その昔、五兵衛という名の男がいた。
 彼はまじめな働き者であったが、唯一の楽しみである酒に酔うとひどい酒乱になり、今でいうセクハラを村娘にし続けていた。
 それに対して娘たちは「のろい」をかけた。
 酒に酔うと身も心も女になってしまうという呪いを。

 酔って女になり、たまたま介抱してくれた侍に、肌を自分から重ねた五兵衛は呪いを恐れ、以後酒をやめた。
 嫁をもらい真面目に働き続けたという。

 しかしその呪いは「末代までたたる」ものだったために子孫にも受け継がれていた。


とらぶる☆すぴりっつ〜二軒目〜


 秋も深まった現代の東京。とあるアパート。
 土曜の夕暮れ時にその青年は「帰ってきた」
「ただいま。景虎(かげとら)」
 この青年は「かわいらしかった」。平たく言うと女顔なのである。
 身長も170に届いていない。

 ご丁寧に髪までうなじの隠れる長さ。茶髪が軽やかな印象を与える。
 さらに言うと華奢で全体的に女性的な印象である。
 顔も丸顔でしかも色白だからなおさらだ。
 名を酒井神楽(さかい かぐら)という。

「おう。おかえり。神楽」
 彼の名は高清水景虎(たかしみず かげとら)
 神楽に対してこちらの青年は身長180.
 筋骨隆々ではないがたくましい肉体の持ち主。
 髪が短く色黒で、神楽と対照的である。
 そのせいか二人で出歩くと神楽はよく女性と間違われる。
 両者ともに21歳で成人しているのにである。

 もっとも女性と間違われる理由は、見た目以外にもその醸し出す空気も大きかったのだが。

 ともに大学生。
 土曜に講義がなくバイトにいそしんでいた。
 その勤務時間の関係で先に戻った景虎が料理をしていた。
 ビールを片手で。
 それを見て生唾を飲み込む神楽。
 秋とはいえどそれなりにのども乾く。
 ましてやバイトがえりである。
 そして彼は大の酒好きであった。
 しかしある事情で禁酒している。
「飲むか?」
 禁酒を知りつつ景虎が笑みとともに缶ビールを差し出す。
 なんとなく意地の悪い笑みである。
「いらない。オレは酒飲まない」
 神楽は振り切るようにその場を去る。

「まったく。景虎の奴は」
 風呂場。湯船で神楽は文句を言っていた。
 肌の色が白いのもあり、また下半身は言うまでもなく胸元まで湯船に隠れているせいか、裸体にもかかわらずなおさら女性的であった。
「オレだってこんな体質じゃなけりゃ飲みたいわ。いや……『変わる』まではいい。けど『その後』がよぉ」
 「その後」を思い出してしまった。
 湯の熱さとは別に肌が赤くなる。
「くっそー。この体質が憎い!」
 男にしては高めの声で盛大にぼやいていた。
 それゆえか「のぞき見」に気が付かなかった。

(でゅふっ。神楽。男に「可愛い」なんて思ったのはお前が初めてだ。しかしやはりあっちの姿がな。俺はむしろお前の体質に感謝だぜ)
 気づかれる前に景虎はキッチンへと戻った。

「ふぅー。いい湯だった」
 リラックスゆえかすっかり機嫌も直った神楽がジャージ姿で戻ってきた。
「それじゃ、風呂上がりの一杯」
 景虎は冷蔵庫から缶ビールをだしてきた。
 生唾を飲み込む景虎。だか
「いい。麦茶まだ作ってるだろ。そっちにする」
 無理やり振り切った。
(惜しい。まだ足りないか。なら勝負は飯時だ)
 景虎はまるでスポーツのように駆け引きを楽しんでいた。

「いただきます」
 テーブルで二人は向かい合って夕食。見た目の関係でまるで夫婦か恋人に見える。
 タンブラーに注がれたビールがそれぞれ置かれていた。
「だーかーらーよぉー。オレは」
「明日は日曜。お互いバイトもない。でもって天気も良くない予報。ひきこもるには最適の日だな」
 唐突に景虎が切り出した。手元にビールの入ったタンブラー。
「多少は深酒してもいいと思わないか?」
「そりゃあ……でもよぉ」
 煮え切らない神楽。だが泡立つビールの香りが「喉」を刺激する。
 生唾を飲み込む。
「まぁ無理強いはしねえよ。俺は飲むけどな。今日の飯は我ながら快心の出来だ。餃子にから揚げ。熱いのを食って、冷たいビールを流し込む。いいねぇ」
 神楽は無視して食事を始める。
 しかし確かにアツアツの唐揚げと餃子はビールを誘う。
 目の前ではうまそうに飲み干していく景虎。ご丁寧にお代わりまでしている。
「う、うう」
 文字通り指をくわえている神楽の前で、景虎は次々とグラスを開ける。
 もう辛抱できない。
「えーい。このサディストめ。我慢の限界だ。オレは飲むぞ」
 ついに神楽はビールを飲んだ。一気に流し込む。
「ぷはーっ。五臓六腑に染み渡る。この一杯のために生きてるーっ」
 べたなセリフを連呼していた神楽が「爆発」した。
 煙を吹いてそれが消えると「美女」がいた。
 むしろ美少女といいたいレベルの可憐さ。
 白に近いピンクの長袖ブラウス。赤いチェックのプリーツスカートと服装も少女風である。
 ただ胸は大人だった。Cカップはあろう。
 髪も一気に腰まで届く長さに。
 もともとが女性的だったが、この「変身」した姿の前だとそちらは男性と思い知る。
 それほどまでにフェミニンな存在になっていた。
 あまい香りを放っていた。

 そう。酒井神楽は五兵衛の子孫だった。
 だから呪いにより酒に酔うと心身ともに女性化する。
 しかも自動的に服までその状況にあったものになる。
 なぜか帰宅したというのにデートできるような服だ。
「よう」
 知り合いに会ったかのように声をかける景虎。
 もちろん狙っていた。
「あ……景虎」
 かわいらしい声でつぶやくかぐら。
「かげとらぁ」
 自分の座っていたイスを倒して立ち上がる。そして景虎に飛びついて抱き着いた。
「うわっと」
 そのままもんどりうって倒れこむ。
「あいたかったよぉ。もう何日もすれ違いで」
 居酒屋のバイトをしている景虎は夜のシフトも多く、コンビニで午前ないし夕方にシフトを入れていた神楽とはここまですれ違いであった。
 その「女として」会いたかった思いがこのデート服になって出た。
「ね。しよ」
 短いながらも情熱的なアプローチ。
「いきなりだな。おい」
 ちなみにあおむけに倒れた景虎の腰の上に……もっと言うと局部の上にかぐらのスカートの中身が当たっていた。
「嫌なの? あたしのこと嫌い?」
 拗ねたように言うかぐら。
「いやいや。そんなわけないから」
「だったらしよ。一週間ぶりだよ」
 いうなり腰を浮かせて薄絹を下し始める。

 五兵衛が今でいうセクハラをしていたために呪いを受け、女子に対して向けていた好色が性別反転とともにそれまで変わる。
 つまり男好きになる傾向があった。
 それにしてもかぐらはそれが強かった。「淫乱」といえるレベルだ。

「したいさ。けどまずは飯を食おうぜ」
「あたしは景虎食べたい」
「それは男のセリフだ」
 別におかしくはない。
 酔ったかぐらは心身ともに女性なのである。
 女扱いしないとむしろ不機嫌になる。
「それに今日はもう女になっちまったんだ。いくらでも飲めるだろ」
「…………それもそうだね。そっちも我慢していたし」
 あっさりと景虎か離れるかぐら。
「ああ。朝まで女でいられるくらい飲んどかないとな」

 夕食。そして晩酌の再開だが、まるで赤ん坊のようにかぐらは景虎を見つめている。
「かげとら」
「なんだよ?」
 ややつっけんどんに返しつつグラスを口に。
「愛してる」
「ぶっ」
 むせて激しくせき込む。
「何よぉ。失礼ね。別に言われたのは初めてじゃないでしょ」
「そりゃそうだがこんなタイミングで言うな」
「タイミングも何もあたしはいつだって景虎LOVEだもん。景虎は? あたしのこと好き? 愛してる?」
 女性としてもやや独占欲の強いタイプだ。
「……愛してるよ」
 神楽が女性化するように仕向けたのはいいが、今度はかぐらが猛攻だ。
 このセリフも半ば『言わされた』形。
 嘘ではないがかぐらほどストレートには言えなかった。
「やったぁ。景虎大好き」
 この後、三分に一度「愛してる」か「大好き」を口にし続けるかぐらだった。

「お前よくそれだけそんなセリフが言えるな」
 さすがにへきえきとしてきた景虎。
「だって初めて会った時から恋に落ちたんだもん。初めて女になった夜。別の意味でも女にしてくれたのは景虎だよ」

 19歳の時。新歓コンパで人生初の飲酒だった。
 常々『酒だけは飲むな』とくぎを刺されていたにもかかわらず、親から離れたことでその戒めを破った。
 よりにもよって一気のみだ。

 不幸中の幸いは酔いが回る前にたまたまトイレに立ったこと。
 そのトイレにいたのが同じコンパに参加していた景虎だけだったことだった。
 ちなみに初対面。
 その眼前で神楽は初の変身をしてしまった。
「え?」
「な?」
 言われ続けたとおりに女になってしまったかぐら。
 それを目撃した景虎。
 二人とも混乱してそのまま誰にも言わずに飲み会から逃げ出した。

 そのまま景虎のアパート。現在二人で住むここにかぐらは連れてこられた。
「驚いたな。酒井がこんな体質だったなんて」
「あたしも驚いている。まさかこんなになるなんて」
 すっかり女子大生である。
(こいつ、可愛い)
 かぐらが好みのタイプだったのである。
「なぁ。もうなっちまったんなら落ち着いて飲まないか?」
 下心見え見えだったが
「そうね。朝までじっくり」
 自分も直前まで持っていた器官のある位置。景虎のズボンのチャック付近を凝視しながら言うかぐら。
「襲われる気」満々であった。

 そして別の意味でも「女になった」のだった。
 以来二人は「家賃節約のルームメイト」の名目で同居している。

 食事も終わり落ち着いたころ。
 ともに待望の時間が来た。
 悪酔いしないようにぬるま湯で汗を流し、そして何もまとわぬままに二人はベッドへと。











 朝。まどろみとともにかぐらは目覚める。
 外は予報通りの雨、
 雨音で目が覚めた。
(んー。何か口の中が生臭い……この味って? あっ)
 跳ね起きると形の良い胸がぷるんと揺れた。
 何も着ていない。
 目が覚めてくると足の付け根に痛みが。「やりすぎた」のだ。
「またやっちまった……」
 女性化するときは心身ともに一気に変わるのだが、どういう理由なのか。
 もしかするとこれも「のろい」の仕様なのか、戻るときはまず心だけ男に戻る。
 現在のかぐらは体は女で心は男という状態だ。

「おはよ。お姫様」
 いつの間にか起きていた景虎がにやにやしながら見ていた。
「か、景虎」
 もちろん「やった」相手は彼しかいない。
(また男相手に……)
 あっという間に白い頬がチークを塗ったように赤く染まる。
「いやぁ。昨夜も激しかったなぁ。一週間ぶりとは言えどな。下で三発。上で二発抜かれてよ。さすがにもうカラカラだぜ」
 かぐらは口に残る味の正体を告げられてまた赤くなる。
 それを見て鼻の下を伸ばす景虎。
 端正な「男前」が台無しだ。
(きたきた。この赤面。これが最高にかわいいんだ。だからこの状態に仕向けるんだ)
 そういうことであった。
 そしてその望み通りかぐらは首まで赤くなっていた。

「どうした? もう『愛してる』とか『大好き』とか言ってくれないのか?」
「はうあっ」
 失言のオンパレードである。
「は、恥ずかしい。男相手になんてことを」
「お前毎回それ言ってるよな?」
「酔った時のオレはオレであってオレじゃないんだよ」
「あー。確かに昨日は今みたいに照れてなんかいなかったな。大胆にその可愛い口で俺のを」
「それ以上言うなぁーっ」
 耳をふさいでも痴態を思い出してますます赤くなる。
 にやにやする景虎。
 これを毎回繰り返していた。

 進歩がなかった。酔っ払いとはそういうものだ。
 そしてそれは景虎も同様だった。

「恥ずかしくて、素面でいられるかぁー」
 途中で男に戻らないように飲みながら行為に及んでいて、中身のある一升瓶がそばにあった。
 それを手にしてコップに注ぎ、あっという間にあおってしまうかぐら。爆発した。
「あっ。しまったっ。片付け損ねていたっ」
 こうなると恥じ入るどころか淫乱モード。
「うふふふ。景虎ぁ。愛してるよぉ」
 再び精神も女性化……もっと言うなら「ピッチ」になったかぐらが、そのまま行為に及びだした。

 結局、雨の日曜日の間、二人が服を着ることはなかった。

「末永く爆発しろ」という有様であった。


あとがき

 webコミックの「お酒は夫婦になってから」という作品をご存知でしょうか?
 リンク先を読んでいただくとお分かりいただけますが、仕事では無口でクールな美人が、帰宅して旦那の差し出すカクテルを口にすると可愛い酔っ払いになるというもので。
 その「ラブラブ」ぶりが見どころで。

 これをTSでと思いついたのはいいけれど「しまった。僕にはもう『とらぶる☆すぴりっつ』があるじゃないか。しかも完結しているし」となって。
 それならばと同じ体質の親戚を主人公にしようと。

 なので主人公の名字は一族ということで「酒井」。
 下の名前である神楽。そして高清水景虎も日本酒の銘柄から。
 正確には高清水と越野景虎ですが。

 僕には珍しい大学生の設定ですが前のシリーズが社会人だったので、違いを出そうとした結果です。

 それと設定上なんかホモくさくなったなぁと(笑)

 最後の「末永く爆発白」も「お酒は〜」でよく言われていることで。
 もちろん酒井一族の変身時の爆発にもかかってます。

 なお、続けても毎回酔っぱらってイチャイチャするだけでしょうから(笑)今回だけの作品です。

 お読みいただきまして、ありがとうございました。

城弾

『TS短編作品専用掲示板』へ

TS館へ

『少年少女文庫』へ

トップページへ