とらぶる☆すぴりっつ

三杯目「呑まれたら童女?」

作:城弾

 酒井真澄の努める部署では朝礼がとりおこなわれていた。
 そんなに大げさなものではなく、輪になった状態で一人の青年が挨拶をしていた。

「福岡支社からこのたび本郷支社に配属となりました山崎きららです。よろしくお願いします」

 深々と礼をする。顔を上げると笑顔。少々演出過多に取れるが悪くない印象だ。
 髪はやや長め。営業課ということを思うとちょっと冒険かもしれない。
 精悍なタイプの好男子。身長はそれほど高くはないが引き締まった肉体をしていた。
 それを包むスーツも値段は高くはないがセンスのよさを感じさせる。
 しかし何より注目されたのはその「名前」
(きらら? 男につけるにはちょっと度胸のいる名前だな)
 三十台の社員。竹葉(ちくは)が率直な思いを抱くが口にはしない。
 全員が同じ感想を抱いていた。
 たぶん当の山崎自身も「そう思われている」と承知の上だろう。

「あー。ちょっとした事情でうちで仕事をしてもらうことになった」
 課長が説明する。ほんの一瞬、視線が酒井に向いていたように感じたのは当の本人。
(何だ? 今の意味ありげな視線は)
 だがすぐに視線が外れて桜子に向く。
「吉野君。今日は彼を君が案内して回ってくれ」
「わかりました」
 課長が指示をして、部下が了承した。それで終わる話の筈だった。
「課長。できれば案内は女性よりも男性の方が」
 それを切り出したのは山崎本人。
「そうか。それなら酒井…も、まだ日が浅いな。菊水。頼めるか?」
 二十代後半の男性社員に打診する。
「あ。はい。それはいいんですが…」
 菊水は同僚である桜子に配慮する。
 なにしろ「女よりも」と言われた形だ。「女のプライド」を考えれば面白いはずはない。
 事実に表情が硬かったのが感じ取れたが、山崎の台詞でその表情が一気に崩れた。
「お願いします。右も左もわからない僕にとって、あなただけが頼りなのですから」
 低い位置からやや上目遣いになってすがるように。
 ご丁寧に両手で菊水の手を包み込んでいる。
 これで一気に機嫌の直った貴人。目を輝かせている。
「そうよね。女なんかより男同士よね。わたしったらヤボでごめんなさいねぇ」
 高く作った声でオホホ笑いをしながら身を引く。
「あ、あの…吉野さん?」
 上機嫌の桜子と裏腹に青ざめる菊水。
 助けを求めていた表情の菊水が「絶望した」といわんばかりの表情になったのを全員が気づいていたが見て見ぬ振りをした。
 男は我が身に降りかからぬようにと。
 女子は「こんないいものを生で見られるなんて」と。

 空気を変えるべく課長が次の言葉を紡ぐ。
「あー。それじゃ吉野君。君には」
「はーい。歓迎会ですね。それなら既にピックアップしてますよ」
 元々有能だが酒が絡むとなおさら頭の回転が早くなる。
 すっかり上機嫌の桜子が課長に言われる前にプリントアウトした「くいなび」のページを見せる。
「相変わらず手回しがいいな」
 苦笑する課長。それをよそ目に菊水相手に過剰なスキンシップをしていた山崎は
「あ、できれば個室のあるところがいいですね」とリクエストをしていた。
「あら。なーに。男同士二人きりになりたいの?」と余計な気を回す桜子に
「改めてする自己紹介でちょっとね」と。

 一日の業務を終えて夜の街へ繰り出す一同。
 予約していた「伊丹」というチェーン店に出向いた。
 平日だったので楽に取れた。

 山崎のリクエストどおりに個室だ。むしろ「隔離」という方がしっくり来る。
 掘りごたつ式の部屋に通される一同。
 主役である山崎が「神座」。そこから時計回りで酒井。吉野。菊水。
 山崎の向かい合わせで課長。ここから座席が反対側になり澤野。宇良のOLコンビ。
 31歳の中堅。竹葉が山崎の隣。
「それでは、山崎きらら君を歓迎して乾杯!」
 課長自らの音頭でジョッキやグラスが掲げ上げられる。
 桜子はいきなりコップ酒。酒井は烏龍茶。他は全員ビールの中生だ。

「いやぁ。それにしても移動先にこんないい男たちがそろってて嬉しいですよ」
 『女たち』の間違いと思いたかった菊水と竹葉。そして酒井。
「お前…もしかしてそっちの気があるの?」
 ストレートに菊水が尋ねる。案内の最中やたらにスキンシップを図られて辟易としていたが、もし『そっちの気がある』ならある意味納得だと。
「いたってノーマルですよ。僕は」
「普通の男がやたらに男相手に触るか?」
「納得させてあげますよ。ただちょっと僕は酒に強いもんだから時間が」
(何で酒が?……まさかっ!?)
 一同が酒井を見る。当人も考えが及ぶ。

「さて。そろそろかな」
 山崎が言ったとたんに彼の足元から煙が上がった。
「えっ?」
 課長以外の全員が驚いた。特に酒井が驚いた。
 時には予想が的中して驚くことがある。今がそのときだ。
(ま、まさか。しかし親戚にはこんな奴いないし)
 そして煙が晴れたら予想通り山崎の姿はない。かわりに美女がいた。
 髪の毛は金に近い茶色のソバージュ。化粧もきつい。特にくっきりとした口紅の赤さがケバさを醸し出していた。
 暗い飲み屋でくっきりと見せる目的ならなるほどと頷けるメイク。
 体にフィットしたヒョウ柄のワンピース。それが浮き彫りにするボディラインは凄まじい。
 胸はとにかく自己主張が激しく。ウエストのくびれも本物の女以上だ。ヒップは文字通りの安産体形。
 どこからどうみても女。それも場末のバーにいるようなホステスのようだ。
「や、山崎君…なの?」
「はーい。きららでーす」
 若干ハスキーな声で可愛らしく返答する。
 なるほど。酔えば女になるのがわかってれば最初から女で通用する名前をつけるか。
 納得した一同である。
「キャハハハ。ビックリした? ねえビックリした。きららねぇ、朝からもうこれをずっと楽しみにしてたのよぉ」
 「悪戯」が成功してご満悦の姫様。
(同じやつが先にいればそりゃこっちにまわされるか。扱いなれてるってことでな)
 同時にやたらに男である自分にモーションかけてきたはずだ…と菊水は納得した。
「もしかして課長。知ってました?」
 サブリーダーでもある竹葉が尋ねる。
「ああ。ウチのせがれが似たような体質でな。それで任された。酒井の時は半信半疑だったが」

「はっ?」
 桜子は慌ててバッグを手繰り寄せる。そして中から小型のビデオカメラを取り出す。
「酒井君のために購入したけど、まさか他にも使う相手が出るなんて」
 どこから突っ込んでいいのか見当もつかない酒井だった。
 そして桜子の期待通り。いきなり過激な挨拶…キスを菊水相手にかましているきららだった。
 だが菊水より人生経験の長い竹葉はさすがに一度の失敗(VS真澄)で懲りている。
「ま、待てっ。山崎。お前は男相手にキスして気持ち悪くないのか」
「なんで? 今は女やけん。平気とよ」
 どうやら女性化すると言葉遣いまで変わるらしい。
「大体ウチのとーちゃんからしてそうなんよ。大昔にご先祖様が呪われてその家系とか。とーちゃん直系なんだけど女になったのを実は喜んでて。もう随分いろんな男の人と寝たらしいちゃ」
 眩暈を覚える酒井。自分の父もそれに近いことを話していた。
(お、俺も酔ったらやばいのか? だとしたら…そうでなくても絶対に飲みたくないが…)
「今でもほとんどは酔っ払って女で過しとーよ。だから素面のときも女装してて。アタシそんな環境で育ったから男相手も女相手も抵抗ないんよ。あ。でも女のときは男がいいやね。男のときは女も悪くないけど…」
 妙に色っぽい流し目をする。
 ほとんどの目が酒井に集まる。彼は「知らない」と首を必死になって横に振る。
 その間に隙を突かれて竹葉も唇を奪われた。
 どうやらこの時点では女子は対象外らしい。そして当人たちも完全に傍観者である。
 相撲で言うなら砂被りという状態で食い入るように見ている。
 実際の「腐っている女子」はリアルな男同士の交際は恐がるようだが、この場合きららが女の姿なので普通にラブシーンであった。
 そのため「男同士」の実感が乏しく「見世物」状態だった。
 だがそうは行かないのは唇を狙われている男たち。
 酒井自身も初日にやらかしているが今度は被害者になりかけている。
(そ、そうだ)
 酒井はこの危機を乗り切るべく烏龍茶のコップをカラにしてビールをぐいっとあおった。

「さーさー。酒井さん。次はあんたの番やね」
 本当に男好きらしく色っぽく迫るきらら。酒井は酔いが回るのを待っていた。そして酔ったのを実感した。
「これでも…出来るか?」
 赤い顔の酒井が言うと彼の足元から煙が上がる。
「な、なんね?」
 自分と父親だけと思っていた現象を東京で引き起こす輩がいる。それで充分驚けた。
 煙が晴れるとやはりそこには美女がいた。
 とにかく目立つ胸元。そしてOLの私服の様な服装。
「ア、あんた。アタシと同じ?」
「はーい。どうやら親戚みたいでーす」
 生真面目な男のときとは打って変わって軽い乗りの真澄。可愛らしい声で言う。
「それじゃあんたの父親ってウチの父ちゃんの兄弟? そういや酒井いうとったけどそんな珍しい名前じゃないしまさかと思ったら」
「親戚なのか? しかし酒井の一族の呪いは男にだけかかるんだろう。苗字が違うなら…婿養子か?」
「そうたい。ウチの父ちゃんは母ちゃんに婿入りしたとよ。酒井は旧姓で」
「もしかしてお母さんって」
「うん。体は女だけど男みたいにしてるたい」
 つまり逆転夫婦だった。
「そのせいかあたしもそんなに男だ女だと拘らなくて。初体験も二十歳の時に大学のイケメン相手やったし…きゃっ」
 可愛らしく頬を染めるきらら。照れて頬を押さえる。
 菊水。竹葉はいわゆるどん引き。さすがの女子二人もフィクションというかファンタジーでない「これ」は恐いらしく表情が硬い。
 しかし「筋金入り」の桜子は違った。
「ふっ。甘いわね。女の肉体で男を求めるのではただの肉欲。本当の愛は例え同性でも相手を求めるところにあるわ」
 やたらえらそうに講釈する。
「だからあたしはノーマルやって。今は女だから相手は男がいいんよ。言うなればバイやね」
(それじゃ男の時にスルーされたあたしたちの立場は?)
 ささやかに傷つけられたOL二人の女のプライド。
 そちらには目もくれずきららは真澄に唇でなくてコップを差し出す。
「まさか転勤先で親戚にあえるとは思わなかったわ。乾杯しよ」
 唇を守るために既に女性化している。今更呑むのを躊躇う理由もない。
 そして酔って女性化したためか性格も軽めに変貌した真澄は軽やかに
「かんぱーい」とグラスを合わせるのであった。

「そう。きららさんのパパ。お爺ちゃんに勘当されてたのね」
 すっかり女同士の関係になっているきららと真澄。
 ビールから始まりチューハイ。今はロックの焼酎。そのグラスを赤ちゃんのように可愛らしく持っていた。
 度数がどんどん強くなる典型的な悪酔いパターンだった。
 他の面々もセクハラ魔女二人で相殺されたことで安心して飲んでいた。
「そうらしいわ。あたしが十歳の時。だから母ちゃんの故郷の福岡に越して」
「あー。それで博多弁がちょっと」
「おかしいやろ? でも博多の男は気がいいから誰もそげなことでバカになんかせんたい。まぁベッドの中でよくからかわれはするけど」
「ベッドって…あの…男の人とそんな関係って凄い気が」
 本来は男であることを考えると当然の発言。
「なにゆうてんの? せっかく女にもなれるんよ。楽しまなくちゃもったいないじゃない」
(こういうのはダメポジティブといわんか?)
 ツッコミを入れたいところだがまた自分に矛先が向いてはたまらんので沈黙の菊水。
 そんな胸の内を知ってか知らずかきららはますます饒舌になる。酔うとテンションが上がるタイプだ。
「あんたそんなに綺麗でおっぱいも立派なんやから男も選り取りみどりやろ。愛してもらいんさい。次の日には男に戻ってるから妊娠もせんよ。ただ病気もらったらあかんからゴムはいるけど」
「やっぱり……気持ちいいんですか?」
 興味津々の真澄。この時点では完全に身も心も女である。
 しかも血筋らしく「積極的」になる傾向がある。
 女としての「その感触」に興味を隠しきれない。
 頬が赤いのは酔いか。羞恥か。
 そんな真澄を優しい目で見ているきらら。表情にあった穏やかな口調で言う。
「愛されるのはとてもいいもんよ」
「そうですかぁ。どこかにいい男の人が…」
 物干しそうな目を同僚の男子社員に向ける。硬直する面々だが
「酒井。まぁ飲め。女は呑んだ方が(快感が増して)いいらしいぞ」
「え。そうなんですか?」
 半信半疑の目を向ける。
「山崎を見ろ。飲んで気持ちよくなるからあれだけいえるんだろ」
「ああ。なるほど」
 そういう風に言われると敬遠していた酒が急に大事なものに思えてきた。
「わかりました。それならもっと飲みますっ」
 既に酔ってて正常な判断が出来なくなっていること。そして「色欲」が招いた結果として自ら飲み始めた。
「おーっ。いい飲みっぷりやね。女二人。とことんまで飲もうか」
「ちょっとぉ。あたしも混ぜなさいよ」
 こちらは純正女子である桜子が乱入する。
 どうやら貴腐人としてよりのんだくれプリンセスとしての方が上回った。
(ふう。助かった)
 これはまた迫ってこられないための男子社員たちの企みだった。
 単純に酔い潰そうと。
 普通は女性を酔い潰して「あーんなことやこーんなこと」をするのが定番だが、逆に身を守るためというから面白い。

 桜子。そしてきららに釣られて真澄も限界以上に飲んでしまった。
 結局まともに歩けないほどになったため、またもや桜子の部屋で世話になることに。
「しょうがないわねぇ。ちょっと。酒井君の荷物はどこ?」
 後輩のOLに尋ねるが逆に二人は見知らぬ女物のバッグを差し出してきた。
「吉野先輩。これ先輩のですか?」
「……あたしこんなの持ってないわよ。あんたたちじゃ?」
 二人も首を振る。仕方ないので持ち主を特定させるべくバッグをあけると女性物のバッグに似つかわしくない書類とか男性的デザインの手帳やサイフが出てきた。
「酒井君のみたいね?」
 手帳に挟まっているクレジットカードの名義から判断した。
「本当に便利よね。本人が女になると身の回りのものまで変わるなんて」
 その場は誰も気がつかなかった。多少なりともアルコールが回っていて正常に物を考えられなかったのかもしれない。
 酒井が変身した時にそのバッグに触れていなかったことを。

 なんとか真澄を連れて帰った桜子は真澄をソファに寝かせる。
 その際も真澄はうなされて「もう飲みたくない」とつぶやいていた。
「そんなの迎え酒で収まるわよ」
 桜子としたらひとり言の感覚での返答だったが、しっかり真澄の耳に届いていた。
 酔いで苦しみつつ真澄は「もう要らない。酒を勧めないで」と頭の中で繰り返していた。
 そして「酒を勧められないためには」と考えがめぐっていた。

 翌朝。
 ひどい喉の渇きと頭痛で真澄は最悪の目覚めをした。
「おはよ。お姫さま」
 けろっとした桜子がちょっぴり皮肉を込めて呼びかける。
「…吉野さん…俺また…」
 かすれる声で尋ねる。可愛い声もこれでは台無しであるが、意識だけは既に男に戻っている。拘りそうになかった。
「はいはい。酒のミスなんて忘れなさい。ほい。お水」
 透明な液体の入るコップを渡される。
 まだ苦しい真澄は何も考えずにその液体をあおって
「ぐぇほぐぇほぐぇほ」
激しく咽た。
「目が醒めた? 二日酔いなんて迎え酒で治まるわよ」
 安物の日本酒だったのだ。
 そのせいかさらにひどい酔いに見舞われる。
 そして煙が出て新たなる変身。
 ここまでは桜子の予想の範疇。
 しかしその姿を見て彼女は仰天した。

 時間が経ち、始業時間に。
 男子のほとんどが前夜の酒で苦しそうだが山崎はなんともない。
「……お前……酒強いな…うっぷ」
 竹葉が言いかけてやめた。胃液が逆流してくる感覚がそうさせた。
 余談だが菊水の方は呑みすぎて下痢を起こしトイレに駆け込んで不在だった。
「ええ。博多じゃバイトでホステスもしてましたからね。客の相手で飲むうちに鍛えられたんですよ」
 既に男の姿に戻っている。
「けど従兄弟は違うようですね。のんで仕事に支障が出ちゃまずいな」
 酒井が従兄弟と覚えている。ちゃんと記憶もある。
 逆に言えば女として男どもにキスしたのも覚えているはずだが、それに対しても平然としている。

「おはようございます」
 妙に沈んだトーンの桜子の挨拶。
「吉野君。遅かったな……その子は?」
 桜子は童女を連れてきていた。
 セミロングをツインテールに。いわゆるボンボンで分けている。
 黄色いワンピース。見た目は6〜7歳。真っ赤なランドセルをしょっている。
「きゃーっ。可愛い」
 その愛らしさに宇良かすみが黄色い声を上げる。
「お嬢ちゃん。お名前は?」
 澤野いずみもしゃがんで童女の視線にあわせて尋ねる。

「さかい ますみです」

 小さな子供らしい大きな声。やや舌足らずな口調で名乗る。
「はい?」
「さかいますみです。みなさん。おはようございます」
 まさに小学校低学年のように元気に挨拶をする。
「えーっっっ」
 さすがの課長もここでは驚いた。

「吉野さん吉野さん。本当に酒井さんなんですか?」
「本当よ。あたしが迎え酒で飲ませたらこの姿に」
(お前のせいかよ!)
 全員がそう突っ込みかけていた。
「しかしなんだってこんな姿に?」
 一同が同じ体質の山崎に回答を求めて視線を送る。
「いや…僕もこんなのは。ただ彼はかなり限界超えてましたからね。それで何か超越してしまったのかも」
「そうねぇ。何度も『飲みたくない』とうなされて」
「つまり…もう限界超えたのにさらに飲んで」
「飲まされない姿。未成年になったと?」
 仮説が出来上がった。
「それにしてもここまで若返ったのはなんでだ?」
「そりゃこんな子供に飲ませるバカはいませんし。防衛本能みたいなもんじゃないすか?」
 竹葉の疑問に菊水が推論を述べる。
「もう。そんな難しい話はあとあと」
 いずみが真澄を連れて行く。
「酒井さん……真澄ちゃん」
 同僚で年上の男性に呼びかける口調だったが、小さな女の子相手のそれに改める。
「お姉ちゃんたちとお写真を撮らない?」
「いいよ」
 何の意味があるかといわれれば遊園地でマスコットと記念写真をとるような感覚であろう。
 代わる代わるケータイで収まっていたが
「はいはい。あたしが後でデータ送ってあげるから」
 桜子が本格的なデジカメを取り出して撮りだした。しかも三脚まで使っている。
「……課長。いいんですか?」
 見かねて竹葉が進言を試みるが
「ああいう体質はおもちゃになる運命なんだ。たぶん酔いが醒めれば終わるから放っておけ」
 達観したこの一言で言えずじまい。

 見た目と人格は小学一年女児だが、頭の中身は成人のままらしい。
 つまり仕事はこなしていた。
 ただし椅子を目一杯高くしても机に届かず。
 仕方ないので隣の応接室の机をデスク代わりにしていた。
 椅子に使っていたクッションを座布団代わりにして正座して可愛らしく仕事を進める。
 逆に仕事にならないOLたち。
 真澄自身は妨害行為を働いてないが、その愛らしい姿にめろめろで何かと覘きに来るからだ。
「真澄ちゃん。書類出来たかな?」
 菊水が取りに来た。
「はい。出来ました」
 まるっきり小学生ののりで書類を差し出す。
「そうかぁ。いい子だねぇ」
 中身が酒井と知りつつもこの姿で可愛い態度では思わず頭をなでても無理はない。
 真澄本人は照れて笑っているが
「菊水のお兄ちゃん」
「なんだい?」
「大好き。大きくなったら真澄がお嫁さんになってあげる」
「はは…そりゃどーも」
 例え子供の姿でも男に積極的な「魔性」は健在か。そう判断した。

 一時ごろ。小学生の真澄が中学生になった。
 身長が伸び、胸もささやかに膨らみ、着ているものも夏用の半そでセーラー服に変わった。
「酒井。その姿はまだ…」
「あ? 何か文句あんのか? おっさん」
「お、オッサン? 27だぞ。俺は」
 菊水がむきになる。
「二十歳越えてたらオッサンオバハンだよ。その年になってもこんな場所で机にしがみついてるたぁご愁傷様だな」
 どうやら反抗期らしい。表情も言葉もきつい。
「お…お前…さっきは『お嫁さんになんて』とか可愛いこといってたのに」
「ああ? ガキのころの話しだろ」
 今だってガキだろ。全員が心中で突っ込む。
「見てろ。あたしはこんなところじゃおわらねぇ。いつかは世界に出てやる」
 具体的に言ってないがどうやら芸能関係らしい。瞳がぎらぎらしている。自分が特別な存在と根拠もなく信じている。
(中二病って男だけかと思ってましたよ)
(本来は男の子だからじゃない?)
 今度はかすみと桜子でひそひそばなし。

 四時ごろ。さらに変身。ブレザー姿。身長はそれほどではないが胸はだいぶ大きく。
「どうやら高校生くらいか。酔いが醒めるにつれて元に…というのも変だが大人に近づいているらしいな」
「でも高校生ともなると結構色気が出ますね」
 確かに肌の輝きも段違いだった。
「いいなぁ。あたしたちもあんなころがあったんだよね」
 少し前に思いを馳せるOL二人。
「あたしはもう少し前になるけどね」
 ややひがんだ感じの桜子。
「ああっ。そんなつもりじゃ」
「ぷぷっ。くくくく……キャハハハハハ」
 突然明るく弾けた笑い声が。女子高生の真澄だ。
「やだぁーっ。もうなに。会社で漫才しないでくださいよー。やだもう。お腹よじれる」
「あー。箸が転げてもおかしい年頃か。上の娘がそうだったなぁ」
 つぶやく二村課長。ちなみに厳密には娘は一人しかいないのだが、現状では三人娘に近い家庭である。
「酒井。笑ってないで仕事しろ」
 サブリーダー。竹葉が引き締めるべく怒鳴りつける。
「やだ。怒っちゃいやですよ。お・じ・さ・ま」
「おじさま!?」
 例え女子とはいえど「おっさん」「おじさん」といわれるとむかつくが「おじさま」ならちょっと言われてみたい。そんな男心だった。
 だが我に帰る。
「大人をからかうな」
「はぁーい」
 可愛らしく舌を出す。

 残業。緊急性はなかったが、全員真澄の変転を見届けたくて居残っていた。
 その合間にちょっと一息。
 いずみ。かすみに真澄が加わり男性アイドルの話しをハイテンションに繰り広げていた。
「そろそろじゃないか」
 ボン。煙が上がり「いつもの」OL姿になる。
「おー」
「女子大生は飛んだね」
「大学生じゃコンパとかで飲むから無意味なんでしょ。それで一足飛びにあの姿になったようね」
 つまりだいぶ酔いが醒めてきていた。
「課長。チェック願います」
 落ち着いた事務的な口調で提出する。
「おー」
「やっとここまで戻ったか」
 周辺はほとんど仕事自体は片付いて真澄の変化を見届けていただけ。
「はい?」
 首を傾げる大人の真澄。
「まだ意識は女のままみたいね」
「明日が楽しみですねぇ」

 翌日。やっと酔いが抜けて男に戻った酒井。
(あーいて。頭痛いぞ。また何かやっちまったのか)
 このころにはもう女として暴走した程度では動じなくなっていた。
 しかし頭が冴えるにつれて脳裏に蘇える「若さゆえの過ち」
 酒井は自分でも頬が熱くなるのが実感できた。布団にもぐりこむ。
(こ、これはきつい。なんで「女の子」としての記憶まで出来るんだ?)
 誰とも顔を合わしたくなかったが、根が真面目な酒井は当日に休むなどということが出来なかった。
 かなり気が進まない状態で出社する。そして
「おはよう。真澄ちゃん。今日は挨拶しないの」
 ケータイの待ち受けで童女バージョンを見せられる。
「酒井君。女優になるつもりでも枕営業はダメよ」
 桜子にはこれを揶揄され
「さ、酒井。もう一度変身して『おじさま』と言ってくれないか?」
 真面目な竹葉にまで言われる始末。
 覚悟してきたつもりだったが赤くなったり青くなったり。
 その肩を叩く女の手。
「山崎……って何でいきなりホステスに?」
「酔っ払ってしたことなんて仕方ないことやね。飲んで忘れるが一番よ」
 ちゃっかり「中州のホステス」になっていたきららの差し出すコップ酒。
 羞恥から逃れるべく酒井はそれをぐいっとあおるのであった。

 こうして酒井真澄は「酔っ払って女の子らしく振舞った記憶」にくわえ「既に成人男子なのに未成年女子の恥が次々と追加される」という不幸体質に開眼した。
 そして周辺でこれに同情するものもなく。むしろ面白がっていた。
 不幸の度合いは増す一方であった。

 飲まなきゃやってられないほどに。


 前回からかーなーりあきました。
 その間にサブタイのパターンや「オンナことしていろいろやって後で恥ずかしい思いをする」と言うのを「セーラ」に持っていかれて(笑)
 さらに「ウルトラパロ」を入れ損ねて。
 本当は飲みすぎて急性アルコール中毒になって、担ぎ込まれた病院でついた看護士が南さんだったというつもりで。
 ちなみに恋人が「北斗くん」というつもりで(笑)
 結局「迎え酒」の件のために入院はやめました。
 いくら桜子でも急性アルコール中毒で担ぎこまれた病院で酒を勧めるはずはないし(笑)

 今回は「城弾シアター」でとっているアンケートを反映させました。
 一つは「変身する新キャラ」。
 しかし呪いはあの一族だけ。そうなると勘当されたか何かで疎遠になっていた親戚でとなりました。
 山崎という苗字は和製ウイスキーから。当初は同じ和製ウイスキーの「響(ひびき)」としてたのですが、どうしても太鼓を叩く鬼のイメージが(笑)
 それもあってさらに突き抜けた名前で「きらら」と。
 これは焼酎の銘柄です。

 お約束でこちらは女性化をポジティブに捉えています。
 だから積極的に飲みにも行きます。

 もう一つは「泥酔するともう一度変身」という意見を取り入れました。
 考えた結果「年齢退行」に。
 つまり「酔った勢いでバカやらかす」に加えて「子供ならではの恥ずかしい思い出」がどんどん追加されると。
 さらに二話で出た世界のお酒でその国らしさが出るという設定と組み合わせると…
 ウオッカで泥酔してロシア美少女。
 紹興酒で泥酔してチャイナ美少女という感じに。

 この設定が出たらもうやるしかないですね。
 変身後の年齢とつりあう年頃の男の子に惚れられると言うのを(笑)
 しかも酔っている最中なので恥ずかしい台詞がばんばん出て…酒井君。出社拒否というか引きこもりになりそうです(笑)

 次はなるべくあけないでお送りしたいものです(^_^;)

 お読みいただきましてありがとうございました。

 城弾

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