし佐藤。お前妙な知識があるな?」
「総理を務めた方の中にも、漫画の好きな方はいらっしゃいますから。この程度なら」

 その後も「男に受けるが女に嫌われる」方針で美貌を最大の武器とした選挙戦を展開する。
 服装こそ落ち着いたが、次第に慣れてきて男相手の笑顔も無理のない物へと変わっていった。

 一日の選挙運動を認められる時間は朝八時から夜八時まで。
 これ以外は違反に問われる。
 しかし選挙活動でないなら別に法に触れないことは何をしてもいい。
 やや扇情的に見える服を着て、夕食を食べに出たり酒を飲むのも自由である。
 ある時は花火大会に浴衣姿で現れ、ある時は谷間の見える服で酒場に現れる。
 いずれの場合も佐藤が同席している。
 それを相手に自然な柔らかい、そして可愛らしい笑顔を見せていた。
 演技のつもりだったがオフということでアルコールも入って、それが効果をもたらした。
 もちろん佐藤の計算である。
 人目に極力つけるべく文字通り「露出を多く」しているのだ。

 当然だが本来の演説も忘れていない。
 政治家の息子故に血に刻まれたのか。
 終末が近くなるとかなり本気になっていた。
 この時点では「わざと落ちて男に戻る」というのもかなり忘れている。
 それでもフレーズは忘れずに叫び続ける最終日。
『女にしてください』を口にしていないと、落選して「女になり損ね、男に戻る」こともできなくなる。
 だからきちんと入れていた。
 ただし、余計なフレーズ込みで。

「田中かなた。田中かなたに清き一票をお願いします。どうか私に(票を)入れてください。お願いします。私に入れてください。私を女にしてください」

 本人は無意識だ。
 議員の血が叫ばせたとってもいい。
 しかし聞いていた方はたまらない。
 女は上……頬に血が集まり、男は下に集まっていた。
 もっともその緩みきった表情で「ナニ」を想像したかは容易にわかるが。
 かなたはもう自分が何を口走っているのかわからなくなってきている。
 佐藤が止める前にとどめの一言がでた。

「おねがい。私に入れて。私を女にしてぇーっ」

 甲高い声が駅前に響き渡る。
 男たちから拍手喝さいが沸き上がり、ここでかなたは正気に戻る。
 赤面した顔が今までで一番色っぽかった。
 当然、その場から逃げた。




 かなたの事務所。お通夜のように静まり返っている。
 いや。お通夜は読経のあるだけ音があるが、本当に無音だった。
「…………」
 午後八時を回り選挙戦は終了した。
「かなたさん?」
 佐藤が心配するほどかなたは落ち込んでいた。
「……やっちまったのか?」
 真っ赤な顔を上げる。
「それはもう見事に」
「ああ。なんて恥ずかしいセリフを」
 冷静にって振り返って青ざめ、羞恥心から顔が赤くなっていた。
「この様子じゃ少々厳しそうですね」
「破廉恥」と叩かれかねない。
「まぁいいか。元々それも目的だ。これで『女になり損ね』たりすれば男に戻れる」
 そう思うと致命的な失態も気楽に取れた……のだが。

 翌日。投票日。
 落選を前提として一応準備をしていたが、開票速報を見て唖然となる。
 かなり早いうちから「当確」が出ていたのだ。
「な、なんで?」
 最終日の大暴言『私に入れて。女にして』を考えたら当確など考えにくい。
「……これは推測ですが、その大失言が逆に男性票を獲得したのでは?」
 誰が投票に着て、そして来なかったかは調べられる。
 しかし誰に投じたはわからない。
 当然、投票者の性別もわかるはずはないから裏付けは取れない。
「自分で言うのもなんだがこんな色物。それを言うなら『エロもの』が適切か。こんなのに入れるなんて」
「浮動票をかき集めてしまったようですね」
「それにしてもそれだけとは思えないが」
「あのう、いいですか?」
 女性スタッフがおずおずと手を挙げる。
「なんだ?」
「はい。選挙期間中、先生と佐藤さん。とても協力し合ってましたよね」
「そりゃな」
「私の仕事ですから」
「それがとても仲睦まじく見えて」
「はぁ? こんな姿してても俺は男だぞ」
「ええ。だからこそ」
 ほほを染める女性スタッフ。
 ここで例の『BL漫画』を思い出すかなた。
「もしかして……俺と佐藤はそんな目で見られていたのか?」
「ありえますな。それで腐女子や貴人という女性票を獲得したと」
「そんなバカな?」
 当確なのにこれだけ「悪い反省点」が出てくるのも珍しい。

 また武器としていた「性転換した」という知名度もこの結果に作用していた。

 かくして、田中かなたは当選した。
 とてもではないが万歳三唱の気分ではなかったが、テレビで見られている手前やらないわけにはいかなかった。


 その夜。自宅で一人で酒を飲むかなた。
(こんなことになるなんてなぁ……当選したのに嬉しくない。けどまぁ、気持ち切り替えていくか。それにしてもいつになったら戻れるんだ?)
 そんなことを考えていたら来訪者を告げるチャイムが鳴った。
「なんだ? こんな真夜中に?」
 アルコールが入っていたのもあり、また自分が女という自覚もかけていて、無防備に開けてしまった。
 そこにいたのはあの「親衛隊」達六人だった。
「ああ。君たちか。こんな時間に何だね?」
「公約を果たしに来ました」
「公約?」
 それを果たすべきは自分であり、この面々ではないわけだが?
「ええ。かなたさんを女にするべく、入れにきました」
 膨張している下半身。
 彼方は生まれて初めて、自分が性の対象とされていることに恐れおののく。
「ちょ、それ違うっ」
 抵抗を試みるがいくら女の肉体と言えど逆らえない。
 閉じかけた玄関をこじ開けられ、そのまま別の男に両肩を掴まれる。
(もしかして、俺が男になり損ねた女になったように、あの「入れて」「女にして」という言葉が言霊を持って?)
 それを考え終わる前にベッドへとなだれ込まれる。
「やめろっ。バカっ。俺は男だぞっ。」
「こんな肉体で何言ってるんです。散々誘っといて」
「違う。そんな。うぐっ」
 唇を唇でふさがれた。
 たっぷり一分間のキスで腰砕けに。
「さあ先生。約束通り入れてあげますかね」
「や、やめろぉーっ」

 抵抗むなしく、処女喪失。
 しかも来訪者は一人ではない。




 三か月後。
 かなたは議員としての活動を精力的に行っていた。
「佐藤さん。この後のスケジュールはどうだったかしら?」
 秋になり、スーツも楽に着れるようになった季節。
 レディススーツを着こなしていた。
 かかとの高い靴。
 耳にはピアス。穴をあけてのものだ。
 化粧も自分でこなせるようになっていた。
「はい。今日の政務はここまでです」
「そう。それじゃここからはフリータイムね」
「先生。今夜もですか?」
 苦々しい表情になる佐藤。
「ええ。公約は果たさないといけないでしょ」
 ほとんど毎日、男性有権者が尋ねてきていた。
 自分の発した言葉に縛られ逆らえず。
 何人もの男に体を許していた。
 その結果としてもうすっかり「開発され」てしまって、今では逆に男との夜を心待ちにする始末。
 男とベッドを共にし続けて、会話を重ねたためか言葉遣いも女性的に変貌していた。
「もう男に戻る気なんてないわよ。こんなに素晴らしいんですもの」
「はぁ」
 その言葉を裏付けるように肌がつやつやしていた。
「ああ。今日はどんな男の人かしら。待ちきれないわ」
 完全に「堕ちて」いた。

 のちにかなたは父親のわからない子供を産み落とす。
 何しろ毎日のように違う男とベッドインしていたのだ。
 中には避妊しない相手もいて、それすら多くて特定できなかった。

 しかしそれで女性としての苦労を知り、以来女性の立場で政策を推し進め、働く女性。特にシングルマザーを保護するようになった。
 その結果、選挙戦の時に嫌われようとした女性の支持を取り付けていたのは運命の皮肉というものだった。

あとがき

 発想の大本はかなり前に読んだ投稿で。
「私に入れて。私を女に」というのがその元ネタで。
 つまり実話らしく。
 それから前後を組み立てていきました。

 ただ政治関係に疎いのでなかなか着手できず、ずっと温めていました。
 温めすぎて腐る前に出せてよかったです(笑)

 主人公の名は例によって男女どちらでもという名を考えていて思いついて。
「かなた」としたので回文になるように姓は田中と。
 参謀格の佐藤ですがこの命名にあまり意味はないです。
 成り行きで妙にサブカルに詳しくなっちゃいましたが(笑)

 こんな話を書くと実際の選挙などと比較しての矛盾をついてきたり、揚げ足を取る人も結構いますが
「男が女になる」なんて現実にはないことを前提にしている世界で、あまりリアリティを持ち出されてもねぇ(笑)
 中にはキャラのセリフだと逃げられるということか、あとがきからdisって来た人も。
 それにプロじゃないので、趣味の作品なので「ストーリーをああしろ」とか言われても困ります。
「こう言う話」を「趣味」で書きたかったんだから。

 今回ここまで言うのは政治と宗教は話題としてはケンカの種になりかねないのを受けて。
「警察」が来る前に先手というわけで。
 大体まったくほめないでひたすらケチをつけというのは、ただ単に難癖つけたいだけだろうというもんで。

 お読みいただきまして、ありがとうございました。

城弾

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